1. はじめに:三重県が示した「外国人採用取りやめ」方針の衝撃
2025年12月25日、三重県の一見勝之知事が県職員の採用において「国籍要件」の復活を検討していると記者会見で表明しました。これは、平成11年度以降に同県が掲げてきた「多文化共生」政策の方向性に大きな変化をもたらすものです。知事は、情報漏洩リスクや安全保障の観点から、外国籍の職員採用を見直すべきだという認識を示しました。この動きにより、早ければ2026年夏以降の採用試験から外国人の新規採用が制限される可能性が出てきました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/41e003cd2438ad0182e16d94e0c8c8d4a0ab1979
この発言は、公的機関にとどまらず、民間企業にとっても無視できない意味を持ちます。なぜなら、公的な立場の組織が「外国人採用の見直し」を打ち出したという事実は、社会的なメッセージとして広く受け取られるからです。つまり「外国人=リスク」という誤解が広がる懸念もあり、民間企業の現場にもその影響が波及する恐れがあります。
外国人を積極的に雇用してきた企業では、「社会の風向きが変わったのかもしれない」「外国人を採ることで会社が非難されるのではないか」といった不安が、経営者や人事担当者の間で広がることも考えられます。実際、過去においても行政機関の採用方針が企業の採用トレンドに与える影響は少なくありませんでした。
また、今後は他の地方自治体が三重県に追随する可能性もゼロではありません。特に、機密性の高い情報を扱う公共インフラ企業や、自治体から業務委託を受けている企業などでは、採用方針の見直しを迫られる場面も出てくるかもしれません。
私たち行政書士は、こうした動向を冷静に分析し、企業がいたずらに過敏にならず、適切に対応できるようサポートする立場にあります。事実に基づいた判断が、混乱を避ける鍵となります。
2. 「国籍要件」とは何か?制度の基本をわかりやすく解説
「国籍要件」とは、公的な職務に就くために「日本国籍を有すること」を条件とする制度です。これは憲法第15条や国家公務員法、地方公務員法などの法令を根拠として設けられており、国または地方公共団体の機関において、重要な政策判断や情報管理を行う職種などでは、国籍が問われることが一般的です。
例えば、防衛や外交、治安、行政指導など国家の根幹に関わる職務については、国籍要件が厳格に適用されてきました。一方で、介護・福祉、医療、教育、ITといった分野では、国籍よりも専門性や技能を重視する傾向が高まり、徐々に国籍要件を撤廃する自治体や組織が増えてきた経緯があります。
三重県もその流れに沿って、平成11年度以降、許認可業務など一部を除いて国籍要件を撤廃。実際、医療職などで外国籍の職員を積極的に採用してきました。これにより、同県は「多文化共生」の先進的なモデルとして注目されていた側面もあります。
しかしながら、ここにきて「国籍要件を復活させる」という方針が再浮上した背景には、安全保障上のリスクや情報保護への社会的要請の高まりがあると考えられます。特定の国との関係や、技術流出、国家安全保障上の課題などが議論される中で、職員の国籍を再び重視する方向に政策が振れつつあるのです。
企業にとっても、「国籍要件」は公務員だけの問題ではありません。社内にどのような情報が存在し、それをどのように管理しているかによっては、外国籍社員に対して特別な管理体制が必要になる場面もあるでしょう。単に国籍で判断するのではなく、業務内容とリスクを丁寧に見極めることが重要です。
3. 公務員採用における安全保障の観点とは?
今回の三重県知事による「国籍要件」復活検討の背景には、「安全保障上の観点」があるとされています。知事は具体的な国名こそ明言を避けたものの、「自国民に情報提供を義務付ける法律がある国が存在し、そうした国が他にもある可能性がある」と発言しました。
これは、仮に外国籍の職員がいた場合、母国の法律によって情報提供を強いられるリスクがあるという前提に基づくものです。特に、伊勢神宮を訪れる要人の警備計画や、ダム・水道など重要インフラの設計情報、災害対策に関する情報など、機密性の高い情報を扱う職場では、外部への情報漏洩が直接的に国民の安全に関わる可能性があります。
そのため、こうした業務に従事する職員に対しては、国籍に関する制限を設けることが「合理的」とされる議論が一部でなされているのです。
ただし、この論点は非常に繊細であり、一歩間違えば「国籍による差別」と捉えられかねません。実際には、機密情報にアクセスするすべての職員に対して、国籍にかかわらず厳格なセキュリティ教育や守秘義務を徹底させる方が、本質的な情報漏洩対策として有効であるという考え方もあります。
民間企業でも、技術情報や顧客データを扱う部門においては、アクセス制限やログ管理、契約上の守秘義務を厳格に運用しているケースが多く、これは国籍を問わず全社員に等しく課されるルールです。
行政機関としての三重県がどこまでの情報を「安全保障上のリスク」として捉えるかによって、今後の国籍要件の運用は大きく変わるでしょう。そして、民間企業も「安全保障」という観点から、自社の情報資産をどう守るのか、改めて社内の体制を見直す好機かもしれません。
4. 多文化共生とのジレンマ:外国人差別との境界線
国籍要件の見直しは、「安全保障」という正当な理由がある一方で、「多文化共生」とのバランスをどのように取るかが大きな課題となります。
一見知事は記者会見で「排外主義は取らない」「差別や誹謗中傷は許されない」と明言しました。このように、外国籍の人々に対する偏見や差別を防ぐ姿勢を明確にしつつも、一部の職種における採用制限を検討するという方針には、多くのジレンマが含まれています。
日本では近年、外国人労働者の数が大きく増加しています。介護、建設、農業、IT分野など、さまざまな業種で外国人が不可欠な戦力となっています。一方で、言語や文化の違い、在留資格の管理など、企業側にも一定の負担がかかるのは事実です。
その中で、「国籍」という要素が再び採用の足かせとなると、これまで培ってきた共生の土壌に亀裂が入る恐れがあります。現場で働く外国人や、それを受け入れる日本人社員にとっても、信頼関係が損なわれる可能性があり、職場の分断を生む原因となりかねません。
また、国籍要件を厳格に運用しすぎると、グローバル人材の確保に支障を来すことも考えられます。日本で学び、働き、貢献しようとしている外国人に対して、「あなたの国籍では無理です」と言うことが、果たして今の時代に適しているのか。これは企業にとっても、採用方針の根幹を見直すきっかけとなる議論です。
私たち行政書士としては、「制度としての制限」と「人としての尊重」をいかに両立させるかという視点を持ちつつ、外国人雇用に関する実務サポートを提供しています。差別ではなく、リスクマネジメントとしての制度設計。これこそが、これからの企業に求められるスタンスです。
5. 今後の動向:県民アンケートと政策決定の行方
2026年1月から、三重県では無作為に抽出された1万人の県民を対象に、外国人職員の採用継続に関するアンケート調査を実施します。これは、現在進行中の「国籍要件復活検討」に対する県民の賛否を確認し、その意見をもとに今後の方針を最終決定するためのものです。
このアンケートの結果は、単なる県内の行政方針にとどまらず、全国の自治体や企業の外国人採用に対する意識にも影響を与える可能性があります。なぜなら、三重県のように先進的な多文化共生政策を推進していた自治体が方針転換を行うことは、全国的に強いインパクトを持つからです。
特に、同様の安全保障上の懸念を抱える自治体や、省庁・公的機関が三重県の判断を参考にし、自らの制度見直しを始める可能性は否定できません。それにより、外国人職員の採用に慎重な姿勢を取る自治体が増えれば、社会全体としての外国人雇用に対する空気感も変わってくるでしょう。
民間企業にとっても、この動向は決して無関係ではありません。地方自治体や公共機関との取引を行っている企業や、委託業務を受けている事業者にとっては、採用方針や人員配置に影響が及ぶケースも考えられます。
アンケートという形式で県民の声を広く集める点については、民主的で透明性のある意思決定として評価できますが、一方で「外国人を採用してよいか否か」という問いそのものが持つ社会的影響も無視できません。
企業経営者や人事担当者としては、この政策の動向を注視しつつ、いざというときに柔軟に対応できる採用戦略や社内体制を整えておくことが求められます。制度が変わる前に、事実とリスクに基づいた意思決定を行う準備が重要です。
6. 企業はどう見るべきか?民間企業と公的機関の違い
公的機関と民間企業では、組織の目的も責任の性質も大きく異なります。自治体や官公庁が求められるのは、「公共の利益」と「公平性」「透明性」であり、採用においてもその基準が非常に厳格に設定されています。一方、民間企業では「収益性」や「競争力」が大きな柱となるため、同じ「採用」という行為でも背景にある判断基準が異なります。
三重県が検討する国籍要件の復活は、公的機関としての安全保障上の理由が中心です。しかし、これをそのまま民間企業が模倣して「うちも外国人採用を見直そう」と短絡的に判断するのは非常に危険です。なぜなら、民間企業には民間企業ならではの人材ニーズや、ビジネス戦略、働き方の柔軟性があり、一律の国籍制限はむしろ機会損失に繋がることが多いからです。
たとえば、外国語対応が求められる海外取引や、外国人観光客向けの接客業務、多様な視点が競争力となるITや商品開発の現場では、外国籍の人材は欠かせない存在です。そうした業務において国籍で採用を制限することは、合理的な説明ができず、社内外からの反発を招くリスクすらあります。
また、労働法制上も民間企業が国籍のみを理由に採用を拒否することは、「不当な差別」とみなされる可能性があります。外国人の応募者から訴訟を起こされるリスクや、SNSなどでの告発によって企業イメージが損なわれるリスクも無視できません。
したがって、民間企業がやるべきことは「安易に追随する」のではなく、「自社にとってのリスクと目的」を明確にし、その上で制度や運用を整備することです。行政書士などの専門家と連携しながら、採用基準の見直し、就業規則の整備、情報管理体制の構築などを進めることが望まれます。
7. 法的リスクと注意点:外国人雇用における適正な配慮とは
外国人雇用には、国内法のみならず、出入国在留管理制度など外国人特有の制度も関わるため、企業には慎重な運用が求められます。特に注意すべきは、外国人だからといって特別扱いをすることも、逆に不利益な扱いをすることも、いずれも「差別」と見なされる可能性があるという点です。
以下のようなポイントは、外国人を雇用する際に必ず押さえておきたいリスク項目です:
- 在留資格の確認:業務内容が在留資格の範囲に合致しているかを必ず確認。違反すれば不法就労助長罪に問われる可能性あり。
- 雇用契約の明文化:言語の壁を意識し、多言語での雇用契約書や説明資料の用意を。あいまいな合意はトラブルのもと。
- 待遇の平等性:日本人社員と同等の条件・福利厚生が適用されているか。差を設ける場合は合理的な理由が必要。
- 採用方針の明示と合理性:国籍を理由とした不採用が、「業務上の正当性」に基づくものでなければ違法と判断されるリスクあり。
特に注意が必要なのは、「国籍を理由に採用しない」と明示すること。これは差別とみなされ、法的トラブルに発展する可能性があります。たとえば、「外国籍不可」といった求人票の文言は、指導の対象となることがあります。
企業は、外国人雇用において「知らなかった」では済まされません。実際に行政指導や訴訟リスクを回避するためには、制度設計の段階から法的な専門家と連携し、コンプライアンスを強化することが必須です。
行政書士としては、在留資格の確認から、契約書の整備、法務チェック、労務トラブルの未然防止まで、包括的なサポートを提供できます。リスクをチャンスに変えるためにも、早めの相談がカギとなります。
8. 採用停止=即リスク回避ではない?誤解されがちな実務
外国人採用を停止すれば、情報漏えいや安全保障上のリスクがなくなると思われがちですが、実際にはそれほど単純な話ではありません。リスクの本質は「国籍」ではなく、「情報管理体制の甘さ」や「内部統制の不備」にあるからです。
たとえば、情報漏えい事件の多くは、内部の不正アクセスや、退職者による情報持ち出し、意図しない人的ミスによって発生しています。これらは国籍に関係なく起こり得る問題であり、日本人社員でも同様に起こる可能性があることを忘れてはいけません。
つまり、採用方針を変えることよりも、まず社内のセキュリティ体制を強化することが本質的なリスク対策となります。具体的には:
- 機密情報へのアクセス権限の管理・制限
- 社内ルールやマニュアルの明文化と周知
- 社員全体への情報セキュリティ研修の実施
- ログ監視やデバイス制御などのシステム的な対策
こうした対策を講じることで、国籍にかかわらず、すべての社員に同じルールを適用し、公平かつ安全な労働環境を構築できます。
むしろ、外国人採用を停止することで、本来得られるべき人材やスキル、国際的な視点が失われることは、企業にとって長期的な競争力の低下にもつながりかねません。
表面的な「排除」ではなく、本質的な「仕組み作り」こそが、これからの企業経営におけるリスクマネジメントの本質です。行政書士としても、こうした体制構築を実務面から支援できます。採用停止という選択肢を検討する前に、社内の安全基盤を見直すことが賢明な判断と言えるでしょう。
9. 行政書士としての視点:今、企業がすべきこと
外国人採用を取り巻く環境が揺れ動いている今、企業としては「何もしない」という選択肢は現実的ではありません。国籍要件や安全保障、情報漏えいといったテーマがニュースとして可視化されることで、外国人雇用に対する社会の目は確実に厳しくなっています。その中で、企業が感覚的・場当たり的に判断してしまうことこそが、最大のリスクと言えるでしょう。
行政書士の立場から見て、今企業が優先的に取り組むべきポイントは大きく分けて三つあります。
まず一つ目は、在留資格や雇用形態の見直しです。外国人を雇用する場合、「どの在留資格で」「どの業務を」「どの条件で」行っているのかが明確でなければなりません。実務上よく見られるのが、「採用後に業務内容が変わり、在留資格の範囲を逸脱してしまう」ケースです。これは悪意がなくても不法就労助長と判断される可能性があり、企業にとっては致命的なリスクになります。
二つ目は、就業規則や社内ガイドラインの整備です。外国人社員に関して、在留カードの管理方法、更新時の社内フロー、言語面での配慮、相談窓口の設置などを明文化している企業は、実はまだ多くありません。ルールが曖昧なままでは、担当者ごとに対応が異なり、結果としてトラブルや不信感を生む原因になります。
三つ目は、外国人社員との信頼関係構築です。制度や書類だけを整えても、現場でのコミュニケーションが不足していれば意味がありません。定期的な面談、相談しやすい環境づくり、文化や価値観の違いを前提としたマネジメントが、結果的に情報漏えい防止や定着率向上にもつながります。
行政書士は、在留資格の判断や申請手続きにとどまらず、採用スキーム全体の設計、社内体制の整備、トラブルの未然防止までを一貫して支援できる存在です。「これって問題ありますか?」という段階で相談することが、最もコストのかからないリスク対策になります。
10. まとめ:不透明な時代にこそ「正しく雇う」体制を
三重県による国籍要件見直しの検討は、単なる地方自治体の人事政策ではなく、日本社会全体における外国人雇用の在り方を問い直す出来事と言えます。企業として重要なのは、この動きを「外国人採用は危ない」という短絡的な結論に結びつけないことです。
外国人採用は、もはや一部の企業だけの話ではありません。人手不足が深刻化する中で、多くの企業にとって外国人材は不可欠な存在となっています。一方で、法制度・社会的評価・安全保障といった複雑な要素が絡み合い、これまで以上に「正しい知識」と「適切な運用」が求められる時代になっています。
これから企業に問われるのは、「採用するか、しないか」ではなく、
「どのような基準で採用し」「どのような体制で守り」「どのように活かすか」
という視点です。感情論や世間の空気に流されるのではなく、自社の業務内容・リスク・理念に即した判断が必要です。
不透明な時代だからこそ、ルールを曖昧にせず、制度と実務を一致させた「正しく雇う」体制を構築している企業は、結果的に強くなります。外国人雇用をリスクではなく、競争力に変えられるかどうかは、今の判断にかかっています。
ニセコビザ申請サポートセンターでは、外国人雇用に関する初回相談を無料で行っております。在留資格の確認、採用前のリスクチェック、社内体制の整備など、「何から手をつければいいかわからない」という段階からでも問題ありません。
この機会にぜひ一度、自社の外国人採用体制を見直してみてください。
今の備えが、数年後の企業の安定と成長につながります。
