はじめに
2026年3月23日、朝日新聞に掲載された記事「ごみ出しルールの周知難しく 外国人と共生『カギ握るのは自治会』」は、多文化共生社会の現実を私たちに突きつけました。群馬県伊勢崎市の境百々東地区では、全約370世帯の3分の1が外国籍住民。そこで起きているごみ出しルールをめぐる問題は、決して他人事ではありません。
私たち行政書士として、ビザ申請や在留資格手続きに携わる中で、「法的手続きだけでは真の共生は実現しない」と痛感しています。本記事では、伊勢崎市の事例を通じて、外国人雇用企業が果たすべき役割、在日外国人が直面する課題、そして私たち専門家ができることを深く掘り下げていきます。
1. 群馬県伊勢崎市で起きていること―共生社会の最前線
1-1. 全世帯の3分の1が外国籍という現実
群馬県は製造業が盛んで、労働力として外国人を積極的に受け入れてきました。住民に占める外国人の割合は4%台半ばと、東京都に次ぐ全国2位の水準です。
伊勢崎市の境百々東地区は、その中でも特に外国人比率が高い地域。バングラデシュやフィリピンなど、アジア各国から来た住民が約3分の1を占めています。
1-2. ごみ出しルールが守られない理由
町内会長の上野隆男さん(74歳)によると、地域で最も大変なのがごみの整理整頓だそうです。
主な問題:
- 指定日以外の粗大ごみ投棄
- 分別ルールの不徹底
- 缶やペットボトルが「燃えないごみ」の袋に混入
- 毎月約10人が転出入するため、ルール周知が困難
町内会は年2回、外国人住民向けにごみ出しの説明会を開催していますが、人の入れ替わりが激しく、徹底が難しいのが実情です。
1-3. 衝撃的な事例―子牛の頭と脚が捨てられていた
2025年春、「燃えるごみ」の日に異様な半透明のポリ袋が捨てられていました。周辺には血痕。警察官立ち会いのもとで袋を開けると、子牛の頭二つと脚4本が出てきたそうです。
だれが捨てたのかは分かりませんでしたが、アジアには牛や豚を自分で解体して食べることが珍しくない国があります。上野さんは「日本人が捨てたとは考えにくい」と語ります。
これは決して悪意によるものではありません。しかし、文化や習慣の違いが、地域社会との摩擦を生んでしまう典型的な事例です。
1-4. 町内会の苦労―月2回、1時間の分別作業
収集業者が「違反」だとして回収しなかったごみは、上野さんら町内会の委員10人が2班に分かれて月2回、1時間近くかけて分別し直しています。
「そのままにしていれば、さらに違反ごみが積み重なる。日本人住民の間で『日本社会に溶け込もうとしない』との不満が膨らみかねない」と上野さん。
監視カメラを1台から4台に増やしましたが、夜間だと投棄者の特定は難しく、違反者を突き止めた時にはすでに引っ越していることもあるそうです。
2. 「日本人ファースト」の真意―排除ではなく共生のルール
2-1. 若い世代の声
地元の若い世代は、外国人が身近な環境で育ちました。NPO法人アスワード代表の山本祥一さん(23歳)もその一人です。
小学生の頃からクラスには数人の外国人がいました。かつては南米の日系人ら、日本に根付いて長期に住む人が中心でしたが、近年は数年働いて母国に帰るアジア出身の労働者が増え、ごみ出しなどの問題が目立ってきたといいます。
山本さんは「郷に入れば郷に従って欲しい」と話します。
2-2. 「日本人ファースト」は排他主義ではない
2024年の参院選で、伊勢崎市では「日本人ファースト」を掲げた参政党の候補が、自民党候補を上回る票を得ました。
山本さんも「『日本人ファースト』はおかしいとは考えていません」と語ります。これは外国人を排除するという意味ではなく、「増え続ける外国人に日本のルールを守ってもらいながら、共生を進める必要がある」という考えです。
2-3. 多文化共生の未来へ
山本さんは今、地元の経営者や自治会長、イスラム教の礼拝所のバングラデシュ人指導者らと、空洞化が進む境地区の街づくりを話し合っています。
「これからムスリム(イスラム教徒)の人たちも増えるでしょう。みんなが暮らしやすく、活気のある街にしたい」
この言葉には、排除ではなく「ルールを共有した上での共生」という明確なビジョンが感じられます。
3. 外国人雇用企業が果たすべき役割
3-1. ビザ取得はゴールではなくスタート
企業の人事担当者の皆様にお伝えしたいのは、「ビザ取得はゴールではなくスタート」だということです。
在留資格を取得し、日本で働けるようになったとしても、それだけでは不十分です。外国人労働者が地域社会に溶け込み、安心して働ける環境を整えることが、企業の重要な責任です。
3-2. 雇用時に行うべき生活ルール説明
ごみ出しルール
- 地域ごとに異なる分別方法
- 収集日と収集時間
- 粗大ごみの出し方と予約方法
- ごみ袋の種類と購入場所
地域社会とのかかわり
- 自治会・町内会への加入
- 地域行事への参加
- 近隣住民への挨拶
- 騒音やにおいへの配慮
公共マナー
- 道路交通ルール
- 公共交通機関の利用方法
- 公園や公共施設の使い方
これらを、採用時のオリエンテーションで必ず説明することをお勧めします。
3-3. 継続的なサポート体制の構築
外国人労働者が困った時に相談できる窓口を社内に設けることも重要です。
具体的な取り組み例:
- 外国人社員専用の相談窓口設置
- 多言語対応のマニュアル作成
- 定期的な面談の実施
- 地域の日本語教室への紹介
- 生活トラブル発生時のサポート
3-4. 地域社会との連携
企業が地域社会と連携することで、外国人労働者の受け入れがスムーズになります。
連携の方法:
- 自治会への事前相談と情報共有
- 地域イベントへの参加協力
- 外国人社員と地域住民の交流機会創出
- トラブル発生時の迅速な対応
伊勢崎市の事例が示すように、地域の負担を軽減するためにも、企業の積極的な関与が求められています。
4. 在日外国人が知っておくべきこと
4-1. 日本の生活ルールは「知らない」では済まされない
多くの外国人の方が、悪意なく日本のルールを破ってしまいます。しかし、「知らなかった」では済まされないこともあります。
特にごみ出しルールは、地域社会との最初の接点。ここでつまずくと、近隣住民との関係が悪化し、孤立してしまう可能性があります。
4-2. 自分から情報を取りに行く姿勢
日本の行政サービスや地域の情報は、自分から取りに行かないと得られないことが多いです。
情報収集の方法:
- 市区町村の外国人相談窓口を利用する
- 国際交流協会や外国人支援団体に相談する
- 職場の上司や同僚に聞く
- SNSで同じ国出身のコミュニティに参加する
- 日本語教室に通う
4-3. 地域社会への参加
自治会や町内会への加入は、地域に溶け込む第一歩です。
参加のメリット:
- ごみ出しルールなど生活情報が得られる
- 災害時の支援を受けられる
- 地域住民との交流ができる
- 日本の文化や習慣を学べる
- 困った時に相談できる人ができる
5. 行政書士ができること―法的手続きの先にあるサポート
5-1. 在留資格手続きの専門家として
私たち行政書士は、以下のような在留資格手続きをサポートしています。
主な業務:
- 在留資格認定証明書交付申請
- 在留期間更新許可申請
- 在留資格変更許可申請
- 永住許可申請
- 就労資格証明書交付申請
- 資格外活動許可申請
5-2. 企業向けサポート
外国人雇用企業に対しては、以下のようなサポートを提供しています。
企業向けサービス:
- 雇用可能な在留資格のアドバイス
- 必要書類の準備サポート
- 入管への申請代行
- 雇用後のコンプライアンス指導
- 外国人社員向け生活ルール研修
- トラブル発生時の相談対応
5-3. 生活サポートの重要性
しかし、私たちの役割は法的手続きだけではありません。
伊勢崎市の事例が示すように、外国人が地域社会に溶け込むためには、生活面でのサポートが不可欠です。
生活サポートの内容:
- 日本の生活ルール説明資料の多言語提供
- 自治体への各種届出サポート
- 住居探しのアドバイス
- 公共サービスの利用方法案内
- 緊急時の相談対応
5-4. 企業・外国人・地域をつなぐ橋渡し役
私たち行政書士は、企業、外国人、地域社会をつなぐ橋渡し役でもあります。
具体的な取り組み:
- 企業と自治会の連携サポート
- 外国人コミュニティと地域の交流促進
- トラブル発生時の調整役
- 多文化共生に関する情報提供
6. 多文化共生社会実現のために
6-1. 三者の協力が不可欠
真の多文化共生社会を実現するには、以下の三者の協力が不可欠です。
1. 企業
- 雇用責任を自覚する
- 生活ルール教育を徹底する
- 地域社会と連携する
2. 外国人
- 日本のルールを学び、守る
- 地域社会に積極的に参加する
- 困った時は遠慮なく相談する
3. 地域社会
- 文化の違いを理解する
- 外国人を排除せず受け入れる
- 行政や専門家と連携する
6-2. 「日本人ファースト」の正しい理解
「日本人ファースト」という言葉は、ともすれば排外主義と誤解されがちです。しかし、山本さんの言葉が示すように、その真意は「ルールを守った上での共生」です。
外国人に日本のルールを守ってもらうことは、決して排他的な考えではありません。むしろ、お互いが安心して暮らすための大前提なのです。
6-3. 文化の違いを「知る」ことから始める
伊勢崎市で起きた子牛の件のように、文化や習慣の違いによるトラブルは避けられません。
大切なのは、そうした違いを「知る」こと。そして、相手の文化を尊重しつつ、日本のルールを丁寧に説明することです。
企業ができること:
- 外国人社員の出身国の文化を学ぶ
- 文化の違いを前提とした研修を実施する
- 誤解やトラブルを未然に防ぐコミュニケーション
地域社会ができること:
- 外国人住民との交流イベント開催
- 多言語での情報提供
- 文化の違いへの寛容さ
7. 今後の展望―共生社会への道筋
7-1. 群馬県の取り組み
群馬県は外国人住民比率が高いため、多文化共生に向けた取り組みを積極的に進めています。
県の施策例:
- 多言語での生活情報提供
- 外国人相談窓口の設置
- 日本語教育の支援
- 企業向けの雇用ガイドライン作成
7-2. 全国的な課題
しかし、外国人との共生は群馬県だけの問題ではありません。全国どこでも起こりうる課題です。
今後必要な取り組み:
- 国による統一的なガイドライン策定
- 地域の受け入れ体制整備への支援
- 企業への雇用責任の明確化
- 外国人への生活ルール教育の徹底
7-3. 私たち専門家の使命
私たち行政書士には、法的手続きのプロフェッショナルとしてだけでなく、多文化共生社会実現のための橋渡し役としての使命があります。
今後の取り組み:
- 企業向けセミナーの開催
- 外国人向け生活ガイドの作成
- 地域社会との連携強化
- トラブル予防のための情報発信
おわりに
群馬県伊勢崎市の事例は、多文化共生社会の現実を私たちに突きつけました。
町内会長の上野さんの「外国人とは文化や国民性の違いがある。地域のルールを根気強く教え、はみ出していたらすぐに手当てしないといけない。『共生』のカギを握るのは自治会です」という言葉が印象的です。
しかし同時に、企業も、私たち専門家も、そして行政も、それぞれの立場で責任を果たさなければなりません。
ビザ取得はあくまでスタート。外国人が地域に溶け込み、安心して働き、暮らせる環境を整えることが、真の多文化共生社会への道です。
在日外国人の皆様へ:
日本での生活に不安や疑問があれば、遠慮なくご相談ください。ビザや在留資格のことだけでなく、生活全般についてもサポートいたします。
外国人雇用企業の人事担当者の皆様へ:
外国人雇用は、法的手続きだけでは成功しません。雇用後の生活サポート、地域社会との連携まで含めた包括的な支援が必要です。お困りのことがあれば、ぜひ一度ご相談ください。
私たちは、法律の専門家として、そして多文化共生社会実現のパートナーとして、皆様をサポートいたします。
【この記事のポイント】
✓ 群馬県伊勢崎市では全世帯の3分の1が外国籍住民
✓ ごみ出しルール違反が地域社会との摩擦を生んでいる
✓ 文化の違いを「知る」ことが共生の第一歩
✓ 企業は雇用後の生活サポートまで責任を持つべき
✓ 「日本人ファースト」=ルールを守った上での共生
✓ 行政書士は法的手続きと生活サポートの両面で支援
【参考記事】
朝日新聞「ごみ出しルールの周知難しく 外国人と共生『カギ握るのは自治会』」
2026年3月23日 17時00分