はじめに:物流業界を変える「特定技能」という選択肢
2026年2月、ヤマトホールディングス傘下の株式会社ナカノ商会が、特定技能1号制度を活用してベトナム人中型トラックドライバー候補者3名を採用しました。これはヤマトグループとして初めての試みであり、物流業界における外国人材活用の新たなベンチマークとなる事例です。
私たち行政書士として、日々多くの企業様から「特定技能制度を使って外国人を雇用したい」というご相談をいただきます。しかし、制度を正しく理解し、適切に活用できている企業はまだまだ少ないのが現状です。
本記事では、ヤマトグループの先進事例を詳しく解説しながら、在日外国人を雇用する企業の経営者・人事担当者の皆様、そしてこれから日本で働こうとする在日外国人の皆様に向けて、特定技能制度の活用方法と成功のポイントをお伝えします。
1. 深刻化する物流業界の人手不足と特定技能制度の役割
1-1. トラックドライバー不足の現状
日本の物流業界は、今まさに転換点を迎えています。国土交通省のデータによれば、大型トラックドライバーの平均年齢は50.9歳と、全産業平均を6.8歳も上回っています。
この高齢化が意味するのは、今後10年間で大量のドライバーが定年退職を迎え、輸送力が大幅に低下するという深刻な未来です。
さらに、2024年4月に施行された「働き方改革関連法」により、トラックドライバーの時間外労働時間の上限規制が強化されました。いわゆる「2024年問題」です。これにより、一人のドライバーが担える業務量が制限され、物流業界全体の輸送能力がさらに低下する事態となっています。
1-2. 特定技能制度とは?外国人材活用の新しい仕組み
こうした状況を受けて、政府は2019年に「特定技能」という新しい在留資格を創設しました。特定技能制度は、人手不足が深刻な特定の産業分野において、即戦力となる外国人材を受け入れるための制度です。
2024年には、特定技能1号の対象分野に「自動車運送業」が追加されました。これにより、トラック・バス・タクシーなどの運転業務に従事する外国人の受け入れが可能になったのです。
特定技能1号の主な特徴:
- 在留期間:最長5年(1年、6か月または4か月ごとの更新)
- 家族の帯同:原則不可
- 求められる技能水準:相当程度の知識または経験が必要
- 日本語能力:日常会話レベル(N4程度)が必要
特定技能2号への移行の可能性:
特定技能2号に移行できれば、在留期間の制限がなくなり、家族の帯同も可能になります。ただし、自動車運送業が特定技能2号の対象になるかは、今後の制度改正次第です。
1-3. 技能実習制度との違い
特定技能制度と混同されがちなのが「技能実習制度」です。両者の違いを明確にしておきましょう。
| 項目 | 技能実習 | 特定技能1号 |
|---|---|---|
| 目的 | 技能移転(国際貢献) | 人手不足対応 |
| 在留期間 | 最長5年 | 最長5年 |
| 転職 | 原則不可 | 同一業種内で可能 |
| 家族帯同 | 不可 | 不可 |
| 日本語能力 | 不問(入国時) | N4程度必要 |
特定技能制度は、技能実習制度と異なり、「即戦力人材の確保」を目的としています。そのため、一定の技能と日本語能力を持つ外国人材を受け入れることが前提となっています。なお、技能実習制度は、2027年度に育成就労制度へと移行される予定です。
2. ナカノ商会の事例から学ぶ:特定技能活用の成功モデル
2-1. ナカノ商会とは?ヤマトグループの一員として
株式会社ナカノ商会は、2024年12月にヤマトホールディングスのグループ会社となった物流企業です。企業間輸送を中心に事業を展開しており、すでに約40名の外国人(11カ国)が倉庫内作業スタッフや管理部門で活躍しています。
この豊富な外国人雇用実績が、今回の特定技能制度活用の土台となっています。
2-2. 採用されたベトナム人ドライバー候補者のプロフィール
今回採用された3名のベトナム人は、いずれも20代から30代の若手です。彼らの共通点は以下の通りです。
✅ 日本語能力試験N4相当の日本語能力を保有
✅ 自動車運転免許を保有(ベトナムまたは日本)
✅ 日本での就労経験あり
つまり、単に「人手が足りないから誰でもいい」という採用ではなく、即戦力として活躍できる人材を厳選して採用したということです。
2-3. 入社前研修:ベトナムでの1年間の準備期間
ナカノ商会の特徴的な取り組みの一つが、入社前の研修期間を約1年間設けたことです。
ベトナムでの入社前研修の内容(2025年2月〜2026年1月):
- 日本語能力の向上
- ベトナムの日本語学校と連携
- 日常会話の読解・聴解能力向上に向けた講習
- 運転免許の取得支援
- ベトナムの中型トラック運転免許(日本の中型免許と同等の「C免許」)以上の取得に向けた講習
- 定期的なコミュニケーション
- 月1回のオンライン面談
- 日本での生活や働き方に関する不安や疑問の解消
この1年間の準備期間により、候補者は日本での生活と業務に対する不安を軽減し、スムーズに日本社会に適応できる準備を整えることができます。
2-4. 入社後研修:日本での実践的なトレーニング
2026年2月に来日した後も、約4か月間の研修期間が設けられています。
日本での入社後研修の内容(2026年2月〜2026年6月):
【生活面のサポート】
- 日本人社員とベトナム人社員が共同で作成したマニュアルを活用
- 日本での文化や生活ルールに関するオリエンテーション
- 地域社会への参加支援
【業務面のサポート】
- 外国の運転免許証から日本の運転免許証への切り替えに向けた講習
- 日本の交通ルールと交通文化に関する教育
- 日本人トラックドライバーの車両に同乗しての実習
- 企業間輸送業務の実践的な習得
この段階的なトレーニングにより、候補者は安全かつ確実に業務を遂行できる能力を身につけます。
2-5. 受け入れ側の準備:日本人社員への研修
外国人材の受け入れで見落とされがちなのが、「受け入れ側の準備」です。
ナカノ商会では、配属先の厚木営業所の日本人社員に対しても、以下の研修を実施しています。
日本人社員への研修内容(2026年1月〜2026年2月):
- 在留資格や労働条件に関する講習
- 特定技能制度の理解
- 外国人労働者の権利と義務
- 異文化理解とコミュニケーション
- 文化や習慣の違いへの理解
- 言語の理解度に配慮した安全教育
- 効果的なコミュニケーション方法
この取り組みは非常に重要です。外国人材が活躍できるかどうかは、受け入れる側の意識と理解にかかっているからです。
2-6. 生活サポート体制:先輩外国人社員の役割
ナカノ商会にはすでに約40名の外国人社員が活躍しており、その中にはベトナム人も含まれています。
今回採用されたドライバー候補者に対しては、これら先輩ベトナム人社員が生活面のサポート役を務めます。同じ母国語を話す先輩がいることで、候補者は安心して日本での生活をスタートできます。
3. 特定技能制度を活用する企業が押さえるべき法的要件
3-1. 特定技能外国人を雇用するための基本要件
特定技能制度を活用して外国人を雇用するには、企業側にもいくつかの要件があります。
【企業側の主な要件】
- 労働関係法令の遵守
- 労働基準法、最低賃金法などの遵守
- 同一労働同一賃金の原則
- 適切な報酬の支払い
- 日本人と同等以上の報酬
- 地域の最低賃金以上
- 支援体制の整備
- 生活オリエンテーション
- 住居の確保支援
- 日本語学習の機会提供
- 相談・苦情への対応体制
- 届出義務の履行
- 出入国在留管理庁への定期的な届出
- 受け入れ状況の報告
3-2. 自動車運送業特有の要件
自動車運送業で特定技能外国人を雇用する場合、追加の要件があります。
【自動車運送業特有の要件】
- 適切な運転免許の保有
- 日本の運転免許証(中型免許以上)
- 外国免許からの切り替え手続きの支援
- 日本の交通ルールの理解
- 交通法規の教育
- 安全運転に関する研修
- 業務に必要な日本語能力
- 運行指示の理解
- 緊急時の対応能力
3-3. 登録支援機関の活用
特定技能外国人の支援を自社で行うことが難しい場合、「登録支援機関」に委託することができます。
登録支援機関ができること:
- 入国前の生活ガイダンス
- 住居確保・生活に必要な契約支援
- 日本語学習の機会提供
- 相談・苦情への対応
- 定期的な面談の実施
ナカノ商会のように外国人雇用の実績がある企業は自社で支援体制を構築できますが、初めて外国人を雇用する企業は登録支援機関の活用を検討するとよいでしょう。
4. 在日外国人が特定技能で働くために知っておくべきこと
4-1. 特定技能1号の取得要件
在日外国人が特定技能1号の在留資格を取得するには、以下の要件を満たす必要があります。
【特定技能1号の取得要件】
- 技能試験の合格
- 自動車運送業の特定技能評価試験に合格
- または技能実習2号を修了
- 日本語能力試験の合格
- 日本語能力試験N4以上
- または国際交流基金日本語基礎テストに合格
- 雇用契約の締結
- 受け入れ企業との雇用契約
4-2. 技能実習からの移行
技能実習2号を良好に修了した場合、試験を受けずに特定技能1号に移行できます。これは大きなメリットです。
技能実習から特定技能への移行パターン:
技能実習1号(1年)
↓
技能実習2号(2年)
↓
特定技能1号(最長5年)
4-3. 転職の自由と注意点
特定技能1号の大きなメリットの一つが、同一業種内であれば転職が可能という点です。
ただし、転職の際には以下の点に注意が必要です。
転職時の注意点:
- 在留資格変更許可申請が必要
- 新しい雇用主との契約書
- 転職理由書
- 同一業種内であること
- 自動車運送業→自動車運送業はOK
- 自動車運送業→介護業はNG
- 空白期間の管理
- 退職から再就職までの期間に注意
- 空白期間が長いと在留資格が取り消される可能性
5. 行政書士が解説:特定技能申請の実務とポイント
5-1. 特定技能の在留資格申請の流れ
特定技能の在留資格を取得するための標準的な流れは以下の通りです。
【海外から呼び寄せる場合(在留資格認定証明書交付申請)】
- 技能試験・日本語試験の受験(海外または日本)
- 雇用契約の締結
- 在留資格認定証明書交付申請
- 審査(標準処理期間:1〜3か月)
- 認定証明書の交付
- ビザ申請(在外日本大使館・領事館)
- 来日
【日本国内で在留資格を変更する場合】
- 技能試験・日本語試験の受験(技能実習修了者は免除)
- 雇用契約の締結
- 在留資格変更許可申請
- 審査(標準処理期間:2週間〜1か月)
- 許可
5-2. 申請に必要な書類
特定技能の在留資格申請には、多くの書類が必要です。
【主な必要書類】
外国人本人に関する書類:
- パスポート
- 証明写真
- 履歴書
- 技能試験合格証明書
- 日本語試験合格証明書(またはN4以上の合格証)
受け入れ企業に関する書類:
- 雇用契約書
- 雇用条件書
- 事業計画書
- 登記事項証明書
- 決算書類
- 労働保険・社会保険の加入証明
- 特定技能外国人の支援計画書
その他の書類:
- 特定技能所属機関概要書
- 1号特定技能外国人支援計画書
- 登録支援機関との支援委託契約書(委託する場合)
5-3. 審査のポイントと不許可になりやすいケース
入管審査では、以下の点が重点的にチェックされます。
【審査のポイント】
- 技能と日本語能力の証明
- 試験合格証の真正性
- 実務経験の裏付け
- 雇用条件の適正性
- 同一労働同一賃金
- 地域最低賃金以上
- 企業の受け入れ体制
- 支援計画の実効性
- 過去の法令遵守状況
【不許可になりやすいケース】
❌ 報酬が日本人より低い
❌ 企業に法令違反歴がある
❌ 支援計画が不十分
❌ 技能試験や日本語試験の合格証が偽造
❌ 過去に不法就労歴がある
5-4. 行政書士に依頼するメリット
特定技能の在留資格申請は、非常に複雑で専門的な知識が必要です。
行政書士に依頼するメリット:
✅ 申請書類の正確な作成
✅ 不許可リスクの事前チェック
✅ 入管とのやり取りの代行
✅ 最新の法改正情報の提供
✅ トラブル発生時の対応
特に初めて外国人を雇用する企業様は、専門家のサポートを受けることで、スムーズかつ確実に手続きを進めることができます。
6. 成功する外国人雇用のために企業が準備すべきこと
6-1. 受け入れ前の社内体制整備
外国人材を受け入れる前に、企業が整えるべき体制は以下の通りです。
【社内体制整備のチェックリスト】
✅ 外国人雇用に関する社内規程の整備
✅ 担当部署・担当者の明確化
✅ 日本人社員への事前研修
✅ 多言語対応のマニュアル作成
✅ 相談窓口の設置
6-2. 住居の確保と生活支援
外国人材が安心して働くためには、住環境の整備が不可欠です。
【住居確保のポイント】
- 社宅または寮の提供
- 賃貸物件の契約サポート(保証人・初期費用)
- 生活必需品の準備支援
- 地域のルール(ゴミ出し、騒音など)の説明
6-3. 日本語教育とコミュニケーション支援
業務を円滑に進めるためには、継続的な日本語教育が重要です。
【日本語教育の方法】
- 日本語教室の開催(週1回など)
- オンライン日本語学習ツールの提供
- 業務で使う専門用語の教育
- 日本人社員とのペアワーク
6-4. キャリアパスの提示
外国人材にとって、将来のキャリアパスが見えることは大きなモチベーションになります。
【キャリアパスの例】
特定技能1号ドライバー(1〜5年)
↓
リーダー・班長(経験・能力に応じて)
↓
管理職候補(特定技能2号移行後)
7. よくある質問(FAQ)
Q1. 特定技能と技能実習の違いは何ですか?
A. 特定技能は「人手不足の解消」を目的とし、即戦力人材の受け入れを想定しています。一方、技能実習は「技能移転による国際貢献」を目的としています。特定技能は同一業種内での転職が可能ですが、技能実習は原則転職不可です。
Q2. 特定技能外国人の給与は日本人より安くてもいいですか?
A. いいえ、特定技能外国人には日本人と同等以上の報酬を支払う必要があります。これは法律で定められた要件です。
Q3. 特定技能1号から特定技能2号に移行できますか?
A. 分野によって異なります。建設業や造船・舶用工業では特定技能2号への移行が可能ですが、自動車運送業については今後の制度改正次第です。
Q4. 特定技能外国人は家族を日本に呼べますか?
A. 特定技能1号では家族の帯同は原則認められていません。特定技能2号に移行すれば、配偶者と子の帯同が可能になります。
Q5. 外国人ドライバーの事故リスクは高くないですか?
A. 適切な教育と研修を実施すれば、日本人ドライバーと変わりません。ナカノ商会の事例のように、日本の交通ルールや運転文化をしっかり教育することが重要です。
Q6. 特定技能の申請にはどのくらいの期間がかかりますか?
A. 在留資格認定証明書交付申請の場合、標準処理期間は1〜3か月です。在留資格変更許可申請の場合は2週間〜1か月程度です。ただし、書類の不備があると更に時間がかかります。
Q7. 登録支援機関に委託すると費用はどのくらいかかりますか?
A. 登録支援機関によって異なりますが、一般的には1人あたり月額2〜3万円程度です。支援内容によってはもっと高額になる場合もあります。
8. まとめ:これからの外国人雇用に必要な視点
ヤマトグループのナカノ商会の事例は、特定技能制度を活用した外国人雇用の理想的なモデルです。
成功のポイントを整理すると:
- 入社前からの丁寧な準備
- 約1年間の研修期間
- 日本語能力と運転技能の向上支援
- 充実した受け入れ体制
- 日本人社員への事前研修
- 多文化共生の職場づくり
- 生活面のサポート
- 先輩外国人社員によるサポート
- 地域社会への参加支援
- 長期的な視点
- 単なる人手不足対策ではなく、組織の多様性強化
特定技能制度は、日本企業にとって人材確保の重要な手段であると同時に、外国人材にとっては日本で安定的に働くチャンスです。
しかし、制度を活用するだけでは不十分です。企業と外国人材、双方が「共に働き、共に成長する」という意識を持つことが何より大切です。
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▼元記事はこちら https://news.yahoo.co.jp/articles/165aef51ee596491421dfb3c43c9c2a0e58ab0df
