はじめに:増加する上陸拒否の背景とは
2026年3月27日、出入国在留管理庁が公表した統計によると、2025年に日本への上陸を拒否された外国人は8,546人に達し、前年比8.5%の増加となりました。この数字は、新型コロナウイルス感染拡大防止のための水際対策が段階的に緩和され、入国者数が回復基調にあることと密接に関連しています。
統計を時系列で見ると、被上陸拒否者数は以下のように推移しています。
- 2021年:156人
- 2022年:1,592人
- 2023年:6,133人
- 2024年:7,879人
- 2025年:8,546人
コロナ禍以降、明らかに増加傾向にあることが分かります。本記事では、行政書士としての視点から、この統計が示す意味と、外国人材を雇用する企業および在日外国人が知っておくべき入国審査・在留資格申請のポイントを詳しく解説します。
1. 上陸拒否の理由別内訳 ─ 84.8%が「入国目的に疑義」
「観光」を装った不法就労目的が最多
2025年の上陸拒否理由を詳しく見ると、最も多いのが「入国目的に疑義のある事案」で、全体の84.8%(7,246人)を占めています。
具体的には、以下のようなケースが該当します。
- 実際には日本で働く目的であるにもかかわらず、「観光」「知人訪問」などと虚偽申告
- 短期滞在ビザで入国後、不法に就労活動を開始する意図が疑われる
- 入国時の所持金、滞在予定、帰国便の予約状況などに不自然な点がある
入国審査官は、入国カードの記載内容、所持金、滞在先、帰国便の有無、SNSの投稿内容など、多角的に入国目的の真実性を審査します。わずかな矛盾でも、詳しい事情聴取の対象となり、最終的に上陸拒否に至るケースが増えています。
その他の拒否理由
「入国目的に疑義」以外の主な拒否理由は以下の通りです。
- 上陸拒否事由該当事案(5.9%、505人):過去に退去強制歴がある、犯罪歴がある、テロ関連活動に関与している疑いがあるなど、入管法で定められた上陸拒否事由に該当するケース
- 有効な査証などを所持していない事案(1.3%、111人):ビザの有効期限切れ、偽造・変造されたビザ、目的外のビザで入国しようとしたケース
このように、大半のケースが「入国目的の真実性」に問題があることが分かります。
2. 国籍・地域別の上陸拒否者数 ─ 上位10カ国
2025年の被上陸拒否者を国籍・地域別に見ると、以下のような順位となっています。
- タイ:2,343人
- インドネシア:888人
- 中国:702人
- パキスタン:541人
- ガーナ:488人
- バングラデシュ:451人
- インド:407人
- 韓国:328人
- トルコ:288人
- カメルーン:225人
- その他:1,885人
タイが突出して多い理由
タイからの上陸拒否者が2,343人と突出して多い背景には、以下の要因が考えられます。
- ビザ免除国であるため、短期滞在での入国が容易
- 観光目的での来日者数が多い一方、不法就労目的での入国企図も増加
- SNSなどで「日本で稼げる」といった情報が拡散され、観光ビザで入国後に不法就労するケースが後を絶たない
実際、入国審査の現場では、所持金がわずかであったり、宿泊先が不明確であったりするタイ国籍者に対する審査が厳格化されています。
中国・インドネシアも上位に
中国は技能実習生や留学生として正規に入国する人数も多い一方、観光ビザで入国して不法就労を企図するケースも散見されます。インドネシアも同様で、特に地方都市での不法就労が問題視されています。
3. 港別の上陸拒否者数 ─ 成田空港が最多
空港・港別の上陸拒否者数は以下の通りです。
- 成田空港:4,628人(全体の54.1%)
- 羽田空港:1,388人
- 関西空港:1,292人
- 中部空港:710人
- 福岡空港:186人
- その他:342人
成田空港だけで全体の半数以上を占めており、日本最大の国際空港として、入国審査体制が最も厳格であることがうかがえます。
4. 企業の人事担当者が知っておくべき「入国審査リスク」
「観光ビザで来日→面接→就労ビザ申請」は危険
外国人材を採用する際、以下のような流れを想定される企業様が少なくありません。
- 候補者に観光ビザ(短期滞在)で来日してもらう
- 日本国内で面接を実施
- 採用決定後、在留資格(就労ビザ)を申請
しかし、この流れには重大なリスクがあります。
入国審査官の視点では、「観光目的」と申告しながら、実際には就職活動・面接を目的としている時点で、入国目的に虚偽があると判断される可能性が高いのです。
もし入国時に「面接予定があるか」と質問され、正直に答えてしまった場合、その場で上陸拒否となるケースもあります。
正しい手続き:短期商用ビザまたは就労ビザの事前取得
適切な手続きは以下の通りです。
- 短期商用ビザ:商談・会議・面接など、報酬を伴わないビジネス活動を目的とする場合に取得
- 就労ビザ(在留資格認定証明書):採用が確定している場合、事前に在留資格認定証明書を取得し、それを元にビザを発給してもらう
特に後者の場合、企業側が入管に対して「この外国人を雇用する予定です」と事前に申請し、認定証明書が交付されてから来日するため、入国審査もスムーズです。
企業側の受入体制も審査対象
外国人材を雇用する企業は、以下の点でも審査されます。
- 雇用契約の内容が法令に適合しているか
- 給与水準が日本人と同等以上か
- 企業の財務状況は健全か
- 過去に不法就労助長罪で処分を受けていないか
「外国人を安く雇えるから」という動機での採用は、入管法違反(不法就労助長罪)に該当するリスクがあります。企業側もコンプライアンス意識を高める必要があります。
5. 在日外国人が注意すべき「在留資格と活動内容の一致」
ビザの種類と活動内容は必ず一致させる
日本の在留資格制度は、「在留資格ごとに認められた活動」が明確に定められています。
例:
- 技術・人文知識・国際業務:オフィスワーク、通訳、システムエンジニアなど
- 技能:料理人、パイロット、スポーツ指導者など
- 留学:大学・専門学校での学習(週28時間以内のアルバイトは資格外活動許可を得れば可能)
- 家族滞在:就労不可(資格外活動許可を得れば週28時間以内のアルバイトは可能)
もし「留学」の在留資格で週28時間を超えて働いた場合、不法就労となり、在留資格の更新が不許可となるだけでなく、退去強制の対象となります。
「バレなければ大丈夫」は通用しない
近年、入管当局は以下の手段で不法就労を厳しく取り締まっています。
- 企業への立ち入り調査
- SNSのモニタリング
- 税務署・年金事務所との情報連携
- 通報制度の活用
「少しくらい大丈夫」という軽い気持ちでの不法就労が、将来の永住申請や家族の呼び寄せに致命的な影響を与えるケースが多発しています。
6. 在留資格申請における「入国目的の一貫性」の重要性
過去の入国履歴も審査対象
在留資格の申請時、入管は申請者の過去の入国履歴も詳細にチェックします。
例えば:
- 過去に短期滞在で何度も入国している
- 滞在期間が長い、または頻度が高い
- 過去に資格外活動で警告を受けたことがある
こうした履歴があると、「今回の申請も本当の目的を隠しているのではないか」と疑われ、審査が厳格化されます。
一度の虚偽申告が将来に影響
入国時に虚偽の申告をした場合、たとえその場で上陸拒否にならなかったとしても、後日発覚すれば以下のリスクがあります。
- 在留資格の取消
- 次回更新時の不許可
- 永住申請の不許可
- 強制退去
「一度くらいなら」という考えは非常に危険です。
7. 行政書士が提供できるサポート
入国前の事前相談
- 適切な在留資格の選定
- 必要書類の準備支援
- 企業側の受入体制整備のアドバイス
在留資格認定証明書の申請代行
- 書類作成・翻訳
- 入管への申請・審査対応
- 追加資料提出のサポート
在留資格の変更・更新
- 留学→就労への変更
- 家族滞在→就労への変更
- 在留期間の更新手続き
トラブル対応
- 資格外活動が発覚した場合の対応
- 在留資格取消通知を受けた場合の異議申立
- 退去強制手続きにおける在留特別許可の申請
8. まとめ:正しい知識とプロのサポートで安心の在留を
2025年の上陸拒否者数8,546人という数字は、単なる統計ではありません。その背景には、「入国目的の真実性」を厳しく審査する入管当局の姿勢があります。
企業の人事担当者の皆さまへ
外国人材の採用は、企業の成長戦略において重要な柱です。しかし、ビザ手続きを軽視すると、採用そのものが頓挫するだけでなく、企業の信頼性にも傷がつきます。最初から正しい手続きを踏むことが、結果的に最も効率的です。
在日外国人の皆さまへ
日本での生活を安定させるためには、在留資格のルールを正しく理解し、遵守することが不可欠です。少しでも不安があれば、専門家に相談してください。
私たち行政書士は、こうした「見えにくいリスク」を可視化し、企業と外国人双方が安心できる道筋を示すパートナーです。
ビザのこと、在留資格のこと、どんな小さなことでも構いません。まずはお気軽にご相談ください。
参考資料
出入国在留管理庁「令和7年における出入国在留管理業務の状況」
Record China「外国人の日本上陸拒否者数、2025年の上位10カ国を発表―出入国在留管理庁」
https://www.recordchina.co.jp/b973709-s25-c30-d0190.html
