はじめに:急増する医療・福祉分野の外国人労働者
2025年10月末時点で、日本の医療・福祉分野で働く外国人労働者数が14万6,105人に達しました。これは前年同期と比べて25.6%という大幅な増加です。厚生労働省が2026年1月30日に公表したこのデータは、日本の医療・介護現場が外国人材なしには成り立たなくなっている現実を如実に示しています。
本記事では、行政書士の視点から、この統計データが企業と在日外国人の双方にとって何を意味するのか、そして在留資格管理の重要性について詳しく解説します。
1. 統計データから見える医療・福祉分野の外国人雇用の実態
1-1. 在留資格別の内訳
厚生労働省のデータによると、医療・福祉分野で働く外国人労働者の在留資格別内訳は以下の通りです:
- 「専門的・技術的分野」: 6万9,100人(最多)
- うち「特定技能」: 5万5,733人(80.7%)
- 「身分に基づくもの」: 3万1,471人(永住者、日本人の配偶者等)
- 「技能実習」: 2万1,138人
- 「特定活動」: 1万4,057人
特に注目すべきは、「特定技能」での就労者が専門的・技術的分野の8割を占めている点です。2019年4月に創設された「特定技能」制度が、わずか6年で介護・医療現場の主要な人材供給源になっていることがわかります。
1-2. 地域別の分布状況
都道府県別では以下のような分布になっています:
- 東京都: 1万8,010人
- 大阪府: 1万5,158人
- 愛知県: 1万1,056人
- 神奈川県: 1万147人
大都市圏に集中している傾向が見られますが、これは医療・介護施設の集積度と人口密度に比例していると考えられます。
1-3. 雇用事業所数の増加
外国人を雇用している医療・福祉分野の事業所数は全国で2万6,076カ所に達し、前年同期から7.6%増加しました。これは、大規模病院や介護施設だけでなく、中小規模の事業所でも外国人材の受け入れが進んでいることを示しています。
2. なぜ医療・福祉分野で外国人労働者が急増しているのか
2-1. 深刻な人手不足
日本の医療・介護業界は、少子高齢化による労働力人口の減少と、高齢者の増加による需要拡大という「ダブルパンチ」に直面しています。厚生労働省の推計では、2025年度には介護職員が約32万人不足するとされており、外国人材の受け入れは「選択肢」ではなく「必須」となっています。
2-2. 特定技能制度の定着
2019年に創設された「特定技能」制度は、以下の点で従来の制度と大きく異なります:
- 目的: 人材確保が特に困難な分野への就労が目的(技能実習は技能移転が目的)
- 転職の自由: 同じ分野内であれば転職が可能
- 在留期間: 1号は通算5年、2号は更新可能で事実上の永住への道も
- 家族帯同: 2号では配偶者と子の帯同が可能
これらの特徴が、外国人労働者にとって魅力的なキャリアパスとなり、急速な普及につながっています。
2-3. 受け入れ環境の整備
政府は特定技能制度の創設に合わせて、受け入れ環境の整備も進めてきました:
- 多言語での生活相談窓口の設置
- 日本語教育機関の拡充
- 送り出し国との二国間協定の締結
これらの取り組みが、外国人材が日本で働きやすい環境を作り出しています。
3. 企業が知っておくべき外国人雇用の法的義務
3-1. 在留資格の確認義務
外国人を雇用する企業には、まず「その人が日本で働く資格があるか」を確認する義務があります。具体的には:
- 在留カードの確認: 有効期限、在留資格の種類、就労制限の有無
- パスポートの確認: 資格外活動許可の有無
- 在留カードの真偽確認: 出入国在留管理庁のウェブサイトで確認可能
不法就労させた場合、企業には「不法就労助長罪」が適用され、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性があります。
3-2. 特定技能外国人を雇用する場合の支援義務
特定技能外国人を直接雇用する企業(受け入れ機関)には、以下の支援を実施する義務があります:
(1) 事前ガイダンスの実施
雇用契約締結後、在留資格認定証明書交付申請前または在留資格変更許可申請前に、対面またはテレビ電話等で以下の情報を提供:
- 労働条件
- 日本での生活に関する事項
- 相談・苦情の申し出先
(2) 出入国する際の送迎
入国時と帰国時の空港等への送迎(やむを得ない場合は出迎えなど)
(3) 住居確保・生活に必要な契約支援
- 賃貸住宅の契約
- 銀行口座の開設
- 携帯電話の契約
- ライフラインの契約
(4) 生活オリエンテーション
日本でのルールやマナー、公共機関の利用方法、災害時の対応などを説明
(5) 日本語学習の機会の提供
日本語教室や日本語教材の情報提供
(6) 相談・苦情への対応
外国人が十分に理解できる言語での相談対応体制の整備
(7) 日本人との交流促進
地域住民との交流の場や、地域のお祭りなどの行事に関する情報提供
(8) 転職支援(人員整理等の場合)
受け入れ側の都合で雇用契約を解除する場合の転職先探しの支援
(9) 定期的な面談・行政機関への通報
3カ月に1回以上の面談を実施し、労働基準法違反等があれば通報
3-3. 出入国在留管理庁への届出義務
受け入れ機関は、以下の事項について出入国在留管理庁に届け出る義務があります:
- 四半期ごとの定期届出: 支援実施状況、受け入れ状況
- 随時の届出: 特定技能外国人の受け入れ困難時、支援計画の変更時など
これらを怠ると、受け入れ機関としての適格性が問われ、新規受け入れの停止処分を受ける可能性があります。
3-4. 登録支援機関の活用
上記の支援義務は企業にとって大きな負担となるため、「登録支援機関」に委託することが可能です。登録支援機関は、出入国在留管理庁に登録された、支援業務を代行する専門機関です。
委託する場合でも、企業は以下の責任を負います:
- 適切な登録支援機関の選定
- 支援実施状況の監督
- 委託費用の負担
4. 在日外国人が知っておくべき在留資格管理のポイント
4-1. 在留資格は「何ができるか」を定めるライセンス
在留資格は、日本に滞在するための「許可証」であると同時に、「何ができるか」を定める「ライセンス」です。例えば:
- 「特定技能(介護)」: 介護分野の業務のみ従事可能
- 「技能実習」: 実習計画に定められた業務のみ従事可能
- 「永住者」: 就労制限なし
- 「留学」: 原則就労不可(資格外活動許可で週28時間まで可能)
在留資格と異なる活動を行うと「資格外活動」となり、在留資格の取り消しや更新不許可の対象となります。
4-2. 在留期限の管理
在留期限を1日でも過ぎると「不法残留」となり、退去強制の対象となります。在留期限の管理で注意すべき点:
- 更新申請のタイミング: 在留期限の3カ月前から申請可能
- 審査期間: 通常2週間〜1カ月(繁忙期はそれ以上)
- 在留期限が切れる前に申請: 在留期限までに申請すれば、審査中は「特例期間」として適法に滞在可能
4-3. 転職時の手続き
特定技能外国人が転職する場合、以下の手続きが必要です:
(1) 同じ分野内での転職の場合
- 新しい雇用契約の締結
- 「就労先の変更届」の提出(14日以内)
- 新しい受け入れ機関での支援計画の作成
(2) 異なる分野への転職の場合
- 在留資格変更許可申請が必要
- 新しい分野の特定技能試験に合格していることが条件
4-4. 技能実習から特定技能への移行
技能実習を修了した外国人は、以下の要件を満たせば特定技能1号への移行が可能です:
- 技能実習2号を良好に修了していること
- 移行先の分野が技能実習の職種と関連していること
- 特定技能の日本語試験と技能試験に合格(または技能実習での技能検定合格で免除)
移行することで、以下のメリットがあります:
- 同じ分野内での転職が可能になる
- 通算5年間の就労が可能(技能実習と合わせて最長8年)
- 特定技能2号へ移行できれば、事実上の永住への道も
4-5. 「介護」の在留資格へのステップアップ
特定技能(介護)で働いている外国人が、介護福祉士の国家資格を取得すれば、「介護」の在留資格に変更できます。「介護」の在留資格のメリット:
- 在留期間: 5年ごとの更新で、事実上無期限
- 家族帯同: 配偶者と子を日本に呼ぶことが可能
- 転職の自由度: 介護分野内で自由に転職可能
- 永住権取得: 10年の在留(うち5年以上就労)で永住権申請が可能
5. 在留資格申請でよくあるトラブルと対処法
5-1. 更新申請が不許可になるケース
在留資格の更新申請が不許可になる主な理由:
(1) 納税義務の不履行
- 住民税、所得税、社会保険料の未納や滞納
- 対処法: 分納計画を立てて納税証明書を取得してから申請
(2) 資格外活動
- 許可された範囲を超えた就労(留学生のアルバイト超過など)
- 対処法: 資格外活動許可の範囲を確認し、超過しないよう管理
(3) 犯罪歴
- 刑事事件での有罪判決、交通違反の累積
- 対処法: 軽微な違反でも正直に申告し、反省の態度を示す
(4) 活動実態の不一致
- 在留資格の趣旨と実際の活動内容が異なる
- 対処法: 在留資格に合った活動を行う、または在留資格変更を検討
5-2. 在留資格認定証明書交付申請が不許可になるケース
海外から外国人を呼び寄せる際の在留資格認定証明書交付申請が不許可になる理由:
(1) 受け入れ機関の要件不備
- 特定技能の場合、支援体制が不十分
- 企業の経営状況が不安定
- 対処法: 登録支援機関への委託、財務書類の整備
(2) 外国人本人の要件不備
- 学歴・職歴が在留資格の要件を満たさない
- 日本語能力や技能試験の合格証明がない
- 対処法: 要件を再確認し、必要な資格を取得してから申請
(3) 書類の不備・不足
- 必要書類の欠落、記載内容の矛盾
- 対処法: 行政書士などの専門家に書類作成を依頼
5-3. 在留資格取消しのリスク
在留資格が取り消されると、日本から退去しなければなりません。取消しの対象となる主な事由:
- 虚偽の申請で在留資格を取得
- 在留資格に応じた活動を正当な理由なく3カ月以上行っていない
- 刑事事件で有罪判決を受けた
- 資格外活動を行った
対処法:
- 申請書類は正確に、嘘のない内容で作成
- 転職や活動内容の変更があれば、速やかに届出または変更申請
- 法令遵守を徹底
6. 企業が外国人材を活用するための実践的アドバイス
6-1. 受け入れ前の準備
外国人材を受け入れる前に、以下の準備を整えておくことが重要です:
(1) 社内体制の整備
- 外国人材受け入れの方針策定
- 担当部署・担当者の明確化
- 既存社員への説明と理解促進
(2) 住居の確保
- 社宅の提供または賃貸住宅の手配
- 家具・家電の準備
- 地域との関係構築
(3) 支援体制の構築
- 登録支援機関との契約(委託する場合)
- 通訳・翻訳体制の整備
- 相談窓口の設置
6-2. 受け入れ後のフォロー
外国人材が職場に定着するためには、継続的なフォローが不可欠です:
(1) 定期的な面談
- 3カ月に1回以上の面談(法定義務)
- 仕事や生活面での困りごとのヒアリング
- キャリアプランの確認
(2) 日本語教育の支援
- 日本語学習の機会提供
- 業務で使う専門用語の教育
- 資格取得支援(介護福祉士など)
(3) 文化的配慮
- 宗教上の配慮(礼拝の時間、食事制限など)
- 文化の違いへの理解
- 多文化共生の職場づくり
6-3. トラブル予防のポイント
外国人雇用でのトラブルを防ぐためのポイント:
(1) 労働条件の明示
- 雇用契約書は外国人が理解できる言語で作成
- 給与、労働時間、休日を明確に
- 不明点があれば必ず説明
(2) コミュニケーションの確保
- 定期的な意思疎通の機会を設ける
- 「分かった」と言っても本当に理解しているか確認
- 通訳の活用
(3) 法令遵守の徹底
- 労働基準法、最低賃金法の遵守
- 社会保険への加入
- 在留資格の管理
7. 行政書士ができるサポート
7-1. 企業向けサポート
(1) 在留資格認定証明書交付申請
海外から外国人材を呼び寄せる際の申請手続き代行
(2) 受け入れ体制構築コンサルティング
- 特定技能外国人の受け入れに必要な体制整備のアドバイス
- 支援計画の作成支援
- 登録支援機関の紹介
(3) 定期届出の代行
出入国在留管理庁への四半期ごとの定期届出を代行
(4) 外国人雇用管理の顧問契約
継続的な相談対応、法改正情報の提供、各種手続きのサポート
7-2. 個人向けサポート
(1) 在留資格の更新・変更申請
- 更新申請(在留期限の延長)
- 変更申請(転職や結婚などで在留資格を変更)
- 在留資格取得申請(日本で生まれた子ども等)
(2) 永住許可申請
10年以上の在留実績がある方の永住権取得をサポート
(3) 資格外活動許可申請
留学生のアルバイトなど、本来の在留資格以外の活動を行う許可の取得
(4) 帰化申請
日本国籍の取得を希望する方の帰化申請サポート
8-3. 行政書士に依頼するメリット
(1) 許可率の向上
専門知識に基づいた適切な書類作成により、不許可リスクを最小化
(2) 時間と労力の節約
複雑な手続きを代行することで、本業に専念できる
(3) 最新情報の提供
頻繁に変わる入管法令の最新情報を提供
(4) トラブル対応
不許可になった場合の再申請、在留資格取消しの通知への対応など
8. これからの医療・福祉分野と外国人材
8-1. さらなる増加が見込まれる外国人労働者
今回のデータで明らかになった14.6万人という数字は、今後さらに増加することが確実です。その理由:
- 高齢化のさらなる進行
- 日本人の介護職志望者の減少
- 特定技能2号の対象分野拡大(介護分野への拡大も検討中)
- 送り出し国の拡大と人材供給の増加
8-2. 制度改正の動向
政府は外国人材の受け入れ拡大に向けて、制度改正を継続的に行っています:
- 特定技能2号の拡大: 2023年6月に対象分野が拡大され、今後介護分野も対象となる可能性
- 育成就労制度の創設: 技能実習制度に代わる新たな制度が2027年にも導入予定
- 永住許可要件の見直し: より取得しやすい方向への改正が検討中
これらの動向を常にウォッチし、自社の人材戦略に反映させることが重要です。
8-3. 多文化共生社会の実現に向けて
外国人材の増加は、単なる労働力の補充ではなく、日本社会の多様性を高める契機でもあります。企業も地域も、以下の視点が求められています:
- ダイバーシティの推進: 国籍や文化の違いを尊重する組織文化
- インクルージョンの実現: 外国人材が疎外感を感じない職場環境
- 地域との連携: 外国人材が地域社会の一員として暮らせる環境づくり
まとめ:適切な在留資格管理が成功の鍵
医療・福祉分野における外国人労働者の急増は、日本の人口構造が抱える構造的課題の現れです。この流れは今後も加速することが確実であり、企業にとっても外国人材にとっても、適切な在留資格管理がますます重要になります。
企業の皆様へ:
外国人材の受け入れは、単なる労働力の確保ではなく、組織の多様性を高め、グローバルな視点を取り入れる機会です。適切な受け入れ体制を整え、法令を遵守することで、優秀な人材の確保と定着が可能になります。
在日外国人の皆様へ:
日本で働き、生活することは大きなチャレンジですが、同時に大きなチャンスでもあります。在留資格の適切な管理、日本語能力の向上、資格取得によるキャリアアップにより、日本での長期的なキャリア形成が可能です。
私たち行政書士は、外国人材の受け入れから在留資格の管理、キャリアアップまで、企業と外国人の双方をサポートする専門家です。在留資格に関することでお困りの際は、どうぞお気軽にご相談ください。
元記事: https://news.yahoo.co.jp/articles/2562ba2b4d81f8dddbcced37831e0e339c89ea3f
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