■はじめに:なぜ今「留学ビザ」が厳格化されるのか
2026年、日本の外国人受入れ政策において大きな転換点を迎えます。出入国在留管理庁は、在留資格「留学」の運用を段階的に厳格化することを発表しました。2026年4月からは日本語教育機関と連携した資格外活動(アルバイト)の実態把握が開始され、同年7月以降は入学時の日本語能力の確認がより厳しくなります。
本記事では、行政書士として日々ビザ申請の現場に携わる立場から、今回の改正内容を詳しく解説するとともに、在日外国人の方々、そして留学生を雇用されている企業の経営者・人事担当者の皆さまが、今すぐ取り組むべき実務上のポイントを整理してお伝えします。
■改正の背景|「共生社会」と「秩序維持」の両立
今回の見直しは、政府が掲げる「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」に基づくものです。近年、日本語教育機関に在籍する留学生の中に、本来の学業から逸脱し、複数の就労先を掛け持ちして資格外活動の上限時間を大幅に超えて就労するケースが相次いで確認されてきました。
留学生の「週28時間以内」という資格外活動の上限は、学業を本分とする留学生の地位を守るために設けられたものです。しかし実務の現場では、この上限を知らずに、あるいは知っていても生活費や学費のために超過就労してしまう留学生が後を絶たず、結果として在留資格の更新不許可や退去強制処分につながる事例が増えてきました。
こうした状況を受け、教育の質を維持しつつ、不法就労を未然に防ぐ仕組みを整えるために、今回の厳格化が決定されたのです。
■改正ポイント①|資格外活動の実態把握(2026年4月施行)
●日本語教育機関の新たな義務
2026年4月以降、日本語教育機関は3か月に1度の頻度で、在籍する留学生の資格外活動状況を確認することが求められます。具体的な確認事項は次の4点です。
1.資格外活動許可の有無
2.活動先(勤務先)
3.活動内容(業務内容)
4.活動時間
これまで留学生のアルバイト状況は、基本的に本人の自己申告に委ねられており、学校側が能動的に把握する仕組みは限定的でした。今回の改正により、学校が「確認する側」「指導する側」「報告する側」の三役を担うことが明確化されたといえます。
●違反があった場合の対応
確認の結果、許可内容に違反が見られた場合には、日本語教育機関が直ちに当該留学生に対して指導を行います。指導後も改善が見られない場合、または不法就労が強く疑われるケースについては、最寄りの出入国在留管理官署への報告が義務付けられます。
つまり、留学生の不適切な就労は、もはや「バレなければ大丈夫」という話ではなくなるのです。学校を経由して入管に情報が共有される体制が整うことで、違反の発覚リスクは格段に高まります。
■改正ポイント②|日本語能力確認の厳格化(2026年7月施行)
●これまでの運用
これまで、日本語教育機関への入学時に求められる日本語能力は、CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)・A1相当以上でした。この能力の立証方法としては、「150時間以上の日本語学習歴」があれば認められる運用がなされていました。
●新たな運用
2026年7月1日以降の在留資格変更・更新申請、および10月期生からの新規在留資格認定証明書交付申請からは、CEFR・A1相当の立証について、次のいずれかが必須となります。
1.試験の合格証明書(日本語能力試験N5以上、J.TEST、NAT-TEST等)
2.面接による日本語能力の確認
面接を実施する場合は、客観的な手法を用いて能力を測定し、その詳細(使用した教材、質問内容、評価基準、応答記録など)を申請時に提出する必要があります。
なお、外国の大学等を卒業した方については、これまで通り日本語能力の立証を不要とする特例が維持されます。
■留学生本人への影響|「知らなかった」では済まされない
●アルバイトを掛け持ちしている方へ
最も注意が必要なのは、複数のアルバイト先を掛け持ちしている留学生の方々です。資格外活動許可の「週28時間」という上限は、すべての勤務先の合算で計算されます。A店で20時間、B店で15時間働けば、合計35時間となり、完全にアウトです。
また、学校の長期休暇期間中は「1日8時間以内」に緩和されますが、これも学校が定める休暇期間に限定されます。自己判断で「もう春休みだから大丈夫」と判断するのは危険です。
●在留期間更新時のチェックが厳しくなる
今後は、日本語教育機関から入管への情報共有が進むため、更新申請時に過去の就労実態が詳細に照会される可能性が高まります。源泉徴収票や給与明細、住民税の課税証明書などから、実際の就労時間が逆算されるケースも増えるでしょう。
「更新できなくなってから慌てて相談に来る」のでは手遅れになることが少なくありません。少しでも不安があれば、早めに行政書士へご相談いただくことを強くおすすめします。
■雇用企業への影響|不法就労助長罪のリスクと対策
●「知らなかった」では免責されない
留学生を雇用している企業側にとって、最も恐ろしいのが「不法就労助長罪」です。入管法第73条の2により、不法就労をさせた事業主には3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性があります。
重要なのは、この罪が「知らなかった」では原則として免責されないという点です。事業主には、雇用する外国人の在留資格・就労可能範囲を確認する義務があり、確認を怠った過失があれば責任を問われます。
●企業が今すぐ実施すべき3つのチェック
1.在留カードの原本確認と裏面の「資格外活動許可」の有無
2.週28時間ルールを踏まえたシフト管理体制の整備
3.他社との掛け持ち状況の自己申告ルールの策定
特に③については、本人に定期的に申告書を提出してもらう仕組みを作っておくことで、企業として「合理的な確認を尽くした」という証拠を残すことができます。
●業界別の注意点
飲食業、コンビニエンスストア、清掃業、ホテル業など、留学生の雇用が多い業種では、現場責任者レベルまでこのルールを周知徹底することが不可欠です。採用担当者だけが知っていても、現場で「もう少し入ってほしい」とシフトを増やせば、そこで違反が発生してしまいます。
■日本語教育機関への影響|指導・管理体制の再構築
日本語教育機関にとっても、今回の改正は大きな負担増となります。3か月ごとの確認作業、記録の保管、違反時の指導、入管への報告など、業務フローの見直しが必要です。
同時に、入学時の日本語能力確認についても、面接を採用する場合は評価基準の明文化や面接官のトレーニングが求められます。形式的なチェックでは、むしろ後日入管から問題視されるリスクもあるため、専門家と連携した制度設計が重要になります。
■行政書士からのアドバイス|今、やるべきこと
●留学生の方へ
・今のうちに自身のアルバイト時間を正確に把握する
・複数の勤務先がある場合は合算時間を毎週記録する
・日本語能力の証明書類(試験合格証など)を整備しておく
●雇用企業の方へ
・在留カード確認フローの標準化(採用時・更新時)
・タイムカードとシフト表の保管体制の整備
・従業員向けコンプライアンス研修の実施
●日本語教育機関の方へ
・3か月ごとの確認フォーマットの整備
・面接評価シートの客観的設計
・入管との連絡窓口の明確化
■まとめ|変化を「リスク」ではなく「整備の機会」に
制度改正は、当事者にとっては確かに負担増です。しかし視点を変えれば、これまで曖昧なまま放置されてきた管理体制を見直し、コンプライアンス体制を整える絶好の機会でもあります。
留学生ご本人、雇用企業、教育機関のそれぞれが、適切な情報に基づいて冷静に対応すれば、過度に恐れる必要はありません。一方で、楽観視して対応を怠れば、在留資格の不許可、事業者処罰、教育機関の認定取り消しといった重大な結果を招きかねません。
当事務所では、在留資格に関する個別相談から、企業向けのコンプライアンス体制構築支援、申請書類の作成代行まで、幅広く対応しております。制度の変化に不安を感じたら、どうぞお気軽にご相談ください。
皆さまが安心して日本で学び、働き、事業を営めるよう、専門家として全力でサポートいたします。
