1. はじめに:日本で今、起きている“埋葬をめぐる問題”とは
日本社会は今、「共生社会」の実現という大きな課題に直面しています。とくに労働力不足が深刻な地方では、外国人労働者の存在が不可欠となっており、建設、介護、農業、サービス業といった幅広い分野で、彼らの力によって地域経済が支えられているのが現状です。
そうした中、注目され始めたのが、外国人労働者が日本で亡くなったときの「埋葬」に関する問題です。これまで日本では「火葬が常識」という社会的前提がありましたが、イスラム教徒のように火葬を教義で禁じられている宗教の信者にとっては、この“常識”そのものが大きな壁となっています。
単に文化の違いではなく、「人としての最期をどう迎えるか」という尊厳に関わる問題として、今、真剣に議論されるべきタイミングに来ています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/911dd4bbe1583ab17fb65d5ee837999fa1005196?page=1
2. イスラム教と土葬の関係|なぜ火葬は選べないのか
イスラム教には、「遺体は可能な限り早く(通常24時間以内)に洗浄し、白い布で包み、土葬する」という厳格な教義があります。これは一部の宗派に限らず、世界中のムスリムに共通する死生観に基づいた重要な儀式です。
火葬は「死者を不浄にする行為」とされ、許されないものとされています。日本のように火葬が一般的な国では「なぜ火葬できないのか?」と疑問に思う方も多いかもしれませんが、宗教的価値観は非常に根深く、簡単に変えられるものではありません。
このような背景を理解しないまま、「火葬が嫌なら国に帰れ」といった発言が一部で見られることは、共生社会を目指す国として、非常に残念であり、誤解と偏見の温床になりかねません。
3. 岩屋元外相の発言が投げかけた共生社会への問い
この問題が世間の注目を集めるきっかけとなったのが、岩屋毅・前外相の発言です。岩屋氏は、「この国で真面目に働き、家族を養い、納税し、人生を全うした外国人に『火葬が嫌なら帰れ』というのは、あまりに非人道的だ」と語っています。
この発言に対してSNS上では賛否両論が巻き起こりました。なかには過激な批判も見受けられましたが、同時に「今こそ真剣に共生を考えるべき時期だ」という声も多く寄せられました。
重要なのは、意見の違いを感情的な対立にせず、冷静に「共に生きる」という視点から問題を捉えることです。岩屋氏の発言は、その出発点として、多くの人々に気づきを与えたのではないでしょうか。
4. 外国人労働者が不可欠な地域社会と日本の現状
現在、日本では約200万人以上の外国人が在留しており、その多くが労働力として地域社会の最前線で活躍しています。特に地方では、少子高齢化が進み、地元住民だけでは人手が回らない現場が急増しています。
外国人労働者は「一時的な助っ人」ではなく、地域に定住し、家族を持ち、納税し、日本社会の構成員として根づきつつある存在です。
そうした中、彼らが人生を終えたときに「弔う場所がない」「火葬しか選べない」という状況が続けば、それは単なる宗教の問題にとどまらず、「人権の問題」として大きな社会課題となります。
5. 土葬墓地の整備は国の課題?地方自治体の限界とは
日本国内で、イスラム教徒の土葬を正式に受け入れている墓地はごくわずかに限られています。多くの地域では、住民の理解不足や土地利用の問題などから、新たな土葬墓地の整備には慎重な姿勢を示しています。
こうした背景から、土葬を希望するムスリムたちは、遠方にある限られた墓地に頼らざるを得ず、遺体の輸送や費用の負担も大きくなっているのが現状です。
岩屋氏は、「これは地方自治体の努力だけでは限界がある」とし、国レベルでの対応が必要だと訴えています。確かに、外国人を受け入れる政策を進めている以上、その“最期”に関する選択肢を保障することも、国の責任と言えるでしょう。
今後、制度として「ブロックごとに土葬墓地を整備する」といった全国的な指針を整備することが、現実的な落としどころとなるかもしれません。
6. 企業が知っておくべき外国人従業員の“死後対応”とは
企業が外国人を雇用する際、多くの人事担当者が重視するのは、在留資格や労働条件、福利厚生など「日常的な対応」です。しかし、見落とされがちなのが「もしもの時」、つまり従業員が亡くなった場合の対応です。
宗教的な葬儀や弔いの方法に配慮しなければ、ご遺族やコミュニティとの信頼関係を損ねかねません。特にイスラム教徒の場合、迅速な土葬を希望されるケースが多いため、企業が何も準備していなければ、パニック状態に陥ってしまうことも。
遺族の渡航支援や書類の整備、行政との調整など、やるべきことは多岐にわたります。こうした緊急対応に備えたマニュアルや体制の構築を企業に提案し、平時から備えておくことの重要性をお伝えしています。
7. 人権と地域住民の不安——宗教的配慮と調整のバランス
土葬墓地の整備には、宗教的な自由の尊重という「人権」の視点と、地域住民の「安心・安全」を守る視点のバランスが求められます。
たとえば、「衛生面は大丈夫か?」「地下水への影響は?」「不動産価格への悪影響は?」といった声は、行政への問い合わせでもよく聞かれます。これに対し、科学的根拠のある説明や現場見学、自治体主導の説明会などが効果的な対応手段となります。
宗教的配慮は、あくまで地域と共にあるものでなければなりません。相互理解のための「対話」と「制度」が不可欠であり、こうした調整の設計こそがいま必要とされているのです。
8. 法制度の未整備が生む現場の混乱とそのリスク
現状の日本では、土葬に関する明確なガイドラインや全国統一の規定が存在していません。そのため、自治体ごとに対応が異なり、民間企業や家族、宗教団体が対応に苦慮するケースが少なくありません。
たとえば、ある自治体では土葬が認められていても、隣の自治体では受け入れが拒否される。あるいは、行政手続きの不備で埋葬が遅れ、宗教的に重要な「24時間以内の埋葬」が叶わないといった事態も起こり得ます。
こうした不明確さが、企業や地域住民、外国人労働者本人にとって大きなストレスとなり、ひいては共生社会への信頼を損なうことになります。制度の整備は、今後の日本社会における急務と言えるでしょう。
9. 行政書士としてできる支援と、企業への提案
行政書士は、ビザや在留資格といった入管分野の専門家であると同時に、多文化対応に関する法務アドバイザーでもあります。外国人を雇用する企業に対しては、契約内容の整備から、緊急時の対応手順、社内ガイドラインの作成まで幅広く支援可能です。
また、イスラム教徒の従業員を雇用する場合には、食事、礼拝、休日、そして死後の対応に至るまで、事前に配慮事項を整理しておくことが非常に重要です。
「そこまで気を回す必要があるのか?」と思われる方もいるかもしれません。しかし、それこそが「共生」を実現するための第一歩であり、企業の信頼力や雇用継続にも直結するポイントです。
10. まとめ:共に生きる社会へ——「最期の願い」に寄り添う視点を
私たちが目指す「共生社会」とは、日々の生活だけでなく、人生の最期にまで心を寄せられる社会です。宗教的信条を持つ外国人が、自らの人生を日本で全うしたあと、その「最期の願い」に耳を傾けること。それこそが、真の意味での“共に生きる”ということではないでしょうか。
企業、自治体、そして専門職が連携し、制度と配慮を積み重ねていくことで、日本社会はより寛容で持続可能な社会へと進化できると信じています。
外国人雇用を行っている企業様におかれましては、ぜひ一度、自社の対応体制を見直してみてください。万が一に備えることが、日常の信頼構築につながります。制度設計や多文化共生に関するご相談は、ぜひ行政書士にご相談ください。
