■はじめに―なぜ今、「不法滞在者ゼロプラン」が強化されるのか

2026年5月22日、出入国在留管理庁は「不法滞在者ゼロプラン」の強化策を正式に公表しました。今年1月時点で日本国内に不法残留している外国人は約6万8000人。この数字は決して小さなものではなく、平口洋法務大臣も「不法滞在者の数を抜本的に減らすには摘発の強化が必要」と明言しています。

本記事では、ビザ・在留資格申請を専門とする行政書士の視点から、今回の強化策の中身、企業に与える影響、在日外国人ご本人が取るべき行動、そして実務上のチェックポイントまでを、わかりやすく解説します。

■強化策のポイント―三つの柱

今回公表された強化策は、大きく分けて以下の三本柱で構成されています。

①積極的な摘発の強化
入管庁は、警察等関係機関と連携し、不法残留者・不法就労者の摘発体制を強化します。これまで以上に、職務質問・在留カード提示要求の場面が増えることが予想されます。

②SNS上での「サイバーパトロール」体制の整備
近年、X(旧Twitter)やInstagram、フリマアプリなどで、偽造在留カードや偽造運転免許証が売買される事例が後を絶ちません。入管庁はこうしたオンライン上の違法取引を取り締まる「サイバーパトロール」体制を新たに整備します。

③雇用主への取り締まり強化
在留資格のない外国人を雇用した、あるいは在留資格で認められた範囲を超える業務に従事させた雇用主への摘発が強化されます。

■雇用主が問われる「不法就労助長罪」とは―知らなかったでは済まない理由

今回の強化策で、外国人を雇用する企業の経営者・人事担当者にとって最も注意すべきは、「不法就労助長罪」(入管法第73条の2)です。

この罪は、不法就労外国人を雇用したり、あっせんしたりした者に対して、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその両方を科すという重い罰則です。

重要なのは、「不法就労と知らなかった場合でも、知らないことについて過失があれば処罰される」という点です。在留カードの確認を怠った、有効期限の管理をしていなかった、就労資格の範囲を確認していなかった—こうしたケースでは、「知らなかった」という言い分は通用しません。

■偽造在留カード問題―目視チェックの限界

「うちは在留カードをちゃんと見ているから大丈夫」とお考えの企業様も少なくありません。しかし、ここに大きな落とし穴があります。

近年SNS上で流通している偽造在留カードは、印刷技術の向上により、見た目だけでは本物と区別がつかないレベルにまで精巧化しています。私自身、現場で「これが偽造なのか」と驚くようなケースを耳にすることがあります。

そこで、入管庁が無料で提供している「在留カード等読取アプリケーション」の活用が極めて重要になります。このアプリは、在留カードのICチップを読み取り、券面情報と一致するかを確認できるもので、偽造カードはICチップが読み取れない、または情報が一致しないため発覚します。

■企業がいますぐ整備すべき「三層チェック体制」

ビザ申請の専門家として、外国人を雇用する企業様にぜひ整備していただきたいのが、以下の三層チェック体制です。

【第一層】採用時の本人確認と在留カード照合
・在留カードのICチップを読取アプリで確認
・在留資格、在留期限、就労制限の有無、資格外活動許可の有無を記録
・パスポートとの照合

【第二層】社内データベースによる継続管理
・全外国人従業員の在留期限を一覧化
・就労資格の範囲と業務内容の整合性確認
・資格外活動許可の場合は、週28時間以内などの制限遵守を管理

【第三層】更新時期のアラートと専門家連携
・在留期間満了日の3か月前にアラート
・更新申請のサポート体制
・行政書士など専門家による定期的なコンプライアンスレビュー

■在留資格別―企業が特に注意すべきポイント

【技術・人文知識・国際業務】
業務内容と在留資格の範囲が合っているかが最重要。事務職採用なのに現場作業をさせる、通訳採用なのに販売業務中心といったケースは、要注意です。

【特定技能】
分野・業務区分が厳格に決まっています。1号は通算5年の上限あり。支援計画の履行も雇用主の責任です。

【技能実習・育成就労】
監理団体・登録支援機関との連携必須。実習計画・育成計画からの逸脱は重大なコンプライアンス違反になります。

【留学・家族滞在】
資格外活動許可があっても、週28時間以内(留学生の長期休暇中は1日8時間以内)の制限を超えた就労は不法就労にあたります。

【永住者・日本人の配偶者等】
就労制限はありませんが、在留期限管理は必要です。

■在日外国人ご本人へ―いま確認すべき3つのこと

①在留期限の確認
パスポートおよび在留カードに記載された在留期間満了日を確認してください。期限切れは即「不法残留」となります。更新申請は満了日の3か月前から可能です。

②就労制限の範囲
ご自身の在留資格でどのような仕事ができるか、明確に理解していますか?副業・アルバイトを始める際は、特に注意が必要です。

③資格外活動許可の有無と範囲
留学生・家族滞在の方は、資格外活動許可を取得しているか、また就労時間が制限内かを確認してください。

■摘発強化時代に「選ばれる企業」になるために

今回の強化策は、決して企業や外国人材を萎縮させるためのものではありません。「ルールを守って共に働く」社会を実現するための制度整備です。

逆に申し上げれば、入管法コンプライアンス体制をしっかり整えた企業は、優秀な外国人材から「安心して長く働ける職場」として選ばれます。これは少子高齢化が進む日本において、極めて大きな競争優位となります。

外国人材の活用は、もはや「人手不足対策」の段階を超え、「経営戦略」のフェーズに入っています。法令遵守は、その経営戦略を支える土台です。

■よくあるご質問

Q1.アルバイトでも在留カード確認は必要ですか?
A.必要です。雇用形態を問わず、すべての外国人従業員について確認義務があります。

Q2.在留カード読取アプリで確認できなかった場合は?
A.偽造の可能性があるため、その時点で雇用してはいけません。ご本人に入管庁へ確認していただくよう案内してください。

Q3.外国人を雇用したら、ハローワークへの届出は必要ですか?
A.「外国人雇用状況届出」が義務付けられています。雇入れ時・離職時、それぞれ届出が必要です。

Q4.特定技能の支援を自社で行うのは難しいのですが?
A.登録支援機関へ委託することが可能です。委託先選びも企業の責任ですので、慎重に検討してください。

■行政書士に相談するメリット

ビザ・在留資格関連の手続きは、書類の作成だけが仕事ではありません。むしろ、「この外国人材を、この業務で、この在留資格で雇用してよいか」という事前判断と、長期的なコンプライアンス体制構築こそ、専門家の本領発揮の場面です。

・採用前の在留資格適合性チェック
・在留資格認定証明書交付申請のサポート
・在留期間更新・在留資格変更申請
・社内コンプライアンス体制の構築支援
・在留カード管理システムの導入アドバイス
・外国人従業員向けの研修

これらをワンストップで対応できるのが、入管業務に精通した行政書士です。

■まとめ―秩序ある共生社会を、専門家とともに

入管庁の「不法滞在者ゼロプラン」強化策は、これから外国人材を活用していく日本社会において、避けて通れない流れです。摘発・サイバーパトロール・雇用主取締の三本柱は、確実に実効性を持って進められていくでしょう。

その中で、企業の経営者・人事担当者の皆さま、そして在日外国人の皆さまに必要なのは、「正しい知識」と「早めの相談」、そして「継続的な管理体制」の三つです。

ご不安な点、判断に迷うケースがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。お一人お一人、一社一社の状況に合わせて、最適なご提案をいたします。

秩序ある共生社会の実現に向けて、専門家として全力でサポートさせていただきます。

▼参考記事
https://news.yahoo.co.jp/articles/afa303d102725badb71b52bad481e15e3f35253f