1. はじめに:都内中華料理店の不法就労事件から学ぶこと
2026年2月、東京都台東区の中華料理店で、経営者が従業員を不法就労させたとして逮捕される事件が発生しました。この事件は、外国人雇用における「知識不足」と「認識の甘さ」がいかに大きなリスクを生むかを示す典型例です。
逮捕された経営者(31歳・中国籍)は、中国籍の従業員(26歳)を2025年10月上旬から11月下旬までの間、ホールスタッフとして雇用していました。しかし、この従業員が持っていた在留資格は「技術・人文知識・国際業務」であり、この資格では飲食店のホールスタッフのような単純労働は認められていません。
さらに問題なのは、経営者が「技術・人文知識・国際業務の在留資格であることは知っていたが、日本の法律違反ではないと思っていた」と述べている点です。この「知らなかった」という認識が、企業にとって致命的な結果を招くことを、この事件は教えてくれます。
本記事では、この事件を題材に、外国人雇用における在留資格の基礎知識から、企業が負うリスク、具体的な対策までを、行政書士の視点からわかりやすく解説します。
2. 在留資格「技術・人文知識・国際業務」とは?
在留資格「技術・人文知識・国際業務」(通称:技人国)は、日本で働く外国人が取得する代表的な就労ビザの一つです。この資格は、以下のような専門的な知識や技術を必要とする業務に従事する場合に認められます。
【認められる業務例】
・通訳・翻訳
・語学教師
・ITエンジニア・プログラマー
・マーケティング・広報
・貿易業務
・デザイナー
・企画・管理業務
これらの業務に共通するのは、「専門的な知識や技術を必要とする」という点です。大学や専門学校で学んだ知識を活かせる仕事、あるいは実務経験が求められる仕事が対象となります。
【認められない業務例】
・飲食店のホール・キッチンスタッフ
・工場のライン作業
・建設現場の単純労働
・清掃業務
・コンビニのレジ打ち
これらは「単純労働」とみなされ、技術・人文知識・国際業務の在留資格では従事できません。
3. なぜホールスタッフとして働かせてはいけないのか?
今回の事件で問題となったのは、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つ従業員を、飲食店のホールスタッフとして雇用していた点です。
日本の入管法では、在留資格ごとに「就労できる業務」が厳格に定められています。この規定に違反して働かせた場合、以下のような法的責任が発生します。
【外国人本人】
・不法就労罪(入管法第70条)
・3年以下の懲役もしくは禁錮、または300万円以下の罰金
・強制退去の対象となる
【雇用主】
・不法就労助長罪(入管法第73条の2)
・3年以下の懲役または300万円以下の罰金
・法人の場合、法人にも罰金刑が科される(両罰規定)
つまり、「知らなかった」では済まされず、雇用主にも刑事責任が問われるのです。
4. 資格外活動許可とは?取得方法と注意点
在留資格で認められていない業務に従事させたい場合、「資格外活動許可」を取得する必要があります。
【資格外活動許可の種類】
- 包括許可
留学生や家族滞在者がアルバイトをする場合に取得します。週28時間以内(留学生の場合、夏休み等の長期休暇中は1日8時間以内)の就労が可能です。 - 個別許可
就労ビザを持つ外国人が、本来の業務以外の仕事をする場合に取得します。例えば、技術・人文知識・国際業務の資格を持つ人が、週末に飲食店でアルバイトをする場合などです。
【取得方法】
・出入国在留管理局に申請
・申請から許可まで約2週間〜1ヶ月
・在留カードの裏面に「資格外活動許可」のスタンプが押される
【注意点】
・許可なく資格外の活動をすると不法就労となる
・風俗営業関連の業務は許可されない
・許可には時間制限がある場合が多い
5. 不法就労助長罪のリスク:企業が負う法的責任
不法就労助長罪は、外国人を不法に就労させた雇用主を処罰する法律です。以下の3つのケースが該当します。
- 不法滞在者を雇用した場合
在留期限が切れている、またはオーバーステイの外国人を雇用 - 資格外の活動をさせた場合
在留資格で認められていない業務に従事させた(今回の事件がこれに該当) - 資格外活動許可の範囲を超えて働かせた場合
留学生を週28時間を超えて働かせた、など
【罰則】
・3年以下の懲役または300万円以下の罰金
・法人の場合、法人にも罰金刑(両罰規定)
・行政処分(営業停止など)の可能性
・社会的信用の失墜、取引先との関係悪化
このように、不法就労助長罪は企業にとって非常に重いペナルティを伴います。
6. 外国人雇用時に必ずチェックすべき3つのポイント
外国人を雇用する際、以下の3つのポイントを必ず確認しましょう。
✅ チェック1:在留カードの確認
在留カードには以下の情報が記載されています。
・氏名、生年月日、国籍
・在留資格の種類
・在留期限
・就労制限の有無
【確認方法】
・在留カードの表面と裏面を両方確認
・有効期限が切れていないか
・在留資格の種類が雇用する業務に適合しているか
✅ チェック2:在留資格と業務内容の適合性
在留資格ごとに認められている業務と、実際に従事させる業務が一致しているかを確認します。
【よくある間違い】
・技術・人文知識・国際業務の資格で単純労働をさせる
・留学生を週28時間以上働かせる
・家族滞在の資格で資格外活動許可なく働かせる
✅ チェック3:資格外活動許可の有無
在留カードの裏面に「資格外活動許可」のスタンプがあるかを確認します。許可がある場合でも、許可の範囲内で働かせる必要があります。
7. 在留資格別:できる仕事・できない仕事の一覧
ここでは、主な在留資格とそれぞれで認められる業務を一覧でご紹介します。
技術・人文知識・国際業務
◯ 通訳・翻訳、ITエンジニア、マーケティング、貿易業務
✕ 飲食店のホール、工場のライン作業、清掃
技能
◯ 外国料理のコック、貴金属加工、動物調教など
✕ 一般的な飲食店のホール、単純労働
特定技能
◯ 介護、建設、農業、飲食料品製造など17分野の特定業務
✕ 指定された分野以外の業務
留学
◯ 資格外活動許可を取得すれば週28時間以内のアルバイト可能
✕ 風俗営業関連、週28時間を超える就労
家族滞在
◯ 資格外活動許可を取得すれば週28時間以内のアルバイト可能
✕ 風俗営業関連、週28時間を超える就労
永住者・日本人の配偶者等・定住者
◯ 就労制限なし(どんな仕事でも可能)
8. 事例から学ぶ:こんなケースは要注意!
ケース1:留学生を週30時間働かせた
→ 資格外活動許可は週28時間以内。超過分は不法就労となります。
ケース2:技術・人文知識・国際業務の資格でコンビニのレジ業務
→ 単純労働とみなされ、不法就労となります。
ケース3:在留期限が切れていることに気づかず雇用継続
→ 不法滞在者の雇用となり、不法就労助長罪が適用されます。
ケース4:資格外活動許可を取らずに副業をさせた
→ 本業以外の仕事をさせる場合は個別の資格外活動許可が必要です。
9. 企業がとるべき具体的な対策とコンプライアンス体制
外国人雇用におけるリスクを回避するため、企業は以下の対策を講じるべきです。
【対策1】雇用前の徹底した在留資格確認
・在留カード番号失効情報確認のサイト(出入国在留管理庁)で照会可能
・在留期限の管理システム導入
【対策2】社内研修の実施
・人事担当者向けに在留資格の基礎知識を学ぶ研修
・外国人従業員向けに日本の労働法・入管法の説明会
【対策3】専門家との連携
・行政書士や弁護士と顧問契約を結び、随時相談できる体制を構築
・雇用契約書のリーガルチェック
【対策4】定期的な在留カードの更新確認
・在留期限が近づいた従業員に対して更新手続きのサポート
・更新後の在留カードの再確認
【対策5】コンプライアンス体制の構築
・外国人雇用管理責任者の選任
・内部監査の実施
10. 行政書士に相談するメリットとサポート内容
外国人雇用に関する手続きは複雑で、専門知識が求められます。行政書士に相談することで、以下のようなメリットがあります。
【メリット1】法令遵守の徹底
在留資格と業務内容の適合性を専門家の目でチェックし、不法就労のリスクを未然に防ぎます。
【メリット2】手続きの迅速化
ビザ申請や資格外活動許可申請など、煩雑な手続きを代行し、スムーズに進めます。
【メリット3】トラブル対応
万が一のトラブル時にも、専門家として適切なアドバイスとサポートを提供します。
【当事務所のサポート内容】
・在留資格の適合性チェック
・ビザ申請・更新・変更手続きの代行
・資格外活動許可申請のサポート
・雇用契約書のリーガルチェック
・企業向けコンプライアンス研修
・定期的な在留管理サポート
11. まとめ:安心して外国人材を雇用するために
今回の事件は、「知らなかった」では済まされない外国人雇用のリスクを浮き彫りにしました。在留資格と業務内容の不一致は、企業にとって刑事責任を伴う重大な違反行為です。
外国人材の力を最大限に活かしながら、法令遵守の徹底した雇用環境を整えることが、企業の持続的成長と社会的信頼につながります。
「うちの会社は大丈夫かな?」と少しでも不安を感じたら、ぜひ専門家にご相談ください。適切な手続きと管理体制を整えることで、企業も従業員も安心して働ける職場を実現できます。
当事務所では、外国人雇用に関するあらゆるご相談に対応しています。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
【参考ニュース】
「日本の法律違反ではないと思っている」都内の中華料理店で不法就労させたか 中国籍の経営者を逮捕 在留資格外のホールスタッフとして雇用
https://news.yahoo.co.jp/articles/6752cde57c81acf68224d0f6f4ba6b954c9267fe
