2026年3月、千葉県で発生した在留資格取得を目的とした偽装結婚事件が報道されました。スリランカ国籍の方が、留学目的で来日後に不法滞在状態となり、長期在留資格を得るために実際には同居していない日本人と虚偽の婚姻届を提出したとして逮捕されたという事件です。

このニュースは、外国人を雇用する企業や、在日外国人の方々にとって、決して他人事ではありません。在留資格制度の複雑さ、手続きの難しさ、そして不正行為のリスクについて、改めて考える機会となります。

本記事では、この事件を通じて、企業が知っておくべき在留資格管理の重要性、法的リスク、そして実践的な対策について詳しく解説します。

偽装結婚事件の概要と背景

事件の詳細

報道によると、容疑者は2017年に留学目的で来日し、2021年末から不法滞在状態となっていました。そして2025年、仲間と共謀して知人である日本人女性と結婚したとする虚偽の婚姻届を千葉県袖ケ浦市役所に提出し、長期在留資格を得ようとしたとされています。

重要なのは、二人は知り合いではあったものの、実際には同居しておらず、実体のない結婚だったという点です。

なぜ偽装結婚が起きるのか

在留資格は外国人が日本で合法的に滞在し、生活し、働くための基盤です。しかし、正規の手続きには専門知識が必要で、書類準備も複雑、審査にも時間がかかります。

特に留学生から就労可能な在留資格への変更は、適切な就職先の確保や要件を満たす必要があり、スムーズに進まないケースも少なくありません。在留期限が迫る中で焦りが生まれ、不正な方法に頼ってしまうという悲劇が起きるのです。

また、仲介者が存在し、金銭を受け取って偽装結婚を斡旋するケースもあります。こうした犯罪ネットワークが、弱い立場にある外国人を食い物にしているという現実もあります。

在留資格制度の基礎知識

在留資格とは

在留資格とは、外国人が日本に在留するための法的な資格です。現在、30種類以上の在留資格があり、それぞれ目的、活動内容、在留期間が定められています。

主な在留資格には以下のようなものがあります:

就労可能な在留資格

  • 技術・人文知識・国際業務:エンジニア、通訳、営業など
  • 技能:調理師、建築技術者など
  • 特定技能:介護、建設、農業など14分野
  • 高度専門職:ポイント制による高度人材

身分・地位に基づく在留資格

  • 永住者
  • 日本人の配偶者等
  • 永住者の配偶者等
  • 定住者

その他の在留資格

  • 留学
  • 家族滞在
  • 特定活動

在留資格と就労制限

在留資格によって、就労の可否や就労可能な業務内容が大きく異なります。

例えば「留学」の在留資格では、原則として就労は認められていません。ただし、資格外活動許可を得ることで、週28時間まで(夏休みなどの長期休暇中は1日8時間まで)アルバイトが可能になります。

一方、「技術・人文知識・国際業務」では、学歴や職歴に基づいた専門的な業務に従事することができますが、単純労働は認められていません。

「日本人の配偶者等」や「永住者」といった身分に基づく在留資格では、就労制限がなく、どのような業務にも従事できます。今回の偽装結婚事件で狙われたのは、まさにこの「就労制限のない在留資格」だったと考えられます。

在留期間と更新手続き

在留資格には在留期間が定められており、期間満了前に更新手続きをしなければなりません。更新を怠ると、在留資格を失い、不法滞在状態となります。

在留期間は在留資格の種類によって異なり、3ヶ月、6ヶ月、1年、3年、5年などがあります。更新申請は、在留期間満了日の3ヶ月前から受け付けられます。

今回の事件の容疑者は、2021年末から不法滞在状態だったとされています。留学の在留期間が終了した後、適切な更新や資格変更の手続きを取らなかったか、あるいは申請が不許可となったことで、不法滞在に至ったと推測されます。

企業が直面する法的リスク

不法就労助長罪

外国人雇用において企業が最も注意すべきなのが、「不法就労助長罪」です。

出入国管理及び難民認定法(入管法)第73条の2では、以下の行為を処罰対象としています:

  1. 不法就労活動をさせた者
  2. 不法就労活動をさせるために外国人を自己の支配下に置いた者
  3. 業として、不法就労活動をあっせんした者

違反した場合、3年以下の懲役または300万円以下の罰金、またはその両方が科される可能性があります。

重要なのは、「知らなかった」という弁解が通用しないという点です。企業には在留資格を確認する義務があり、確認を怠った場合も処罰の対象となり得ます。

不法就労とは

以下のような場合が不法就労に該当します:

  1. 不法滞在者を就労させる
    在留期限が切れている、在留資格を持っていないなど
  2. 資格外活動をさせる
    留学生を週28時間を超えて働かせる、技術・人文知識・国際業務の在留資格で単純労働をさせるなど
  3. 活動制限違反
    特定の企業でのみ働くことが許可されている在留資格で、無断で他社で働くなど

企業が負う責任

外国人を雇用する企業には、以下の責任があります:

雇用前の確認義務

  • 在留カードの確認
  • 在留資格の種類と就労制限の確認
  • 在留期限の確認
  • 旅券(パスポート)の確認

雇用中の管理義務

  • 在留期限の継続的な管理
  • 在留資格更新の確認
  • 業務内容と在留資格の適合性確認

届出義務

  • 外国人雇用状況の届出(ハローワークへ)
  • 所属機関による届出(入管庁へ)

これらを怠った場合、不法就労助長罪だけでなく、雇用対策法違反による罰則の対象となることもあります。

留学生から不法滞在に至るケース

留学生の就職活動と在留資格変更

今回の事件の容疑者は、留学目的で来日後、不法滞在状態になったとされています。このようなケースは決して珍しくありません。

留学生が日本で就職する場合、在留資格を「留学」から就労可能な在留資格(多くの場合「技術・人文知識・国際業務」)へ変更する必要があります。

この変更申請には以下の要件があります:

  • 大学等で学んだ専攻内容と業務内容の関連性
  • 日本人と同等額以上の報酬
  • 雇用企業の安定性・継続性
  • 申請者の素行が善良であること

これらの要件を満たさない場合、変更申請は不許可となります。

変更申請が不許可になる主な理由

  1. 専攻と業務の不一致
    文学部卒業なのに工場での単純作業、経済学部卒業なのに飲食店での接客業務など
  2. 報酬額が不十分
    同様の業務に従事する日本人より明らかに低い給与
  3. 企業の経営状態
    赤字続きで継続性に疑問がある、実態のない企業など
  4. 素行不良
    資格外活動違反(アルバイトのやりすぎ)、犯罪歴、税金や年金の未納など

不許可後の選択肢と落とし穴

在留資格変更申請が不許可になった場合、通常は短期間の「出国準備期間」が与えられ、速やかに帰国することが求められます。

しかし、日本での生活基盤ができてしまっている留学生にとって、帰国は簡単な選択ではありません。奨学金の返済義務、家族への仕送り、母国での就職難など、様々な事情が絡みます。

こうした状況で、「簡単に在留資格が取れる方法がある」という甘い言葉に誘われ、偽装結婚などの不正行為に手を染めてしまうケースが生まれるのです。

偽装結婚の法的問題と処罰

偽装結婚で問われる罪

偽装結婚には複数の法的問題があります:

1. 公正証書原本不実記載罪(刑法第157条)
虚偽の婚姻届を提出することは、公正証書である戸籍に虚偽の記載をさせる行為であり、5年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。

2. 入管法違反
偽装結婚によって在留資格を取得しようとする行為は、在留資格等不正取得罪に該当し、3年以下の懲役または禁錮、もしくは300万円以下の罰金、またはその併科となります。

3. 不法滞在
すでに不法滞在状態にある場合、入管法違反として退去強制の対象となります。

日本人配偶者も処罰される

偽装結婚では、外国人だけでなく、日本人配偶者も同様に処罰されます。今回の事件でも、日本人女性が共犯として逮捕されています。

金銭を受け取って偽装結婚に協力した場合、より重い処罰が科される可能性があります。

その後の影響

偽装結婚で摘発された場合、以下のような深刻な影響があります:

  • 強制退去処分
  • 再入国の制限(5年~10年、または永久)
  • 刑事罰による前科
  • 本国での就職や信用への影響
  • 将来の正規の結婚や在留資格取得への悪影響

目先の在留資格のために不正行為に手を染めることは、人生全体に取り返しのつかない影響を及ぼします。

企業が実践すべき在留資格管理

雇用前の確認ステップ

外国人を雇用する際には、以下のステップで徹底的な確認を行いましょう:

ステップ1:在留カードの確認

  • 表面:氏名、生年月日、性別、国籍・地域、在留資格、在留期間、就労制限の有無
  • 裏面:資格外活動許可の有無、所属機関の情報

ステップ2:在留カードの真偽確認
偽造在留カードも存在します。出入国在留管理庁の「在留カード等番号失効情報照会」サイトや専用アプリで真偽を確認できます。

ステップ3:就労制限の確認
在留カードの「就労制限の有無」欄を確認します。

  • 「就労不可」:原則就労できない(資格外活動許可があれば一定範囲で可能)
  • 「就労制限あり」:在留資格で認められた範囲内でのみ就労可能
  • 何も書いていない:就労制限なし

ステップ4:業務内容との適合性確認
予定している業務内容が、その在留資格で認められているかを確認します。判断が難しい場合は、専門家に相談しましょう。

ステップ5:旅券(パスポート)の確認
在留カードと旅券の記載内容が一致しているか確認します。

雇用中の継続的管理

雇用後も、継続的な管理が必要です:

1. 在留期限管理システムの構築

  • 全従業員の在留期限を一元管理
  • 期限の3ヶ月前に自動アラート
  • 人事システムとの連携

2. 定期的な在留カード確認

  • 年に1~2回、全従業員の在留カードを再確認
  • 更新後の新しい在留カードのコピー取得

3. 業務内容の定期チェック

  • 配置転換や業務変更時の在留資格適合性確認
  • 在留資格で認められない業務をさせていないかチェック

4. 相談窓口の設置

  • 従業員が在留資格について気軽に相談できる体制
  • 更新手続きのサポート体制
  • 専門家との連携

届出義務の履行

外国人雇用状況の届出
雇用保険の被保険者となる外国人については、ハローワークへの届出が義務付けられています(雇用対策法)。雇用時と離職時に届け出が必要です。

所属機関による届出
就労資格を持つ外国人を雇用する企業は、入管庁への届出が必要です:

  • 雇用の開始・終了
  • 契約の変更
  • 所属機関の名称・所在地変更

これらの届出を怠ると、罰則の対象となることがあります。

在留資格更新のサポート

企業ができるサポート

外国人従業員の在留資格更新を企業がサポートすることは、従業員の安心感を高め、定着率向上につながります。

1. 早めの声かけ
在留期限の3~4ヶ月前に、更新手続きについて声をかけましょう。

2. 必要書類の準備サポート

  • 在職証明書の発行
  • 給与支払証明書の発行
  • 会社の登記事項証明書のコピー提供
  • 決算書類のコピー提供

3. 更新申請書類の確認
申請書類に不備がないか、提出前に確認してあげることも有効です。

4. 専門家の紹介
複雑なケースや不安がある場合は、行政書士などの専門家を紹介しましょう。

更新が不許可になるリスク要因

以下のような要因があると、更新が不許可になるリスクが高まります:

  • 収入が低すぎる、または不安定
  • 税金や年金の未納
  • 犯罪歴や交通違反
  • 在留資格に適合しない活動
  • 頻繁な転職
  • 企業の経営状態悪化

これらのリスク要因を事前に把握し、可能な限り改善しておくことが重要です。

正規ルートでの在留資格取得支援

適切な在留資格への変更

留学生を採用する場合、適切な在留資格への変更をサポートしましょう。

技術・人文知識・国際業務への変更
最も一般的なルートです。大学や専門学校で学んだ内容と関連する業務に従事させることが条件です。

特定技能への変更
介護、建設、農業など14分野では、「特定技能」という在留資格があります。技能試験と日本語試験に合格すれば取得可能です。

特定活動(本邦大学卒業者)への変更
就職活動を継続するための在留資格です。卒業後も就職活動を続ける留学生に有効です。

変更申請のポイント

在留資格変更申請を成功させるためのポイント:

1. 専攻と業務の関連性を明確に
申請書や理由書で、大学での専攻内容と担当業務がどう関連しているかを具体的に説明します。

2. 適切な給与設定
新卒でも月額20万円以上が一つの目安です。日本人の初任給と同等以上に設定しましょう。

3. 企業の安定性をアピール
決算書、登記事項証明書、会社案内などで、企業の安定性と継続性を示します。

4. 本人の素行をクリアに
資格外活動違反がないか、税金や年金の納付状況は問題ないか、事前に確認します。

不許可の場合の対応

万が一不許可になった場合でも、諦める必要はありません。

再申請
不許可の理由を踏まえて、問題点を改善した上で再申請が可能です。

審査請求
不許可処分に不服がある場合、審査請求という手続きもあります。

別の在留資格を検討
当初予定していた在留資格が難しい場合、別の在留資格での滞在を検討します。

いずれの場合も、専門家のアドバイスを受けることを強くお勧めします。

専門家の活用

行政書士の役割

在留資格申請は、行政書士が専門とする分野です。特に「申請取次行政書士」は、入管への申請を本人に代わって行うことができます。

行政書士ができること

  • 在留資格の適合性診断
  • 申請書類の作成
  • 必要書類のアドバイス
  • 理由書の作成
  • 入管への申請代行
  • 不許可時の対応策提案

専門家に依頼するメリット

  • 許可率の向上
  • 時間と労力の節約
  • 最新の法令・運用への対応
  • 複雑なケースへの対応
  • 不許可リスクの事前回避

いつ専門家に相談すべきか

以下のような場合は、早めに専門家に相談することをお勧めします:

  • 初めて外国人を雇用する
  • 在留資格と業務内容の適合性に不安がある
  • 過去に不許可になったことがある
  • 複雑な経歴(転職歴が多い、空白期間があるなど)
  • 企業の経営状態に不安要素がある
  • 在留期限が迫っている

「困ってから相談」ではなく、「困らないための相談」が理想です。

まとめ:適正な雇用が企業と従業員を守る

今回の偽装結婚事件は、在留資格制度の複雑さと、適切な手続きを踏まないことのリスクを改めて浮き彫りにしました。

外国人材は、日本の労働市場においてますます重要な存在となっています。少子高齢化が進む中、外国人材なしには成り立たない業界も多数あります。

だからこそ、企業には適正な雇用管理が求められます。それは法令遵守という義務であると同時に、優秀な外国人材を惹きつけ、長く活躍してもらうための基盤でもあります。

企業が今日からできること

✓ 全外国人従業員の在留カードを再確認する
✓ 在留期限管理の仕組みを作る
✓ 従業員が相談しやすい環境を整える
✓ 必要に応じて専門家と連携する
✓ 社内の在留資格に関する理解を深める

適正な雇用管理は、コストではなく投資です。外国人従業員が安心して働ける環境を整えることで、企業の生産性向上、離職率低下、ブランドイメージ向上につながります。

在日外国人の方へ

在留資格でお困りのことがあれば、決して不正な方法に頼らず、まず専門家にご相談ください。正規のルートで解決できる方法が必ずあります。

一時的な困難のために不正行為に手を染めることは、あなたの将来を閉ざすことになります。適切なサポートを受けて、正しい手続きを踏むことが、日本での長期的な成功につながります。

私たち専門家は、外国人の方々が安心して日本で生活し、働けるよう、そして企業が適正に外国人材を活用できるよう、サポートしています。

どんな小さな疑問でも構いません。お気軽にご相談ください。

【元記事URL】
https://news.yahoo.co.jp/articles/443fbaeebe7d7689d1c628379e1bead39ad324a2