はじめに──257万人時代の外国人政策が転換点を迎える
2026年2月8日に投開票が行われた衆議院選挙では、各党が外国人政策における規制強化を競うように公約に掲げました。特に注目されるのは、自民党が打ち出した「税金・社会保険料の納付状況を在留資格審査に反映させる」という方針です。
厚生労働省の発表によれば、2025年10月末時点で日本国内の外国人労働者数は過去最多の257万1037人に達し、13年連続で最多を更新しています。日本経済を支える重要な労働力となっている一方で、政治の場では規制強化の議論が加速しており、企業や在日外国人にとって見過ごせない状況となっています。
本記事では、Yahoo!ニュースで報じられた「外国人、規制強化なら暮らしは? 在留資格審査・不動産の取得…衆院選各党の公約」を元に、ビザ申請・在留資格を専門とする行政書士の視点から、今後の外国人政策がもたらす影響と、企業・外国人が今すぐ取るべき対策について詳しく解説します。
1. 各党が掲げる外国人政策の規制強化──何が変わるのか
1-1. 自民党:税・社会保険料納付状況を在留資格審査に反映
高市早苗首相(自民党総裁)は、衆院選公示日の1月27日、東京・秋葉原での第一声で次のように述べました。
「もっと入国管理を厳しくする。在留許可だって『ちゃんと税金払ってんの?』『保険料払ってんの?』。こういうことを審査の対象に入れていく」
自民党の公約では、「一部の外国人による制度の不適切利用が国民の不安や不公平感を助長している」として、マイナンバー制度を活用して税と社会保険料の納付状況を把握し、在留資格の審査に反映させることを明記しています。
厚生労働省の2024年末時点の調査によると、外国人の国民健康保険料納付率は63%で、全体の93%を大きく下回っています。この方針が実現すれば、少額でも未納がある外国人は在留資格の更新が認められない可能性があります。
さらに、永住許可や日本国籍取得(帰化申請)の審査も事実上厳格化される見込みです。
1-2. 日本維新の会・参政党:外国人労働者の受け入れ人数に上限設定
日本維新の会は、外国人労働者の受け入れに関して「外国人比率の上限設定」や「受け入れ数値目標の設定」を提唱しています。
参政党はさらに踏み込んで、「受け入れ人数を市区町村単位で5%に制限する」ことを求めています。
これらの政策が実現すれば、特に地方の農業や製造業、介護業界など、外国人労働者に大きく依存している産業では深刻な人手不足に直面するでしょう。
1-3. 国民民主党・参政党:外国人による不動産取得規制
国民民主党は「防衛施設周辺以外も対象に不動産取得を規制」するとし、参政党は「住宅購入を制限し、土地購入は基本禁止」とさらに踏み込んだ規制を公約に掲げています。
北海道の農業現場では、技能実習生に住宅を提供している企業も多く、「結婚や家族の帯同で家を購入したい場合、不動産取得規制は障壁になる。地域に定着しなくなる」との懸念が広がっています。
1-4. 多文化共生を訴える政党は少数
一方で、外国人との共生を積極的に訴える政党は少数にとどまります。中道改革連合が「多文化共生基本法」の制定を掲げていますが、具体的な内容は明示されていません。
自民党が日本語習得支援の拡充を打ち出していますが、これも受講の有無や成績を在留審査に活用するための「条件」として位置付けられています。
2. 在日外国人が直面する3つの不安
2-1. 在留資格の更新が認められなくなるリスク
東京都内で働く中国出身の30代女性は、「日本の滞在目的や期間は外国人によってさまざま。具体的にどう規制を強化したいのか、公約からは読み取れない」と不安を抱えています。
この女性の知人は、国際交流員として熱心に活動していたにもかかわらず永住許可を得られなかったといいます。「在留審査を厳格化するなら社会貢献を評価してくれてもいい」との声は、多くの在日外国人が共感するところでしょう。
2-2. 住宅購入・定着が難しくなる
不動産取得規制が実現すれば、外国人が住宅を購入することが困難になります。賃貸住宅での生活を余儀なくされれば、地域社会への定着意欲も低下し、優秀な外国人材は日本を離れて他国を選ぶでしょう。
3. 外国人を雇用する企業が直面する3つのリスク
3-1. 人材確保の困難化
北海道・上川管内で農事組合法人の代表を務める70代男性は、「外国人が地域の主力産業を担っている。政治は現場をよく理解してほしい」と訴えます。
ベトナムやミャンマー出身の技能実習生は全従業員の約3割を占めており、「受け入れ規制になれば廃業だ。誰が代わりに作物を作ってくれるのか」と危機感を募らせています。
地方では死亡数が出生数を上回る「自然減」が続き、人口減少は避けられません。受け入れ規制を強化すれば、外国人労働者は日本を敬遠し、他国を選ぶでしょう。
3-2. コンプライアンス対応の厳格化
マイナンバー制度を通じて税・社会保険料の納付状況が一元管理されるようになれば、企業側にも社会保険の適正加入と納付管理の徹底が求められます。
外国人社員の社会保険加入漏れや未納は、在留資格の更新に直結する重大なリスクとなります。人事・労務担当者は、これまで以上に細心の注意を払う必要があります。
3-3. 定着支援の難しさ
技能実習生や特定技能外国人を受け入れている企業の中には、住宅を提供しているケースも多くあります。不動産取得規制が導入されれば、外国人が家を購入して地域に定着することが難しくなり、長期的な人材戦略にも影響を及ぼします。
4. SNSに影響された政策論議の危うさ
4-1. SNS上の投稿件数が物価高対策を上回る
米メルトウォーター社のSNS分析ツールによると、公示後1週間で外国人政策に関する投稿は約10万件に達し、約8万4千件の物価高対策を上回りました。SNS上では外国人政策への関心が依然として高い状況です。
しかし、SNS上の情報には偏りや誤解も多く含まれており、それが政策論議に影響を与えている可能性があります。
4-2. 専門家の指摘──「現状とは違う」
立教大学の小林真生兼任講師(社会学)は、「各党は外国人犯罪に着目して規制強化策を打ち出しており、現状とは違う。公約はネット上の言説に近い感覚だ」と指摘しています。
さらに「差別や偏見がなぜいけないのか、多文化共生の重要性などを学ぶ仕組みが必要だ」と語り、政策論議における冷静さと多様性への理解の必要性を訴えています。
5. 在留資格審査の厳格化で何が変わるのか──行政書士の視点から
5-1. 在留資格更新時の審査項目が増える
これまで在留資格の更新では、在留状況や就労状況、素行などが審査されてきました。今後は、これに加えて以下の項目が審査対象となる可能性があります。
- 所得税・住民税の納付状況
- 国民健康保険料・厚生年金保険料の納付状況
- 日本語能力試験の受講・成績
- 社会貢献活動の有無
特に社会保険料の未納は、たとえ少額であっても在留資格更新の不許可事由となる可能性が高まります。
5-2. 永住許可申請・帰化申請のハードルが上がる
永住許可や帰化申請は、もともと厳格な審査が行われていますが、今後はさらにハードルが上がることが予想されます。
具体的には以下の点が重視されるでしょう。
- 継続的かつ安定した収入
- 税・社会保険料の完納
- 日本語能力の証明
- 地域社会への貢献
特に永住許可は「日本に永住することが日本の利益になる」と認められる必要があり、単に法律上の要件を満たすだけでは不十分です。
5-3. 家族滞在ビザ・特定活動ビザの取得も厳格化
家族を日本に呼び寄せるための「家族滞在ビザ」や、「特定活動ビザ」の取得も、厳格化される可能性があります。
特に扶養者(呼び寄せる側)の経済力や納税状況が重視されるでしょう。
6. 企業が今すぐ取るべき5つの対策
6-1. 外国人社員の社会保険加入状況を再確認
まず最優先で行うべきは、外国人社員の社会保険加入状況の確認です。
- 健康保険・厚生年金保険に適切に加入しているか
- 保険料の未納はないか
- 雇用保険・労災保険にも加入しているか
特にパートタイム労働者や短時間労働者の場合、加入要件を満たしているか再確認しましょう。
6-2. 在留資格の更新時期と必要書類を把握
外国人社員の在留資格の種類と期限を一覧表にして管理し、更新時期の3か月前には準備を開始しましょう。
必要書類には以下が含まれます。
- 在留期間更新許可申請書
- 写真
- パスポート・在留カード
- 住民税の課税証明書・納税証明書
- 会社の決算書類(カテゴリーによる)
- 雇用契約書・給与明細
特に納税証明書は、今後ますます重要になります。
6-3. 永住許可・帰化申請を検討している社員への支援
永住許可や帰化申請を検討している外国人社員には、早めの準備を促しましょう。
- 必要書類の収集支援
- 専門家(行政書士)への相談の勧奨
- 日本語学習のサポート
企業として外国人社員の長期定着を望むのであれば、こうした支援は投資として非常に有効です。
6-4. 規制変更に備えた採用・人事戦略の見直し
受け入れ人数に上限が設定される可能性もあるため、外国人材の採用計画を見直す必要があります。
- 特定技能外国人の受け入れ枠を確保
- 技能実習から育成就労への移行準備
- 国内人材の確保・育成も並行して進める
外国人材だけに頼るのではなく、多様な人材戦略を構築することが重要です。
6-5. 行政書士など専門家との連携体制を構築
在留資格の手続きは複雑で、法改正も頻繁に行われます。企業単独で対応するのは困難なため、ビザ申請・在留資格を専門とする行政書士との連携体制を構築しましょう。
- 顧問契約による継続的なサポート
- 在留資格に関する社内研修の実施
- トラブル発生時の迅速な相談体制
7. 在日外国人が今すぐすべき5つのこと
7-1. 税金・社会保険料の納付状況を確認
まず最優先で行うべきは、自分自身の税金・社会保険料の納付状況の確認です。
- 所得税・住民税に未納はないか
- 国民健康保険料または社会保険料に未納はないか
- 年金保険料の納付状況はどうか
もし未納がある場合は、速やかに納付しましょう。分納が必要な場合は、自治体や年金事務所に相談してください。
7-2. 在留資格の更新時期と必要書類をチェック
在留カードに記載されている在留期限を確認し、更新時期の3か月前には準備を始めましょう。
必要書類は在留資格の種類によって異なりますが、納税証明書は必ず必要になります。
7-3. 永住許可や帰化申請を検討中の方は早めに相談を
永住許可や帰化申請を考えている方は、規制が厳格化される前に早めに準備を進めることをおすすめします。
- 必要書類の確認
- 要件を満たしているかの確認
- 行政書士への相談
特に永住許可は審査期間が長く、申請から許可まで数か月から1年以上かかることもあります。
7-4. 日本語能力の向上に努める
今後、日本語能力が在留資格審査の対象となる可能性が高まっています。
- 日本語能力試験(JLPT)の受験
- 地域の日本語教室への参加
- オンライン学習の活用
日本語能力の向上は、仕事や日常生活の質を高めるだけでなく、在留資格の審査でも有利に働きます。
7-5. 専門家(行政書士)に相談する
在留資格に関する不安や疑問がある場合は、早めに専門家に相談しましょう。
- 在留資格の更新に関する相談
- 永住許可・帰化申請の要件確認
- 家族の呼び寄せに関する相談
- 不動産購入に関する相談
専門家のアドバイスを受けることで、トラブルを未然に防ぎ、安心して日本での生活を続けることができます。
8. 多文化共生社会の実現に向けて──私たちができること
8-1. 外国人を「労働力」ではなく「生活者」として捉える
外国人労働者を単なる「労働力」として見るのではなく、家族を持ち、地域で暮らす「生活者」として捉えることが重要です。
- 住宅の提供
- 子どもの教育支援
- 日本語学習の支援
- 地域コミュニティへの参加促進
8-2. 企業の社会的責任(CSR)としての外国人材支援
外国人材を受け入れる企業には、単に雇用するだけでなく、彼らが安心して働き、暮らせる環境を整える社会的責任があります。
- 適正な労働条件の確保
- 社会保険の適正加入
- 日本語教育の提供
- 文化・習慣の違いへの理解
8-3. 地域社会全体での受け入れ体制の構築
外国人が地域社会に溶け込むためには、企業だけでなく地域全体での受け入れ体制が必要です。
- 多言語での情報提供
- 外国人向けの相談窓口の設置
- 地域イベントへの参加促進
- 学校での多文化教育
9. まとめ──規制強化の時代に求められる「正しい知識」と「適切な準備」
2026年の衆議院選挙で各党が掲げた外国人政策の規制強化は、在日外国人や外国人を雇用する企業にとって見過ごせない変化をもたらします。
企業にとっては、外国人社員の在留資格管理がこれまで以上に重要になり、社会保険の適正加入と納付管理の徹底が求められます。受け入れ人数の制限や不動産取得規制により、外国人材の確保と定着がさらに困難になる可能性もあります。
在日外国人にとっては、税・社会保険料の納付状況が在留資格の更新に直結するため、日頃からの適正な納付が不可欠です。永住許可や帰化申請のハードルも上がり、家族の呼び寄せや住宅購入も難しくなる可能性があります。
しかし、こうした規制強化の動きがある一方で、日本の産業は外国人労働者なしには成り立たないのも事実です。地方の農業、製造業、介護業界など、多くの現場で外国人材が欠かせない存在となっています。
今求められるのは、規制強化を過度に恐れるのではなく、正しい知識を持ち、適切な準備を進めることです。
私たちニセコビザ申請サポートセンターは、ビザ申請・在留資格の専門家として、企業と外国人材の架け橋となり、皆様が安心して日本で働き、暮らせるようサポートいたします。
在留資格の更新、永住許可申請、帰化申請、家族の呼び寄せ、社会保険の適正加入など、ご不明点やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
規制強化が進む今だからこそ、専門家のサポートが重要です。一緒に、安心できる未来を築いていきましょう。
参考記事
Yahoo!ニュース「外国人、規制強化なら暮らしは? 在留資格審査・不動産の取得…衆院選各党の公約」
https://news.yahoo.co.jp/articles/262f0b3af0c5a6a7166c44dbbeb006821f350ed4
