■ はじめに:なぜ今、私がこのテーマを語るのか
2026年5月、朝日新聞デジタルに掲載された一本の記事を読み、私はしばらく言葉を失いました。北海道江別市でパキスタン人を標的にしたSNS投稿が拡散し、ロケット花火の発射やモスク全焼にまで至ったという内容です。福岡県朝倉市でも、外国人向けマンション計画をめぐる一個人の不安投稿が、本人の意図を超えて「移民政策断固反対」のハッシュタグで拡散され、市役所には1,000件を超える苦情が寄せられたといいます。
私は普段、ビザ申請や在留資格の仕事をしていますが、この仕事は単なる書類作成業ではないと思っています。依頼者にとって在留資格はゴールではなく、日本での人生のスタート地点をつくる手段です。その「人生のスタート地点」が、根拠のないSNS言説によって脅かされている。これは、外国人ご本人だけの問題ではなく、彼らを雇用する企業、そして日本社会全体の課題だと、私は受け止めています。
本記事では、在日外国人の方々と、外国人を雇用する企業の経営者・人事担当者の皆さまに向けて、いま私が現場で感じていることを、できるだけ率直にお伝えしたいと思います。
■ 1. SNSで広がる「事実」と「実際の事実」のギャップ
報道によれば、江別市で「市内の違法建築76件はパキスタン人によるもの」と主張する動画が30万回以上再生されました。しかし朝日新聞の記者が市に確認したところ、実際にはその「大半は日本人のもの」だったといいます。
この数字のずれは、私たち入管業務に携わる者にとって、決して他人事ではありません。在留資格を持って適法に滞在し、納税し、地域経済を支えている方々が、根拠のない情報で不当に犯罪者扱いされる。これは制度そのものの信頼を揺るがす事態です。
私が日々お会いする外国人の方々の多くは、「技術・人文知識・国際業務」「特定技能」「経営・管理」「技能実習(2027年以降は育成就労)」「永住者」「日本人の配偶者等」といった、入管法に基づく明確な在留資格を持って、ごく当たり前の生活を営んでいます。「不法滞在」「不法就労」という言葉ばかりが独り歩きしますが、出入国在留管理庁の統計を見れば、適法に滞在している方が圧倒的多数だということは明らかです。
制度や法律は、簡単には曲げられません。だからこそ、その枠の中で「あなたの場合はどう実現するか」を一緒に考えていくのが、私たち行政書士の仕事だと考えています。
■ 2. 在日外国人の方へ ― 「自分を守る」ための在留資格の基本
私がまずお伝えしたいのは、「適法な在留状態を保ち、それをいつでも証明できるようにしておくこと」が、最大の自衛策だということです。一般論ではなく、「あなたの場合」に即して考えていただきたい3点があります。
第一に、在留カードの常時携帯義務。 入管法第23条により、16歳以上の中長期在留者は在留カードを常に携帯する義務があります。万一トラブルに巻き込まれたとき、自分の在留資格を即座に証明できる、いちばん大事な書類です。
第二に、資格外活動許可の確認。 留学ビザや家族滞在ビザの方がアルバイトをする場合、原則として資格外活動許可が必要で、原則「週28時間以内」の制限があります。これを超えれば不法就労となり、ご本人だけでなく雇用主にも罰則が及びます。「知らなかった」では人生設計が大きく狂ってしまうので、ここは必ず押さえてください。
第三に、在留期間更新の早めの準備。 満了の3か月前から更新申請が可能です。書類不備で不許可になれば、出国準備期間(特定活動)に切り替わり、せっかく積み上げてきた生活が一気に揺らぎます。私の経験から言うと、ギリギリで動き出す方ほど、リスクが高い。早めに動いてください。
これらは「知っているだけで自分を守れる」基本中の基本です。少しでも不安があれば、抱え込まずに早めにご相談いただきたいと思います。
■ 3. 外国人を雇用する企業の方へ ― 直面する「3つのリスク」
経営者・人事担当者の皆さまには、SNS時代ならではの3つのリスクを、現実的に認識していただきたいと思います。
【リスク1:法令違反リスク】 入管法第73条の2が定める「不法就労助長罪」は、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金(または併科)という重い罰則です。「知らなかった」では済まされず、過失でも処罰対象となる場合があります。採用時の在留カード確認、在留資格と業務内容の整合性確認、在留期限の管理体制 ― ここは、絶対に手を抜けないところです。
【リスク2:レピュテーションリスク】 SNSでは、外国人を雇用しているというだけで、根拠のない中傷の対象になるケースが報告されています。江別市・朝倉市の事例のように、「違法建築」「アジト」「移民排斥」といった言葉とともに企業名が拡散されれば、取引先・採用活動への影響は計り知れません。
【リスク3:従業員定着リスク】 中傷の標的にされた外国人従業員のメンタルヘルス、家族の不安、退職リスク ― これは人権の問題であると同時に、経営課題そのものです。
私から提案する対応策は次のとおりです。
①ハローワークへの「外国人雇用状況届出」を遅滞なく行う ②就業規則に多文化共生・ハラスメント禁止の条項を明記する ③管理職向けに、在留資格の基礎知識を研修する ④社内外への情報発信は、事実に基づき冷静に行う ⑤緊急時の相談窓口(行政書士・弁護士)をあらかじめ確保する
正直に申し上げると、私は「ご相談はすべて受任します」とは言いません。結果を出せる案件だけを見極めて引き受けるのが、本当の意味で依頼者のためになると考えているからです。グレーな部分があれば、知恵と経験で白に近づける努力はします。ただ、明確に黒なものは受けません。それが企業を守る誠実なあり方だと思っています。
■ 4. SNS言説に振り回されないための「事実確認3ステップ」
朝倉市の事例で印象的だったのは、投稿した男性自身が「移民政策について反対を訴えるつもりはなく、困惑した」と語っていることです。一個人の不安が、本人の意図を超えて拡散されていく ― これがSNS時代の現実です。
こうした状況に振り回されないために、私は次の3ステップをお勧めしています。
第一に、一次情報源にあたる。 自治体の公式発表、出入国在留管理庁の統計、報道機関の確認記事。手間はかかりますが、ここを飛ばすと判断を誤ります。
第二に、数字の出典を確認する。 「違法建築76件」のような具体的な数字が出てきたら、その内訳が誰のものなのかを必ず確認する。数字は、文脈を外すと簡単に凶器になります。
第三に、専門家に確認する。 在留資格や入管法の話なら、行政書士や弁護士に聞いてもらえれば、誤情報かどうかはたいていすぐに判別できます。AIやネット検索で出てくる一般論ではなく、「あなたが今直面している話」として答えを返せるのが、私たちの強みです。
■ 5. 行政書士ができること ― 「手続き代行業」ではなく「伴走者」として
私たち行政書士は、書類作成代行業ではありません。在留資格認定証明書交付申請、在留資格変更許可申請、在留期間更新許可申請、永住許可申請 ― これらは一つひとつ、お一人の人生や、企業の経営戦略に深く関わる仕事です。
外国人支援は、私にとって業務である以上に、使命感を伴う領域です。母国を離れ、言葉も制度も違う日本で暮らす方々の不便さや背景を理解しないまま、ただ書類を書いていても、本当の意味では役に立てない。だから私は、依頼者を一時的な取引相手とは見ず、人生や事業の目標へ向かう「伴走者」でありたいと思っています。
SNS時代の今、私の役割は確実に広がっています。
- 外国人ご本人へ: 適法な在留状態の維持と、不当な扱いを受けたときの相談窓口
- 雇用企業へ: 採用から入社後管理、退職時手続きまでのコンプライアンス支援
- 地域社会へ: 正しい知識を発信し、誤情報を冷静に是正する役割
朝倉市の男性は記事の最後でこう語っています。「感情的な強い言葉でインプレッションを稼ぐのは簡単。でもそれじゃ現実は動かせない」。
私もまったく同感です。現実を動かすのは、地道な事実確認と、適法な手続きの積み重ね。派手ではないけれど、これしかないと思っています。
■ おわりに:不安を「相談」に変えてください
在日外国人の皆さま、外国人を雇用される企業の皆さま。SNSの不確かな情報に不安を感じたら、どうかおひとりで抱え込まないでください。
地方であっても、身近に相談できる「町の国際法務パートナー」として、私はそこに居続けたいと思っています。初回のご相談で状況を整理するだけでも、見える景色はずいぶん変わるはずです。
「正しく知る」こと。そして「あなたの場合」に即して動くこと。それが、ご自身と大切な方々を守る、いちばん確かな一歩だと、私は考えています。
📰 参考記事:朝日新聞デジタル「『移民排斥』とつながったSNS 中傷されて気づいた違和感の正体は」 https://digital.asahi.com/articles/ASV4P3FKMV4PUTIL02YM.html?iref=pc_national_top
