はじめに——国会での一つの問題提起から
2026年4月23日、参議院外交防衛委員会で社民党の福島みずほ議員が、日本人のパスポート保有率の低さを取り上げました。
数字はこうです。
- 日本:17.8%
- ドイツ:80%
- アメリカ:48%
- 韓国:45%
2010年代には20〜25%あった日本のパスポート保有率は、2019年に23.8%まで下がり、現在さらに低下しています。円安、物価高、少子高齢化、貧困——理由はさまざまに指摘されています。外務省の領事局長も「コロナ禍前の水準を回復していない」と認め、申請手数料を7,000円引き下げる方針を示しました。茂木外務大臣も「諸外国と比べて低い」と認めています。
行政書士として、国際業務、特に外国人の在留資格や経営管理ビザ、国際結婚、帰化申請といった案件を日々扱う立場から、私はこのニュースを単なる「旅行客が減った」という話として読みませんでした。
これは日本社会の根幹に関わる、もっと深い問題だと感じています。本稿では、現場の行政書士の視点から、この数字の意味と、これからの社会で私たちが何を大切にすべきかを書いてみたいと思います。
1. 「外に出る人が少ない国」は、何を失うのか
私は普段、外国の方々と日本人をつなぐ仕事をしています。ビザの申請、在留資格の更新、永住、帰化、国際結婚、外国人を雇用する企業のサポート——内容はさまざまですが、共通しているのは「異なる文化と制度を背負った人同士の橋渡し」という点です。
この仕事を長く続けていて、ある一つの確信があります。
それは、「外に出たことがある日本人」と「出たことがない日本人」では、外国人への接し方がまったく違う、ということです。
外を知っている人は、文化の違いを「違い」として受け止めます。挨拶の仕方、時間感覚、家族観、宗教との距離、契約観念——こうしたものが「自分の常識とは別物だ」と理解した上で、相手と関係を築こうとします。
一方で、外に出た経験が乏しい人は、無意識のうちに「日本のやり方が当たり前」を物差しにしてしまいがちです。違いは「異常」「迷惑」「非常識」と映り、寛容性が育たない。
これは個人の人格の問題ではなく、経験の有無の問題です。経験がなければ想像も及ばない。これは仕方のないことなのです。
だからこそ、社会全体として「外に出る人」を一定数以上確保することは、国の寛容性を守るための公共的な意味を持っています。パスポート保有率17.8%という数字は、この公共的基盤が確実に痩せ細っていることを示しているのではないでしょうか。
2. スマホで世界が見える時代の落とし穴
「いや、今はインターネットがあるじゃないか」——そう言う方もいます。
確かに、スマホ一つあれば地球の裏側の「今」を知ることができます。海外のニュース、SNS、ライブ配信、翻訳アプリ。物理的に行かなくても情報は手に入る時代です。
ですが、私はここに大きな落とし穴があると感じています。
情報を「見た」ことと、現地に「居た」ことは、まったく別物だからです。
空港に降り立った瞬間の、湿度や匂いや音。 言葉が通じないときの、足元から冷えていくような不安。 身振り手振りで何とか通じ合えたときの、心の中で何かがほどける感覚。 レストランで頼んだものが想像とまるで違っていたときの、戸惑いと笑い。 道を尋ねた人が、忙しいはずなのに親身に教えてくれたときの、人間としての連帯感。
こういう五感を伴う体験は、画面の中には絶対に存在しません。AIがどれだけ進化しても、この体験を代替することはできない。
そして、こうした体験こそが、人を変えるのです。「世界には自分とは違う仕組みで生きている人たちがいる」と、頭ではなく身体で理解する。この感覚を持てるかどうかが、その人の人生における他者理解の深さを決めると、私は本気で思っています。
スマホで世界が見える時代だからこそ、逆説的に、五感の実体験の価値はかつてないほど高まっています。
3. 若い世代にこそ必要な「外の経験」
特に若い世代には、ぜひ外の世界に出てほしいと思っています。
ここで誤解しないでいただきたいのは、これは「語学を身につけよう」という話ではないということです。
もちろん語学ができれば便利です。でも、本当に大事なのは語学そのものではなく、「言葉が通じない場所で、それでも人と関係を築こうとした経験」のほうです。
通じないなりに、なんとかしようとする。間違えながら、笑いながら、申し訳なさそうにしながら、相手と接点を持とうとする。この粘り強さと柔らかさが、のちのち日本国内でも、外国人と一緒に働き、暮らすときの財産になります。
語学ができても、この経験が乏しい人は、いざ多文化共生の現場に出るとうまくいきません。逆に、片言でも、この経験を持っている人は、どんな現場でも信頼を得ます。
つまり、語学ができる・できないという話ではなく、語学よりも大事なものがある、ということです。
これからの日本で生きる若い人たちには、ぜひこの根っこの力を育ててほしい。短期の留学でも、ワーキングホリデーでも、バックパッカーでも構いません。形は何でもいい。とにかく、自分の五感で外の世界に触れる経験を、人生のどこかで持ってほしいと思います。
4. 共生社会への移行は、もはや不可逆
なぜここまで強く言うのか。
それは、日本社会がすでに多文化共生の時代へ、不可逆的に移行しているからです。
少子高齢化、人口減少、人手不足。これらは政治的な議論の余地なく、現実として進行しています。介護、建設、農業、製造業、サービス業——あらゆる現場で外国人材なしには成立しない状況が生まれています。
私の事務所にも、外国人を雇いたい企業様、すでに雇っていて在留資格の手続きが必要な企業様、外国人配偶者を呼び寄せたいご家族、日本で起業したい外国人投資家——本当にさまざまな方がご相談に来られます。
この流れは止まりません。むしろ加速します。
だとすれば、これから日本国内で生きていく若い世代は、「海外に行かなくても」、職場で、学校で、地域で、外国人と共に学び、働き、暮らすことになります。これは選択ではなく、所与の条件です。
その時に、「異文化に触れた経験がない」状態でいきなり共生を強いられると、本人もつらいですし、相手の外国人もつらい思いをします。社会全体としても、摩擦が大きくなる。
逆に、若いうちに外の世界を一度でも経験していれば、「違いがあるのは当たり前」「違いがあるからこそ面白い」という基盤ができます。この基盤がある人は、共生社会の中でたくましく生きていけます。
私が若い世代に外へ出ることを勧めるのは、彼らの未来のためです。これからの日本で幸せに、力強く生きていってほしいからです。
5. 受け入れる側の準備としての「外を知る経験」
ここで強調しておきたいのは、「外に出る経験」は、海外に行く本人のためだけではなく、受け入れる側になるための準備でもある、ということです。
外国人を受け入れる立場になる日本人が、外を知らないままだと、何が起きるか。
「なぜ時間通りに来ないのか」 「なぜ家族の話ばかりするのか」 「なぜ宗教上の理由で食事を断るのか」 「なぜそんなに自己主張が強いのか」
これらすべて、相手の文化的背景を知っていれば「そういうものだ」と納得できることです。でも、知らなければ「不真面目」「協調性がない」「わがまま」と映ってしまう。
結果として、せっかく日本に来てくれた優秀な方が定着せず、企業も困り、本人も傷つき、地域社会にも摩擦が残る。私の現場では、こういう不幸なミスマッチを何度も見てきました。
これは、外国人側に問題があるのではなく、受け入れる側の理解が追いついていないことに起因することが多いのです。
だからこそ、日本社会全体として「外を知っている人」の割合を増やすことは、外国人材の定着、ひいては日本経済そのものを支える基盤になります。
パスポート保有率17.8%という数字は、この基盤が脆弱化していることを示す警告でもあるのです。
6. 行政書士として、私が大切にしていること
私は行政書士として、外国人の在留資格や国際業務を扱っています。
この仕事を続けていく中で、自分なりに大切にしている考え方がいくつかあります。
一つは、行政書士の仕事は単なる書類作成ではない、ということ。お一人おひとりの人生や事業の目標を実現するための伴走者でありたいと思っています。ビザはゴールではなく、新しい人生のスタート地点をつくる手段です。
一つは、画一的な対応ではなく、「あなたの場合」に即した個別最適の提案をすること。AIや一般的な情報サイトでは絶対に出せない答えを出すことが、私たちの存在意義だと考えています。
一つは、結果を出せる案件だけを引き受けるということ。受任することがゴールではなく、結果を出すことがゴールです。難しい案件には、知恵と経験で道を探ります。ただし、明確に難しい案件は、依頼者のために正直にお伝えします。
そしてもう一つ、これは私の使命感に近いものですが、外国人支援は単なる業務ではなく、相手の背景や不便さへの理解を伴う仕事だということ。日本語が不自由な中、見知らぬ制度の中で人生の重要な局面を迎えている方々に、専門家として、人として、誠実に向き合いたいと思っています。
7. これからの日本社会のために
パスポートの申請手数料が7,000円引き下げられることになりました。これは一つの前進です。
ですが、根本的には、お金の問題以上に「外に出てみよう」という気持ちを、社会全体として後押しできるかどうかが鍵だと思います。
学校教育で短期の海外体験を組み込む。企業が若手社員の海外研修を支援する。地域で帰国者の体験を共有する場を作る。家庭で「いつか海外に行ってみよう」という会話を増やす。
一人ひとりが、できる範囲で、外の世界との接点を意識的に作っていく。それが10年後、20年後の日本社会の寛容性を決めるのだと思います。
そしてもう一つ。すでに日本に来てくれている外国人の方々に、安心して暮らしてもらうための仕組みを、私たち専門家がしっかり支えていくこと。
行政書士として、私はこの両面から、日本の多文化共生社会の成熟に貢献していきたいと考えています。
ビザ、在留資格、帰化、国際結婚、経営管理ビザ、外国人雇用——どんな国際業務のご相談でも、お一人おひとりに寄り添い、結果へのコミットを大切に、伴走させていただきます。
「あなたの場合」を一緒に考えていきましょう。
