■ はじめに ― 学食の小さな改革が、私たち専門家にも問いを投げかける

2026年4月25日、島根県立大学浜田キャンパスの学生食堂でハラルメニューの提供が始まったというニュースが報じられました。豚肉やアルコールを使わないバターチキンカレー、チキングリーンカレーなど4種類が、月・水・金曜日に1日5食限定で提供されているとのことです。

一見すると、地方大学の学食改革という小さなニュースに思えるかもしれません。ですが、ビザ申請・在留資格申請を専門とする行政書士の立場からすると、このニュースは在留外国人を雇用するすべての企業、そして私のような実務家にとっても、極めて重要な示唆を含んでいます。

私はかねてから、行政書士の仕事は単なる書類作成ではない、と考えてきました。その方の人生や目標の実現を支えるのが、本来の役割です。今回の記事を読みながら、改めてそのことを強く感じましたので、私なりの視点で書いておきたいと思います。

■ ニュースの概要 ― 学生の主体的な行動が大学を動かした

報道によると、島根県立大学浜田キャンパスでは、これまで中国寧夏回族自治区などムスリムが多い地域からの留学生を受け入れてきたものの、ハラル対応は提供の手間を理由に見送られてきたそうです。

ある留学生は「学生食堂で食べられるのは、から揚げ定食かうどんだけ」と語り、別の大学院生は昼休みに10分かけて寮に戻り自炊していたといいます。さらに、食事に関するストレスから留学初年度に半年間休学したというエピソードも紹介されています。

転機となったのは、国際関係学部のゼミ生8人が、留学生の困りごとを知り、自分たちで他大学の学食や飲食店を訪問し、調味料や提供方法を調査して、大学事務局や食堂運営者にかけ合ったことでした。大学後援会も食材費補助で協力し、ハラルメニュー提供が実現しています。

ここで私が一番大事だと思うのは、「困っている」という訴えだけで終わらせず、「どうしたら実現できるか」を学生自身が調べて持っていった、という点です。制度や現場の制約があっても、その枠内でどう実現するかを前向きに考える。私がいつもご依頼者にお伝えしている姿勢そのものです。

■ ビザは「ゴール」ではなく、人生のスタートをつくる手段

行政書士として日々、企業からの外国人雇用に関するご相談を受けていますが、多くの経営者・人事ご担当の関心は「就労ビザがおりるかどうか」「在留資格認定証明書の交付までどれくらいかかるか」に集中しています。

もちろん、これらは法的に必須のプロセスです。書類の不備や記載ミスがあれば不交付・不許可となり、採用計画そのものが崩れてしまいます。専門家による正確な手続きは、絶対に欠かせません。

ですが、私はいつも申し上げているのです。ビザの取得は採用のゴールではない、と。それは、その方が日本で人生を歩み始めるためのスタート地点をつくる作業に過ぎません。今回のニュースが投げかけているのは、まさにこの「ビザの先」にある現実です。食事の問題で半年休学した留学生がいるという事実は、企業の職場でもまったく同じことが起こりうることを示しています。

私はこれまで、「ビザは取れたのに、入社して数か月で辞めてしまった」というご相談を何度も受けてきました。書類は完璧だったのに、現場で人が定着しない。これは企業さんにとっても、ご本人にとっても、不幸な結果です。だからこそ私は、書類だけを見るのではなく、その先の人生まで一緒に考える伴走者でありたいと思っています。

■ 在留外国人雇用で見落とされがちな「生活面」の課題

外国人材を採用する企業の現場で、私が実際に目にしてきた課題を整理します。

【1】食事に関する課題 ムスリムにはハラル、ヒンドゥー教徒には牛肉不可、ベジタリアン・ヴィーガンなど、宗教・文化・健康上の理由による食の制約は多岐にわたります。社員食堂のメニュー、社内懇親会、取引先との会食など、日々のあらゆる場面で配慮が必要です。「うちの社員食堂はそこまで手が回らない」という企業さんもいらっしゃいますが、完璧を目指す必要はありません。「できることから、小さく始める」姿勢で十分です。

【2】礼拝・宗教行事への配慮 ムスリムは1日5回の礼拝を行います。短時間で済みますが、静かな場所が必要です。会議室の一角や空きスペースを使えるようにするだけでも、本人にとって大きな安心につながります。ラマダン期間中の業務調整も検討の余地があります。

【3】住居の確保支援 日本では、外国籍を理由に賃貸契約を断られるケースが今なお存在します。会社が借り上げ社宅を用意する、保証会社と提携する、不動産業者を紹介するなど、支援の形はさまざまです。

【4】日本語サポートと業務マニュアル 業務に必要な日本語レベルは職種によって異なりますが、社内マニュアルのやさしい日本語化、英語版・母語版の整備、定期的な日本語研修の機会提供などが、定着率を大きく左右します。

【5】家族の帯同・家族の在留資格 本人だけでなく、配偶者や子どもの在留資格、子どもの教育環境(インターナショナルスクールの有無、日本語教育のサポート)も大きな関心事です。私はここまで含めて、ご家族全体の人生設計をご一緒に考えるようにしています。

■ 在留資格申請と並行して進めるべき「受け入れ計画」

行政書士の業務として、私はビザ申請のご相談をいただいた際、書類作成と並行して必ず「入社後の受け入れ体制」についてもお伺いするようにしています。なぜなら、書類が完璧でも、現場で人が定着しなければ、企業さんにとってもご本人にとっても不幸な結果になるからです。

具体的には、次のような項目をご一緒に整理することをお勧めしています。

  • 採用予定者の出身国・宗教・文化背景の把握
  • 食事への配慮(社員食堂、懇親会、出張時)
  • 住居確保のサポート方法
  • 日本語教育、業務日本語の支援体制
  • キャリアパスの提示(在留期間更新、永住への道筋)
  • ご家族帯同の予定とサポート

これらは入管法上の要件ではありません。ですが、結果として「契約期間中の安定雇用」「在留期間更新時の実績」につながり、ひいては企業の信頼度を高めます。私が「結果を出せる案件か」を見極めるのと同じで、ご依頼者にも結果へコミットしていただきたい。だからこそ、入口だけでなく出口まで一緒に設計させてもらうわけです。

■ 外国人雇用で押さえるべき主な在留資格

ここで、外国人雇用に関わる主な在留資格を簡単に整理しておきます。

【技術・人文知識・国際業務】 いわゆるホワイトカラー職種。エンジニア、通訳、海外取引業務などが該当します。学歴または実務経験要件があります。

【特定技能(1号・2号)】 人手不足分野での就労を認める資格です。介護、外食、宿泊、建設、農業、漁業など16分野(※制度改正により変動)が対象です。

【高度専門職】 ポイント制で評価される専門人材向けの資格です。在留期間や永住要件で優遇があります。

【企業内転勤】 海外の関連会社からの転勤者向け資格です。

【経営・管理】 日本で会社を経営する方向けの資格です。

それぞれ要件が異なり、書類も多岐にわたります。誤った資格で申請したり、必要書類が不足したりすると不許可となり、再申請には時間がかかります。私の経験上、迷ったら早めに専門家にご相談いただくのが、結果的に最も効率的かなと思います。

なお、私は受任にあたって、結果が出せそうにない案件については正直にお伝えすることにしています。曲げられない制度を無理に通そうとしても、それはご依頼者のためになりません。ただ、グレーに見える案件でも、知恵と経験で白に近づけられる余地はかなりあります。そこは前向きに、一緒に考えさせてください。

■ ニュースから読み取れる「対話と調査」の重要性

今回のニュースで特に印象的なのは、ハラルメニュー導入が「学生からの単なる要望」ではなく、「ゼミ生による主体的な調査と提案」によって実現したという点です。

大学側は「過去にも要望はあったが、当時は主体的な調査を伴わない要望だったことや、調理器具や調味料を分ける手間もあり、実施を見送っていた」と説明しています。つまり、現場を動かすのは「困っている」という訴えだけでなく、「どうすれば実現できるか」を具体的に示す調査と提案です。

これは企業の現場にも完全に当てはまります。外国人社員から「働きにくい」という声があがった時、「人員配置や設備の都合で難しい」と片付けてしまえばそれまでです。ですが、人事ご担当者や上司がご一緒に「どうすれば実現できるか」を調査し、小さくても具体的な改善策を実行できれば、組織は確実に変わります。

私自身も、行政書士という仕事を通じて、いつもこの姿勢を大事にしています。制度は曲げられない。でも、その枠内でどう実現するかを、依頼者と一緒に考え抜く。それが私の役割です。

■ 在日外国人の方へ ― 困った時は声を上げ、専門家を頼ってください

本ブログをお読みの在日外国人の皆さまへ。

日本での生活、お仕事、在留資格の更新、ご家族の呼び寄せなど、不安や疑問を一人で抱え込まないでください。記事の留学生のように、声を上げ、対話することで状況が変わることは少なくありません。

特に在留資格に関する手続きは、期限を過ぎると重大な不利益が生じることがあります。在留期間更新、資格変更、永住申請、帰化、家族滞在の申請など、少しでもご不安があれば、早めに行政書士などの専門家にご相談ください。

私は、皆さまの背景や日本での不便さに、できる限り寄り添いたいと思っています。手続きの代行ではなく、皆さまの夢や目標の実現に向けて伴走する存在でありたい。これは私が外国人支援を、業務である以上に使命感を持って取り組んでいる理由でもあります。

■ 経営者・人事ご担当の皆さまへ ― ビザ取得後こそが本当のスタート

外国人材の採用は、もはや一部の大企業だけのテーマではありません。中小企業、地方企業にとっても、優秀な人材を国境を越えて確保することは事業継続の重要な選択肢です。

ただし、繰り返しになりますが、ビザの取得は採用のスタートにすぎません。せっかく時間と費用をかけて迎え入れた人材が、生活面の配慮不足で離職してしまうのは、企業にとっても本人にとっても大きな損失です。

島根県立大学のハラルメニュー導入は、たった1日5食からのスタートです。完璧を目指す必要はありません。「できることから、小さく始める」姿勢こそが、多文化共生の第一歩だと私は考えています。

そしてもう一つ。AIやネット検索で一般論を得るのは、本当に簡単な時代になりました。ですが、皆さまが本当に必要としているのは、一般論ではなく「あなたの会社の場合」「この方の場合」に即した答えのはずです。お一人おひとり、一社一社、状況は違います。だからこそ私は、画一的な対応ではなく、個別に最適化したご提案にこだわっています。

■ まとめ ― 法的手続きと現場の配慮、両輪で進める外国人雇用

最後に、本記事のポイントをまとめます。

  1. 島根県立大浜田キャンパスで、学生の調査と提案によりハラルメニュー提供が実現
  2. 食事の問題は、留学生の休学・社員の離職に直結する重要な要素
  3. ビザ取得は採用のゴールではなく、人生のスタートをつくる手段
  4. 食事、礼拝、住居、日本語、ご家族など、生活面の配慮が定着率を左右する
  5. 在留資格申請の段階から「入社後の受け入れ体制」を一緒に検討することが重要
  6. 「主体的な調査と提案」が組織を動かす鍵
  7. 一般論ではなく「あなたの場合」に即した個別最適な支援が求められている

ビザ申請、在留資格認定証明書交付申請、在留期間更新、資格変更、永住申請、帰化、家族滞在、就労資格証明書など、外国人の在留に関わる手続きは多岐にわたります。当事務所では、書類手続きだけでなく、企業さんの受け入れ体制づくりや、在日外国人の生活相談まで、総合的にサポートしています。

外国人雇用をこれから始める企業の皆さま、すでに外国人社員を雇用しているがより良い環境を整えたい皆さま、そして日本で安心して暮らし働きたい在日外国人の皆さま。お気軽にご相談ください。皆さまの夢や事業目標の実現に、伴走させていただきます。

▼参考記事 https://news.yahoo.co.jp/articles/afbe60006716159cc6bc9fc6a0358ba6708439aa