はじめに:日本の外国人政策が大きな転換点を迎えています
2026年1月20日、政府が進めている外国人政策の基本方針案が明らかになりました。この方針案には、強制送還の対象犯罪の拡大や永住許可の厳格化など、在日外国人や外国人を雇用する企業にとって非常に重要な内容が含まれています。
在留資格申請を専門とする行政書士として、これまで数多くの外国人の方々や企業の人事担当者の方々をサポートしてきた経験から、今回の方針案のポイントと、皆さんが今すぐ確認すべきことを、わかりやすく解説します。
今回の方針案の全体像:「秩序と共生の両立」とは何か
政府が目指す社会像
政府は今回の方針案で、「『秩序』と『共生』を両立させることで、国民・外国人の双方が安全・安心に生活できる社会」を目指すとしています。
これは一見すると矛盾するようにも聞こえますが、実は非常に明確なメッセージです。
- 「秩序」=ルールを守らない人には厳格に対応
- 「共生」=真面目に暮らす人にはより良い環境を提供
つまり、日本で法律を守って真面目に働き、生活している外国人の方々には、これまで以上に手厚い支援を提供する一方で、法を犯す行為や不適切な在留には、これまで以上に厳しく対応するという方針です。
なぜ今、このタイミングなのか
在留外国人は現在約300万人に迫っており、日本社会において外国人はもはや「特別な存在」ではなく、「共に暮らす隣人」になっています。
特に労働市場では、多くの業種で外国人材なしでは事業が成り立たなくなっており、今後さらにその傾向は強まると予想されています。
しかし同時に、一部の不正事案や在留管理の不適切さが社会問題化していることも事実です。そのため政府は、「量」だけでなく「質」も重視した外国人受け入れ政策へと舵を切ろうとしているのです。
【重要変更点1】強制送還の対象犯罪が拡大されます
現行制度の問題点
これまで強制送還の対象となっていたのは、主に以下のようなケースでした。
- 1年以上の実刑判決を受けた場合
- 薬物犯罪を犯した場合
- 入管法違反(不法滞在など)
しかし、この基準では「実刑に至らない性犯罪者」などが対象から外れてしまい、国民から批判の声が上がっていました。
今後の変更内容
今回の方針案では、強制送還の対象となる犯罪を拡大する方向で検討することが明記されました。
具体的にどのような犯罪が追加されるかは、今後の議論で決まりますが、少なくとも「実刑に至らない性犯罪」は対象になる可能性が高いと考えられます。
在日外国人の方が注意すべきこと
これは決して「外国人を排除する」政策ではありません。むしろ、真面目に暮らしている大多数の外国人の方々の安全を守るための措置でもあります。
ただし、以下の点には注意が必要です。
✓ 軽微な犯罪でも繰り返せば影響がある
交通違反や軽犯罪であっても、繰り返し違反していると在留資格の更新や永住申請に悪影響を及ぼす可能性があります。
✓ 「知らなかった」は通用しない
日本の法律を知らなかったという理由は、残念ながら許される理由にはなりません。日本で暮らす以上、日本の法律を理解し、守る義務があります。
✓ 周囲の外国人仲間の行動にも注意を
自分自身が法律を守っていても、一緒にいた友人が犯罪を犯した場合、巻き込まれるリスクがあります。
企業の人事担当者が確認すべきこと
外国人社員を雇用している企業としては、以下の点を確認し、必要に応じて社内研修を実施することをお勧めします。
- 交通ルールの理解度チェック
特に自転車の交通違反は見過ごされがちですが、繰り返すと問題になることがあります。 - 職場での法令遵守の徹底
労働関係法令だけでなく、日常生活での法令遵守についても、改めて確認する機会を設けましょう。 - トラブル発生時の相談窓口の明確化
何か問題が起きたとき、すぐに相談できる窓口を明確にしておくことが重要です。
【重要変更点2】永住許可と国籍取得が厳格化されます
永住ビザとは
永住ビザは、在留期間の制限がなくなり、就労制限もなくなる、最も自由度の高い在留資格です。多くの外国人の方が目指すゴールでもあります。
現在の永住許可の主な要件は以下の通りです。
- 原則10年以上日本に在留していること(就労資格または居住資格で5年以上)
- 素行が善良であること
- 独立の生計を営むに足りる資産または技能を有すること
- 永住が日本国の利益に合すると認められること
今後さらに厳格化される見込み
今回の方針案では、「永住許可や国籍取得の厳格化を進める」ことが明記されています。
具体的な変更内容はこれから決まりますが、過去の事例から考えると、以下のような方向性が予想されます。
- 日本語能力の要件追加(一定レベル以上の日本語能力証明が必要に)
- 納税状況のより詳細なチェック
- 素行要件のさらなる厳格化(軽微な違反でも影響が出る可能性)
- 地域社会への貢献度の評価
永住ビザ取得を目指している方へのアドバイス
もし現在、永住ビザの取得を考えているのであれば、以下の点を今すぐ確認してください。
✓ 在留カードの記載事項に変更はないか
住所変更、勤務先変更などがあった場合、適切に届出をしていますか?
✓ 税金や年金をきちんと納めているか
未納や滞納がある場合、今からでも遡って納付することをお勧めします。
✓ 交通違反などの軽微な違反がないか
今後はこうした「軽微な違反」も審査に影響する可能性があります。
✓ 日本語能力を証明できるか
今のうちから日本語能力試験(JLPT)などを受験しておくことをお勧めします。
企業が優秀な外国人材を確保するために
企業にとって、優秀な外国人社員に長期的に働いてもらうためには、永住ビザ取得のサポートが非常に重要な福利厚生になります。
今後、永住許可のハードルが上がるということは、企業のサポート体制がより重要になるということです。
企業ができるサポート例:
- 永住ビザ申請に必要な在職証明書や給与証明書の発行をスムーズに行う
- 行政書士などの専門家への相談費用を福利厚生として補助する
- 社内で日本語学習の機会を提供する
- 地域社会への貢献活動(ボランティアなど)への参加を奨励する
【重要変更点3】受け入れ環境の整備も同時に進められます
プレスクールの設置
今回の方針案で注目すべきは、厳格化だけでなく「共生」のための支援策も充実させるという点です。
具体的には、就学前の外国人の子どもに日本語や学習習慣を教える「プレスクール」を国が設置することが明記されました。
これは、外国人の子どもたちが日本の学校教育にスムーズに適応できるようにするための重要な施策です。
日本語・文化・法制度学習プログラムの創設
また、外国人が日本の文化や法制度を学ぶためのプログラムも新たに創設されます。
これらのプログラムは、日本で長期的に暮らしていく外国人の方々にとって、非常に有益なものになるはずです。
活用することで得られるメリット
こうした公的支援プログラムを積極的に活用することで、以下のようなメリットがあります。
- 日本社会への理解が深まり、トラブルを未然に防げる
- 日本語能力が向上し、仕事や日常生活がスムーズになる
- 永住申請などの際に「地域社会への適応努力」として評価される可能性がある
企業としても、こうしたプログラムの情報を外国人社員に提供することで、定着率の向上につながります。
【その他の重要ポイント】在留外国人の受け入れ数制限も検討
将来推計の実施
今回の方針案では、在留外国人の受け入れ数の制限を検討するため、社会保障制度や労働人口、治安などへの影響の将来推計を行うことも明記されています。
これは、無制限に外国人を受け入れるのではなく、日本社会が適切に受け入れられる範囲を科学的に分析しようという試みです。
企業への影響
もし将来的に受け入れ数に上限が設定された場合、外国人材の採用競争はさらに激化することが予想されます。
つまり、「誰でもいいから外国人を雇う」時代は完全に終わり、「優秀な外国人材をいかに確保し、定着させるか」が企業の競争力を左右する時代になるということです。
企業の人事担当者が今すぐすべき5つのアクション
今回の方針案を受けて、外国人を雇用している企業が今すぐ取り組むべきことをまとめます。
1. 在留カード・就労資格の期限管理システムの再確認
在留期限が切れてしまうと、不法就労助長罪に問われる可能性があります。管理システムを再確認し、更新時期の通知が確実に行われるようにしましょう。
2. 外国人社員向け法令遵守研修の実施
日本の法律や社会ルールについて、改めて研修を実施しましょう。特に以下の内容は重要です。
- 交通ルール(自転車を含む)
- ゴミ出しなど生活上のルール
- 労働関係法令
- 犯罪として認識されていない行為(無断駐車、無許可営業など)
3. 永住ビザ取得希望者の把握とサポート体制の整備
優秀な外国人社員には長く働いてもらいたいはずです。誰が永住ビザの取得を希望しているかを把握し、必要なサポート体制を整えましょう。
4. 新設される支援プログラムの情報収集
プレスクールや日本語学習プログラムなど、新たに創設される支援策の情報を収集し、該当する外国人社員に情報提供しましょう。
5. 行政書士など専門家との連携強化
在留資格の問題は非常に専門的で、誤った対応をすると取り返しのつかないことになる場合があります。信頼できる行政書士などの専門家と連携体制を構築しておくことをお勧めします。
在日外国人の方へ:不安に思う必要はありません
真面目に暮らしている方は心配不要
今回の方針案を聞いて、不安に感じている外国人の方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、適切に在留資格を管理し、日本の法律を守って真面目に生活している方は、過度に心配する必要はありません。
むしろ、支援プログラムなど、活用できる制度が増えていくことが期待できます。
わからないことは専門家に相談を
在留資格に関することは、複雑で専門的な知識が必要です。インターネットの情報だけで判断せず、わからないことがあれば、必ず行政書士などの専門家に相談してください。
特に以下のような場合は、早めに相談することをお勧めします。
- 在留期限が近づいているのに更新手続きがわからない
- 転職したいが、在留資格で問題ないか確認したい
- 永住ビザを取りたいが、要件を満たしているか知りたい
- 家族を呼び寄せたいが、手続きがわからない
- 過去に何らかのトラブルがあり、更新が心配
在留資格は「取得」より「維持」が大切
在留資格は、一度取れば終わりではありません。適切に「維持」することが何より大切です。
- 在留カードの記載事項に変更があれば、すぐに届け出る
- 税金や年金をきちんと納める
- 交通ルールなど、日本の法律を守る
- 在留期限の更新を忘れない
こうした基本的なことを守っていれば、今回の政策変更を心配する必要はありません。
まとめ:「秩序と共生」の時代に求められること
今回の外国人政策の基本方針案は、日本における外国人受け入れ政策の大きな転換点になると考えられます。
企業に求められること:
- 外国人材を「安価な労働力」ではなく「組織の一員」として育成する
- 適切な在留管理とコンプライアンス体制の構築
- 永住ビザ取得など、長期的なキャリア支援
在日外国人に求められること:
- 日本の法律や社会ルールを理解し、守る
- 在留資格を適切に管理する
- 日本語能力の向上と地域社会への適応努力
そして私たち行政書士の役割:
- 正確な情報提供と適切なアドバイス
- 複雑な手続きのサポート
- 企業と外国人の橋渡し
日本は今、外国人との「真の共生社会」を目指す大切な時期にあります。この変化を前向きに捉え、お互いに協力していくことが大切だと考えています。
ご不明な点やご相談がございましたら、お気軽に専門家にお問い合わせください。
参考記事:
強制送還の対象犯罪、現行の「1年以上の実刑」や薬物犯罪から拡大…外国人政策の基本方針案(読売新聞オンライン)
https://news.yahoo.co.jp/articles/53d57db7227fb94193de000120e06f9f9e3b967a
