1. はじめに:医療費不払い問題が再燃中──制度見直しの背景とは
近年、外国人による日本の医療機関での「医療費不払い(未収金)」問題が、再び大きな社会的関心を集めています。今回の報道では、訪日外国人や在日外国人が医療機関を受診したものの、医療費を支払わないまま帰国・所在不明となるケースが増加しており、政府が入国審査や在留審査の厳格化を検討していることが明らかになりました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/04116bb20b5bb94d79ac5e40486bf739c2c10834
この問題は、単なる「マナー」や「モラル」の話ではありません。日本の医療制度、在留制度、そして外国人受け入れ体制そのものの“歪み”が表面化した結果だと、行政書士としては捉えています。
日本は世界に誇る国民皆保険制度を持ち、国民であれば原則として3割負担で医療を受けることができます。しかし、この制度は「保険に加入していること」が大前提です。ところが、訪日外国人や在留外国人の中には、保険制度を十分に理解しないまま滞在している人も少なくありません。
さらに、日本の医療は「治療後に金額が提示される」仕組みが一般的です。海外では、治療前に概算費用を提示され、同意した上で受診するケースが多いため、日本の医療システムそのものが外国人にとって分かりにくいという構造的な問題もあります。
今回、国が「未払い外国人に対する再入国審査の厳格化」や「在留資格更新への影響」を検討し始めたことは、外国人本人だけでなく、外国人を雇用する企業にとっても極めて重要な意味を持ちます。
「うちは医療機関じゃないから関係ない」
「本人の問題で、会社は関与しない」
そう考えている企業ほど、将来大きなリスクを抱え込む可能性があります。本記事では、この医療費未払い問題を切り口に、在日外国人と企業経営者・人事担当者が今こそ知っておくべき制度の現実と、取るべき対策について、行政書士の立場から率直に解説していきます。
2. 未収金の実態:全国で13億円超、3割の病院が影響を受ける現実
厚生労働省が令和6年9月に実施した調査によると、外国人患者を受け入れた全国2,890の病院のうち、約3割にあたる836病院で外国人による医療費未収金が発生していることが明らかになりました。未収金総額は、令和3年度の約8.8億円から、令和5年度には約13.2億円へと急増しています。
この数字を見て、「日本全体から見れば大した額ではない」と感じる方もいるかもしれません。しかし、医療現場の実情はまったく異なります。地方の中小病院や診療所にとって、数百万円、数千万円単位の未収金は経営を直撃する深刻な問題です。
また、重要なのは「発生率は横ばいだが、金額が増えている」という点です。これは、外国人患者数そのものが増加していること、そして一件あたりの医療費が高額化していることを意味します。救急搬送や手術、入院を伴うケースでは、保険未加入の場合、数十万円から数百万円に達することも珍しくありません。
医療機関側も、外国人患者を拒否したくてしているわけではありません。むしろ、救急医療の現場では「目の前の命を救う」ことが最優先されます。その結果、支払い能力の確認が後回しになり、未収金が発生してしまうのです。
この構造は、善意と制度の隙間で成り立っています。そして、その“しわ寄せ”が、医療機関だけでなく、社会全体に広がりつつあるのが現在の状況です。
この問題を放置すれば、「外国人患者を受け入れない」という空気が広がり、結果的に真面目に生活している在日外国人や、外国人労働者を支えている企業にも悪影響が及びかねません。
3. 保険未加入で起こるリスク──訪日外国人と在住外国人、両者の盲点
医療費未払い問題の根本原因の一つが、「保険未加入」です。ただし、ここで注意すべきなのは、問題が訪日観光客だけに限られていないという点です。
まず、短期滞在の訪日外国人については、日本の公的医療保険に加入する義務はありません。そのため、本来は海外旅行保険などの民間医療保険に加入してから来日するのが望ましいのですが、実際には「保険に入らずに訪日する」ケースが後を絶ちません。
一方で、より深刻なのが、日本に3か月を超えて滞在する在留外国人です。原則として、国民健康保険や社会保険への加入義務がありますが、在留資格の期限切れ、保険料の滞納、制度理解不足などの理由で「有効な保険証を持っていない」状態に陥る人が少なくありません。
特に、企業が雇用している外国人労働者が、社会保険の加入条件を満たしているにもかかわらず未加入だった場合、その責任は企業側にも及びます。これは単なる事務ミスでは済まされない問題です。
また、外国人本人が「病院に行くと高額請求されるかもしれない」という不安から、受診を先延ばしにし、結果として重症化してしまうケースもあります。そうなると医療費はさらに高額になり、支払い不能に陥るリスクが高まります。
保険未加入は、本人・医療機関・企業のすべてにとって不幸な結果を招きます。この現実を直視しなければ、問題は今後も拡大していくでしょう。
4. 国の対応が厳格化へ──入国審査・在留審査への影響
こうした状況を受けて、国はついに制度面での「実力行使」に乗り出そうとしています。現在は、20万円以上の医療費を支払わずに帰国した外国人について、次回の入国審査を厳格化していますが、これを将来的に「1万円以上」にまで引き下げる方向で検討が進められています。
これは非常に大きな転換点です。つまり、比較的少額の未払いであっても、日本への再入国が難しくなる可能性があるということです。さらに、今後は中長期在留者についても、医療費不払い情報を在留資格更新審査に活用する方針が示されています。
ここで重要なのは、「本人が支払わなかった」という事実が、在留資格の更新や変更に影響する可能性があるという点です。たとえ、企業が直接関与していなくても、従業員が在留資格を失えば、雇用は継続できません。
企業にとっては、ある日突然「更新できませんでした」「再入国できませんでした」という事態が発生するリスクが現実のものとなります。これは、人材戦略上、極めて大きな経営リスクです。
国のメッセージは明確です。
「外国人を受け入れる以上、制度を守ることが前提である」
今後は、「知らなかった」「本人任せだった」という言い訳は通用しなくなります。外国人本人も、企業も、制度理解と適切な対応が強く求められる時代に入ったのです。
次章では、外国人を雇用する企業が具体的にどのようなリスクを負い、何をすべきかについて、さらに踏み込んで解説していきます。
5. 外国人を雇う企業が知っておくべきリスクと責任
外国人材を雇用する企業は、法令遵守はもちろんのこと、「労働者としての生活支援」や「制度的フォローアップ」に対して、一定の責任と配慮を求められる時代に入っています。医療費未払いの問題も、例外ではありません。
まず明確にしておきたいのは、「医療費の未払い=企業責任」という構造ではありません。あくまで支払義務者は本人です。しかし、実際に医療費トラブルが発生した場合、その余波は企業にも及びます。
例えば、従業員が病気で入院した際、保険証がなかったことで高額な費用が請求され、その支払いができず未収金となった場合、後にその従業員が在留資格の更新で不許可となる可能性があります。結果、企業は予定していた人員を失い、業務が回らなくなるリスクを背負うのです。
さらに、企業側が本来社会保険に加入させるべきところを怠っていた場合は、「制度違反」として指摘され、労務管理上の指導や罰則対象となる可能性も出てきます。特に近年、外国人労働者に関する法令監査は厳しさを増しており、厚生労働省や出入国在留管理庁のチェックが入るケースも増加傾向です。
また、「外国人に働きやすい企業」であるという評価は、採用力にも直結します。医療や保険、在留資格に関するサポート体制が整っている企業は、外国人材から選ばれる傾向にあります。逆に、「入社してから何の支援もなく、ビザも保険も自分任せ」という環境では、離職率が高まり、人材が定着しません。
企業としては、「雇う」だけではなく、「育て、守る」体制を築くことが、今後ますます重要になります。その第一歩として、在留資格・社会保険・医療制度の三位一体の理解と整備が求められるのです。
6. 保険未加入・在留資格切れ・滞納──企業が把握しておくべき実務リスク
外国人を雇用する際に、企業側が見落としがちなリスクの一つが、「本人任せにしてしまうこと」です。とくに、保険の加入状況や在留資格の期限管理について、「言われなかったから知らない」「自己責任でしょ」と放置していると、思わぬトラブルに発展することがあります。
たとえば、在留資格の期限が切れていることに気づかず働かせてしまった場合、それは不法就労助長罪に問われる可能性があります。仮に「本人が黙っていた」としても、企業側のチェック体制が問われ、最悪の場合は企業名の公表や罰金刑もあり得ます。
また、週28時間以内という就労制限がある資格(例:留学生や家族滞在者)を超えて勤務させた場合も、同様に企業責任が問われます。実際、「時間調整しておいて」と現場任せにした結果、アルバイトが制限を超えて働き、入管から指導が入ったという事例は多数存在します。
保険についても同様です。たとえば週30時間以上働いている外国人であれば、原則として社会保険に加入させる義務があります。これを怠ると、本人が医療費を自腹で支払うことになり、支払い不能 → 未収金 → 入管審査への影響という負の連鎖が生じます。
企業にとって最も危険なのは、「知らずに制度違反をしている状態」です。そしてこの“無意識の違反”を防ぐためには、外国人雇用に特化した制度知識と、定期的なチェック体制が欠かせません。
行政書士は、こうした実務リスクに対して「制度の壁と現場の橋渡し」を行う専門家です。雇用契約書や就労条件の確認、在留カードの有効期限チェック、社会保険加入状況の適正化など、企業が安心して外国人を雇用できる仕組みづくりをサポートします。
7. 外国人本人ができる医療費トラブルの予防策とは
医療費の未払いは制度の問題でもありつつ、本人の理解不足からくるものも少なくありません。そこで、在日外国人自身ができる「医療費トラブルを回避するための予防策」についても整理しておきましょう。
まず最初に大切なのは、「保険に必ず加入すること」です。短期滞在の旅行者であれば、出発前に海外旅行保険へ加入することが不可欠です。万が一に備えて、病気・ケガ・賠償責任までカバーする保険商品を選ぶのが望ましいでしょう。
また、3か月以上日本に滞在する外国人は、国民健康保険や会社の社会保険に加入する法的義務があります。アルバイトだから、パートだからといって未加入で済むわけではありません。企業が加入させてくれない場合は、市区町村の窓口で自ら国民健康保険への加入を相談しましょう。
さらに、病院にかかる際には「費用の目安」を事前に確認することも重要です。日本の医療機関は基本的に、診療後に費用が確定する仕組みですが、受付時に「おおよその費用はどれくらいかかりますか?」と尋ねることで、ある程度の心構えができます。
加えて、多くの自治体では、外国人向けの医療通訳サービスや、ワンストップ相談窓口を設けています。言葉の壁や制度の違いで不安を感じたときは、こうした公共のサポートを積極的に利用しましょう。
そして、最も大切なのは、「わからないままにしない」ことです。医療費、保険、在留資格、働き方──どれも生活に直結するテーマです。正しい知識を持ち、必要に応じて専門家に相談することが、自分自身を守る一番の方法です。
8. 行政書士の役割:保険・在留資格の適正化でトラブルを未然に防ぐ
私たち行政書士は、「外国人と企業の制度的な橋渡し役」として、日々さまざまな課題と向き合っています。特に医療費未払いのような問題は、在留資格や保険加入の適正化ができていれば防げたケースが多いのです。
たとえば、在留資格の更新時に必要な資料の中に「健康保険証の写し」が含まれることがあります。ここで保険未加入が発覚すれば、更新が認められない可能性もあります。また、医療費未払いがあることで、入管に「社会適応性に問題がある」と判断されてしまうリスクも無視できません。
行政書士は、こうしたリスクを事前に察知し、企業と外国人双方に適切な対策を講じることができます。
・在留資格の種類と条件の整理
・社労士と連携した、健康保険・社会保険の適用判断と加入手続きのサポート
・雇用契約書や労働条件通知書の適法性チェック
・在留カードや就労制限の確認
・外国人本人への制度説明や生活支援の提案
これらのサポートにより、企業は「知らずに違反していた」「制度を誤解していた」といったリスクから解放され、外国人本人も安心して働き、暮らせる環境が整います。
また、外国人従業員が安心して医療機関にかかれることは、結果的に企業の生産性向上や離職率低下にもつながります。体調不良を放置して重大な病気になる前に対応できれば、長期的な戦力としても活躍が期待できます。
ニセコビザ申請サポートセンターは、“書類を作るだけ”の存在ではありません。企業と外国人が互いに信頼し合い、共に未来を築くための制度的土台を整える、いわば「共生経営」のパートナーです。
「うちには関係ない」と思う前に、ぜひ一度、専門家のサポートを活用してみてください。トラブルは、起きてからでは遅いのです。
9. まとめ:制度理解と専門家連携が「共生社会」実現の鍵
外国人による医療費未払い問題は、医療現場だけの課題ではありません。入国管理、保険制度、在留資格、雇用実務──その全てが複雑に絡み合いながら、個人・企業・行政の各レベルに影響を及ぼす社会的課題です。
今回の政府の動き、つまり「医療費未払い者に対する入国審査の厳格化」や「在留資格更新への影響」という対応は、これまで以上に「制度に対する理解」と「責任ある受け入れ」が求められる時代が到来したことを意味しています。
企業としては、もはや外国人材を「雇うだけ」では済まされません。
・その人は合法的に働いているか?
・保険制度に適正に加入しているか?
・就労制限に違反していないか?
・緊急時に医療費をどうカバーするか?
これらに答えられないまま外国人を雇用している企業は、すでに大きなリスクを抱えている可能性があります。
一方で、これらのリスクをきちんと整理し、体制を整え、専門家と連携して運用している企業は、外国人材にとって魅力的な職場として選ばれやすくなります。採用力・定着率の向上、業務の安定化、そしてなにより、「共生社会」に貢献する企業としての評価が高まります。
私たちニセコビザ申請サポートセンターは、ビザや在留資格の申請支援にとどまらず、外国人雇用に関する法令対応、労務管理、保険制度の導入支援、外国人本人への制度説明など、トータルでサポートを提供しています。
今後、外国人材の活用はさらに加速するでしょう。ですが、その先にあるのは「制度対応できる企業」と「できない企業」の二極化です。
どちらの側に立つのかは、今の一歩にかかっています。
「制度のことがよくわからない」「なんとなく不安を感じている」
そう思われた企業様、外国人ご本人は、ぜひ一度、私たちにご相談ください。
未来のトラブルを防ぐために、今こそ“制度理解”と“専門家との連携”が必要です。
