■ はじめに|留学生が過去最多の33万人を超えた今、何が変わっているのか

2024年度、日本への留学生数が33万人を超え、過去最多を更新しました。これは10年前の2014年度と比較して1.8倍という急激な伸びです。政府は2033年までに受け入れ留学生を40万人に増やす目標を掲げており、日本社会における外国人留学生の存在感はますます大きくなっています。

しかし、数だけを追い求めればよいわけではありません。留学生を受け入れた後、彼らが日本社会で活躍し、定着できるかどうか──ここに今、大きな注目が集まっています。

2026年4月の朝日新聞の記事では、留学生の卒業後の日本就職を見据えた教育に力を入れる大学の取り組みが紹介されました。ビザ申請・在留資格を専門とする行政書士の視点から、この動きが外国人採用の現場にどのような影響を与えるのか、詳しく解説します。

■ 留学生の「質」を高める大学の新しい取り組みとは

朝日新聞の記事で取り上げられていたのは、埼玉県上尾市にある聖学院大学の取り組みです。全学生1700人のうち約25%がネパール、中国、ベトナムなどからの留学生で、特に政治経済学部では学生の半数近くが留学生です。

同大学では2018年度から、留学生向けに2つの独自カリキュラムを導入しています。

1つ目は「日本社会」の授業です。中学校の公民のテキストを使いながら、日本の文化、地理、憲法、社会保障制度など、日本で暮らし働くうえで不可欠な基礎知識を幅広く教えます。授業後には日本語指導の教員がノートを添削し、筆記力も同時に鍛えます。

2つ目は「アカデミックジャパニーズ」です。大学の専門科目を学ぶために必要な語彙力を高めるための授業で、日本語能力試験N1をまだ取得していない中級レベルの学生が週2回受講します。

これらの授業は、単に日本語を学ぶだけでなく、日本社会のルールや価値観を理解し、専門的な学びに進むための土台を作るものです。

■ 就職率87%の実績|大学教育と就職の密接な関係

こうした教育の成果は、就職実績にはっきりと表れています。聖学院大学の留学生の就職希望者における就職率は87%。しかも、その多くが地元・埼玉の中小企業に就職しており、地域に根ざした人材を輩出しています。

また、大阪観光大学でも学生の7割が16カ国・地域からの留学生で、ビジネス日本語教育や「働く」をテーマにした実践的な授業を展開。2025年3月卒業の留学生のうち、就職希望者の就職率は8割を超えています。

政府が掲げる「留学生の国内就職率60%」の目標に対し、これらの大学ははるかに高い成果を出しているのです。

ビザ申請の専門家として見ると、こうした高い就職率の背景には、留学生が大学で受けた教育の質が大きく関わっています。なぜなら、在留資格の変更審査においても、大学での学習内容は極めて重要な要素だからです。

■ 在留資格変更の審査で重視される「大学での学び」

留学生が卒業後に日本で働くためには、在留資格を「留学」から就労可能な在留資格に変更する必要があります。多くの場合、「技術・人文知識・国際業務」(いわゆる「技人国」ビザ)への変更が一般的です。

この変更申請の審査で、入国管理局(出入国在留管理庁)が重視するポイントは主に以下の3つです。

①学歴と業務内容の関連性
大学で学んだ専攻分野と、就職先で従事する業務に関連性があるかが厳しく審査されます。例えば、経済学を学んだ留学生が貿易会社で事務を担当する場合は関連性が認められやすいですが、学んだ内容とまったく異なる単純作業に従事する場合は不許可になる可能性が高くなります。

②日本語能力
業務を遂行するために必要な日本語力があるかも確認されます。日本語能力試験のレベルだけでなく、実際にビジネスの場面で使える日本語力が備わっているかが問われます。

③安定した雇用条件
雇用契約の内容が適切であること、日本人と同等以上の報酬が支払われることなども審査対象です。

聖学院大学のように、日本社会の仕組みや専門的な語彙を体系的に学ばせるカリキュラムは、まさにこれらの審査基準を満たす人材を育てる教育と言えます。在留資格変更の申請書類を作成する際にも、こうした教育内容は大きなプラス材料になります。

■ 外国人採用を考える企業が知っておくべきこと

人手不足が深刻化する中、外国人材の採用を検討する企業は年々増えています。しかし、「採用したいけれど、ビザの手続きが複雑でよくわからない」「入社後にトラブルが起きないか心配」という声を、多くの経営者や人事担当者の方からいただきます。

ここで押さえておきたいポイントをいくつかお伝えします。

まず、大学卒業者の強みについてです。記事中の大阪観光大学の理事長の言葉が非常に示唆的です。「技能実習など最初から労働力として受け入れるよりも、大学を経た留学生のほうがよっぽど定着しやすい」──これは、ビザ申請の現場でも実感することです。

大学で数年間、日本語や日本文化を学びながら生活した留学生は、日本社会のルールや慣習を理解しています。企業に入社してからも、コミュニケーション面でのミスマッチが少なく、長期的な戦力として期待できます。

次に、採用前からの準備が大切だということです。外国人材の採用は、内定を出してから考えるのでは遅いケースがあります。在留資格変更申請には、雇用契約書、業務内容の説明書、企業の登記事項証明書、決算書類など、多くの書類が必要です。採用計画の段階から、ビザの要件を理解し、準備を進めることが許可率を高めるカギです。

そして、不許可リスクへの対策です。在留資格変更が不許可になった場合、留学生は日本で働くことができず、帰国せざるを得なくなるケースもあります。企業にとっても、採用計画が白紙に戻ることになります。このようなリスクを防ぐためにも、ビザ申請の専門家である行政書士に早い段階で相談することをお勧めします。

■ 留学生の皆さんへ|卒業後のビザ手続きで失敗しないために

留学生の皆さんにとって、卒業後に日本で働くことは大きな目標の一つだと思います。しかし、就職活動がうまくいっても、在留資格の変更手続きで問題が生じるケースは少なくありません。

よくあるつまずきポイントを紹介します。

「専攻と業務の関連性」の説明が不十分なケースがあります。例えば、文学部を卒業してIT企業に就職する場合、一見すると関連性がないように見えますが、大学で学んだ論理的思考力や語学力を業務にどう活かすかを丁寧に説明できれば、許可される可能性はあります。この「説明の仕方」がとても重要なのです。

書類の不備で審査が長引くケースもあります。必要書類が足りなかったり、記載内容に矛盾があったりすると、追加資料を求められ、審査期間が大幅に延びることがあります。卒業前の早い段階から準備を始めることが大切です。

卒業後の空白期間に注意が必要です。在留資格「留学」は卒業と同時にその根拠を失います。就職活動を続ける場合は「特定活動」への変更が必要になるなど、タイミングを逃すと在留資格に空白が生じるリスクがあります。

こうした問題を防ぐために、卒業の半年前くらいから在留資格について専門家に相談しておくことをお勧めします。

■ 多文化共生社会の実現に向けて──大学・企業・専門家の連携が鍵

記事の中で聖学院大学の小池学長は、「留学生が日本社会に定着し、多文化共生社会を生き抜くためには、母国にはない日本社会の規範を学び、社会で活躍できる専門的な能力を身につけてもらうことが大切」と語っています。

この言葉は、大学教育だけでなく、企業の受け入れ体制、そしてビザ手続きの支援にもそのまま当てはまります。

留学生が安心して日本で学び、卒業後に希望する企業で活躍し、長く日本社会で暮らしていくためには、大学の教育、企業の理解とサポート、そして在留資格手続きの専門的なサポートが三位一体となることが理想的です。

行政書士として、私たちはその一翼を担う存在でありたいと考えています。留学生の皆さんが日本で描くキャリアを、在留資格という法的な基盤からしっかりと支える。企業の皆さまが安心して外国人材を迎え入れられるよう、手続きの面から全力でサポートする。それが私たちの役割です。

■ まとめ|留学生の採用・ビザ申請でお悩みの方へ

留学生の数が増え、大学の教育も進化する中、外国人材の採用は今後さらに身近なものになっていきます。しかし、在留資格の手続きには専門的な知識が必要であり、一つのミスが大きなトラブルにつながることもあります。

「留学生を採用したいが、どのビザが必要かわからない」
「在留資格変更の申請が不許可になったらどうすればよいか」
「留学生だが、卒業後のビザ手続きについて相談したい」

このようなお悩みがあれば、ぜひ一度ご相談ください。外国人材の活躍と日本社会の多文化共生の実現を、ビザ申請のプロとして一緒にサポートさせていただきます。

元記事:https://digital.asahi.com/articles/ASV3V3S2RV3VUTIL00FM.html