■ はじめに——町村部に置き去りにされる「日本語学習機会」

2026年5月、出入国在留管理庁(入管庁)が公表した「在留外国人に関する基礎調査」の結果が、多くの関係者に衝撃を与えました。日本に住む外国人の日本語能力は、人口の少ない町村部ほど低く、しかも学ぶ環境すら整っていないという実態が明らかになったのです。

回答者約8,900人のうち、「日常生活で必要な会話ができる」レベル以上の人は約7割。一方で「全くできない」人も2%存在し、その多くが地方の町村部に集中しているという結果でした。

行政書士として日々、在留資格の申請やビザ更新、外国人雇用のご相談を受けている立場から見ても、この調査結果は決して他人事ではありません。日本語環境の不備は、本人のキャリアだけでなく、雇用する企業のリスク、ひいては在留資格そのものの可否にまで影響を及ぼす重大なテーマです。

本記事では、調査結果の本質と、企業・在日外国人双方が今すべき対応を、行政書士の視点で詳しく解説します。

■ 1.【調査結果の要点】在留外国人の日本語能力に潜む「地域格差」

入管庁が2020年度から毎年実施しているこの調査は、18歳以上の中長期在留者(特別永住者を含む)2万人を対象としたものです。今回の主な結果は以下の通りです。

・「どんな内容でも適切に会話できる」19%
・「流暢に自然な会話ができる」15%
・「日常生活で必要な会話ができる」36%
・「全くできない」2%

数字だけ見れば「7割は会話可能」と読めますが、問題は分布です。町村部に行くほど、上位レベルの割合が下がり、下位レベルの比率が上がります。

さらに深刻なのは、「過去に学んでいたが現在は学んでいない」が回答者の半数を占めたこと。その理由のうち、「学ぶ必要はない」と答えた人は3割にとどまり、残りは——

・「都合の良い時間帯に利用できる教室がない」15%
・「近くに無料の教室がない」11%
・「どこで学べるかわからない」9%

つまり、学ぶ意欲があっても環境が追いついていないのです。

■ 2.【在留資格との関係】日本語能力はビザ審査でどう見られているか

「日本語ができないとビザが取れないのですか?」——よくいただくご質問です。結論から言えば、在留資格の種類によって扱いが大きく異なります。

▼ 特定技能(1号・2号)
特定技能では、原則として「日本語能力試験N4相当以上」または「JFT-Basic」の合格が求められます。介護分野ではN3相当が必要です。日本語力は入口要件であり、現場での安全衛生にも直結します。

▼ 育成就労(2027年4月施行予定)
新制度では「日本語能力A2相当(N4相当)」が修了要件として明文化される方向です。受入企業には学習機会の提供義務が課されます。

▼ 技術・人文知識・国際業務(技人国)
法律上の明文要件はありませんが、通訳翻訳、日本語を使う業務に就く場合は、日本語力の証明書(例えばN2以上)が求められます。

▼ 永住許可申請
ガイドラインで「日本語能力」が独立要件ではないものの、「素行善良」「独立生計」「国益適合」の判断において、生活への適応度を見る要素として重視される傾向が強まっています。

▼ 配偶者ビザ
夫婦のコミュニケーション言語、地域社会への適応など、間接的に審査に影響します。

このように、日本語能力は「あれば有利」ではなく「将来の在留資格の選択肢を広げる必須インフラ」になりつつあります。

■ 3.【企業側のリスク】外国人雇用と日本語サポートの「経営的意味」

外国人を雇用する企業の経営者様・人事ご担当者様にとって、従業員の日本語環境は単なるCSRや福利厚生ではありません。次の4点で、直接的に経営に影響します。

▼ ① 労働災害リスク
工場・建設・介護現場では、安全標識や指示が理解できないことが事故に直結します。労災事故は労基署対応・損害賠償・在留資格更新時の不利益と、三重のリスクを生みます。

▼ ② 在留資格更新の不安定化
「真面目に勤務している」だけでは更新が当然に通る時代は終わりました。職務内容と本人の能力の整合性、納税状況、企業の受入体制が総合的に見られます。

▼ ③ 離職率の上昇
日本語が伸びない=孤立=離職、というルートは典型的です。採用コスト(渡航費・送り出し機関費用・住居準備)を考えれば、月数千円の学習サポートは投資対効果が極めて高い施策です。

▼ ④ 育成就労制度下での「適切な受入機関」要件
2027年から段階施行される育成就労では、受入機関の評価制度が導入されます。日本語学習支援の有無は、評価項目の重要な一つです。

■ 4.【在日外国人の方へ】今日からできる日本語環境づくり

日本語学習の壁を乗り越えるための具体策をお伝えします。

▼ 地域の無料・低額教室を探す
市区町村の国際交流協会、公民館、ボランティア団体が運営する教室は、月数百円〜無料が一般的です。役所の「多文化共生」窓口で必ず情報があります。

▼ オンライン日本語学習の活用
NHK WORLDの「やさしい日本語ニュース」、文化庁の「つながるひろがる にほんごでのくらし」など、無料の公的リソースが充実しています。

▼ 「やさしい日本語」を覚える
完璧な日本語より、まず「やさしい日本語」のルール(短文・漢字にふりがな・受け身を避ける)を覚えると、生活が一気に楽になります。

▼ 在留資格更新の前に日本語証明を取っておく
JLPTやJFT-Basicの合格証は、将来の永住・帰化・上位在留資格への切り札になります。

■ 5.【経営者・人事担当者の方へ】明日からできる5つの実務対応

▼ ① 入社時オリエンテーションの多言語化
最低限「税金」「年金」「健康保険」「労災」の4テーマだけでもやさしい日本語+母語併記で資料化を。

▼ ② 月1回の「日本語タイム」設置
就業時間内に30分でも学習時間を設けるだけで定着率が変わります。

▼ ③ オンライン日本語サブスクの導入
月額数千円のサービスが豊富です。費用は教育訓練費として損金算入可能です。

▼ ④ 地域日本語教室との提携
地方ほど行政協力が手厚い傾向。送迎・交通費補助だけで活用できる場合も。

▼ ⑤ 在留資格更新の年間カレンダー作成
更新3か月前から書類準備が鉄則。日本語学習履歴も将来の上位資格申請で活用できます。

■ 6. 【今後の制度動向】2027年育成就労施行に向けた準備

育成就労制度では、転籍制度の導入、日本語要件の明文化、受入機関の評価制度など、企業側の体制整備が必須となります。今のうちから——

・日本語学習プログラムの整備
・社内マニュアルのやさしい日本語化
・人事担当者の「在留資格リテラシー」向上
・行政書士・登録支援機関との顧問契約

これらに着手しておくことを強くおすすめします。

■ 7.【まとめ】「日本語の壁」は乗り越えられる

入管庁の今回の調査は、課題を可視化しました。しかし課題が見えたということは、対策も具体化できるということです。

在日外国人の皆様にとっては、日本語学習は将来の在留資格の選択肢を広げる最大の投資です。企業の皆様にとっては、外国人材の定着と法令遵守を両立させる最も効果的な施策です。

行政書士は、在留資格申請の代理だけでなく、企業の受入体制構築、社内研修、在留外国人ご本人の生活支援まで、幅広くサポートできる専門家です。「こんなこと相談していいのかな」というレベルの疑問こそ、ぜひ気軽にお寄せください。

外国人と日本人がともに安心して働き、暮らせる社会づくり——その一歩を、私たちと一緒に踏み出していただければ幸いです。

📰 参考記事
https://news.yahoo.co.jp/articles/bd9c39d322521502a46d599c7e778e6f0f0060fa