はじめに:排外的な風潮が日本人をも傷つけている現実
2025年以降、日本社会では排外的な風潮が高まっています。しかし、その影響を受けているのは外国人だけではありません。国際結婚をしている日本人、外国人の友人や同僚を持つ日本人、外国人を雇用する企業の経営者や人事担当者――多くの日本人もまた、この風潮によって深く傷ついています。
東京都世田谷区では、この10年で外国人住民が倍増し、約3万人が暮らしています(2026年3月現在)。ウズベキスタン出身のオルズグル区議のもとには、外国人だけでなく、日本人からの相談が急増しているといいます。
「外国人よりもむしろ、日本人からのご相談が増えているんです」
この言葉が示すのは、排外的な風潮が社会全体に与える深刻な影響です。
行政書士として、ビザ申請や在留資格を専門にサポートしている私たちも、同様の声を日々耳にしています。この記事では、世田谷区の事例をもとに、多文化共生の本質と、在日外国人を雇用する企業や地域社会が取るべき対応について詳しく解説します。
世田谷区で何が起きているのか?―外国人住民の倍増と相談件数の急増
10年で外国人住民が倍増した世田谷区
世田谷区に住む外国人は、2016年3月1日時点で1万6861人でしたが、2026年3月1日には3万0802人へと倍増しました。世田谷区全体の人口に占める外国人率も、1.9%から3.3%に上昇しています。
この数字は、日本全体の傾向を反映しています。少子高齢化が進む中、労働力不足を補うため、また国際化の進展により、外国人住民は今後も増加することが予想されます。
日本人からの相談が急増している背景
オルズグル区議のもとに寄せられる相談の多くは、次のような内容です。
- 国際結婚をしている配偶者が、外を歩くたびに冷たい視線を感じたり、嫌な言葉を投げかけられたりして怯えている
- 日本に生まれ育った日本人だが、外国ルーツのため顔立ちが異なり、タクシーの乗車拒否をされた
- ハーフの子どもがいじめに遭っている
- 外国人の親友が悲しんでいる
- 外国人とともに働いている同僚が困っている
- 海外とビジネスをしている企業経営者が懸念を抱いている
これらの相談は、外国人本人からではなく、その周囲にいる日本人からのものが大半を占めています。2025年の参院選と都議会選を境に、相談件数は大幅に増加したといいます。
「外国人問題」という言葉の危うさ―主語が大きすぎる
すべての外国人を一括りにすることの弊害
オルズグル区議は、「とにかく主語が大きすぎる」と指摘します。
「外国人問題」という言葉は、あたかもすべての外国人に問題があるかのような印象を与えます。しかし、外国人にも日本人と同様、さまざまな国籍、背景、職業、人生があり、問題のある人もない人もいます。納税の義務を果たしていることも同じです。
「日本人 vs 外国人」ではなく「ルールを守る人 vs 守らない人」
オルズグル区議は、こう提案します。
「日本人、外国人ではなく、ルールを守る人、守らない人で区別すればいいと思うんです」
この視点は、多文化共生を考える上で非常に重要です。国籍や外見ではなく、行動規範を基準にすることで、公平で建設的な議論が可能になります。
ルールを守れない背景にある「情報不足」と「周知不足」
ルールが日本語のみで書かれている現実
ルールやマナーを守らない外国人がいる背景には、ルールそのものが周知されていないことがあります。
「ここは日本ですから、日本のルールとマナーを尊重すべきです。でも、そのルールが日本語のみで書かれていたりする。もちろん日本で暮らすなら日本語を学ぶことが必要ですが、日本に来たばかりの人や観光客はわからない」
オルズグル区議は、多言語表記やピクトグラムの活用を進めるべきだと提案しています。
世田谷区の多言語対応の実態
世田谷区のホームページは多言語対応していますが、実態は以下の通りでした。
- 英語版ページに何年も前の台風警戒情報が残っていて、更新されていない
- 世田谷区防災ポータルも多言語表示が可能だが、言語切り替えボタンが「言語選択」という日本語のみ
これでは、外国人住民が必要な情報にアクセスできません。
外国人向け施設「クロッシングせたがや」の認知度
世田谷区には「クロッシングせたがや」という施設があり、日本語教室や国際交流イベント、生活相談などを行っています。しかし、区が2025年に実施した外国人住民アンケートでは、以下の結果が出ました。
- 「クロッシングせたがや」を知らない:73.2%
- 知っているが利用したことがない:22.4%
- 知っていて利用したことがある:4.4%
周知がまったく足りていないことが明らかです。
外国人を地域社会に巻き込むことの重要性
少子高齢化と担い手不足への対応
世田谷区でも少子高齢化が進み、伝統行事の担い手が減少しています。オルズグル区議は、外国人にも参加してもらうことを提案します。
「それなら外国人にも参加してもらって、地域社会を一緒に支えてもらえばいいと思うんです。お祭りでもごみ拾いでも、外国人の力を活用してほしい」
顔の見える関係が不安を減らす
外国人に対する漠然とした不安が広まっている理由の一つは、外国人と実際に接している日本人の少なさです。
商店街、自治会、地域イベントなどで外国人に声をかけ、一緒に活動することで、顔の見える関係が生まれます。あいさつを交わせる関係ができていれば、不安も減るでしょう。
災害時にも助け合える
地域社会で外国人と日本人が互いを知っていれば、災害時にも助け合えます。多文化共生は、外国人を優先することではなく、お互いに助け合う社会のことです。
在日外国人を雇用する企業が取るべき対応
多言語での社内規則の共有
企業が外国人材を受け入れる際、社内規則や業務マニュアルを多言語化することは不可欠です。日本語のみでは、外国人社員が「ルールを守りたくても守れない」状況に陥ります。
ピクトグラムの活用
言葉の壁を越えるために、ピクトグラム(絵文字)を活用することも有効です。安全標識、ゴミ分別、休憩室の使い方など、視覚的に理解できる工夫が求められます。
メンター制度の導入
外国人社員が孤立しないよう、日本人社員がメンターとしてサポートする制度を導入することも効果的です。業務面だけでなく、生活面での相談にも乗ることで、安心して働ける環境が整います。
地域社会への参加を促す
企業が外国人社員に地域のイベントや活動への参加を促すことで、社員自身の生活満足度が向上するだけでなく、地域社会との良好な関係構築にもつながります。
オルズグル区議の歩み―14歳で大学入学、21歳で来日
ひらがなの美しさに魅了された少女
オルズグル区議は、ウズベキスタンの首都タシケントで生まれました。母も祖父母も教師という家庭で育ち、本を読むのが大好きな子どもでした。
13歳で高校に飛び級入学し、たまたま覗いた日本語クラブで黒板に書かれていた文字に魅了されます。
「ひらがながひとつの『美』に見えたんです」
そこから日本語にのめりこみ、14歳でタシケント国立東洋学大学に入学。18歳で卒業、20歳で大学院修了という驚異的なスピードで学びを深めました。
日本での苦労―53社に断られた就職活動
21歳で結婚を機に来日しましたが、日本での生活は苦労の連続でした。
- 「日本の大学を出ていない」という理由で、就職活動は53社に断られた
- 主婦であることを理由に、部屋を借りられなかった
- 外国籍の女性がバーを開こうとしたら、良からぬ商売を疑われた
こうした経験が、政治家を目指すきっかけになりました。
2023年、世田谷区議会議員に当選
2023年の世田谷区議会議員選挙に立憲民主党の公認で立候補し、当選を果たしました。現在は党を離れ、ひとり会派「世田谷から日本を愛する会」として活動しています。
「和を以て貴しとなす」―多文化共生の基盤
聖徳太子の精神に学ぶ
オルズグル区議は、聖徳太子の「和を以て貴しとなす」という言葉こそ、多文化共生の基盤だと語ります。
「日本のほうでは多言語化や情報の周知をもっと徹底してほしい。外国人のほうは日本語をしっかり学び、日本のルールを守り、日本という国をリスペクトしてほしい。日本に愛を持った人が来てほしい」
日本型の共生モデルを作る
「いま日本は、ヨーロッパが移民を受け入れた初期の頃の段階にあると思います。ヨーロッパのプラスとマイナスの経験を学びながら、日本型の共生モデルはつくれると私は考えています」
その根となるのは、地域の日本人と外国人が、同じ生活者として互いを知ることです。
在留資格専門家としての私たちの役割
ビザ申請・在留資格サポートの重要性
行政書士として、私たちは在日外国人の皆さんのビザ申請や在留資格更新をサポートしています。
しかし、私たちの役割は単なる手続き代行にとどまりません。外国人と日本人が互いに理解し、共に成長できる社会づくりに貢献することも、重要な使命だと考えています。
企業の人事担当者・経営者へのサポート
外国人を雇用する企業の人事担当者や経営者の皆さまには、以下のサポートを提供しています。
- 在留資格の種類と要件の説明
- 雇用契約書の作成サポート
- 在留資格更新・変更手続きのサポート
- 外国人社員の生活サポートに関するアドバイス
在日外国人の皆さまへのサポート
在日外国人の皆さまには、以下のサポートを提供しています。
- 在留資格の申請・更新手続き
- 永住許可申請
- 帰化申請
- 家族の呼び寄せ
- 日本の生活ルールやマナーに関する情報提供
まとめ:一人ひとりが「生活者」として互いを理解する社会へ
世田谷区の事例は、日本社会全体が直面している課題を浮き彫りにしています。
排外的な風潮は、外国人だけでなく、日本人をも傷つけています。国際結婚をしている方、外国人の友人や同僚を持つ方、外国人を雇用する企業の経営者や人事担当者――多くの日本人が、この風潮によって苦しんでいます。
必要なのは、「日本人 vs 外国人」という対立構造ではなく、「ルールを守る人 vs 守らない人」という視点です。
そして、ルールを守るためには、情報の多言語化、周知の徹底、地域社会への参加促進が不可欠です。
企業は、外国人材を「労働力」としてではなく、「生活者」として受け入れ、共に成長するパートナーと捉える必要があります。
地域社会は、外国人を地域活動に巻き込み、顔の見える関係を築くことで、互いの不安を減らすことができます。
「和を以て貴しとなす」――この日本の精神こそ、多文化共生の基盤です。
私たち行政書士は、ビザ申請や在留資格のサポートを通じて、外国人と日本人が互いに理解し、助け合う社会づくりに貢献してまいります。
ご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
