■ はじめに:なぜこのニュースが重要なのか
2026年4月23日、大野元裕・埼玉県知事は、首都圏の1都3県と政令指定市の首長による「九都県市首脳会議」に出席し、国に対して「適切な出入国在留管理の徹底」を共同で求めるべきだと提案しました。九都県市エリアには、全国の在留外国人の約4割にあたる約167万人が暮らしており、この提案は単なる地方自治体の要望にとどまらず、日本の入管行政全体の今後を占う大きな一手といえます。
在留資格申請・ビザ申請を専門とする行政書士として、本記事では、このニュースの背景、制度面での正確な読み解き、そして在日外国人ご本人、外国人材を雇用する企業の経営者・人事担当者の皆さまが、いま具体的にどう動けばよいのかを、実務の目線で詳しく解説します。
■ ニュースの要点整理:何が提案されたのか
報道によれば、今回の提案の核は次の2点です。
第一に、査証(ビザ)なしで入国できる制度を利用して来日し、難民認定申請を正当な理由なく繰り返すことで長期滞在を図るケースが、一部の自治体で地域住民の不安につながっているという問題提起です。
第二に、こうした状況への対策として、必要に応じて相互査証免除協定の一時停止を含む対応を国に求めるという内容です。
大野知事は昨年来、川口市や蕨市周辺のトルコ国籍のクルド人問題を念頭に発言してきましたが、今回の九都県市としての要望書には特定の国名は含まれず、「一般的な枠組み」として提案されました。
ここで重要なのは、この提案はあくまで「制度の隙間を突いた滞在」への対応であり、正規の在留資格を持って生活・就労している外国人の方々を対象とした規制強化ではないという点です。
■ 在留資格・ビザ制度の基本をおさらい
この議論を正しく理解するために、在留資格制度の基本を整理しておきましょう。
日本に中長期滞在する外国人の方は、出入国管理及び難民認定法(入管法)に基づき、いずれかの在留資格を取得しています。代表的なものに以下があります。
・就労系:技術・人文知識・国際業務、技能、経営・管理、特定技能、高度専門職
・身分系:永住者、日本人の配偶者等、定住者
・その他:留学、家族滞在、特定活動
一方、短期滞在としての「査証免除」制度は、日本と相互査証免除取り決めを結んでいる国・地域の国民が、観光や短期商用などの目的で、原則90日以内の滞在を査証なしで認めるものです。2026年時点で、日本は約70の国・地域と相互査証免除取り決めを結んでいます。
今回問題視されているのは、この査証免除で入国した後、難民認定申請を繰り返すことで、申請中の在留が法律上許容される仕組みを利用した長期滞在です。入管法第61条の2の6に基づく「特定活動」としての在留や、送還停止効の仕組みは、本来、真に保護を必要とする人のために設計された制度であり、その適正運用が今回の論点となっています。
■ 在日外国人の方へ:不安に感じる必要はありません
まず、就労ビザ、配偶者ビザ、永住者、定住者など、正規の在留資格で日本に暮らしている方は、今回の提案によって直接的な不利益を受けることはありません。ニュースを見て「自分の更新が難しくなるのでは」と心配されるお声をいただきますが、制度の対象が異なります。
ただし、以下の点は、これまで以上に丁寧に対応することをお勧めします。
第一に、在留期間更新許可申請は、満了日の3か月前から提出が可能です。ギリギリではなく、余裕を持った準備が大切です。
第二に、活動内容に変更がある場合の在留資格変更許可申請、転職時の「契約機関に関する届出」(14日以内)は、遅延なく行ってください。
第三に、永住許可を視野に入れている方は、原則として引き続き10年以上日本に在留していること、素行善良であること、独立生計を営むに足りる資産または技能を有していることなどの要件があります。住民税・所得税・年金・健康保険料の納付状況は、これまで以上に慎重に確認される傾向があります。
制度を守って真面目に暮らしている方こそ、正しい情報と適切な手続きで、ご自身の権利を守っていただきたいと思います。
■ 外国人雇用企業の経営者・人事担当者の方へ
入管行政の運用厳格化の流れの中で、企業に求められるコンプライアンス水準は年々上がっています。以下、実務上のチェックポイントを整理します。
【チェックポイント1】採用時のデューデリジェンス
採用候補者の在留カードは、必ず原本で確認し、以下を記録してください。
・氏名、生年月日、国籍
・在留資格の種類と在留期間
・就労制限の有無
・資格外活動許可の有無とその範囲
留学生アルバイトを雇用する場合、資格外活動許可の範囲は原則「週28時間以内」です。長期休暇中は1日8時間以内まで認められます。この上限を超えると、本人は不法就労、企業側は不法就労助長罪(入管法第73条の2、3年以下の懲役または300万円以下の罰金)に問われる可能性があります。
【チェックポイント2】在留カードの有効期限管理
在留期限の管理は、Excelや人事システムで一元化し、期限の3か月前、1か月前にアラートが出る仕組みを整えましょう。更新漏れは、従業員本人はもちろん、企業の採用戦略にも大きな影響を及ぼします。
【チェックポイント3】従事業務と在留資格の整合性
特に「技術・人文知識・国際業務」で採用した従業員に、資格の範囲外の単純労働を恒常的に行わせていないか、定期的に確認してください。在留期間更新のタイミングで、活動実態が審査されることもあります。
【チェックポイント4】中長期在留者の受入れに関する届出
所属機関として、外国人を雇用・離職した際には、ハローワークへの外国人雇用状況届出、および入管への「中長期在留者の受入れに関する届出」が必要となる場合があります。義務的届出の漏れは、企業の信頼性評価にも影響します。
■ 地域社会との共生:企業と個人にできること
今回のニュースの背景には、「地域住民の不安」というキーワードがあります。制度論と並行して、地域社会における相互理解の促進も、共生社会の実現には欠かせません。
企業としては、外国人従業員への日本語教育支援、生活ガイダンス、地域の自治会活動への橋渡しなどが、離職率低下と地域貢献の両方に効く施策となります。ご本人の側も、ごみ出しルール、騒音、挨拶といった小さなことの積み重ねが、実は最も大きな信頼構築につながります。
制度を守る。手続きを怠らない。地域と関わる。この3つが揃えば、「共生社会」は理念ではなく、日々の暮らしの中で実現可能な現実になります。
■ 専門家への相談がリスクマネジメントになる理由
入管法は改正頻度が高く、運用通達や審査要領も随時更新されています。自力で最新情報を追うのは、特に本業のある企業経営者や、日本語が第二言語であるご本人にとっては、相当な負担です。
行政書士は、入管業務を取り扱う唯一の国家資格者の一つとして、申請取次行政書士の届出を行った者は、本人に代わって入管への申請書類の提出が可能です。ご本人が入管に出頭する手間を省き、書類の整合性も事前に確認できます。
特に以下のようなケースは、早めのご相談をおすすめします。
・初めての在留資格認定証明書交付申請を行う企業
・過去に不許可歴がある方の再申請
・永住許可申請、帰化許可申請
・家族の呼び寄せ(家族滞在、定住者)
・複雑な転職に伴う在留資格変更
■ まとめ:制度を正しく知り、備える人が強い
今回の埼玉県の提案は、制度の隙間を悪用する一部の滞在への対応を求めるものであり、正規の在留資格で暮らす外国人の方々や、適正に外国人を雇用する企業を対象とした規制強化ではありません。しかし、入管行政全体が厳格化の方向にあることは、実務上、確かな事実です。
在日外国人の皆さまには、更新手続きの早期準備と、納税・社会保険の適切な履行を。外国人を雇用する企業の皆さまには、在留カード管理・届出義務・業務適合性の3点セットの徹底を。そして、ご不安があれば、どうぞ専門家をうまく活用してください。
当事務所では、在留資格認定、更新、変更、永住、帰化、企業向けコンプライアンス顧問まで、在留資格・ビザ申請に関するあらゆるご相談を承っております。初回相談から丁寧にヒアリングし、御社・ご本人にとって最も安全で合理的な選択肢をご提案します。
「共生社会」は、ルールを知り、守る一人ひとりの積み重ねで実現します。この記事が、その第一歩のお役に立てば幸いです。
▼参考記事(朝日新聞/Yahoo!ニュース)
https://news.yahoo.co.jp/articles/14f89cfca65667c01df5c92e3b9254e50537c5c0
