はじめに
2026年2月27日、大阪府警交通捜査課は、正規のタクシー会社の名義を悪用して「緑ナンバー白タク」を運営していた中国籍の男ら4人を逮捕しました。この事件は約100台規模で行われ、総額3500万円以上の利益を得ていたとされています。
一見すると交通事業に関する事件のように見えますが、実は在留資格、外国人雇用、そしてコンプライアンスという、私たち行政書士が日々向き合っているテーマと深く関わっています。
この記事では、この事件を入り口に、在日外国人の方々および外国人を雇用する企業の経営者・人事担当者の皆さまが知っておくべき法的知識と実務上の注意点を詳しく解説します。
事件の概要:何が起きたのか?
逮捕された人物と容疑
逮捕されたのは、大阪市旭区に住む運送業の中国籍容疑者(37歳)ら男女4人です。刘容疑者は正規のタクシー会社の前代表取締役でした。
容疑の内容は、道路運送法違反(名義利用の禁止)です。具体的には、雇用関係のない20〜40代の男性ドライバー5人が使用する車両を、自社のタクシーとして偽って登録し、緑ナンバー(事業用自動車)を不正に取得させたというものです。
ビジネスモデルと規模
刘容疑者は、1台あたり月額8万〜10万円を徴収する見返りに名義を貸していました。これまでに約100台の名義貸しを行い、合計3500万円以上を受け取っていたとみられています。
ドライバーたちは主に中国人観光客を対象に、関西国際空港やホテルから京都・奈良などの観光地へ送迎するサービスを提供しており、売上総額は5000万円以上に上る可能性があるとされています。
法的問題点
この事件には複数の法令違反が含まれています。
- 道路運送法違反(名義貸し):正規事業者が名義を他人に貸すことは禁止されています。
- 道路運送法違反(無許可営業):ドライバー5人も無許可でタクシー営業を行ったとして摘発されました。
- 潜在的な入管法違反:報道では明示されていませんが、在留資格で認められていない活動を行っていた可能性もあります。
在留資格とは?外国人が日本で働くための基本ルール
在留資格の種類と就労制限
日本に滞在する外国人は、必ず何らかの在留資格(ビザ)を持っています。在留資格には大きく分けて、就労が認められるものと認められないものがあります。
就労が認められる主な在留資格:
- 技術・人文知識・国際業務
- 技能
- 特定技能
- 永住者
- 定住者
- 日本人の配偶者等
就労が制限される在留資格:
- 留学
- 家族滞在
- 短期滞在(観光ビザ)
在留資格と職種の一致が必須
重要なのは、在留資格ごとに従事できる業務内容が決まっているということです。たとえば「技術・人文知識・国際業務」の在留資格では、専門的な知識や技術を要する業務(エンジニア、通訳、貿易事務など)に従事できますが、タクシー運転手や工場の単純作業などは認められていません。
資格外活動とは?
在留資格で認められていない活動を行うことを資格外活動といいます。資格外活動を行うには、事前に「資格外活動許可」を取得する必要があります。
たとえば留学生がアルバイトをする場合、週28時間以内という制限付きで資格外活動許可を得ることができます。しかし、許可なく働いたり、許可された範囲を超えて働いたりすると、不法就労となります。
今回の事件で問われる「在留資格上の問題」
ドライバーたちの在留資格は適正だったのか?
報道では、摘発されたドライバー5人の在留資格については明示されていません。しかし、以下のような問題が考えられます。
ケース1:就労が認められない在留資格で働いていた
たとえば「留学」「家族滞在」「短期滞在」などの在留資格で、資格外活動許可を得ずにタクシー運転手として働いていた場合、不法就労に該当します。
ケース2:就労可能だが職種が合致しない
「技術・人文知識・国際業務」などの在留資格を持っていても、タクシー運転手としての業務は認められていません。この場合も資格外活動となります。
ケース3:永住者や配偶者ビザの場合
「永住者」「定住者」「日本人の配偶者等」などの身分系在留資格であれば、職種の制限はありません。しかし、今回のような無許可営業に加担すること自体が別の法令違反となります。
在留資格取り消しのリスク
入管法では、在留資格に該当する活動を行っておらず、かつ正当な理由がない場合、在留資格が取り消されることがあります(入管法第22条の4)。
また、虚偽の申請や不正な手段で在留資格を取得した場合も取り消し事由となります。今回の事件で、もしドライバーたちが不適切な在留資格のまま就労していたとすれば、在留資格取り消しや在留期間更新不許可のリスクが非常に高くなります。
企業が問われる「不法就労助長罪」とは?
不法就労助長罪の概要
外国人を雇用する企業にとって最も注意すべきなのが、不法就労助長罪です。
入管法第73条の2では、以下の行為を行った者に対して3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその両方が科されると定められています。
- 事業活動に関して、外国人に不法就労活動をさせた者
- 外国人に不法就労活動をさせるために、その者を自己の支配下に置いた者
- 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為または上記2の行為に関して斡旋した者
「知らなかった」は通用しない
企業側が「知らなかった」と主張しても、在留カードの確認を怠っていた場合や、明らかに不自然な雇用形態であった場合には、過失が認定される可能性があります。
入管法では、雇用主には在留カードを確認する義務があります(労働施策総合推進法第28条)。また、在留資格と業務内容の整合性を確認することも求められています。
名義貸しが企業に与えるダメージ
今回の事件のような「名義貸し」は、道路運送法違反であると同時に、入管法上も問題になる可能性があります。
実態のない雇用契約を結んで在留資格の申請を支援する行為は、虚偽申請への加担とみなされ、企業側も刑事責任を問われる可能性があります。また、社会的信用の失墜、取引先との契約解除、さらには事業許可の取り消しなど、企業経営に致命的な打撃を与えることになります。
在日外国人の皆さまへ:自分の在留資格を正しく理解しよう
在留カードを必ず確認する
まずは、ご自身の在留カードの記載内容を確認してください。在留カードには以下の情報が記載されています。
- 在留資格の種類
- 在留期間
- 就労制限の有無(「就労不可」「就労制限なし」など)
「就労不可」と記載されている場合、原則として働くことはできません。資格外活動許可を得ている場合は、裏面にその旨が記載されています。
「会社が大丈夫と言った」を信じてはいけない
残念ながら、一部の悪質な雇用主は「大丈夫、問題ない」と言って外国人を不法就労させるケースがあります。
しかし、最終的に責任を負うのはあなた自身です。雇用主が「知らなかった」と主張すれば、外国人側だけが罰せられることもあります。
不安があれば専門家に相談を
- 自分の在留資格で今の仕事をしても大丈夫か?
- 副業をしたいが許可は必要か?
- 転職したいが在留資格の変更は必要か?
こうした疑問があれば、行政書士や弁護士などの専門家に相談してください。無料相談を実施している事務所も多くあります。
企業の経営者・人事担当者へ:外国人雇用のコンプライアンスチェックリスト
雇用開始時に必ず行うべきこと
1. 在留カードの確認
在留カードの原本を確認し、以下の点をチェックしてください。
- 氏名、生年月日、国籍が本人と一致しているか
- 在留資格の種類
- 在留期間(有効期限)
- 就労制限の有無
在留カードのコピーを保管することも重要です。
2. 就労資格証明書の取得(推奨)
就労資格証明書は、入管が「この外国人はこの業務に従事できる」と証明する公的書類です。任意ですが、取得しておくことでトラブルを未然に防ぐことができます。
3. 雇用契約書の整備
雇用契約書には、具体的な業務内容を明記してください。在留資格申請時に提出した業務内容と実際の業務が異なる場合、虚偽申請とみなされることがあります。
雇用期間中の注意点
1. 在留期間の管理
在留期間が切れる前に、更新手続きを行う必要があります。期限を過ぎると「不法滞在」となり、企業側も不法就労助長罪に問われます。
人事管理システムや台帳で、在留期限を一覧管理することをお勧めします。
2. 業務内容の変更時
配置転換などで業務内容が大きく変わる場合、在留資格との整合性を再確認してください。場合によっては在留資格の変更申請が必要になります。
3. 副業・兼業の管理
外国人社員が副業をする場合、在留資格で認められているか確認が必要です。身分系在留資格(永住者など)以外の場合、副業内容も在留資格の範囲内である必要があります。
名義貸しは絶対にNG
「名前だけ貸してほしい」「書類上だけ雇用してほしい」といった依頼には、絶対に応じないでください。
これは明確な法令違反であり、企業としての信用を失うだけでなく、刑事責任を問われます。また、後に在留資格の不正取得が発覚した場合、企業も共犯として扱われる可能性があります。
行政書士ができること:ビザ申請と在留資格のサポート
在留資格申請の専門家
行政書士は、入管業務(ビザ申請・在留資格手続き)の専門家です。以下のような業務をサポートします。
個人向けサービス:
- 在留資格認定証明書交付申請(海外から呼び寄せる場合)
- 在留期間更新申請
- 在留資格変更申請
- 永住許可申請
- 帰化許可申請
- 資格外活動許可申請
企業向けサービス:
- 外国人雇用に関するコンプライアンス診断
- 在留資格の適合性チェック
- 雇用契約書・理由書の作成支援
- 入管への申請代行
- 社内研修・セミナーの実施
早めの相談がトラブルを防ぐ
「これは大丈夫かな?」と少しでも疑問に思ったら、早めに専門家に相談することが大切です。
- 申請が不許可になってから相談するよりも、事前に相談する方が選択肢が広がります。
- 不法就労が発覚してからでは手遅れになることもあります。
- 適正な手続きを踏むことで、長期的な安心を得ることができます。
まとめ:適正な就労が、全員の未来を守る
今回の「緑ナンバー白タク事件」は、表面的には交通事業の不正ですが、その背景には在留資格の不適切な運用、雇用関係の実態の欠如、そしてコンプライアンス意識の欠如という深刻な問題が潜んでいます。
在日外国人の皆さまへ
- 自分の在留資格で認められている活動を正しく理解してください
- 「会社が大丈夫と言った」を鵜呑みにせず、自分で確認してください
- 少しでも不安があれば、専門家に相談してください
不正に関与してしまうと、在留資格の取り消しや強制退去など、人生を大きく左右する結果につながります。
企業の経営者・人事担当者の皆さまへ
- 外国人雇用には、法令遵守が絶対条件です
- 在留カードの確認と在留資格の適合性チェックを徹底してください
- 名義貸しや実態のない雇用契約は、企業に致命的なダメージを与えます
適正な雇用管理は、企業のブランド価値を守り、持続可能な経営基盤を築くために不可欠です。
私たち行政書士の役割
私たち行政書士は、在留資格と雇用に関する「正しい道」を示し、皆さまが安心して生活・事業を続けられるようサポートします。
どんな小さな疑問でも構いません。お気軽にご相談ください。適正な手続きが、すべての人の未来を守ります。
参考記事
中国人旅行客に「緑の白タク」、中国籍の男らを逮捕 正規事業悪用で約100台不正か
https://news.yahoo.co.jp/articles/a0c8e8842f21c79359c9b2f9def4e856e8bb71fc
