■ はじめに:観光庁調査が示す「移動の困難さ」は在日外国人にも共通する課題

2026年に観光庁が公表した「訪日外国人旅行者の受入環境に関する調査」によると、訪日外国人旅行者の11.3%が「旅行中に困ったこと」として「交通機関の利用」を挙げました。調査は2025年11月から2026年1月にかけて、日本から出国する訪日客を対象に主要5空港で実施され、4,110件の回答が得られています。

注目すべきは、「新幹線以外の鉄道」での困りごとが6割以上にのぼり、私鉄などでの乗り換えルートの検索、乗り場の特定、切符の購入方法などに分かりづらさを感じた人が多かったという点です。さらに、地方部のみを訪問した訪日客の約半数が「バス」での移動に困難を感じたと回答しています。

一方で、9割以上が「日本の公共交通は便利」と答えており、インフラそのものの満足度は非常に高いという結果も出ています。つまり問題は、ハード面ではなく、情報提供や案内表示といった「ソフト面」にあるということです。

この調査結果は、観光分野だけの話題ではありません。行政書士として在留資格申請やビザ申請のご相談を日々お受けしている立場から申し上げると、これは在日外国人の生活と就労、そして外国人を雇用される企業の人事戦略に直結する重要なテーマだと感じています。本記事では、観光庁調査の内容をフックに、在日外国人と受け入れ企業が直面する「移動の壁」、そして在留資格との関わりについて、実務的な観点から詳しく解説いたします。

■ 観光庁調査の概要と注目ポイント──「ごみ箱」より深刻な交通機関の課題

調査全体で最も多かった「困ったこと」は「ごみ箱の少なさ」(17.2%)でした。これに続いて「交通機関の利用」(11.3%)が2位となっており、前年からほぼ横ばいです。

トラブル発生時の解決手段としては、訪日客の約4割が「自分でインターネットで調べた」と回答しています。裏を返せば、現地での案内表示や駅員・係員によるサポートが十分でないことを示しているとも言えます。電車やバスを利用する際の多言語表示の少なさを指摘した回答者も多く、ここに改善の余地が大きいことが明らかになりました。

訪問都市としては東京・大阪・京都が最も多く、回答者の約7割が訪日2回目以上のリピーターでした。つまり、日本に何度か来ている経験者でさえ、なお交通機関に戸惑っているということ。初来日で日本に「暮らし始める」外国人の方々が、どれほどの困難を感じているか、想像に難くありません。

■ 在留資格と「生活の安定性」の関係──更新審査で見られるポイント

在留資格の更新や変更の審査では、形式的な要件だけでなく、申請者が日本社会で安定的に生活し、活動を継続できるかどうかも実質的に考慮されます。

技人国の在留資格であれば、雇用契約の継続性や報酬額、業務内容との整合性が見られます。特定技能であれば、雇用先での就労状況、受け入れ機関からの支援体制が問われます。留学であれば、出席率や成績、生活費の確保状況などが審査対象です。

これらすべてに共通するのは、「日本での生活基盤が整っているか」という視点です。通勤や通学が困難であるために遅刻や欠勤・欠席が増えれば、それは在留資格の更新審査において不利な要素となりかねません。

つまり、交通機関を含む生活インフラへのアクセスは、在留資格の安定的な維持と密接に結びついているのです。これは在日外国人ご本人だけでなく、外国人を雇用する企業にとっても、人材確保の観点から極めて重要な視点となります。

■ 外国人を雇用する企業に求められる「生活サポート」の実務

外国人材を採用される企業の経営者・人事ご担当者の皆様にとって、「採用後の定着」は最大の関心事の一つでしょう。近年、外国人社員の早期離職が増えていますが、その理由を深掘りしていくと、業務上のミスマッチ以上に、生活面の負担が大きいことが分かってきています。

具体的に、企業が取り組むべき生活サポートの実務として、以下の点を挙げたいと思います。

  1. 入社前の「通勤シミュレーション」の提供
    社員寮や紹介物件から職場までの経路を、地図と写真付きで多言語化したマニュアルとして渡す。可能であれば、入社前に一度、人事担当者または先輩社員が同行して経路を確認する。
  2. ICカードの取得・チャージ方法のマニュアル化
    SuicaやICOCAなどの交通系ICカードは、日本での生活に不可欠です。取得方法、チャージ方法、紛失時の対応までを母語で説明した資料を用意する。
  3. 乗り換え案内アプリの初期設定支援
    Googleマップ、NAVITIME、ジョルダンなどの主要アプリを、英語や中国語、ベトナム語など対応言語に設定する手順を、入社時のオリエンテーションで一緒に確認する。
  4. 緊急時の連絡フローの整備
    電車遅延、事故、台風による運休など、日本では当たり前のように発生するイベントへの対応を、母語で説明しておく。連絡先と連絡方法を明文化する。
  5. 地方部勤務の場合のバス・タクシー利用ガイド
    バスの乗り方(前乗り・後乗り)、運賃の支払い方法、降車合図の出し方など、日本独特のルールを写真付きで説明する。

これらは特別なコストをかけずとも実施可能な施策ばかりです。にもかかわらず、実行している企業はまだ多くありません。逆に言えば、こうした基本を押さえるだけで、外国人材から「働きやすい職場」として選ばれる企業になれるということです。

■ 在留資格申請の現場から見える「企業姿勢」の重要性

在留資格の申請書類を作成する際、私たち行政書士は雇用主企業の体制についても確認します。とりわけ特定技能や技能実習からの移行案件では、受け入れ機関の支援体制が審査上の重要なポイントになります。

ここで申し上げたいのは、書類上の体裁を整えるだけでなく、実際に外国人社員がどのように暮らし、働いているかという「実態」が問われる時代になっているということです。入管当局は、就労環境のみならず生活環境の整備状況も含めて、企業の姿勢を見ています。

通勤動線のサポート、生活ガイドの整備、緊急時の対応体制──これらは個別の在留資格申請の成否を超えて、企業の外国人雇用におけるレピュテーションを形成します。今後ますます外国人材の確保が困難になっていくなかで、こうした「見えない投資」が、長期的な人材戦略の差を生むことになるでしょう。

■ 在日外国人ご本人にお伝えしたいこと──「困ったら相談を」

最後に、日本で暮らす外国人の方ご本人にお伝えしたいことがあります。

移動の困難さや生活上の不便を感じたとき、それを「自分の努力不足」だと思い込まないでください。観光庁の調査が示すとおり、これは多くの方が共通して感じている課題であり、本来は社会全体で改善していくべき問題です。

そして、こうした生活面の困りごとは、在留資格の更新審査にも影響しうる重要な要素です。一人で抱え込まず、所属する企業の人事担当者、学校の留学生窓口、または私たち行政書士のような専門家にご相談ください。

特に、在留資格の更新や変更を控えている方は、生活面で不安要素がある場合、早めに専門家にご相談されることを強くおすすめします。書類作成のサポートはもちろん、生活面の整備に関するアドバイスもお伝えできます。

■ おわりに:制度と暮らしの両輪で支える外国人材の未来

観光庁の調査結果は、一見すると観光業界向けのデータに過ぎないように見えます。しかし、その本質は「日本社会が外国人をどう受け入れているか」というより根本的な問いを私たちに突きつけています。

訪日客の9割以上が日本の公共交通を「便利」と評価する一方で、1割超が「困った」と感じる──このギャップを埋めることは、観光立国の実現だけでなく、外国人材が安心して長く働ける社会の実現にも不可欠です。

行政書士として、在留資格という入口の手続きから、その先にある「暮らしの質」までを視野に入れたサポートを、これからも続けてまいります。外国人雇用に関するご相談、在留資格申請に関するご相談は、いつでもお気軽にお問い合わせください。制度と暮らしの両輪で、皆様の日本でのチャレンジを支えるパートナーでありたいと願っています。

参考記事:
https://news.yahoo.co.jp/articles/60185c92d853c033ef574905c360d89202e54e8a