1. はじめに:英国で進む「高度な英語力」要求の波

2026年1月から、イギリスでは一部の就労ビザ申請者に対して、大学入学レベル(CEFRレベルB2)以上の英語力が必須となります。

https://news.yahoo.co.jp/articles/867afe67310c420ad620cf0fe2dce1d24f73c7e3

このニュースは「イギリスのこと」として見過ごされがちですが、実はこの動き、日本の制度にも少なからず影響を与える“シグナル”と捉えるべきです。

グローバル化が進む一方で、外国人の受け入れに対する各国の制度は、今後さらに「選別型」に進化していく可能性が高いのです。


2. 英国の新制度の要点:何がどう変わるのか?

今回の英国の制度変更では、以下の3つのビザが対象となります:

  • 技能労働者ビザ(Skilled Worker Visa)
  • スケールアップ・ビザ(Scale-up Visa)
  • HPI(High Potential Individual)ビザ

これまで、これらのビザに必要だった英語力はCEFR B1(高校卒業程度)でしたが、今後はB2(大学入学レベル)に引き上げられます

B2レベルとは、例えば:

  • 複雑な文章を理解できる
  • 抽象的な議論にも参加できる
  • 日常会話以上に、議論・交渉にも対応できる

という高い水準であり、ビジネスの現場で「通訳なしで活躍できる」レベルを求められることになります。


3. 背景にある英国政府の本音とは?

英国政府は、今回の改定について「言語を学び、社会に貢献する意思のある人材を歓迎する」と述べています。

実質的には以下のような意図があると考えられます:

  • 移民数の抑制(2029年までに年間10万人削減の見込み)
  • 質の高い移民の選別
  • 国内世論への対応(言語や統合の問題)

これにより、技能労働者であっても、英語が十分に話せなければビザが下りないというケースが増えてくるでしょう。


4. 日本でも同様の動きが進んでいる

ここで注目すべきは、日本でも外国人就労に関する制度が少しずつ厳しく、複雑になってきているという点です。

たとえば:

  • 特定技能2号の対象分野拡大(一見チャンスのようで、制度の運用は実務的に厳しい)
  • 技術・人文知識・国際業務ビザでの職種の適合性の審査強化
  • 経営・管理ビザの申請時・更新時に日本語能力の証明が義務化
  • 在留資格更新時の審査がより厳格化

また、企業側にも求められる義務が増え、日本語指導や職場内でのフォロー体制の整備が、受入れ条件として明文化される場面も増えつつあります。


5. 企業や外国人が直面する3つの課題

英国の事例を鏡として、日本の企業や在日外国人が今後注意すべき点を挙げてみましょう。

① 言語能力の「証明」が求められる時代へ

採用の現場で「日本語が話せる」ではなく、スコアや資格で証明する必要が出てきています。

これは単なる試験の問題ではなく、書類審査やビザ申請そのものに影響します。

② 採用時の「適合性」のチェック強化

職務内容と在留資格との整合性が曖昧だと、不許可や更新拒否になるケースが増加傾向です。これはイギリスでも「職種ごとの相場賃金」や「許可された雇用主」の条件が追加されたことと同じ流れです。

③ 受け入れ企業の責任も増加

イギリスでは、雇用主が支払う移民技能料の引き上げが発表されました。日本でも「外国人労働者を受け入れるための支援体制」が求められており、形式だけでなく実態が問われる時代に入っています。


6. 今、企業と外国人ができる準備とは?

英国の制度変更を他人事にせず、「近い将来の日本でも起こりうること」として備えておくことが重要です。

▼企業側ができること

  • 採用前に語学力や職種との適合性を文書で確認
  • 社内に外国人支援担当者を設置(多言語対応)
  • 日本語教育やビザ申請支援を積極的にサポート

▼外国人側がすべきこと

  • 日本語・英語の資格取得(JLPTやIELTS、TOEFLなど)
  • 自身のキャリアに合った在留資格の確認
  • 将来的な永住・定住ビザへのステップを意識した行動

7. 英国制度から学べる3つの教訓

  1. 語学力は「後から伸ばせばいい」では通用しない
     → 入国・就労の“前提条件”になるケースが増えている。
  2. 制度は突然変わる
     → イギリスのように、半年~1年後には別の基準が求められる可能性がある。
  3. 雇用主にも「管理責任」が課される
     → 受け入れ体制や契約内容の整備が求められる点は、日本も同様。

8. 行政書士としてのアドバイス

企業の人事担当者や、就職を考える外国人の方からよくいただく質問に、「将来の制度変更にどう備えたらいいか」というものがあります。

制度の正解は常に変化していきますが、以下のような視点で考えておくことが重要です:

  • ビザは「取得」よりも「維持」の方が難しいこともある
  • 語学力はビザ要件だけでなく、定着や昇進にも直結する
  • 外国人採用は制度対応だけでなく、長期視点での人材育成と考えるべき

9. 最後に:グローバル時代の採用は「制度+人間力」

外国人を採用する企業にとって、ビザ制度や語学力はもちろん重要です。

しかし、本当に大切なのは、文化や価値観を超えて一緒に働ける環境を整えることです。

制度はあくまで枠組み。そこに「人としての接し方」が加わってこそ、持続的な雇用が可能になります。


【まとめ】
今回のイギリスのビザ要件改定は、日本にとっても無関係ではありません。外国人材の採用・育成・定着には、これまで以上に「言語力」と「制度対応力」が求められる流れが、世界的にあるように感じられます。

早めの備えと、制度の変化を読み取る力が、今後のグローバル人材戦略の鍵になります。