■ はじめに|「ニセコ第1位」のニュースに、現場で感じたこと

2026年5月、共同通信とIT企業ウネリーがスマートフォンの位置情報を使って分析した「全国で訪日外国人(インバウンド)比率が高かった上位100地点」のランキングが公表されました。第1位に選ばれたのは、私の事務所のある北海道ニセコリゾートです。トップ100のうち72地点が7都道府県に集中し、北陸など25県は1地点も入らないという、観光地の偏在ぶりが改めて浮き彫りになりました。

行政書士として、ビザ申請・在留資格申請を専門に扱う立場でこのニュースを読むと、単なる「観光ランキング」には見えません。なぜなら、訪日客が集中する地域は、ほぼ例外なく、外国人労働者への依存度も高いからです。本記事では、ニセコの現場で感じている肌感覚と、行政書士としての実務的視点から、これからの「共生する地方のあり方」と、外国人雇用・在留資格のポイントを整理します。

■ 1.データで読む|訪日客の地域偏在と「ニセコ第1位」の意味

報道によると、上位100地点を都道府県別に見ると、京都17、北海道16、神奈川11と続き、山梨・大阪・沖縄・東京が8〜6地点。一方、観光庁がまとめた2025年の外国人延べ宿泊者数では、東京・大阪・京都・北海道・沖縄の5都道府県で全体の69.7%を占め、31県は1%未満にとどまっています。

ここから読み取れる現実は2つです。
1.訪日客は「日本全体に来ている」のではなく、特定の地点に強烈に集中している。
2.その集中地点の代表格として、ニセコは長年にわたり外国人の主要な目的地であり続けている。

ニセコの場合、特徴的なのは「短期観光客」だけでなく、「数週間〜数か月単位の長期滞在者」「シーズン就労者」「移住者」が層として厚い点です。ホテル、レストラン、スキースクール、リゾート運営会社、不動産、建設、医療通訳、清掃、物流──ありとあらゆる現場に、海外出身のスタッフが入り込み、町の機能を支えています。

■ 2.オーバーツーリズムだけじゃない|地方が抱えるリアルな課題

もちろん、インバウンドの恩恵だけが語れる時代ではありません。私自身、住民の一人として、また実務家として、次のような課題を日常的に目にしています。

・物価上昇:宿泊費・飲食費だけでなく、住宅家賃や日常物価まで上昇し、地元住民の生活コストを直撃している。
・オーバーツーリズム:道路渋滞、ゴミ、騒音、マナー問題など、生活圏と観光圏の摩擦。
・交通事故:慣れない道、雪道、左側通行への不慣れによる事故リスク。
・医療体制の逼迫:シーズン中の救急搬送、外国語対応の不足、保険未加入者への対応。
・人材確保競争:日本人労働者だけでは到底足りず、地元事業者間で外国人材の取り合いが起きている。

これらは「観光をやめれば解決」する問題ではありません。なぜなら、ニセコのような小さな町にとって、観光と外国人労働は、すでに「地域経済の主要産業」だからです。問題は、「どう続けるか」「どう設計し直すか」に移っています。

■ 3.人口減少時代の地方|外国人材は「あれば嬉しい」から「いなければ困る」へ

日本全体で進む人口減少は、地方ではより深刻です。ニセコのような小規模自治体では、若年層の流出と高齢化が同時進行し、観光業はもとより、建設、運送、介護、医療、除雪といった社会インフラを支える担い手が、構造的に不足しています。

ここで重要な視点は、「外国人労働者は、観光客を“もてなすため”に必要なのではない」ということです。実際には、

・地域の高齢者を支える介護・医療現場
・冬季の除雪・道路維持
・物流・宅配といった生活インフラ
・建設・改修・インフラ更新

といった、住民の生活そのものを支える領域でこそ、外国人材の存在が大きくなっています。インバウンドの数字は氷山の一角であり、その下には「地方の社会インフラを多国籍チームで維持している」という現実が広がっています。

■ 4.経営者・人事担当者へ|外国人雇用は「採用戦術」ではなく「経営戦略」

外国人を雇用する企業の経営者・人事担当者の方に、私が日常の相談現場でお伝えしているのは、「外国人雇用は人手不足の穴埋めではなく、経営戦略の一部として位置づけてください」ということです。

具体的には、以下のような視点が重要になります。

①どの在留資格で受け入れるか
 ・特定技能(1号・2号):宿泊、外食、建設、ビルクリーニング、介護、農業、漁業など、現場系業務に強い在留資格。
 ・技術・人文知識・国際業務:通訳、マーケティング、ホテルのフロントマネジメント、エンジニアなど、知識・技術系業務向け。
 ・経営・管理:自ら会社を経営する外国人向け。
 ・技能、特定活動など、業務内容により最適解が変わります。

②業務内容と在留資格のミスマッチを避ける
 よくある失敗は、「技術・人文知識・国際業務」で在留資格を取得したスタッフを、長期にわたり清掃やホール業務など現場作業中心に従事させてしまうケースです。これは在留資格更新時に大きなリスクとなり、本人にも企業にも不利益をもたらします。採用前から「業務内容」と「在留資格」を整合させる設計が不可欠です。

③受入れ体制とコンプライアンス
 雇用契約書(母国語併記が望ましい)、就業規則、住居支援、生活オリエンテーション、ハラスメント対策、相談窓口の設置など、「採用してからの仕組み」が問われる時代です。特定技能では、登録支援機関との連携や支援計画の実施も求められます。

④長期的なキャリアパス
 単なる「期間限定の労働力」ではなく、「将来的に管理職、経営層、地域のリーダー候補」として育てる発想が、定着率と企業ブランドを左右します。

■ 5.在日外国人の方へ|在留資格を「守る」「活かす」ための基本

在日外国人の皆さまにとって、在留資格は「日本で生活し、働き、家族と暮らす土台」そのものです。特に重要なポイントは次のとおりです。

・就労内容と在留資格の一致:許可された活動範囲を超える就労は、資格取消や更新拒否のリスクにつながります。
・期限管理:在留期間の更新は、満了の3か月前から可能です。直前ではなく、余裕を持って準備しましょう。
・住所変更・勤務先変更の届出:14日以内の届出義務があります。
・税・年金・社会保険の納付状況:永住申請や更新時に厳しく確認されます。
・家族の在留資格:配偶者ビザ、家族滞在、子の在留資格など、ライフイベントごとに見直しが必要です。

「自分のケースで何が必要か分からない」「過去の手続きが正しかったか不安」という段階で、早めに専門家に相談することが、後々の大きなトラブル回避につながります。

■ 6.ニセコから考える「共生する地方」のかたち

ニセコは、ある意味で「日本の地方の未来の縮図」です。インバウンドと外国人労働者なしには成り立たない経済構造、その一方で残る生活面の摩擦と制度のひずみ。これらにどう向き合うかは、全国の小さな町にとって他人事ではありません。

私が大切にしている視点は、次の3つです。

1.観光客・労働者・住民を「分けて考えない」
 同じ町で生活する人々として、医療、教育、交通、防災を共通基盤として整備する。

2.「日本語ができないから」ではなく「制度が複雑だから」を出発点にする
 行政手続、契約、保険、医療など、制度設計の側を多言語・多文化前提にアップデートする。

3.外国人材を「コスト」ではなく「投資先」として扱う
 研修、キャリア形成、家族支援を含めて、長期的に地域に根を張ってもらう設計をする。

これらは大きな話に見えて、実は日々の雇用契約書一枚、在留資格申請一件、相談対応一回の積み重ねで実現していく、地味で具体的な実務の世界です。行政書士という仕事は、その実務の「裏方」を担う仕事だと考えています。

■ 7.まとめ|ニセコ第1位を、未来への問いとして受け取る

訪日客比率全国第1位という結果は、ニセコにとって誇らしい数字であると同時に、「この集中をどう持続可能なものにするか」という問いを突きつけています。インバウンドは追い風であると同時に、地域の課題を一気に可視化する“拡大鏡”でもあります。

人口減少が進む日本、特にニセコのような小さな町にとって、インバウンドと、それを受け入れる外国人労働者は、もはや一過性のブームではなく、地方経済・地域社会・社会インフラを支える不可欠な構成員になりつつあります。だからこそ、一時の数字に一喜一憂するのではなく、「どう共に暮らし、共に働き、共に町をつくっていくか」を、制度・実務・現場の三層で本気で議論する時期に来ています。

当事務所では、

・在日外国人の方の在留資格・ビザ申請、変更、更新、永住、帰化
・外国人を雇用される企業の在留資格設計、雇用契約、受入れ体制構築
・ニセコ・北海道エリアでの実務に即したアドバイス

を中心に、生活と事業の両面からサポートしています。「何から相談していいか分からない」という段階のご相談こそ歓迎です。一緒に、これからの「共生するニセコ・共生する日本」を考えていきましょう。

▼参考記事
https://news.yahoo.co.jp/articles/9bcad72878529c2c0d6695c3b0a78af18039dcb2