1. はじめに:地方介護現場における人材流出の現実

介護業界は深刻な人手不足に直面しており、特に地方では若年層の労働力確保が難しい状況が続いています。そのため、外国人介護人材の受け入れが進んでいますが、採用後に都市部へ転職してしまうケースが増えており、大きな課題となっています。

「時間とコストをかけて育てたのに辞められてしまった」「ようやく戦力になったと思ったら、大都市に引き抜かれてしまった」——こんな声が、全国の介護事業者から聞こえてきます。特に、技能実習から特定技能へと在留資格が移行したタイミングでの離職が多く、事業者側にとっては経済的にも精神的にも大きな損失です。

このような「人材流出」は、都市部と地方の賃金格差や生活環境の違い、そして制度の不備が複雑に絡み合った結果と言えます。しかし、すべての地域で失敗しているわけではありません。

たとえば山梨県では、外国人介護職員の定着に成功している事例があり、同じような悩みを抱える地方事業者にとって、大きなヒントになる取り組みが行われています。

https://news.yahoo.co.jp/articles/cb3987fe01c7e71bce81c7c46b137a55f4247b17?page=1

本記事では、行政書士の視点から、なぜ山梨では人材が「定着」しているのかを分析し、介護事業者が今後取り組むべき現実的かつ実践的な対策をご紹介していきます。特定技能制度を活用している企業や、今後外国人材の受け入れを検討している方にも、有益な内容となっています。


2. なぜ外国人が定着しないのか?制度のギャップと現場の声

外国人が日本の介護現場で働く場合、在留資格として主に「技能実習」「特定技能」「介護」のいずれかを取得しています。それぞれに制度上の制約や自由度が異なり、特に技能実習から特定技能への移行時に問題が生じやすくなります。

技能実習期間中は原則として転職が認められていないため、事業者は安心して育成に取り組めます。しかし、特定技能に移行した瞬間から、外国人材は自由に転職できるようになります。結果として、より高い給与や条件を提示する都市部の事業所に人材が流出するケースが後を絶ちません。

地方の介護事業者が日本語教育や介護スキルの習得支援に力を入れ、ようやく戦力として育った人材を「引き抜かれてしまう」というのは、制度上どうしても避けにくい現実です。

さらに、都市部と地方では最低賃金にも大きな差があり、生活環境の利便性も含めて、若い外国人にとって都市部の魅力はやはり大きなものとなります。こうした待遇格差は、地方の事業者にとって非常に不利な要因となっているのです。

また、制度の仕組みを十分に理解していない事業者が多いのも現状です。適切な在留資格の選定や支援体制が不十分なまま採用を進めてしまい、トラブルや離職につながることもあります。

だからこそ、制度理解と対策が不可欠です。外国人材に選ばれる企業となるためには、法制度だけでなく、生活支援やキャリア形成といったトータルサポートが求められるのです。


3. 「山梨モデル」が示す定着成功のポイント

外国人介護職員の定着率を大きく左右するのは、制度以上に「人」と「組織」の関わり方です。この点で成功を収めているのが、山梨県にある山梨メディカルケア協同組合の取り組みです。

この組合は、県内約90の介護事業所と連携し、約250名の外国人介護職員の雇用を支援しています。注目すべきは、技能実習から特定技能に移行した後も、7割以上の職員が山梨県内で引き続き就労しているという点です。他地域では定着率が2〜3割にとどまる中で、異例の高さを記録しています。

この高い定着率を支えているのは、採用前の段階から徹底された「相互理解と情報共有」です。外国人材には、事前に山梨の地域性や生活環境を動画や資料で伝え、地方での暮らしに理解と納得を持ったうえで来日してもらいます。

一方、受け入れ事業者にも、現地(外国人の出身地)を訪問し、候補者の生活背景や家族構成を理解してもらうよう努めています。こうした双方向の歩み寄りが、採用後のギャップやミスマッチを減らし、定着へとつながっているのです。

さらに、生活面でも大きな配慮がなされています。広い個室寮の提供、Wi-Fi完備、電動自転車の貸与など、「ここで暮らしたい」と思える環境を整備。待遇面でも努力が評価されるよう、昇進制度や学習支援を設け、キャリアアップを後押ししています。

このように、山梨モデルは「制度に頼るのではなく、人に寄り添う」アプローチで外国人材の心をつかみ、結果として企業側にも大きなメリットをもたらしている好事例なのです。

4. 採用前から始まるマッチングと情報共有の重要性

外国人介護人材が定着しない原因の多くは、「こんなはずじゃなかった」という来日前後のギャップにあります。そのため、採用前の段階から徹底した情報共有が欠かせません。まず外国人に対して山梨という地域の実際の生活環境を丁寧に伝えることからスタートします。都市部とは異なる地方ならではの落ち着いた暮らし、施設周辺の様子、利用者の特徴などを、動画や写真を使って事前に共有するのです。

さらに重要なのは、「田舎で暮らしたい」という志向を持つ人材を優先的に受け入れるという点です。単なる希望ではなく、生活への適性を見極めながらマッチングを行うことが、長期的な定着につながります。

一方で、受け入れ側の事業所にも積極的な姿勢が求められます。候補者の出身国へ訪問し、本人の家や生活環境、家族構成などを理解することで、採用後の支援がより的確なものになります。外国人材を単なる労働力としてではなく、生身の人間として向き合うことで、信頼関係の土台が築かれるのです。

つまり、採用前こそが定着支援の勝負どころ。お互いが「選び、選ばれる関係」を目指すことこそが、離職防止の最短ルートだといえるでしょう。


5. 住環境と待遇整備の徹底がもたらす安心感

どれだけ仕事の環境を整えても、「生活」が不安定であれば定着は望めません。外国人にとって、住まいは仕事と同じくらい重要な要素です。山梨では、快適な寮環境の整備が非常に徹底されています。例えば、6畳以上の広い個室にバストイレつき、Wi-Fi環境も完備。さらに移動手段として電動自転車を貸与し、生活の利便性にも配慮しています。

これは単なる住居提供ではありません。「ここで暮らすのが好き」と思えるかどうかが、離職を左右する大きなポイントです。職場と住環境は表裏一体であり、どちらが欠けても不満が蓄積します。

さらに待遇面でも、「頑張った分、結果が返ってくる」仕組みづくりを徹底。役職や手当を適切に付与し、モチベーション維持につなげています。実際、外国人職員の中には相談員職へステップアップする例も増えており、未来を描ける制度が整備されているのです。

定着率向上の鍵は、安心して働き続けられる「暮らしの基盤」を整備すること。これを怠れば、どれだけ研修制度を整えても人は離れてしまいます。


6. キャリア形成を支援する仕組みが定着率を変える

外国人材にとって、日本で働く目的は「お金を稼ぐ」だけではありません。多くの人はキャリアアップ、特に介護福祉士取得を視野に入れて来日しています。だからこそ、長期的な成長を支えられる仕組みづくりが求められます。

山梨メディカルケア協同組合では、学習センターを運営し、特定技能への移行支援や介護福祉士取得に必要な学習会を積極的に提供しています。仲間同士で学べる環境があることで、前向きに努力を続けられ、将来を見据えた働き方ができるようになります。

キャリアの選択肢が広がれば、「この地域でキャリアを築きたい」という意識が自然と芽生えます。反対に、将来が見えなければ、都市部へ移る誘惑に抗うことは難しいでしょう。

目の前の労働力としてではなく、5年後・10年後の人材として向き合うこと。これこそが、定着に直結する最大の投資なのです。


7. 日本人スタッフへの好影響と組織全体の活性化

外国人材の受け入れは、外国人のためだけではありません。実は、組織全体にポジティブな変化をもたらします。山梨の事例では、外国人スタッフが与える「刺激」が日本人職員の意識改革に繋がっています。

例えば、外国人が積極的に学び、資格取得へ努力する姿は、日本人スタッフにとって良い意味でのプレッシャーになり、「自分も頑張らなくては」という意欲を生み出します。その結果、本来課題であった日本人の離職率まで改善されているのです。

また、異文化理解が進むことでチームワークが強化され、利用者からの評価も向上します。職場の雰囲気がよくなれば、採用活動にも好影響を与え、魅力ある事業所へと成長していきます。

つまり、外国人受け入れは単なる労働力確保策ではなく、組織改革のきっかけにもなるということ。積極的な取り組みこそが、企業価値を大きく引き上げる未来につながるのです。

8. 法制度上の注意点と企業側の対応義務

外国人介護人材を雇用する際には、適切な在留資格の選択と、関連法令の遵守が必須です。特に介護分野は制度が複雑で、知らずに違反してしまうリスクもあるため注意が必要です。

まず、技能実習制度では、労働力確保ではなく「技能移転」が制度の目的とされています。そのため、監理団体の管理のもと、厳格な体制を取る必要があり、不当な扱いがあれば行政指導につながります。技能実習生は職場変更が原則不可であることも踏まえ、適正な支援を行わなければなりません。

一方、特定技能の場合は、外国人が転職可能であることが制度上認められています。そのため、事業者は支援計画の作成・履行が義務づけられ、生活サポートや相談窓口の整備など、多角的な支援を行う必要があります。

さらに「介護」の在留資格へステップアップさせる場合は、資格取得条件や実務要件を理解しておくことも欠かせません。制度を理解していなければ、本人のキャリア形成を阻害してしまいかねず、結果的に離職の引き金になってしまいます。

また、外国人労働者は日本人と同様に労働基準法が適用されます。賃金・労働時間・休日といった基本的な部分での不備は、すぐにトラブルや信頼の失墜につながります。

企業側が「選ばれる職場」となるためには、制度対応を最小限の義務として終わらせるのではなく、積極的に環境整備へ取り組む意識が求められます。制度の先を見据えた支援こそが、外国人介護職員の長期定着につながるのです。


9. 行政書士としての視点:在留資格選定と実務サポートのポイント

外国人雇用は、人材確保の手段であると同時に、法的手続きと密接に関わる領域です。だからこそ、行政書士が果たす役割は大きいと考えています。

例えば、「技能実習 → 特定技能 → 介護福祉士資格取得」といったキャリアパスの構築は、書類と制度に精通した専門家の関与が不可欠です。実習計画の作成、特定技能支援計画の作成、資格取得に必要な就業年数や研修履修の確認など、企業と外国人の双方を支える実務を網羅的に行います。

また、監理団体や登録支援機関との連携を円滑にし、採用後のトラブルや不安を軽減することも私たちの役割です。「採用した後にどうすればいいのかわからない」「書類不備で不許可になったらどうしよう」といった企業様の不安にも寄り添い、適切な解決策をご提示します。

外国人材の採用は、企業の未来を左右する重要な意思決定です。制度に対する正しい理解がなければ、せっかくの取り組みが逆効果になりかねません。当事務所でも法的リスクを未然に防ぎながら、定着につながる計画的な採用をサポートいたします。

外国人介護人材の活用を「成功」に導くパートナーとして、ぜひニセコビザ申請サポートセンターを活用してください。


10. まとめと提案:企業が今すぐ取り組むべき3つの対策

外国人介護人材の離職を防ぐには、制度・生活・人間関係のすべてに配慮した総合的な取り組みが必要です。特に、山梨の成功事例から学ぶべきポイントは次の3つに集約されます。

  1. 採用前の相互理解を深める情報提供と面接体制
     来日前から正しい情報を伝え、候補者の価値観や生活志向を理解することが、離職率低下の最重要ポイント。
  2. 住環境・待遇・教育支援の「見える化」
     広い個室寮、昇進制度、資格取得支援など、「働き続けたい理由」を明確に示すことが大切。
  3. 外国人を労働力ではなく“仲間”として迎える企業文化
     共に働き、成長し合う関係性が、日本人の離職率改善にもつながる。

これらを実践することで、外国人材の定着だけでなく、組織全体の活性化も期待できます。定着対策は、「外国人のためにやる」のではなく、事業所の未来を守るための投資だと捉えることが重要です。

もし貴社が「採用はできたが定着しない」「制度対応が不安だ」とお悩みでしたら、どうぞお気軽にご相談ください。現場の課題を丁寧にヒアリングし、御社に最適な対応策をご提案いたします。

外国人介護人材を“戦力”として長く活躍してもらうために、いまこそ一歩踏み出すタイミングです。