1. はじめに:三重県の外国人採用見直し報道と伊賀市の反応
2025年12月、三重県が外国籍職員の採用において再び「国籍要件」の導入を検討しているとの報道が波紋を広げています。これは、現在の「国籍不問」の採用方針を転換し、日本国籍を持たない人材の登用に制限をかけようとする動きであり、多文化共生を推進してきた地域社会に対して大きな逆風と受け取られかねません。
この方針に対して、最も強い反応を示したのが伊賀市の稲森稔尚市長です。市長は「撤回を強く求める」との声明を出し、県の動きを「多文化共生の歩みを覆すもの」「行政による差別的なレッテル貼り」と厳しく非難しました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/900bb22dfd69d52f2b5e51bf681b10415317ca56
行政による人材登用において、「国籍」が問われるべきかどうかは、企業の採用にも深く関係するテーマです。労働人口の減少が進む中、外国人材の活用は企業経営における重要な戦略となりつつあります。だからこそ、地方自治体が打ち出す採用方針は、地域の企業にとっても“空気を読む”材料となりかねず、無視できない動向なのです。
本記事では、三重県の方針とそれに対する伊賀市の明確な対抗姿勢を通して、企業が今考えるべき「多文化共生」の在り方について、行政書士の視点から深掘りしていきます。
2. 伊賀市長が示した“反対”の意味とその背景
伊賀市の稲森市長は、県の方針に対して「撤回を強く求める」と明確な反対声明を出しました。その言葉は極めて強く、「社会に新たな分断と不信感をもたらす」「時代の要請を放棄するもの」と表現するなど、単なる行政判断への批判にとどまらず、社会的な責任を問う姿勢が読み取れます。
なぜ、ここまで強く反対するのか?その背景には、伊賀市が長年にわたり推進してきた“多文化共生”の政策があります。伊賀市は、日本国内でも外国人住民の割合が高い地域であり、とりわけブラジル、ペルー、フィリピン出身者などを中心とした外国人コミュニティが根を下ろしています。
こうした多国籍な地域性を持つ伊賀市では、「地域の活力は多様性に支えられている」という考えのもと、行政サービス、教育、雇用、生活支援のあらゆる面で外国人住民との共生を進めてきました。
その伊賀市から見れば、県による外国人職員の採用制限は、まさに「逆行」に映るわけです。市民の一部を制度的に排除するような動きは、信頼関係の破壊につながりかねません。
企業にとっても同様です。一部の社員を“特別扱い”しようとする姿勢は、チームの結束を損ね、生産性にも影響します。伊賀市長の発言は、行政機関にとどまらず、地域社会全体、そして企業経営に対して「多様性を排除しない組織文化の必要性」を投げかけているのです。
3. 「多文化共生推進枠」とは?地方自治体の具体的な取り組み
伊賀市では2026年4月採用に向けて、「多文化共生推進枠」という新たな採用区分を創設しました。この枠は、日本国籍を持たないものの、日本に永住資格または特別永住資格を有する18歳以上〜40歳未満の人を対象とし、事務職として若干名の採用を予定しています。
この取り組みの意義は極めて大きいといえます。第一に、制度として「国籍ではなく、地域で暮らす個人の力を評価する」という明確な方針を示したこと。第二に、行政自らが多文化共生を「実践する場」として職場を捉えていることです。
応募状況も注目に値します。14人の応募があり、12人が一次試験に進み、最終的に2人が合格。決して「特例」や「見せかけの制度」ではなく、実際に人材として選ばれ、採用が進んでいる点は非常に重要です。
このような採用枠を通じて、外国人住民に対して「あなたも地域の一員として貢献できる」「行政の一翼を担う存在になれる」というメッセージが届けられます。そしてそれは、企業にとっても大きな学びとなります。
つまり、「特別な制度を作る」のではなく、「共に働く環境を整える」というアプローチが、持続可能な多文化共生には必要なのです。伊賀市の取り組みは、企業が外国人雇用を進める上でも非常に参考になるモデルケースといえるでしょう。
4. なぜ今「外国人職員の採用」が見直されようとしているのか?
三重県が外国人職員の採用方針について「国籍要件の復活」を検討している背景には、いくつかの要因が推察されます。その一つが「個人情報の管理」や「行政職の守秘義務」に関する不安です。
外国籍職員が機密性の高い業務に従事することへの懸念は、少なからず自治体の内部で根強く存在しています。特に近年では、サイバーセキュリティや行政情報の漏洩リスクへの関心が高まっているため、こうした動きに神経質になるのも理解できなくはありません。
また、国民感情や一部有権者の意識も背景にある可能性があります。「公務員は日本人であるべき」といった固定観念が根強い層に対して、配慮を見せることで行政運営の安定を図ろうとする意図も見え隠れします。
しかしながら、このような判断が「差別的」「逆行的」と受け取られるリスクも非常に大きいといえます。実際、伊賀市長が強く反発したのも、「これまで積み上げてきた共生社会の信頼が崩れかねない」との強い危機感があったからです。
企業においても同様に、外国人雇用の可否を「印象」や「感情」で判断することは大きなリスクです。法令、実務、そして人材の能力を基準にする姿勢こそ、組織の持続性を支えるカギとなります。
採用方針の見直しは、たしかに組織防衛の一手ではあります。しかし、それが社会全体にどのようなメッセージを送るのか——今こそ、その本質的な問いに向き合う時です。
5. 行政判断が企業活動に与える影響とは?
地方自治体の人材採用方針、特に「外国籍人材」に対する扱いは、企業活動に少なからず影響を与えます。なぜなら、行政が示す姿勢は、地域社会の“空気”や“基準”を形作るからです。行政が多様性を歓迎すれば、地域社会全体もそれに呼応して開かれた雰囲気を持ち、企業の外国人雇用も進めやすくなります。逆に、排除的なメッセージが行政から発信されれば、それは企業にもブレーキとして働きます。
特に中小企業にとって、自治体の動きは重要な判断材料です。「うちは外国人雇用に前向きだが、役所が後ろ向きでは不安だ」「自治体が受け入れていないのに、うちだけ進めて良いのか」という心理的な影響は決して小さくありません。
また、行政から発信される採用基準や職務の線引きは、企業の採用ポリシーにも無意識に影響を与えます。「公権力の行使には国籍制限がある」といった法的なルールが、民間の役職設計や雇用方針に転用されることもあります。
だからこそ、企業は“自治体に追従する姿勢”から、“自社の価値基準に基づいた人材戦略”への転換が求められる時代に入っています。行政がどうであれ、社会の多様化は止まりません。自社がどのような価値を大切にし、どんな組織でありたいのかを軸に、採用方針を整備する必要があります。
私たちニセコビザ申請サポートセンターは、こうした採用方針や就業規則の整備、外国人雇用に関する制度的リスクの洗い出しを支援できます。行政がどう動こうとも、企業が自律的に“多様性を力に変える”仕組みづくりを進めることが、これからの経営には不可欠です。
6. 外国人材をめぐる採用環境の変化と社会的潮流
かつて「外国人雇用=例外的措置」と捉えられていた時代は終わりました。今や、少子高齢化と生産年齢人口の減少により、外国人材は“必要不可欠な戦力”として位置づけられています。特にサービス業、製造業、介護分野では、外国人なしでは成り立たない現場も増えています。
一方で、制度や意識の整備はまだまだ追いついていないのが実情です。入管法や労働法に則った適切な採用ができていない企業もあり、「制度が複雑で手を出せない」「どこまで雇えるのかわからない」といった声も多く聞かれます。
加えて、社会的にも“多文化共生”の必要性が急速に叫ばれています。文部科学省による「やさしい日本語」の推進、地方自治体の多言語対応強化、外国人児童の教育体制など、行政も共生社会の基盤づくりを急いでいます。
企業も、単に“人手”としてではなく、“組織の一員”として外国人材を迎え入れる体制を整える必要があります。そのためには、在留資格の確認や業務設計といった法制度の理解だけでなく、社内研修や評価制度の見直しも求められます。
今後さらに、「共に働く力」を育む組織が評価され、社会的信用を高めていく時代になるでしょう。採用環境の変化に対応することは、単なる人材確保ではなく、企業ブランディングにも直結する戦略課題なのです。
7. 企業が取り組むべき多文化共生と制度整備のポイント
外国人材を迎える企業にとって、多文化共生は「CSR」や「イメージ戦略」ではありません。もはや現実的な“経営課題”であり、“競争優位性の源泉”になり得るテーマです。
具体的には、以下の3つの視点で体制整備が求められます。
1. 制度の整備と可視化
在留資格の管理、就業規則の整備、契約書の多言語対応など、法制度をベースにしたルール作りが第一歩です。行政書士として、在留資格に合致した業務設定や申請サポートを行うことで、リスクを未然に防げます。
2. 社内コミュニケーションの構築
「やさしい日本語」や英語での研修マニュアルの整備、定期的な個別面談の実施、多文化理解研修の導入が効果的です。特に中間管理職の意識改革が、現場の雰囲気を大きく左右します。
3. 評価とキャリア支援
外国人材も、将来的にはチームのリーダーや中核社員として活躍する可能性を持っています。初期段階からキャリアパスを示し、成長の道筋を整えることで、長期的な定着につながります。
多文化共生は“やさしさ”だけでは成り立ちません。制度と実務の両面を整備し、誰もが活躍できる環境を用意することこそが、企業の成長と信頼につながります。
8. 外国人雇用を取り巻く法的リスクとその回避策
外国人を雇用する企業には、日本人とは異なる法的な義務とリスクがあります。もっとも代表的なのが、「不法就労助長罪」と「在留資格外活動」です。これは、企業側が知らずにルールを逸脱してしまっても処罰対象になる厳しい規定です。
例えば、技術・人文知識・国際業務ビザで採用された外国人に、現場作業や単純労働を任せた場合、それは“資格外活動”に該当する可能性があります。また、在留カードの期限管理を怠った場合、期限切れでの就労が発生すれば、企業も責任を問われます。
これらを防ぐためには、採用前からの専門家による確認と、雇用後の継続的な在留資格管理体制が欠かせません。当事務所では、申請手続きの代理だけでなく、業務内容との適合確認や、制度改正に対応したアドバイスも可能です。
さらに、トラブルが起きた際の初期対応を誤ると、外国人社員の信頼を失い、SNSなどでの悪評拡散につながる恐れもあります。法令を守ることは「リスク回避」だけでなく、「企業価値の保護」でもあるのです。
9. 行政書士が企業に提供できるサポートとは?
行政書士は、単なる「書類屋」ではありません。外国人雇用を進める企業にとって、制度と実務の両面から支援できる“人事・法務パートナー”です。
たとえば、以下のようなサポートが可能です:
- 在留資格認定・変更・更新の申請代行と戦略的アドバイス
- 外国人向けの雇用契約書等の作成支援
- 外国人採用の初期相談(ビザの種類・活動範囲の判断)
- 雇用管理に関する社内研修の実施や制度導入支援
- トラブル時の初期対応と、入管対応の同行・代理\n\n企業が外国人雇用に不安を感じるのは、「知らないことが多い」からです。その“知らない”を埋めるのが行政書士の仕事です。
10. まとめ:行政判断に惑わされず、自社の価値軸で採用を考える時代へ
今回の三重県の方針転換の動きと、伊賀市の明確な反対声明は、外国人材の活用における「行政の足並みの乱れ」を露呈しました。しかし、私たち企業側に求められるのは、「行政がどうするか」ではなく、「自社はどうあるべきか」の視点です。
外国人材は今や、単なる労働力ではなく、企業文化を豊かにし、新たな可能性をもたらす“戦略的パートナー”です。その価値を最大限に引き出すには、法制度を正しく理解し、多様性を受け入れる組織風土を育てることが不可欠です。
ニセコビザ申請サポートセンターは、行政書士として単に「ビザ手続き」を代行するだけでなく、採用設計から制度構築、現場のサポートまで伴走します。変化の時代だからこそ、制度に振り回されるのではなく、制度を活かす経営を一緒に築いていきましょう。
