■ はじめに:兵庫県で起きた不法就労助長事件

2026年4月9日、兵庫県警加古川署と県警外事課は、入管難民法違反(不法就労助長)の容疑で、神戸市西区の建設業の男性(36歳)を逮捕しました。

容疑の内容は、在留期間が過ぎたベトナム人2名(29歳と24歳)を、昨年夏から今年3月にかけて、稲美町の資材置き場で作業員として働かせていたというものです。逮捕された男性は、他の2名(20代と40代)と共謀してこの不法就労を行っていたとされています。

この事件は、外国人労働者の雇用が一般的になった現代において、多くの企業が直面しうるリスクを浮き彫りにしています。特に人手不足が深刻な建設業、製造業、サービス業では、外国人労働者の採用は不可欠になっていますが、同時に法的リスクも増大しているのです。

本記事では、ビザ申請・在留資格申請を専門とする行政書士の視点から、この事件を詳しく分析し、在日外国人の方々と外国人を雇用する企業の経営者・人事担当者の方々が知っておくべき重要な情報をお伝えします。

■ 不法就労助長罪とは?法的根拠と罰則

不法就労助長罪は、入管難民法(出入国管理及び難民認定法)第73条の2に規定されている犯罪です。

【法律の条文】
「次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」

具体的には、以下の3つの行為が処罰の対象となります:

  1. 事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者
  2. 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者
  3. 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関しあっせんした者

今回の事件は、この第1号に該当します。罰則は非常に重く、3年以下の懲役または300万円以下の罰金、あるいはその両方が科される可能性があります。

さらに重要なのは、この罪は「故意犯」であると同時に、雇用主には「確認義務」があるとされている点です。つまり、「知らなかった」「騙された」という弁解は、原則として通用しないのです。

■ 不法就労とは?3つのパターン

不法就労には、大きく分けて3つのパターンがあります:

【パターン1:不法滞在者の就労】
在留資格を持たずに日本に滞在している外国人(オーバーステイなど)が働くケース。今回の事件はこれに該当します。

【パターン2:資格外活動】
就労が認められていない在留資格(留学、家族滞在など)を持つ外国人が、資格外活動許可を得ずに働くケース。または、資格外活動許可の範囲(週28時間以内など)を超えて働くケース。

【パターン3:許可された範囲外の就労】
特定の業務や業種でのみ働ける在留資格を持つ外国人が、許可されていない業務に従事するケース。例えば、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つ外国人が、単純労働に従事する場合など。

いずれのケースでも、雇用主は不法就労助長罪に問われる可能性があります。

■ 雇用主の確認義務:何をチェックすべきか

外国人を雇用する際、雇用主には法的な確認義務があります。具体的には以下の項目を必ずチェックする必要があります:

【1. 在留カードの確認】
在留カードは、中長期在留者に交付される、日本での在留資格を証明するカードです。以下の項目を確認してください:

・有効期限(在留期間):期限が切れていないか
・氏名・生年月日・国籍:本人確認
・在留資格の種類:就労が可能な資格か
・就労制限の有無:「就労不可」「就労制限あり」などの記載

【2. 在留カードの真正性確認】
残念ながら、偽造在留カードも存在します。出入国在留管理庁のウェブサイトには「在留カード等番号失効情報照会」というシステムがあり、在留カード番号を入力することで、そのカードが有効かどうかを確認できます。

また、在留カードには以下のような偽造防止技術が施されています:
・ICチップの内蔵
・ホログラム
・特殊なインク
・光を当てると見える文字

【3. 就労可能な在留資格の種類】
在留資格には約30種類ありますが、その中で就労が可能なものは限られています。主な就労可能な在留資格:

・技術・人文知識・国際業務:いわゆるホワイトカラーの仕事
・技能:料理人、建設技術者など特定の技能を要する仕事
・特定技能:人手不足分野での就労
・技能実習:技能実習計画に基づく実習
・高度専門職:高度な知識や技術を持つ人材
・経営・管理:会社経営者など
・永住者、日本人の配偶者等、定住者など:就労制限なし

【4. 資格外活動許可の確認】
留学生や家族滞在者など、原則として就労できない在留資格を持つ外国人でも、「資格外活動許可」を得ていれば、一定の範囲内(通常は週28時間以内)で働くことができます。

資格外活動許可を得ている場合、在留カードの裏面に「許可:原則週28時間以内・風俗営業等の従事を除く」などと記載されます。

【5. 定期的な確認】
採用時だけでなく、雇用期間中も定期的に在留資格の状況を確認することが重要です。在留期間の更新を忘れている従業員もいるため、有効期限の3ヶ月前には確認することをお勧めします。

■ 今回の事件から学ぶべきポイント

今回の兵庫県の事件から、私たちが学ぶべき重要なポイントをまとめます:

【ポイント1:「知らなかった」は通用しない】
雇用主には在留資格の確認義務があります。従業員が「大丈夫です」と言っても、それだけで確認を怠ることは許されません。

【ポイント2:共謀者も処罰される】
今回の事件では、逮捕された男性以外に、20代と40代の共謀者の存在も報じられています。直接の雇用主だけでなく、紹介者や仲介者も処罰の対象になりえます。

【ポイント3:建設業は特に注意が必要】
建設業界では、元請け・下請け・孫請けといった重層構造があり、どの段階で外国人労働者が入ってくるかが見えにくい場合があります。しかし、実際に作業をさせている事業者は、確認義務を免れません。

【ポイント4:逮捕された外国人も被害者とは限らない】
今回、不法残留で起訴されたベトナム人2名も、法的には犯罪者です。しかし、多くの場合、彼らも情報不足や経済的困窮から、そのような状況に陥っています。

【ポイント5:早期発見・早期対応が重要】
もし雇用中の外国人の在留資格に問題があることが発覚したら、すぐに専門家に相談し、適切な対応を取ることが重要です。発覚を恐れて放置すると、事態はさらに悪化します。

■ 企業が取るべき予防策

外国人雇用のリスクを最小限に抑えるため、企業が取るべき具体的な予防策をご紹介します:

【1. 採用前の徹底確認】
・在留カードの原本確認(コピーだけでは不十分)
・出入国在留管理庁のシステムでの照会
・必要に応じて専門家(行政書士など)によるチェック

【2. 社内体制の整備】
・外国人雇用管理責任者の設置
・在留期限管理台帳の作成
・有効期限の3ヶ月前アラートシステムの導入

【3. 従業員教育】
・在留資格制度についての基礎知識研修
・在留期間更新の重要性の周知
・相談しやすい環境づくり

【4. 専門家との連携】
・顧問行政書士との契約
・定期的な在留資格監査の実施
・問題発生時の迅速な相談体制

【5. ハローワークへの届出】
外国人を雇用した場合、ハローワークへの届出が義務付けられています(雇用対策法)。これも忘れずに行いましょう。

■ 在留資格更新のサポート:雇用主ができること

外国人従業員の在留資格を適正に維持するために、雇用主としてできることがあります:

【1. 更新時期の把握とリマインド】
在留期間の満了日の3ヶ月前から更新申請が可能です。従業員に早めに声をかけましょう。

【2. 必要書類の準備サポート】
更新申請には、雇用主が発行する書類も必要です:
・在職証明書
・給与明細や源泉徴収票
・会社の登記事項証明書
・決算書類など

これらをスムーズに準備できる体制を整えておきましょう。

【3. 申請費用の支援】
在留資格の更新には6,000円の手数料がかかります。また、行政書士に依頼する場合は別途報酬が必要です。企業によっては、これらの費用を全額または一部負担することで、確実な更新を促しています。

【4. 申請同行や代理申請】
従業員が一人で入管に行くのが不安な場合、人事担当者が同行したり、行政書士に代理申請を依頼したりすることも有効です。

■ もし不法就労が発覚したら?

万が一、雇用中の外国人が不法就労状態にあることが発覚した場合、どのように対応すべきでしょうか?

【1. すぐに就労を停止する】
発覚した時点で、直ちに就労を停止させることが重要です。「今月いっぱいまで」などと継続させると、不法就労助長罪の故意が認められやすくなります。

【2. 専門家に相談する】
行政書士や弁護士に速やかに相談し、法的アドバイスを受けましょう。状況によっては、在留資格の変更や更新の可能性もあります。

【3. 出入国在留管理局に相談する】
自主的に入管に相談することで、悪質性が低いと判断される可能性があります。

【4. 従業員への適切な対応】
不法就労状態にある従業員も、それまでは誠実に働いていた可能性があります。法的手続きを進めながらも、人道的な配慮を忘れないことが大切です。

【5. 再発防止策の実施】
同じ問題が起きないよう、チェック体制を見直し、再発防止策を徹底しましょう。

■ 在日外国人の皆さんへ:自分の在留資格を守るために

この記事を読んでいる在日外国人の方々へ、あなた自身の在留資格を守るために知っておいてほしいことがあります:

【1. 在留期間は絶対に守る】
在留期間が切れる前に、必ず更新申請をしてください。更新を忘れると、オーバーステイ(不法残留)となり、最悪の場合、強制送還されます。

【2. 就労制限を理解する】
あなたの在留資格で、どんな仕事ができるのか、できないのかを正しく理解してください。わからない場合は、入管や行政書士に相談しましょう。

【3. 会社から在留カードのコピーを求められたら応じる】
これは会社の確認義務です。協力してください。

【4. 転職する場合は要注意】
在留資格の種類によっては、転職先の業務内容が在留資格と合致しているか確認が必要です。不安な場合は、専門家に相談してから転職しましょう。

【5. 困ったら相談する】
在留資格に関する悩みや不安があれば、一人で抱え込まず、早めに専門家に相談してください。多くの行政書士事務所では、多言語での相談に対応しています。

■ まとめ:適正な外国人雇用で、企業も従業員も守る

今回の兵庫県での不法就労助長事件は、外国人雇用に関する知識不足や確認不足が、どれほど深刻な結果を招くかを示しています。

外国人労働者は、日本の経済を支える重要な存在です。少子高齢化が進む日本において、外国人材の活用は今後ますます重要になるでしょう。

しかし、それは適正な手続きと管理のもとで行われてこそ、企業にとっても外国人従業員にとっても、win-winの関係を築くことができます。

「この人を雇っても大丈夫?」
「在留カードの見方がわからない」
「更新のサポートをどうすればいい?」
「今いる従業員の在留資格が心配」

そんな不安や疑問をお持ちの経営者、人事担当者の方、そして在日外国人の皆さん、どうぞお気軽に専門家にご相談ください。

ビザ申請・在留資格申請を専門とする行政書士は、皆さまの「適正な外国人雇用」と「安心して働ける環境づくり」をサポートします。

正しい知識と適切な手続きで、法的リスクを回避し、外国人材が安心して能力を発揮できる職場を作りましょう。それが、企業の成長と、多文化共生社会の実現につながるのです。

参考記事: https://news.yahoo.co.jp/articles/920c0b3158419fa1a5c1c18299e64fc471a9be5f