はじめに:「白トラ」行為とは何か
2026年1月、愛知県岡崎市において、ベトナム国籍の夫婦が「白トラ」行為により逮捕されるという事件が発生しました。
「白トラ」とは、白色ナンバー(自家用車)を使用して、無許可で有料の運送業務を行う違法行為です。正式には「道路運送法違反」にあたり、違反者は懲役刑や罰金刑の対象となります。
今回逮捕された夫婦は、SNSを通じて引越し業務の依頼を受け、わずか4,000円で荷物を運搬していました。この「ちょっとした副業」が、在留資格の喪失という重大な結果を招く可能性があるのです。
本記事では、行政書士の視点から、この事件が外国人本人と雇用企業に与える影響、そして今後の対策について詳しく解説します。
1. 「白トラ」行為の法的位置づけと罰則
1-1. 道路運送法が規制する「運送業」とは
日本では、他人の依頼を受けて有償で貨物を運送する行為は「一般貨物自動車運送事業」として、国土交通大臣の許可が必要です(道路運送法第3条)。
この許可を得ずに運送業を行った場合、以下の罰則が科されます。
- 3年以下の懲役または300万円以下の罰金(道路運送法第123条)
- 法人の場合は両罰規定により、法人にも罰金刑が科される可能性
1-2. 「白ナンバー」と「緑ナンバー」の違い
- 白ナンバー(自家用車): 自分や家族のために使用する車両
- 緑ナンバー(営業用): 国の許可を得て、有償で人や荷物を運ぶ事業用車両
白ナンバーで有償運送を行うことは、安全基準・保険加入・運行管理などの面で問題があるため、法律で厳しく規制されています。
2. 今回の事件の詳細と背景
2-1. 事件の概要
- 容疑者: D容疑者(37歳・無職)、G容疑者(38歳・派遣社員)
- 容疑内容: 運送業の許可なく、ベトナム人女性の引越し荷物を自家用車で岡崎市から碧南市へ運搬
- 報酬: 4,000円
- 集客方法: SNS(おそらくFacebookやZaloなどのベトナム人コミュニティ)
夫のD容疑者は容疑を認めているものの、妻のG容疑者は一部否認しているとのことです。
2-2. なぜベトナム人が「白トラ」行為に走るのか
ベトナム人コミュニティでは、SNSを通じた情報共有が非常に活発です。引越しや配送の需要が発生すると、「安く運んでくれる人」を探す投稿が拡散され、それに応じる形で違法な運送業務が広がりやすい構造があります。
また、以下のような背景も指摘されています。
- 日本語能力が不十分で、法律の理解が難しい
- 「少額だから問題ない」という誤解
- 「友達同士の助け合い」という感覚
- 経済的困窮や生活費の補填
3. 在留資格への深刻な影響
3-1. 刑事事件と在留資格審査の関係
外国人が日本で在留資格を維持・更新するためには、「素行が善良であること」が求められます(入管法第22条の4)。
刑事事件で逮捕・起訴され、有罪判決を受けた場合、以下のリスクがあります。
- 在留資格の更新不許可
- 在留資格の取り消し(入管法第22条の4第1項)
- 退去強制(強制送還)
特に「懲役刑」や「禁錮刑」を受けた場合、執行猶予がついたとしても、在留資格の審査においては極めて不利な記録となります。
3-2. 「派遣社員」という在留資格の推測
妻のG容疑者は「派遣社員」として働いていることから、おそらく「技術・人文知識・国際業務」や「特定技能」などの就労可能な在留資格を保持していると考えられます。
しかし、今回の違法行為が有罪となれば、次回の更新時に不許可となる可能性が高く、本業の派遣労働も継続できなくなる恐れがあります。
4. 外国人雇用企業が知っておくべきこと
4-1. 副業容認と在留資格リスクの関係
近年、働き方改革の流れで副業を容認・推奨する企業が増えていますが、外国人社員の場合は注意が必要です。
なぜなら、外国人は「在留資格に定められた範囲内」でしか就労できないからです(入管法第19条)。たとえば、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つ社員が、許可なく単純労働や運送業に従事することは違法となります。
4-2. 企業に求められる「管理責任」
入管法では、外国人を雇用する企業に対して以下の義務を課しています。
- 適正な労務管理
- 法令遵守の周知
- 在留資格の確認と記録保存
もし従業員が違法な副業により在留資格を失った場合、企業にも以下の影響が生じます。
- 人材の突然の喪失
- 採用・教育コストの無駄
- 今後のビザ申請時に企業の信頼性が低下
4-3. 実務上の対策
企業が取るべき具体的な対策は以下の通りです。
① 雇用契約時の明文化
- 副業を行う場合は事前申告を義務化
- 副業内容が在留資格に適合しているか確認
② 定期的な研修の実施
- 多言語での法令遵守研修
- 「白トラ」「白タク」などの違法行為の具体例を紹介
③ 相談窓口の設置
- 社内に相談窓口を設け、行政書士や弁護士と連携
- 「困ったときに誰に相談すべきか」を明示
④ SNS利用に関する注意喚起
- ベトナム人コミュニティ内で拡散される違法な副業情報に注意
- 「簡単に稼げる」といった甘い誘いに乗らないよう啓発
5. 在日外国人が自分を守るためにできること
5-1. 在留資格の内容を正しく理解する
まずは、自分の在留資格で「何ができるのか」「何ができないのか」を正確に理解しましょう。
在留カードの裏面には「就労制限の有無」が記載されています。不明な点があれば、入国管理局や行政書士に相談してください。
5-2. 副業を始める前に確認すべきこと
副業を検討する際は、以下の点を必ず確認しましょう。
- その仕事は在留資格の範囲内か
- 許可や届出が必要な業務ではないか
- 報酬の有無にかかわらず、違法行為に該当しないか
5-3. 「資格外活動許可」の取得
もし在留資格で認められていない業務を行いたい場合は、事前に「資格外活動許可」を取得する必要があります。
ただし、この許可は「週28時間以内」などの制限があり、また「風俗営業」や「単純労働」は原則として認められません。
5-4. 困ったときの相談先
- 入国管理局(出入国在留管理庁): 在留資格に関する公式な相談窓口
- 行政書士: ビザ申請や法律相談の専門家
- 多文化共生センター: 各自治体が設置する外国人向け相談窓口
- 母国のコミュニティ団体: 信頼できる情報源を選ぶことが重要
6. 「白トラ」以外にも注意すべき違法行為
6-1. 「白タク」行為
白ナンバーの自家用車で、有償で人を運ぶ行為も違法です。特に空港や観光地で外国人が摘発される事例が増えています。
6-2. 無許可の民泊運営
旅館業法の許可を得ずに、自宅やマンションを有料で貸し出す行為も違法です。Airbnbなどを利用する場合も、必ず届出が必要です。
6-3. 在留資格外の就労
たとえば「留学」の在留資格で単純労働を週28時間以上行う、「技術・人文知識・国際業務」で工場の製造ラインで働くなど、在留資格と実際の業務内容が一致しない場合も違法です。
7. まとめ:「知らなかった」では済まされない時代
今回の「白トラ」行為による逮捕事件は、外国人が日本で生活する上で、法律への理解がいかに重要かを示す事例です。
「たった4,000円の副業」が、在留資格を失い、日本での生活基盤を全て失うリスクに直結することを、多くの方に知っていただきたいと思います。
在日外国人の皆様へ
日本で安心して長く暮らすためには、法律を守ることが何よりも大切です。少しでも不安なことがあれば、専門家に相談してください。
外国人雇用企業の皆様へ
従業員が違法な副業により在留資格を失うことは、企業にとっても大きな損失です。適切な管理体制を整え、従業員が安心して働ける環境を提供しましょう。
【参考記事】
“白トラ”行為か…国の運送業の許可なく自家用車で引っ越し荷物を有料で運んだ疑い ベトナム国籍の夫婦を逮捕
https://news.yahoo.co.jp/articles/d1be6343e539f64b74ebedcac2aced4fecd21439
