はじめに
2026年4月、札幌市内で偽造された運転免許証の画像を警察官に提示したとして、中国籍の大学院生が逮捕される事件が発生しました。容疑者は右折禁止の道路を右折しようとして警察官に止められ、スマートフォンに保存された偽造免許証の画像を提示したとされています。
調査の結果、容疑者は日本の運転免許証の取得履歴がなく、提示された画像は他人名義のものであったことが判明しました。容疑者は中国の運転免許証は所持していましたが、日本の免許証は未取得であり、「偽造はしました」「運転はできると思った」と供述しています。
この事件は、在日外国人の方々、そして外国人従業員を雇用する企業にとって、日本の運転免許制度と交通法規の基本を再確認する重要な機会となります。本記事では、行政書士として多くのビザ申請や在留資格申請に携わってきた専門家の視点から、この事件を通じて学ぶべきポイントを詳しく解説します。
1. 日本で運転するには日本の運転免許証が必要
まず大前提として、日本国内で自動車を運転するためには、有効な日本の運転免許証を取得していなければなりません。
「母国で運転免許証を持っているから日本でも運転できる」というのは誤解です。日本の道路交通法では、日本国内で自動車を運転する場合、原則として日本の運転免許証を所持していることが求められます。
ただし、例外的に以下の場合には外国の免許証で運転できる場合があります。
- 国際運転免許証(ジュネーブ条約に基づくもの)を所持している場合
- 日本と運転免許の相互承認を行っている国の免許証を所持し、適切な翻訳文を携帯している場合
これらの場合でも、日本への上陸日から一定期間(通常は1年間)に限られます。長期間日本に滞在する方は、日本の運転免許証を取得する必要があります。
今回の事件では、容疑者は中国の免許証を所持していましたが、日本の免許証は未取得でした。中国の免許証だけでは日本国内で運転することはできません。
2. 外国免許から日本免許への切替手続き(外免切替)とは
外国で取得した運転免許証を持っている方が日本の運転免許証を取得する方法として、「外免切替」と呼ばれる制度があります。これは、一定の条件を満たす場合に、実技試験や学科試験の一部または全部が免除され、日本の運転免許証に切り替えることができる制度です。
外免切替の主な条件は以下の通りです。
- 外国免許が有効であること
- 外国免許を取得した国に通算して3か月以上滞在していたこと
- 外国免許が真正なものであること
近年、この外免切替制度を巡っては、不正な免許証の使用や書類の偽造などが問題となっており、審査の厳格化が進められています。特に一部の国では、免許証の不正取得や売買が横行していることが指摘されており、日本の警察当局も慎重な審査を行うようになっています。
外免切替を希望される方は、必要書類を正確に準備し、適切な手続きを行うことが重要です。不明な点がある場合は、専門家に相談することをお勧めします。
3. 運転免許証は必ず原本を携帯しなければならない
今回の事件で特に注目すべき点は、容疑者がスマートフォンに保存された「画像」を提示したという点です。
仮にその画像が本物の免許証を撮影したものであったとしても、それだけでは適法に運転できるわけではありません。
道路交通法第95条第1項では、「免許を受けた者は、自動車等を運転するときは、当該自動車等に係る免許証を携帯していなければならない」と規定されています。
つまり、運転する際には必ず有効な運転免許証の原本を携帯することが義務付けられているのです。
スマートフォンに保存された画像、コピー、写真などは、運転免許証の原本ではありません。したがって、これらを所持していても、免許証を携帯しているとは認められません。
原本を忘れて運転した場合、「免許不携帯」として処罰される可能性があります。免許不携帯の罰則は、2万円以下の罰金または科料です。
4. デジタル時代における運転免許証の取り扱い
近年、社会全体のデジタル化が急速に進んでいます。航空券は電子チケットが主流となり、買い物もスマートフォン決済が一般的になりました。行政手続きもオンライン化が進み、多くの手続きがスマートフォン一台で完結するようになっています。
このような時代背景の中で、「運転免許証もスマホの画像で良いのではないか」と考える方がいるのも無理はありません。
しかし、現時点では、運転免許証については必ず原本を携帯することが法律で定められています。
日本でも、マイナンバーカードと運転免許証の一体化に向けた検討が進められており、将来的には運転免許証のデジタル化が実現する可能性もあります。しかし、それまでは従来通り、原本を携帯することが原則です。
「時代遅れだ」と感じる方もいるかもしれませんが、法律は社会全体の合意によって成り立っています。現行法を遵守することが、私たち一人ひとりの責任です。
5. 偽造免許証の使用は重大な犯罪
今回の事件では、容疑者は偽造された他人名義の免許証画像を使用していました。これは「偽造有印公文書行使」という重大な犯罪に該当します。
偽造有印公文書行使罪(刑法第158条)の法定刑は、3月以上5年以下の懲役です。単なる交通違反ではなく、刑法上の犯罪として厳しく処罰されます。
また、無免許運転についても、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。
これらの犯罪を犯した場合、外国籍の方にとっては在留資格にも重大な影響を及ぼします。退去強制(強制送還)の対象となる可能性もあり、今後の日本での生活が大きく制限される可能性があります。
「ばれなければ大丈夫」「少しくらいなら問題ない」という安易な考えは絶対に持つべきではありません。
6. 在日外国人の方々へのメッセージ
在日外国人の皆様にお伝えしたいのは、日本で安全かつ安心して生活するためには、交通ルールを含む日本の法律をしっかりと守ることが不可欠だということです。
「母国では問題なかった」「知らなかった」という言い訳は通用しません。日本に住む以上、日本の法律に従う義務があります。
しかし、言語の壁や文化の違いから、日本の法律や制度を正確に理解することが難しい場合もあるでしょう。そのような時は、ぜひ専門家に相談してください。
行政書士をはじめとする専門家は、ビザ申請や在留資格の手続きだけでなく、日本での生活全般についてのアドバイスも提供しています。
運転免許についても、外免切替の手続きや必要書類の準備など、サポートを受けることができます。
7. 企業の人事担当者・経営者の方々へ
外国人従業員を雇用している企業の人事担当者や経営者の皆様にも、ぜひ知っておいていただきたいことがあります。
外国人従業員が業務で車両を使用する場合、その従業員が適法に運転できる状態にあるかを確認することは、企業としての重要なリスク管理の一環です。
もし従業員が無免許運転や免許不携帯で事故を起こした場合、企業にも責任が及ぶ可能性があります。特に業務中の運転であれば、使用者責任が問われることもあります。
以下の点を確認しましょう。
- 従業員が有効な日本の運転免許証を所持しているか
- 運転する際に必ず免許証の原本を携帯しているか
- 外国免許しか持っていない場合、国際免許証や適切な翻訳文を所持しているか、また滞在期間の制限を守っているか
また、外国人従業員に対する交通ルールの周知徹底も重要です。定期的な研修や情報提供を通じて、日本の交通法規を正しく理解してもらうことが、事故防止と法令遵守につながります。
8. 運転する際のシンプルなルール
運転する際のルールは、実は極めてシンプルです。
- 有効な運転免許証を持っていること
- 運転する際は原本を携帯すること
- 忘れたら運転しないこと
- そもそも免許を持っていなければ運転しないこと
たったこれだけです。
「画像があるから大丈夫」「後で見せればよい」「少しくらいなら問題ない」という考え方は通用しません。
運転免許制度は、交通の安全を守るための社会的なルールの上に成り立っています。一人ひとりがこのルールを守ることで、安全な交通社会が維持されるのです。
9. まとめ―法令遵守は社会の一員としての責任
今回の偽造免許証事件は、私たちに多くの教訓を与えてくれます。
運転免許証の偽造はもちろん論外です。しかし同時に、私たち一人ひとりも、免許証は必ず原本を携帯するという基本を改めて確認する必要があります。
法律を守ることは、特別なことではありません。交通社会の一員として当然の責任であり、安全な社会を維持するための最低限のルールなのです。
在日外国人の皆様、そして外国人を雇用する企業の皆様、もし運転免許や在留資格について不明な点や不安なことがあれば、ぜひお気軽に専門家にご相談ください。
正しい知識を持ち、適切な手続きを行うことで、安心して日本での生活を送ることができます。
私たち行政書士は、皆様が安全かつ適法に日本で生活できるよう、全力でサポートいたします。
参考リンク
https://news.yahoo.co.jp/articles/484ec2168d24d65adbc7947f90a575aa01b5bbe8
