はじめに:SNSで広がる偽装結婚ビジネスの実態
2026年2月、岐阜県で偽装結婚を斡旋したとして、中国籍の男と日本人女性が逮捕されました。この事件は、SNSを通じて「結婚したい人は連絡して。相手は日本人」と投稿し、在留資格を不正に取得させようとしたものです。警察の調べによると、2人は偽装結婚のブローカーとして年間1500万円以上の利益を得ていたとされています。
このニュースを目にして、「自分には関係ない」と思われる方もいるかもしれません。しかし、在日外国人を雇用する企業や人事担当者にとって、この事件は決して他人事ではありません。偽装結婚によって取得された在留資格は無効であり、そうした資格で働く外国人を雇用した企業も、法的責任を問われる可能性があるからです。
本記事では、行政書士としてビザ申請・在留資格申請に携わる立場から、偽装結婚による在留資格不正取得の問題点、企業が負うリスク、そして適法な外国人雇用のために知っておくべきポイントについて、詳しく解説します。
1. 偽装結婚とは?在留資格との関係
1-1. 偽装結婚の定義
偽装結婚とは、実際には婚姻の意思がないにもかかわらず、在留資格の取得や延長を目的として婚姻届を提出する行為を指します。日本では、日本人と結婚した外国人は「日本人の配偶者等」という在留資格を取得でき、就労制限がなく、比較的自由に日本で生活することができます。
この制度を悪用し、金銭を対価として日本人と外国人を引き合わせ、形式的な結婚を成立させるのが「偽装結婚ブローカー」です。今回の事件でも、SNSを使って希望者を募り、ビジネスとして組織的に斡旋していたことが明らかになっています。
1-2. 在留資格「日本人の配偶者等」の特徴
「日本人の配偶者等」の在留資格を持つ外国人は、就労の種類や時間に制限がありません。これは、「技術・人文知識・国際業務」などの就労系在留資格と比べて、非常に自由度が高い資格です。
そのため、本来であれば就労ビザの取得が難しい外国人が、偽装結婚を通じてこの資格を手に入れようとするケースが後を絶ちません。
1-3. 偽装結婚が犯罪である理由
偽装結婚は以下の法律に違反します。
- 公正証書原本不実記載罪(刑法第157条):虚偽の婚姻届を提出する行為
- 入管法違反:虚偽の申請による在留資格の取得
- 不法就労助長罪(入管法第73条の2):偽装結婚で得た在留資格で就労させた場合、雇用主も罰せられる可能性
特に注意すべきは、企業側が「知らなかった」と主張しても、確認を怠っていた場合には責任を問われることがあるという点です。
2. 企業が負う法的リスク|不法就労助長罪とは?
2-1. 不法就労助長罪の内容
入管法第73条の2には、「不法就労助長罪」が規定されています。これは、外国人に不法就労をさせた事業主を処罰する法律です。
具体的には、以下のケースが該当します。
- 不法滞在者を雇用した
- 就労が認められていない在留資格の外国人を働かせた
- 偽造・変造された在留カードを見抜けず雇用した
- 在留期限が切れていることを知らずに雇用し続けた
罰則は「3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその併科」です。
2-2. 企業が「知らなかった」では済まされない理由
「本人が在留カードを持っていたので、問題ないと思った」
「面接時に確認したが、その後は更新状況を把握していなかった」
このような言い訳は、法律上通用しません。企業には、外国人を雇用する際に「在留資格の確認義務」があり、これを怠った場合には過失責任を問われることがあります。
特に、偽装結婚によって取得された在留資格は無効ですので、その外国人を雇用していた企業も連帯して責任を負う可能性があるのです。
2-3. 実際に起きた企業の処罰事例
過去には、以下のような事例があります。
- 飲食店が不法滞在の外国人を雇用していたとして、経営者が逮捕され、罰金刑を受けた
- 建設会社が在留資格を確認せずに外国人労働者を雇用し、行政処分を受けた
- 人材派遣会社が偽造在留カードを見抜けず、事業停止処分を受けた
いずれのケースも、「知らなかった」では済まされず、社会的信用を大きく失う結果となっています。
3. 在留資格の種類と就労可否の確認方法
3-1. 主な在留資格の種類
日本には30種類近くの在留資格があり、それぞれ就労の可否が異なります。以下に代表的なものを挙げます。
| 在留資格 | 就労可否 | 特徴 |
|---|---|---|
| 技術・人文知識・国際業務 | ○ | エンジニア、通訳、営業など |
| 特定技能 | ○ | 人手不足分野での就労 |
| 技能実習 | △ | 実習計画に基づく就労のみ |
| 留学 | △ | 資格外活動許可があれば週28時間まで |
| 家族滞在 | △ | 資格外活動許可があれば週28時間まで |
| 日本人の配偶者等 | ○ | 制限なし |
| 永住者 | ○ | 制限なし |
| 短期滞在 | × | 就労不可 |
3-2. 在留カードの確認ポイント
外国人を雇用する際には、必ず在留カードの「原本」を確認してください。確認すべきポイントは以下の通りです。
- 氏名・生年月日・国籍:本人確認書類と一致しているか
- 在留資格の種類:就労可能な資格か
- 在留期限:期限が切れていないか
- 就労制限の有無:裏面に「就労不可」の記載がないか
- 資格外活動許可:留学生や家族滞在者の場合、許可の有無を確認
3-3. 在留カード番号の真偽確認方法
最近では、在留カードの偽造も増えています。見た目だけでは判断できないため、出入国在留管理庁が提供する「在留カード等番号失効情報照会」を活用しましょう。
この照会システムでは、在留カード番号を入力することで、そのカードが有効かどうかを確認できます。雇用前に必ずチェックすることを推奨します。
照会サイト: https://lapse-immi.moj.go.jp/html/top.html
4. 偽装結婚を見抜くためのチェックポイント
4-1. 不自然な結婚の兆候
偽装結婚には、以下のような不自然な点が見られることがあります。
- 結婚後も同居していない
- 配偶者の職業や住所を把握していない
- 結婚の経緯が曖昧、または不自然
- 結婚後すぐに別居している
- 配偶者と連絡が取れない
企業が外国人を雇用する際に、これらの兆候をすべて把握することは難しいかもしれません。しかし、面接時に「配偶者の職業」や「住所」などを軽く確認することで、不自然さに気づくことができる場合もあります。
4-2. 入管が疑うポイント
出入国在留管理庁は、在留資格の審査において以下のような点をチェックします。
- 結婚に至る経緯が不明瞭
- 年齢差が大きすぎる
- 収入が不安定、または生活基盤が脆弱
- 過去に偽装結婚の前歴がある
- SNSなどでの出会いで、交際期間が極端に短い
こうしたケースでは、追加の資料提出や面接が求められることがあります。
5. 外国人雇用における企業の義務
5-1. 雇用時の確認義務
外国人を雇用する際、企業には以下の義務があります。
- 在留カードの確認
- 就労可能な在留資格かどうかの確認
- 在留期限の確認
- ハローワークへの届出(「外国人雇用状況届出」)
これらを怠ると、行政指導や罰則の対象となることがあります。
5-2. ハローワークへの届出義務
外国人を雇用した企業は、ハローワークに「外国人雇用状況届出」を提出する義務があります。これは、雇用保険の被保険者であるかどうかに関わらず、すべての外国人労働者が対象です。
届出を怠ると、30万円以下の罰金が科されることがあります。
5-3. 在留期限の管理
在留期限が切れた外国人を雇用し続けると、不法就労助長罪に問われます。企業は、在留期限が近づいたら更新手続きを促し、更新後の在留カードを必ず確認する必要があります。
6. 行政書士ができる外国人雇用サポート
6-1. 在留資格申請の代行
在留資格の申請や変更、更新の手続きは複雑で、必要書類も多岐にわたります。行政書士は、これらの手続きを代行し、スムーズな申請をサポートします。
6-2. 就労ビザの取得支援
外国人を新たに採用する場合、「技術・人文知識・国際業務」や「特定技能」などの就労ビザが必要です。行政書士は、企業と外国人双方の状況を確認し、最適な在留資格を提案します。
6-3. 在留カードの真偽確認と適法性チェック
すでに雇用している外国人の在留資格が適法かどうか不安な場合、行政書士に相談することで、在留カードの真偽確認や就労資格の適法性をチェックできます。
6-4. 企業向け外国人雇用研修
人事担当者向けに、外国人雇用の基礎知識や法令遵守のポイントをレクチャーする研修も行っています。適法な雇用体制を構築するための第一歩です。
7. まとめ|適法な外国人雇用が企業を守る
今回の偽装結婚斡旋事件は、在留資格制度の悪用がいかに深刻な問題であるかを改めて示しました。年間1500万円もの利益を得ていたという事実は、それだけ不正な在留資格取得の需要があるということです。
しかし、企業がこうした不正に巻き込まれないためには、適法な雇用プロセスを徹底することが不可欠です。在留カードの確認、就労資格のチェック、在留期限の管理など、基本的な義務を怠らないことが、企業を守る最大の防御策となります。
また、外国人雇用に関して少しでも不安や疑問がある場合は、専門家である行政書士に相談することをお勧めします。適法で透明性のある雇用は、企業と外国人材の双方にとってメリットとなります。
グローバル化が進む現代、外国人材の活用は企業成長の鍵です。だからこそ、法令を遵守し、安心して働ける環境を整えることが、企業の社会的責任であり、長期的な成長につながるのです。
在留資格・ビザ申請でお困りの際は、ぜひニセコビザ申請サポートセンターにご相談ください。適法で安心できる外国人雇用を、全力でサポートいたします。
▼参考記事
https://news.yahoo.co.jp/articles/89234843eb993a2628384ff8b389e3719526b84b
