はじめに

2026年3月15日、国土交通省が解体工事業について初めての全国実態調査を実施すると発表しました。この調査は、外国人労働者の増加と不適切な施工の確認を受けて行われるもので、業界全体に大きな影響を与える可能性があります。

行政書士として、日々外国人の方々の在留資格申請やビザ手続きに携わる立場から、この調査が持つ意味、そして企業と外国人労働者双方が今すぐ確認すべきポイントについて、詳しく解説いたします。


1. 国交省調査の概要と背景

調査の規模と内容

今回の調査は、全国に存在する約8万5千社の解体事業者を対象とした大規模なものです。具体的には以下の項目について調査が行われます:

  • 企業規模: 従業員数、資本金、年商など
  • 請負工事の規模: 年間の工事件数、平均請負金額
  • 技術者・労働者の賃金: 職種別、経験年数別の給与水準
  • 施工状況: 安全管理体制、近隣対策の実施状況
  • 事故状況: 労働災害の発生件数と内容
  • 業界の課題: 人手不足、技術承継、法規制への対応など

調査結果は2026年9月末までに報告書としてまとめられ、今後の政策立案の基礎資料として活用される予定です。

調査実施の背景

この調査が実施される背景には、以下のような状況があります。

① 外国人労働者の増加
建設業界全体で外国人労働者が増加しており、解体業も例外ではありません。特に埼玉県川口市では、トルコ国籍のクルド人による解体事業者が174社登録されているとの報告があります(河野太郎元外相ブログより)。

② 不適切施工の報告
昨年夏、関東地方の解体業界団体から国交省に対し、「粉塵、騒音、振動の対策を取らずに工事を進める事業者がある」との情報が寄せられました。

③ 予備調査での確認
国交省が東京都、埼玉県、川口市に対して実施した電話聞き取り調査では、「外国人が増えている」「不適切な施工が出ている」という声が確認されています。

④ 不法投棄事件の発生
2025年には、川口市に住むトルコ国籍の解体工による建設混合廃棄物の不法投棄事件が複数発生し、逮捕者も出ています。

解体工事業の法的枠組み

解体工事業を営むには、工事の規模に応じて以下の許可・登録が必要です:

建設業法に基づく許可(請負金額500万円以上)

  • 国土交通大臣許可または都道府県知事許可
  • 技術者の配置、財務要件などの条件を満たす必要がある
  • 現在、全国に約6万6千社が存在

建設リサイクル法に基づく登録(請負金額500万円未満)

  • 都道府県への登録
  • 比較的簡易な手続きで開業可能
  • 現在、全国に約1万9千社が存在

今回の調査では、許可事業者については業界団体を通じて調査を行い、登録事業者については民間から調査主体を募集する方針とのことです。


2. 在留資格の基礎知識 – 企業が確認すべきポイント

外国人を雇用する企業にとって、最も重要なのは「その外国人が適法に働ける在留資格を持っているか」を確認することです。

在留カードの確認方法

外国人を雇用する際は、必ず在留カードの確認を行ってください。

確認すべき項目:

  • 氏名・生年月日: 本人確認
  • 在留資格: どのような活動が認められているか
  • 在留期限: いつまで日本に滞在できるか
  • 就労制限の有無: カード裏面に「就労不可」「就労制限あり」などの記載がないか

偽造カードに注意:
残念ながら、偽造在留カードが出回っているのも事実です。以下の方法で真贋を確認しましょう:

  • 出入国在留管理庁の「在留カード等番号失効情報照会」で番号を照会
  • カードの品質(ホログラム、印刷の精度など)を確認
  • 不自然な点があれば、最寄りの入管に相談

就労可能な在留資格と業務内容

在留資格によって、従事できる業務内容が異なります。

【就労制限のない在留資格】

  • 永住者
  • 日本人の配偶者等
  • 永住者の配偶者等
  • 定住者

これらの在留資格を持つ外国人は、日本人と同様にどのような業務にも従事できます。

【就労が認められる在留資格】

  • 技能実習: 計画に定められた職種・作業のみ
  • 特定技能: 建設分野の特定の業務
  • 特定活動: 個別の指定内容による

これらの在留資格には、従事できる業務内容に制限があります。例えば、「技能実習(建設関係)」の在留資格で飲食店のアルバイトをすることは認められません。

【原則として就労が認められない在留資格】

  • 留学
  • 家族滞在
  • 文化活動
  • 短期滞在

これらの在留資格を持つ外国人が働くには、「資格外活動許可」を取得する必要があります。許可を得ていない場合、雇用した企業も不法就労助長罪に問われる可能性があります。

在留期限の管理

在留期限が切れた状態で外国人を雇用し続けることは、不法就労助長罪(入管法73条の2)に該当し、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます。

企業がすべきこと:

  • 雇用時に在留期限を記録
  • 在留期限の3ヶ月前にアラートを設定
  • 更新申請の進捗を確認
  • 更新後の新しい在留カードのコピーを保管

「みなし再入国」の理解

外国人労働者が一時帰国する場合、「みなし再入国許可」を利用することが一般的です。これは、出国から1年以内(在留期限がそれより短い場合はその期限まで)に再入国する場合、特別な手続きなしで日本に戻れる制度です。

ただし、1年を超える場合や再入国許可が必要なケースもあるため、長期帰国の際は事前に確認が必要です。


3. 企業のコンプライアンス – 外国人雇用で守るべきルール

外国人雇用状況の届出

外国人を雇用した場合、または離職した場合は、ハローワークに「外国人雇用状況届出」を提出する義務があります(雇用対策法28条)。

届出期限:

  • 雇用保険被保険者の場合: 雇用・離職の翌月10日まで
  • 雇用保険被保険者でない場合: 雇用・離職の翌月末日まで

届出内容:

  • 氏名、在留資格、在留期限、生年月日、性別、国籍など

届出を怠ると、30万円以下の罰金が科されます。

労働条件の平等待遇

外国人労働者だからといって、日本人より低い賃金や劣悪な労働条件で雇用することは許されません。労働基準法は国籍を問わず適用されます。

遵守すべき事項:

  • 最低賃金以上の支払い
  • 労働時間・休日の遵守
  • 時間外労働の割増賃金
  • 年次有給休暇の付与
  • 労働契約書の交付(できれば母国語併記)

社会保険の加入義務

外国人労働者も、一定の要件を満たせば社会保険(健康保険、厚生年金保険)と労働保険(雇用保険、労災保険)の加入対象となります。

社会保険:

  • 週30時間以上勤務、または週20時間以上で一定の要件を満たす場合に加入義務
  • 短期滞在者などを除き、国籍を問わず加入が必要

労働保険:

  • 雇用保険: 週20時間以上勤務の場合に加入義務
  • 労災保険: 雇用形態を問わず、すべての労働者が対象

安全管理と多言語対応

建設・解体現場は危険が伴う職場です。外国人労働者に対しても、十分な安全教育を行う必要があります。

推奨される対応:

  • 母国語での安全教育資料の準備
  • 図解・イラストを多用したマニュアル
  • 定期的な安全ミーティング(通訳の配置)
  • 保護具の正しい着用指導
  • 緊急時の連絡体制(多言語対応)

厚生労働省や建設業労働災害防止協会などが、多言語の安全教育資料を提供していますので、積極的に活用しましょう。

技能実習生・特定技能外国人特有の義務

技能実習生や特定技能外国人を受け入れる場合は、さらに特別な義務が発生します。

技能実習の場合:

  • 技能実習計画の作成と認定
  • 実習実施者としての届出
  • 技能実習指導員・生活指導員の配置
  • 定期的な技能評価試験の実施
  • 外国人技能実習機構への報告

特定技能の場合:

  • 特定技能雇用契約の締結
  • 1号特定技能外国人支援計画の作成
  • 登録支援機関への委託(自社支援も可)
  • 四半期ごとの出入国在留管理庁への報告

これらの義務を怠ると、許可の取消しや罰則の対象となる可能性があります。


4. 行政書士が支援できること

当事務所は、外国人の在留資格に関する専門家であり、「申請取次行政書士」として出入国在留管理局への申請取次(代行)が認められています。

在留資格認定証明書交付申請

海外から外国人を呼び寄せる場合、まず「在留資格認定証明書」を取得する必要があります。これは、日本で予定している活動が在留資格に該当することを事前に証明するものです。

行政書士ができること:

  • 適切な在留資格の判断
  • 必要書類のリストアップと作成支援
  • 入管への申請代行
  • 不許可時の再申請サポート

在留期間更新許可申請

在留期限が近づいた外国人が、引き続き日本に滞在するための手続きです。在留期限の3ヶ月前から申請可能です。

行政書士ができること:

  • 更新のタイミングのアドバイス
  • 必要書類の準備支援
  • 不許可リスクの事前評価
  • 申請書類の作成と代行申請

在留資格変更許可申請

現在の在留資格から別の在留資格に変更する場合の手続きです。例えば、「留学」から「技能実習」への変更、「技能実習」から「特定技能」への変更などです。

行政書士ができること:

  • 変更可能性の判断
  • 要件充足の確認
  • 変更申請書類の作成
  • 入管との事前相談の同行

資格外活動許可申請

「留学」や「家族滞在」など、原則として就労が認められない在留資格の外国人が、アルバイトなどをするための許可申請です。

注意点:

  • 週28時間以内(留学生の場合、長期休暇中は週40時間)
  • 風俗営業等に従事することは不可
  • 許可を得ずに働かせると不法就労助長罪

永住許可申請

一定の要件を満たした外国人が、在留期限の制限なく日本に住むための申請です。

一般的な要件:

  • 10年以上日本に在留(就労資格または居住資格で5年以上)
  • 素行が善良であること
  • 独立の生計を営むに足りる資産・技能があること
  • 日本の利益に合すると認められること

行政書士ができること:

  • 要件充足の確認と不足要素の指摘
  • 膨大な書類の準備支援
  • 申請書の作成と代行申請
  • 追加資料請求への対応

帰化許可申請

外国人が日本国籍を取得するための手続きです。法務局への申請となりますが、行政書士も書類作成支援が可能です。

一般的な要件:

  • 5年以上日本に住所を有すること
  • 20歳以上で本国法により能力を有すること
  • 素行が善良であること
  • 生計要件
  • 二重国籍防止要件
  • 憲法遵守要件

企業向けコンサルティング

外国人雇用を検討している企業、すでに雇用している企業に対して、コンプライアンス体制の構築を支援します。

支援内容:

  • 在留資格制度の研修実施
  • 雇用管理規程の整備
  • 在留カード管理システムの提案
  • 外国人雇用状況届出の代行
  • トラブル発生時の対応アドバイス

5. 今後の展望と対策

国交省調査後に予想される動き

今回の国交省調査の結果、以下のような政策変更が予想されます:

① 登録基準の厳格化
現在は比較的緩やかな登録要件が、財務要件や技術者要件などで厳格化される可能性

② 外国人事業者向けのガイドライン作成
多言語での法規制説明資料、研修プログラムの整備

③ 監督・指導体制の強化
不適切施工が確認された事業者への立入検査、改善命令の強化

④ 在留資格審査への影響
解体業に従事する外国人の在留資格審査が、より慎重になる可能性

企業が今すぐ始めるべきこと

調査結果を待つのではなく、今から対策を始めることが重要です。

【短期的対策(今すぐ)】

  • 雇用する外国人全員の在留カードを再確認
  • 在留期限管理表の作成
  • 外国人雇用状況届出の提出漏れがないか確認
  • 労働条件通知書(できれば多言語)の整備

【中期的対策(3ヶ月以内)】

  • 安全教育資料の多言語化
  • 廃棄物処理法の社内研修実施
  • 近隣対策マニュアルの整備
  • 行政書士など専門家との顧問契約検討

【長期的対策(1年以内)】

  • 外国人材の計画的育成
  • 技能実習・特定技能の受入体制構築
  • 法令遵守体制の第三者評価
  • 業界団体への加入と情報収集

外国人労働者へのメッセージ

日本で働く外国人の皆さんにお伝えしたいことがあります。

あなたには権利があります:

  • 適正な賃金を受け取る権利
  • 安全な職場で働く権利
  • 差別されない権利
  • 労働災害時の補償を受ける権利

困ったときは相談してください:

  • 外国人在留総合インフォメーションセンター(多言語対応)
  • 労働基準監督署(一部窓口で通訳対応)
  • 行政書士などの専門家
  • NPO法人などの支援団体

在留資格は正しく理解しましょう:

  • 自分の在留資格で何ができるか確認
  • 在留期限は必ず守る(3ヶ月前に更新手続き)
  • 転職する場合は届出が必要な場合がある
  • 困ったら必ず専門家に相談

多文化共生社会に向けて

今回の国交省調査は、外国人労働者を排斥するためのものではありません。実態を正確に把握し、日本人も外国人も安心して働ける環境を整えるためのものです。

建設・解体業界は、今後も外国人労働者の力なしには成り立ちません。だからこそ、適切なルールのもとで、お互いを尊重し合える関係を築くことが重要です。

企業は法令遵守と適切な労働環境の提供を、外国人労働者は日本の法規制の理解と遵守を、そして私たち行政書士は両者の「架け橋」として、これからも支援を続けてまいります。


まとめ

国土交通省による解体業界の初の全国実態調査は、業界の転換点となる可能性があります。外国人労働者の増加と不適切施工の問題を正面から受け止め、適切な対策を講じることが求められています。

企業の皆様へ:

  • 在留資格の確認を徹底してください
  • 労働法規と環境法規を遵守してください
  • 外国人労働者に適切な教育と待遇を提供してください
  • 不明点は専門家に相談してください

外国人労働者の皆様へ:

  • 自分の在留資格と権利を正しく理解してください
  • 困ったことがあれば、遠慮なく相談してください
  • 日本の法規制を学び、遵守してください

行政書士として:
皆様が安心して働き、事業を営めるよう、在留資格手続きから企業コンプライアンス支援まで、全力でサポートいたします。どうぞお気軽にご相談ください。

元記事: https://www.sankei.com/article/20260315-4WWX2M2AEVCVBEMQ7VJ57NT6PM/

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