茨城県で何が起きているのか?―不法就労者数3年連続全国最多の現実
2026年2月24日、茨城県は外国人の不法就労を防止するための独自条例を制定すると発表しました。この発表の背景には、深刻な現実があります。
出入国在留管理庁の統計によれば、2024年の茨城県における不法就労者数は3,452人で、3年連続で全国最多という不名誉な記録を更新しています。さらに注目すべきは、そのうち75%にあたる約2,589人が農業分野で働いているという点です。
人口約280万人の茨城県で3,452人という数字は、決して小さくありません。これは氷山の一角である可能性も高く、実際にはもっと多くの不法就労が存在している可能性も指摘されています。
なぜ茨城県でこれほど不法就労が多いのでしょうか?
主な要因として以下が考えられます:
- 農業を中心とした深刻な人手不足
- 東京圏に近く、外国人コミュニティが形成されやすい
- 技能実習制度や特定技能制度を活用する農業事業者の増加
- 在留資格制度に対する理解不足
この状況を受けて、茨城県は本年度から産業戦略部内に「外国人適正雇用推進室」を設置し、本格的な対策に乗り出しています。今回の条例案は、その取り組みの集大成とも言えるものです。
条例案の内容を徹底解説―「罰則なし」が意味するものとは
茨城県が発表した条例案の特徴を詳しく見ていきましょう。
条例案の主な内容:
【責務の明確化】
- 県:防止策の策定と実施
- 事業者:施策への協力、適正な雇用管理
- 県民:理解と協力
【県の権限】
- 事業者への雇用状況調査
- 不法就労判明時の警察等への通報
【啓発活動】
- 毎年11月を「不法就労防止推進月間」に設定
- 広報・啓発活動の実施
- 県・市町村・事業者・県民の連携体制構築
そして最も注目すべき点は「罰則なし」という設計です。
これは一見、「実効性に欠けるのでは?」と思われるかもしれません。しかし、この設計には深い意図があります。
茨城県が目指しているのは、「取り締まり」ではなく「予防」と「啓発」です。罰則を設けて企業を萎縮させるのではなく、正しい知識を広め、みんなで協力して不法就労を防ぐ体制を作ろうという考え方です。
実際、県は「外国人材適正雇用推進宣言制度」も創設しており、企業が自主的に適正雇用にコミットできる環境を整備しています。これは「やらされる」のではなく「自らやる」という主体性を重視したアプローチです。
また、条例では日本語支援や相談体制の拡充も盛り込まれており、外国人材が活躍できる環境づくりと不法就労防止を両立させる姿勢が明確に示されています。
なぜ不法就労は発生するのか?―現場で見えてくる3つの原因
行政書士として多くの外国人の方や企業からの相談を受ける中で、不法就労が発生する主な原因は3つに集約されると感じています。
原因1:在留資格制度の複雑さと理解不足
日本の在留資格制度は非常に複雑です。現在29種類の在留資格があり、それぞれに就労可能な範囲が細かく定められています。
例えば:
- 「技術・人文知識・国際業務」では単純労働は不可
- 「留学」は原則就労不可(資格外活動許可で週28時間まで可能)
- 「家族滞在」も原則就労不可(資格外活動許可で週28時間まで可能)
- 「特定技能1号」は特定分野でのみ就労可能
この複雑さを、外国人本人も雇用する企業側も十分に理解していないケースが非常に多いのです。
「留学生だけど、週28時間を少し超えてもバレないだろう」
「技術・人文知識・国際業務だけど、人手不足だから工場ラインにも入ってもらおう」
こうした「少しくらい」という認識が、不法就労につながります。
原因2:在留期限の管理不足
在留資格には必ず期限があります。更新手続きを忘れたり、更新が不許可になったりして、在留資格を失った状態で働き続けているケースがあります。
企業側が従業員の在留期限を把握していない、あるいは「本人任せ」にしているケースも少なくありません。気づいたときには従業員が不法滞在・不法就労の状態になっていた、ということも起こり得ます。
原因3:ブローカーや悪質な仲介業者の存在
残念ながら、外国人と企業の間に入って不適切な斡旋を行う悪質なブローカーも存在します。
「この在留資格でも働けます」と虚偽の説明をしたり、在留資格の変更が必要なのにそれを隠したりするケースです。善意の企業や外国人が、知らないうちに不法就労に巻き込まれてしまうのです。
在留資格の基礎知識―外国人雇用で押さえるべきポイント
外国人を雇用する際、また外国人として日本で働く際に、最低限押さえておくべき在留資格の基礎知識をまとめます。
就労制限のある在留資格・ない在留資格
【就労制限なし】
- 永住者
- 日本人の配偶者等
- 永住者の配偶者等
- 定住者
これらの在留資格を持つ方は、どんな仕事にも就くことができます。
【就労内容が限定される在留資格】
- 技術・人文知識・国際業務
- 技能
- 特定技能
- 技能実習
- 経営・管理
など
これらは在留資格ごとに就労可能な業務内容が定められています。
【原則就労不可(資格外活動許可で制限付き就労可能)】
- 留学
- 家族滞在
資格外活動許可を取得すれば、週28時間まで(留学生は長期休暇中は1日8時間まで)アルバイトが可能です。ただし風俗営業等は不可。
在留カードの見方
外国人を雇用する際は、必ず在留カードを確認しましょう。
確認すべきポイント:
- 在留資格の種類
- 在留期限
- 就労制限の有無(裏面に記載)
- 資格外活動許可の有無(裏面に記載)
在留カードが偽造されているケースもあるため、出入国在留管理庁の「在留カード等番号失効情報照会」で確認することをお勧めします。
資格外活動許可とは
留学生や家族滞在の方がアルバイトをする場合、必ず「資格外活動許可」を取得する必要があります。この許可がないまま働くと、本人も雇用主も不法就労助長罪に問われる可能性があります。
資格外活動許可は在留カードの裏面に記載されます。「許可:原則週28時間以内・風俗営業等を除く」などの記載があれば許可されています。
企業が直面するリスク―知らなかったでは済まされない法的責任
「知らなかった」では済まされない―これが外国人雇用における最も重要なポイントです。
不法就労助長罪(入管法73条の2)
不法就労者を雇用した事業主は、「不法就労助長罪」に問われる可能性があります。
罰則:3年以下の懲役または300万円以下の罰金(またはその併科)
この罪は「知らなかった」では免責されません。在留カードを確認せずに雇用した、在留期限が切れていることに気づかなかった、という場合でも罪に問われる可能性があります。
その他の法的リスク
- 職業安定法違反:虚偽の条件で雇用した場合など
- 労働基準法違反:外国人だからといって不当な労働条件は認められません
- 技能実習法違反:技能実習生の場合、計画外の作業をさせるなど
社会的リスク
法的な罰則だけでなく、社会的な信用失墜も大きなリスクです。
- 報道による企業名の公表
- 取引先からの信頼喪失
- 採用活動への悪影響
- 許認可事業の場合、許可取消のリスク
実際、不法就労で摘発された企業のニュースは大きく報道され、企業イメージに深刻なダメージを与えます。
適正雇用のための具体的チェックリスト
では、企業はどのように外国人を適正に雇用すればよいのでしょうか。具体的なチェックリストを示します。
【採用時】
□ 在留カードの原本を確認(コピーではなく原本)
□ 在留カード番号の真正性を出入国在留管理庁のサイトで確認
□ 在留資格の種類を確認
□ 在留期限を確認
□ 就労制限の有無を確認(在留カード裏面)
□ 資格外活動許可の有無を確認(留学生・家族滞在の場合)
□ 就労予定の業務内容が在留資格で認められているかを確認
□ パスポートでの本人確認
□ 雇用契約書の作成(日本語と母国語の両方が望ましい)
□ ハローワークへの「外国人雇用状況届出」
【雇用中】
□ 在留期限の管理システム構築(期限の3〜6ヶ月前にアラート)
□ 在留期限更新の支援(必要に応じて)
□ 業務内容が在留資格の範囲内かの定期確認
□ 労働条件の遵守(日本人と同等以上の待遇)
□ 社会保険の加入
□ 税金の適正な源泉徴収
□ 定期的な面談とコミュニケーション
【退職時】
□ ハローワークへの「外国人雇用状況届出」
□ 在留資格への影響の説明(必要に応じて)
□ 社会保険・税金関係の手続き
【社内体制】
□ 外国人雇用管理責任者の選任
□ 社内マニュアルの整備
□ 定期的な社内研修の実施
□ 専門家(行政書士・社会保険労務士等)との連携体制
□ 相談窓口の設置
茨城県の取り組みに学ぶ―「選ばれる企業」になるために
茨城県の今回の取り組みは、単なる取り締まり強化ではありません。「外国人に選ばれる県」を目指すという明確なビジョンがあります。
これは企業にも当てはまります。これからの時代、「外国人に選ばれる企業」になることが競争力の源泉になります。
「選ばれる企業」の条件とは
- 適正な雇用管理体制
在留資格の管理がしっかりしている、法令遵守が徹底されている企業は、外国人から見ても「安心して働ける」企業です。 - 日本語支援
業務に必要な日本語教育を提供する、日常生活の日本語支援をする、といった取り組みは外国人材の定着率を高めます。 - キャリアパスの明確化
「この会社で働けば、こういう成長ができる」という道筋が見えることが重要です。 - 文化的配慮
宗教上の配慮(礼拝時間、食事制限など)、文化的な違いへの理解、母国の休日への配慮など、細やかな配慮が信頼関係を築きます。 - 生活支援
住居の確保、銀行口座開設、役所手続きなど、来日直後の生活立ち上げ支援は大きな安心材料になります。
茨城県の「外国人材適正雇用推進宣言制度」
茨城県が創設したこの制度は、企業が適正雇用にコミットすることを対外的に示せる仕組みです。
宣言することで:
- 企業のコンプライアンス姿勢を示せる
- 優良な外国人材の採用につながる
- 取引先や顧客からの信頼向上
- 県からの情報提供や支援を受けやすくなる
こうした制度を活用することも、適正雇用への第一歩です。
在日外国人の方へ―自分の在留資格を正しく理解していますか?
ここまで主に企業側の視点で書いてきましたが、在日外国人の皆さんご自身にも知っておいていただきたいことがあります。
あなたの在留カードを今すぐ確認してください
- 在留期限はいつですか?
→ 更新手続きは期限の3ヶ月前から可能です。ギリギリではなく、余裕を持って手続きしましょう。 - あなたの在留資格は何ですか?
→ 「技術・人文知識・国際業務」「留学」「家族滞在」など、正確に把握していますか? - 今の仕事は、その在留資格で認められていますか?
→ 留学生なのに週28時間以上働いていませんか? 技術・人文知識・国際業務なのに工場の単純作業をしていませんか? - 資格外活動許可は取得していますか?(留学生・家族滞在の方)
→ 許可なくアルバイトをすると、更新不許可や強制退去の原因になります。
「少しくらい大丈夫」は絶対にNG
「週28時間を少し超えるくらい」
「在留期限が切れたけど更新申請はしてあるから」
「友達もみんなやってるから」
こうした考え方は非常に危険です。入管法違反は:
- 在留資格の更新不許可
- 在留資格の取消
- 退去強制(強制送還)
- 上陸拒否期間の設定(再入国できない期間)
につながる可能性があります。一度退去強制になると、5年間(場合によっては10年間)日本に入国できなくなります。
困ったときは早めに相談を
「在留期限が近いけど更新できるか不安」
「転職したいけど在留資格は大丈夫?」
「会社が辞めさせてくれない」
「給料が約束と違う」
こうした悩みがあれば、すぐに専門家に相談してください。問題が大きくなる前なら、解決の道はあります。
相談先:
- 行政書士(在留資格・ビザの専門家)
- 外国人在留支援センター(FRESC)
- 法テラス(法律相談)
- 各自治体の外国人相談窓口
専門家に相談すべきタイミングとは
「こんなこと相談してもいいのかな?」と思われる方も多いのですが、以下のような状況では迷わず専門家に相談することをお勧めします。
【企業の場合】
- 初めて外国人を雇用するとき
- 在留資格と業務内容が合っているか不安なとき
- 従業員の在留期限が迫っているのに更新手続きが進んでいないとき
- 外国人従業員から転職の相談を受けたとき
- 技能実習生や特定技能外国人を受け入れるとき
- 外国人従業員とトラブルになったとき
- 雇用管理体制を見直したいとき
【外国人個人の場合】
- 在留期限の更新が近づいているとき
- 転職を考えているとき
- 在留資格を変更したいとき(留学→就労、就労→永住など)
- 結婚・離婚したとき
- 会社とトラブルになったとき
- 在留資格に関する通知が入管から来たとき
- 家族を日本に呼びたいとき
早期相談のメリット
- 選択肢が多い
問題が大きくなる前なら、取れる対策がたくさんあります。 - 時間的余裕
申請には時間がかかります。早めに相談すれば、ギリギリで焦ることがありません。 - コストが抑えられる
問題が複雑になってからより、早期に対応する方が費用も抑えられます。 - 精神的な安心
「これで大丈夫」という専門家の判断があれば、安心して働く・事業を続けることができます。
行政書士ができること
行政書士は入管法の専門家として、以下のようなサポートを提供します:
- 在留資格認定証明書交付申請(海外から外国人を呼ぶ)
- 在留資格変更許可申請(在留資格を変える)
- 在留期間更新許可申請(在留期間を延長する)
- 資格外活動許可申請(留学生等のアルバイト許可)
- 就労資格証明書交付申請(転職時など)
- 永住許可申請
- 帰化許可申請(国籍取得)
- 企業向け外国人雇用管理支援
- 在留資格に関する相談・アドバイス
まとめ―共生社会実現のために今できること
茨城県の不法就労防止条例案は、単なる規制強化ではなく、「適正管理」と「共生」を目指す先進的な取り組みです。
日本は今後も外国人材なしでは成り立たない社会になっていきます。少子高齢化が進む中、外国人材は日本経済を支える重要な存在です。
しかし、適正な管理なくして持続可能な共生はありません。
企業の皆様へ
外国人雇用は「安い労働力」ではありません。適正な管理と処遇をすれば、長期的に企業を支える貴重な人材になります。
今一度、自社の外国人雇用管理体制を見直してみてください。不安な点があれば、専門家の力を借りることを恐れないでください。
茨城県の「外国人材適正雇用推進宣言制度」のように、適正雇用にコミットする姿勢を示すことが、これからの企業の競争力になります。
在日外国人の皆様へ
日本で安心して働き、生活するために、ご自身の在留資格を正しく理解してください。
「知らなかった」「友達がやっていたから」では、あなたの日本での未来が失われてしまうかもしれません。
少しでも不安があれば、早めに相談してください。あなたの日本での生活を守るために、専門家は存在しています。
私たちにできること
ニセコビザ申請サポートセンターは行政書士として、私は外国人の方々と日本社会の「架け橋」でありたいと思っています。
複雑な制度を分かりやすく説明し、適正な手続きをサポートし、外国人材と企業の双方が安心できる環境づくりに貢献したい。
茨城県の条例案が目指す「全県を挙げての取り組み」は、すべての地域、すべての企業、すべての人に必要な視点です。
「取り締まり」ではなく「理解と協力」。
「排除」ではなく「共生」。
このアプローチこそが、多文化共生社会実現への道だと信じています。
外国人雇用や在留資格についてのご相談は、お気軽に当事務所までお問い合わせください。初回相談は無料です。
あなたの「これで大丈夫?」を「大丈夫です」に変えるお手伝いをいたします。
参考記事: https://news.yahoo.co.jp/articles/c3804e8e5f2a52da1599aac9db106e74a74a08ad
