1. はじめに―外国人材採用の「その後」が問われる時代
人手不足が深刻化する中、外国人材の採用に踏み切る企業が年々増えています。しかし、採用した外国人社員がすぐに辞めてしまう、生活面でのトラブルが絶えない、地域住民との摩擦が生じるといった課題を抱える企業も少なくありません。
外国人材の採用は「ビザを取って入国させる」ことがゴールではありません。本当のゴールは「定着」「戦力化」「地域との共生」です。そのためには、企業だけでなく、地域全体で外国人を支える仕組みが不可欠です。
今回、茨城県で進められている「IBARAKIネイティブコミュニケーションサポーター」制度が100人を突破したというニュースを目にし、行政書士として、そしてビザ申請や在留資格の専門家として、深く考えさせられました。
この記事では、茨城県の取り組みを詳しく紹介しながら、外国人材を雇用する企業の経営者や人事担当者、そして在日外国人の皆さんに向けて、今後の外国人材受け入れに必要な視点と実践的なアドバイスをお伝えします。
2. 茨城県「IBARAKIネイティブコミュニケーションサポーター」制度とは
茨城県が2024年1月に創設した「IBARAKIネイティブコミュニケーションサポーター」制度は、日本語の理解が十分でない在留外国人に対し、母語での生活相談や情報提供を行う仕組みです。
制度開始からわずか2年で、認定者は104人に達し、24の国(地域)出身、21言語に対応しています。サポーターは県内在住で日本語での日常会話が可能な方が対象で、外国人コミュニティーでの活躍が期待される人材です。
サポーターの主な活動内容は以下の通りです。
- 県の行政情報や交通ルールの周知
- 病院や役所への付き添い
- 子育て相談
- 労働相談
- 生活全般に関する相談対応
注目すべきは、サポーターには報酬がなく、交通費などを含む活動費として月2,000円が支給されるのみという点です。それにもかかわらず、多くの方がボランティア精神と地域貢献の思いで活動しています。
3. 支援実績から見える在留外国人の「困りごと」の実態
2025年4月から12月までの支援実績は計1,806件に上ります。その内訳を見ると、在留外国人が直面している課題が浮き彫りになります。
- 役所・免許関係手続きへの同行など:401件
- 病院への同行など:268件
- 情報周知:794件
- 子育て関係相談対応など:73件
- 労働関係相談対応など:69件
この数字から分かることは、外国人が日常生活で直面する「言葉の壁」の深刻さです。役所での手続き、病院での受診、子育て、仕事の悩みなど、日本人なら当たり前にできることが、外国人にとっては大きなハードルになっています。
企業で働く外国人社員も、仕事以外の場面でこうした困難に直面しています。そして、こうした生活面のストレスが蓄積すると、仕事のパフォーマンスにも影響し、最悪の場合は離職につながります。
4. 企業が知っておくべき「地域の支援体制」の重要性
外国人材を雇用する企業にとって、地域の支援体制は極めて重要です。なぜなら、企業だけで外国人社員の生活全般をサポートすることは現実的に不可能だからです。
例えば、外国人社員が病気になったとき、企業の担当者が病院に付き添うことはできるでしょうか?子どもの学校の手続きを手伝うことはできるでしょうか?交通事故に遭ったときに警察や保険会社とのやり取りをサポートできるでしょうか?
これらは企業の業務範囲を超えています。だからこそ、地域の支援制度や専門家と連携することが不可欠なのです。
茨城県のサポーター制度のような地域の仕組みがあれば、企業は本来の業務に集中でき、外国人社員も安心して働き続けることができます。人事担当者の負担も大幅に軽減されます。
また、外国人社員が地域とつながることで、孤立を防ぎ、地域社会への帰属意識も高まります。これは長期的な定着に直結します。
5. 多文化共生とは何か―NPO代表の言葉から学ぶ
茨城県が2月12日に古河市で開催した研修会では、NPO法人多文化共生マネージャー全国協議会の土井佳彦代表理事が講師として参加し、多文化共生について次のように語りました。
「多文化共生とは、ただ困っている外国人を助けるものでも、外国人に働きに来てもらうものでもない。同じ住民としてどんな地域にしていくか一緒に考えることだ」
この言葉は、外国人材を雇用する企業にも通じる重要な視点です。外国人を単なる「労働力」として見るのではなく、「共に地域を作る仲間」「共に会社を成長させるパートナー」として受け入れる。そのマインドセットが、結果的に定着率を高め、企業の競争力を強化します。
研修会のグループワークでは、参加者から以下のような意見が出ました。
- 「地域の自治会に相談することも必要」
- 「日本の文化(慣習)などを地域の人々から教えてもらえるような環境になってほしい」
これらの声は、外国人が単に「支援される側」ではなく、地域社会の一員として積極的に関わりたいと思っていることを示しています。
6. 外国人材の定着を左右する「生活支援」の視点
外国人材の定着において、最も重要な時期は「入国後3カ月から6カ月」と言われています。この時期は、日本の生活に慣れず、言葉の壁に苦しみ、文化の違いに戸惑う時期です。
この時期に適切なサポートがあるかどうかが、その後の定着を大きく左右します。企業ができることとしては、以下のような取り組みが考えられます。
- 住居の確保支援(保証人、初期費用の補助など)
- 生活オリエンテーション(ゴミ出し、交通ルール、買い物など)
- 日本語学習の機会提供
- 相談窓口の設置(社内または外部専門家との連携)
- 同国籍の先輩社員によるメンター制度
- 地域の支援制度(サポーター制度、国際交流協会など)の紹介
特に最後の「地域の支援制度の紹介」は、企業の負担を軽減しながら外国人社員の安心につながる有効な手段です。
7. 企業がすぐに実践できる受け入れ体制の整え方
外国人材の受け入れを成功させるために、企業が今日からできることを具体的にご紹介します。
【ステップ1:地域の支援制度を調べる】
自社がある地域に、どのような外国人支援制度があるかを調べましょう。国際交流協会、多文化共生センター、外国人相談窓口などが設置されている自治体も多いです。
【ステップ2:専門家とのネットワークを作る】
行政書士(在留資格)、社労士(労務管理)、税理士(税務)など、外国人雇用に関わる専門家とつながりを持ちましょう。問題が起きてから探すのではなく、事前に相談できる体制を整えておくことが重要です。
【ステップ3:社内の受け入れ体制を整える】
外国人社員が孤立しないよう、メンター制度やバディ制度を導入しましょう。日本人社員に対しても、多文化共生の研修を行うことが望ましいです。
【ステップ4:生活面のサポート体制を明確にする】
病院、役所、銀行などでのサポートをどこまで企業が行うのか、どこから地域の支援制度や専門家に任せるのかを明確にしましょう。
【ステップ5:定期的なフォローアップ】
入国後1カ月、3カ月、6カ月など、節目のタイミングで外国人社員と面談を行い、困っていることがないかヒアリングしましょう。
8. 在留資格の専門家として感じる「入口」と「その先」の課題
私たちニセコビザ申請サポートセンターは、在留資格の申請や変更、更新といった「入口」の部分をサポートしています。技術・人文知識・国際業務、特定技能、技能実習、家族滞在など、様々な在留資格がありますが、いずれも「日本に滞在できる資格」を得るための手続きです。
しかし、ビザを取得して入国することは、あくまでスタートラインに過ぎません。その先の「生活」「定着」「共生」こそが本当の課題です。
残念ながら、在留資格の手続きだけを終えて、その後は企業任せ、本人任せになってしまうケースも少なくありません。その結果、生活に馴染めず、トラブルを抱え、離職してしまう外国人が後を絶ちません。
だからこそ、私たちのような専門家も「入口」だけでなく「その先」まで視野に入れた支援が必要だと感じています。具体的には、以下のような取り組みが求められます。
- 在留資格申請時に、生活支援制度の情報も併せて提供する
- 企業に対し、受け入れ後のフォロー体制についてもアドバイスする
- 地域の支援団体や他の専門家(社労士、税理士など)と連携する
- 外国人本人が困ったときに相談できる窓口を案内する
茨城県のサポーター制度のような取り組みは、まさに「その先」を支える仕組みであり、こうした地域の力と専門家、企業が連携することで、外国人材の真の定着が実現すると考えています。
9. まとめ―外国人材と企業、地域が共に豊かになるために
茨城県の「IBARAKIネイティブコミュニケーションサポーター」制度は、外国人支援の新しいモデルとして注目されます。報酬なしのボランティアでありながら、2年間で100人を超えるサポーターが誕生し、1,800件以上の支援実績を生み出しているという事実は、地域の力の大きさを物語っています。
一方で、市町村ごとの配置の偏りや対応言語の不足など、課題も残っています。県は2029年度までに150人体制を目指していますが、外国人人口の増加スピードに対応するには、さらなる拡充が必要でしょう。
企業にとって、外国人材の採用は経営戦略の一つです。しかし、採用して終わりではなく、定着させ、戦力化し、地域と共生させることまでが本当の成果です。そのためには、企業だけで完結しようとせず、地域の支援制度、専門家、行政と連携することが不可欠です。
在日外国人の皆さんにとっても、地域の支援制度を知り、積極的に活用することが、安心して暮らすための第一歩になります。困ったときは一人で抱え込まず、サポーターや専門家に相談してください。
多文化共生とは、「困っている外国人を助けること」だけではなく、「同じ住民として一緒に地域を作ること」。この視点を、企業も、外国人も、そして私たち専門家も共有することが、これからの日本社会に求められています。
私たちニセコビザ申請サポートセンターも、ビザ申請という「入口」だけでなく、その先の「生活」や「定着」まで視野に入れた支援を続けてまいります。外国人材の採用、在留資格、定着支援でお困りのことがありましたら、いつでもお気軽にご相談ください。
外国人材と企業、そして地域が共に豊かになる未来を、一緒に作っていきましょう。
参考記事:
《広角レンズ》在留外国人 孤立化防げ 茨城県母語支援サポーター100人突破 市町村の配置に偏り(茨城新聞クロスアイ)
https://news.yahoo.co.jp/articles/cdca38db1f7c273307f8871f77102df24257494b
