目次
はじめに
2025年6月、都内の飲食店で働いていたミャンマー人の女性(28)が、給与から社宅費などを一方的に天引きされたとして、同社を相手に約170万円の未払い賃金請求訴訟を起こしました。6月16日付の提訴によると、初任給が「0円」であったことに加え、4月・5月も手取り4万円・12万円という生活が困難な額しか支給されなかったとのことです。
この問題は、特定技能制度を利用した外国人雇用の在り方に改めて警鐘を鳴らすものであり、制度運用の実態に大きな疑問が突きつけられています。
1. 事件の概要
- 来日・配属:2025年1月下旬に来日し、都内の飲食店店舗で勤務。基本給や固定残業代を含め、手取り約25万円と説明されていた。
- 天引き内容:社宅の敷金・礼金・家電代などが控除され、初月は「支給額ゼロ」。以後も4万円、12万円と低水準の手取りが続いた。
- 退社・訴訟:改善要求に応じられず、6月15日退職、翌日提訴。代理人弁護士は「非人道的なやり方」と批判。
2. 法的課題:労働基準法の「賃金全額払い」と天引きの制限
労働基準法第24条では、賃金は原則として全額を労働者に直接支払わなければならず、法定外控除には労働者本人の書面同意が必要です。
- 控除の前提条件:社宅費や家電代などは、労使協定や書面での同意が必要。
- 違法性の可能性:本件では一方的な天引きが行われた可能性があり、違法と判断されるリスクが高いです。
3. 疑問点:オリエンテーションや事前説明はどうなっていたのか?
- 送り出し機関でのオリエンテーション:母国で給与・控除内容を説明し、同意書を取得するはず。
- 受け入れ企業での説明:来日前後に再度説明・面談し、契約書等へのサインを取得する義務あり。
しかし、本件ではこれらの説明が形式的であったか、実質的に理解されていなかった可能性があります。制度上必要な確認プロセスが形骸化していた可能性は否定できません。
4. 制度運用の“落とし穴”になり得る現場の課題
- 言語と理解のギャップ:難解な書類では内容を十分理解できないケースが多い。
- 「サイン=理解」の誤解:説明責任を果たさずサインだけを取得する運用になっていないか。
- 送り出し機関との連携不足:現地と日本で認識が異なる場合がある。
- 相談体制の不備:入社後に問題を相談できる環境がなければ、問題は顕在化しません。
5. 企業が今すぐ見直すべきポイント
5.1 説明方法の改善
- 母語ややさしい日本語での説明を実施。
- 理解度を確認する工夫(要約してもらうなど)。
5.2 書面確認の徹底
- 書面サインだけでなく、面談記録の保存。
- 控除項目の具体的説明と金額の明示。
5.3 入社後のフォロー体制の整備
- 定期的な面談・相談窓口の設置。
- 外部専門家との連携による対応強化。
5.4 送り出し機関との情報共有
- 説明内容の一貫性を確認。
- 契約書や説明資料の相互確認体制を構築。
6. 行政書士の視点からの支援
当事務所では、以下のようなサポートを通じて外国人雇用のリスク対策を行っています。
- ビザ取得と在留資格別の契約書整備
- 控除項目の法的チェック
- オリエンテーション資料の作成支援(母国語対応可)
- 入社後の相談体制構築支援
7. まとめ──信頼ある運用が制度活用の鍵
外国人材の活用は、適切な制度運用があってこそ成功します。以下のポイントを押さえ、安心できる労務管理体制を構築しましょう。
- 手続きだけでなく、理解と納得を重視
- 透明性のある控除と労使合意
- 送り出し機関との密な情報連携
- 入社後の相談・支援体制の構築
私たち行政書士は、制度と現場をつなぐ役割を担っています。「うちの運用、問題ないだろうか?」と感じたら、ぜひお気軽にご相談ください。適切な運用が、企業と外国人材の未来を守ります。
参考リンク(出典):https://mainichi.jp/articles/20250630/k00/00m/040/107000c?inb=ys