はじめに:「利益6倍」の裏にあった法令違反
2026年1月、東京都内で民泊運営会社を経営していた中国籍の代表者らが、住宅宿泊事業法(通称:民泊新法)違反で書類送検されるという事案が報道されました。容疑者は「利益を増やすため。売上は6倍になった」と供述していますが、結果的に刑事事件となり、社会的信用を失う事態となりました。
この事件は、在日外国人の起業家や、外国人を雇用する企業の経営者・人事担当者にとって、重要な教訓を含んでいます。本記事では、行政書士の視点から、このケースを詳しく分析し、外国人がビジネスを行う際に注意すべきポイントを解説します。
1. 事件の概要:民泊新法違反での全国初の摘発
何が起きたのか
東京都新宿区の民泊運営会社「K-carve life」の代表である中国籍の男性(34歳)と同社役員の女性(32歳)が、荒川区の条例を無視して民泊営業を行ったとして書類送検されました。警視庁によれば、この事案は民泊新法違反での摘発として全国初のケースです。
具体的な違反内容
- 虚偽報告:2024年6〜7月、実際には平日を含む49日間営業していたにもかかわらず、荒川区長には「土日の8日間のみ営業」と虚偽の報告
- 業務改善命令の無視:2024年12月に出された業務改善命令を無視し、定期報告を怠った
- 条例違反:荒川区条例では「月曜正午から土曜正午までの民泊営業禁止」が定められているが、これを無視
事業規模と売上
同社は荒川、港、新宿、墨田、豊島の5区で21室の民泊を運営。問題となった荒川区の民泊では、2022年3月の営業開始以降、約2200万円の売上を得ていたと見られています。
2. 民泊新法とは?外国人経営者が理解すべき基礎知識
住宅宿泊事業法(民泊新法)の成立背景
2018年に施行された民泊新法は、それまでグレーゾーンだった民泊ビジネスを合法化し、一定のルールの下で営業できるようにした法律です。訪日外国人観光客の増加に伴い、宿泊施設不足を解消する目的もありました。
民泊新法の主なルール
- 年間営業日数の上限:原則として年間180日以内
- 届出制:都道府県知事(または保健所設置市区長)への届出が必要
- 標識の掲示:民泊施設であることを示す標識の掲示義務
- 衛生管理:定期的な清掃や換気など
- 騒音防止措置:近隣住民への配慮
- 宿泊者名簿の作成・保存:本人確認と記録
自治体による上乗せ規制
重要なのは、国の法律だけでなく、各自治体が条例で独自の規制を設けている点です。例えば:
- 営業エリアの制限:住居専用地域での営業禁止
- 営業日数のさらなる制限:週末のみ許可など
- 営業時間の制限:平日の営業禁止など
今回の荒川区のケースでは、「月曜正午から土曜正午まで営業禁止」という独自規制がありました。
3. なぜ外国人経営者は法令違反に陥りやすいのか?
言語の壁
日本の法律や条例は日本語で書かれており、専門用語も多く含まれています。日本語が堪能でも、法律用語の正確な理解は難しいことがあります。
情報アクセスの格差
自治体のホームページや説明会の多くは日本語のみで提供されており、外国人が必要な情報にアクセスしにくい状況があります。
文化的背景の違い
母国では問題なかった営業方法が、日本では違法となるケースがあります。また、「報・連・相」や「コンプライアンス重視」といった日本のビジネス文化への理解不足も要因となります。
「見えない規制」の存在
国の法律だけでなく、都道府県条例、市区町村条例、さらには業界団体の自主規制など、多層的な規制が存在することを知らないケースが多くあります。
4. 在留資格への影響:ビジネスの失敗が在留資格喪失につながる可能性
刑事事件と在留資格の関係
外国人が日本に在留するには、適切な在留資格が必要です。刑事事件を起こすと、以下のような影響があります:
- 在留資格の取消:入管法上の「在留資格取消事由」に該当する可能性
- 在留期間更新の不許可:更新時に「素行が不良」と判断される
- 退去強制:重大な犯罪の場合、強制送還の対象に
経営・管理ビザでの注意点
民泊など事業を行う場合、多くの外国人は「経営・管理」の在留資格を取得しています。この資格を維持するには:
- 事業の継続性:実際に事業が行われていること
- 適法性:法令を遵守した事業運営
- 経済的基盤:安定した収入と事業規模
法令違反で事業が停止すれば、これらの要件を満たせなくなり、在留資格の更新が認められない可能性があります。
5. 外国人を雇用する企業の経営者・人事担当者が知っておくべきこと
従業員の副業管理
外国人社員が副業として民泊などの事業を行っている場合、注意が必要です:
- 資格外活動の許可:就労ビザで働く外国人が副業を行う場合、「資格外活動許可」が必要
- 副業内容の確認:副業が法令違反である場合、企業の評判にも影響
- 在留資格との整合性:副業が本業を圧迫していないか
コンプライアンス研修の重要性
外国人社員に対して、日本の法律やビジネスマナーについての研修を定期的に行うことが重要です。特に:
- 日本の法規制の複雑さ
- 自治体ごとの条例の違い
- 違反した場合のリスク
専門家との連携
外国人を雇用する企業は、行政書士や社会保険労務士などの専門家と連携し、在留資格管理や労務管理を適切に行うことが求められます。
6. 民泊ビジネスを適法に行うためのステップ
ステップ1:事前調査
- 国の法律の確認:民泊新法の基本ルールを理解
- 自治体条例の確認:営業予定地の都道府県・市区町村の条例を確認
- 用途地域の確認:都市計画法上の用途地域が民泊営業可能か
ステップ2:届出準備
- 必要書類の収集:住宅の図面、登記事項証明書、同意書など
- 施設の整備:消防設備、衛生設備の整備
- 標識の準備:民泊施設であることを示す標識
ステップ3:届出の実施
- オンライン届出:民泊制度運営システムを利用
- 書類の提出:必要書類を自治体に提出
- 届出番号の取得:届出が受理されると届出番号が発行される
ステップ4:営業開始と継続管理
- 定期報告:2か月ごとに営業日数などを報告
- 帳簿の記録:宿泊者名簿の作成・保管
- 法令遵守:営業日数制限などのルールを守る
7. もし違反が発覚したら?対応方法と専門家への相談
行政指導と業務改善命令
違反が発覚すると、まず行政指導や業務改善命令が出されます。この段階で適切に対応すれば、刑事事件化を避けられる可能性があります。
弁護士・行政書士への早期相談
違反の疑いがある場合や、行政指導を受けた場合は、すぐに専門家に相談してください:
- 弁護士:刑事事件化した場合の対応
- 行政書士:行政手続きや在留資格への影響についての相談
在留資格への影響を最小限に
刑事事件となった場合でも、適切な対応により在留資格への影響を最小限にできる可能性があります:
- 速やかな違反行為の停止
- 誠実な反省と謝罪
- 被害回復措置
- 専門家による在留資格への影響評価
8. 行政書士ができるサポート:ビザ申請から事業コンプライアンスまで
在留資格申請のサポート
- 経営・管理ビザの申請:事業計画書の作成、必要書類の準備
- 在留期間更新:継続的な事業運営の証明
- 在留資格変更:事業内容の変更に伴う資格変更
事業開始前のコンサルティング
- 法令調査:関連する法律・条例の調査
- 許認可の確認:必要な許認可の洗い出し
- リスク評価:法的リスクの事前評価
許認可申請の代行
- 民泊の届出:民泊新法に基づく届出の代行
- その他の許認可:飲食店営業許可、古物商許可など
継続的なコンプライアンスサポート
- 定期的な法令チェック:法改正への対応
- 報告書作成支援:行政への定期報告の支援
- トラブル対応:行政指導への対応相談
9. まとめ:長期的成功のために今できること
コンプライアンスは「コスト」ではなく「投資」
法令遵守には時間とコストがかかりますが、それは長期的なビジネス成功への投資です。今回の事件のように、短期的な利益を追求して法令違反を犯せば、すべてを失う可能性があります。
「知らなかった」は通用しない
日本の法律では、「知らなかった」という弁解は原則として認められません。外国人であることは、法令違反の免責事由にはなりません。
専門家との連携が成功のカギ
複雑な日本の法規制を一人で理解し、対応するのは困難です。行政書士、弁護士、税理士などの専門家と連携することが、安全で確実なビジネス運営につながります。
今すぐできる3つのアクション
- 現在の事業の法令適合性チェック:自分の事業が法令を遵守しているか確認
- 専門家への相談:不安な点があれば、すぐに行政書士などに相談
- 継続的な情報収集:法改正や条例改正の情報を定期的にチェック
おわりに:安心してビジネスができる環境づくりを
私は行政書士として、多くの外国人起業家や外国人を雇用する企業をサポートしてきました。真面目に努力し、日本で成功を目指す外国人の方々が、「知らなかった」ことで法的トラブルに巻き込まれる姿を何度も見てきました。
日本は法治国家であり、ルールを守ることが何よりも重視されます。しかし、そのルールは複雑で、外国人にとって理解しにくいものでもあります。だからこそ、専門家のサポートが必要なのです。
もし、ビザ申請、在留資格、事業の適法性について不安や疑問があれば、どうぞお気軽にご相談ください。皆さまの日本でのビジネスが、安全で、持続可能なものとなるよう、全力でサポートいたします。
参考リンク
- 元記事:https://news.yahoo.co.jp/articles/e584167499fce73eaf25a45654b8ea4f01794696
- 観光庁「民泊制度ポータルサイト minpaku」
- 出入国在留管理庁「在留資格一覧表」
この記事に関するご質問・ご相談は、ニセコビザ申請サポートセンターまでお気軽にお問い合わせください。
