はじめに

2026年6月、朝日新聞デジタルが重要なニュースを報じました。全国115の自治体(5月25日時点)が、国民健康保険料の滞納状況が「悪質」と判断した外国人の情報を出入国在留管理庁(入管庁)に提供しているというものです。

この情報提供により、在留資格の更新や変更が不許可となる可能性があり、実際に昨春までに27人が在留不許可とされています。

在留資格を持つ外国人、そして外国人を雇用する企業にとって、この動きは見過ごせない重要な問題です。本記事では、現状と課題、そして今後の対応について詳しく解説します。

国保料滞納情報の入管共有とは?

背景:政府の外国人政策

この動きの背景には、2018年に政府が示した「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」があります。この対応策では、在留審査の「適正化」を進める方針が示されました。

入管庁によると、在留資格の変更・更新許可の審査では、納税義務などの履行が考慮されます。国民健康保険料もその対象です。

情報提供の仕組み

入管庁は2020年末から、自治体と任意で覚書を結び、地方税法に基づいて滞納者の名前や在留カード番号などの情報提供を受ける取り組みを進めています。

提供される情報には以下が含まれます:

  • 氏名
  • 在留カード番号
  • 滞納額
  • 滞納期間
  • 督促への対応状況

実際の影響

昨春までに、滞納情報の提供を受けた27人が在留不許可とされました。これは、国保料の滞納が単なる行政上の問題にとどまらず、在留資格という外国人の生活基盤に直結する問題であることを示しています。

自治体側の事情と対応

外国人の国保料収納率の現状

外国人の国保料収納率を把握している約150自治体について、厚生労働省が集計した結果によると、外国人の収納率は約63%でした。これは日本人を含む全体の収納率93%と比べて大幅に低い数字です。

外国人が多い自治体にとって、手間と予算がかかる滞納の解消は共通の課題となっています。

自治体の具体的な取り組み

東京都豊島区:
国保加入者の32%超を外国人が占める豊島区では、催告状の封書に入管のロゴマークを入れて中身を見てもらう工夫をしてきましたが、滞納の解消は難航していました。2023年度から入管への情報提供を始めると「効果は絶大で、外国人のほうから役所に来てくれるようになった」といいます。

岐阜県羽島市:
2026年3月から情報提供を始めた羽島市は「予算措置も必要なく、ありがたい」と話しています。

岐阜県笠松町:
隣の笠松町も「市県民税や固定資産税など他の税にも適用してもらえると助かる」としています。

自治体にとっては、入管への情報提供が滞納解消の有効な手段となっているのが現状です。

透明性の欠如という問題

基準の不透明性

最も大きな問題は、「悪質」と判断する基準が自治体ごとに異なり、しかも多くの自治体が基準を明らかにしていないことです。

横浜市:
基準を公表していません。職員の個別判断も加味するとして「基準を超えた人全員を(入管側と)共有するわけではない」と説明しています。これまで千人規模の情報提供をしたといいます。

名古屋市:
2021年8月から入管への情報提供を始めた名古屋市は、1年以上前の国保料が未払いで、督促に応じない場合を悪質と判断しているといいます。

一部の自治体は「悪用される恐れがある」として基準を明らかにしていません。

自治体名の非公表

入管庁は覚書を結んだ自治体名を「自治体側からの要請」を理由に非公表としています。

外国人にとっては、悪質性の基準だけでなく、自分が住んでいる自治体が入管に情報提供をしているのかどうかも不透明な状況です。

日本人との扱いの違い

一般的な滞納対応

国保料を滞納すると、自治体は以下のような対応を取ります:

  1. 督促状の送付
  2. 電話や訪問による納付の促し
  3. 財産調査
  4. 差し押さえの執行

これは日本人を含む一般的な対応です。

外国人に付加されるペナルティ

しかし外国人の場合、これらに加えて在留不許可という重い処分が付加されることになります。

在留外国人の問題に詳しい弁護士は「知らない間に自分の情報が共有され、日本に住み続けられるかどうかの判断材料にされるのは、外国人には恐怖であり、日本への不信感を招く」と指摘しています。

さらに「滞納が良くないことなのは前提だが、外国人が滞納すれば、在留資格が更新できず、国外に追い出されてしまうのは、(日本人に比べて)ペナルティーが重すぎるのではないか」としています。

今後の展望:デジタル化による更なる厳格化

政府は、2027年度からマイナンバーカードなどと行政機関の情報をつなぐデジタル庁のシステムにより、自治体が保有する在留外国人の国保の滞納情報を入管庁が参照できるようにする方針です。

これにより、情報共有はさらに迅速かつ包括的になると予想されます。

外国人の方へ:今すぐできる対応

1. 現状の確認

まず、自分の国保料の支払い状況を確認しましょう。未払いがある場合は、すぐに対応する必要があります。

2. 自治体への相談

支払いが難しい場合は、まず自治体の窓口に相談してください。以下のような制度が利用できる場合があります:

  • 分納制度: 一括での支払いが難しい場合、分割での支払いが認められることがあります
  • 減免制度: 所得が一定基準以下の場合、保険料の減免が受けられることがあります
  • 猶予制度: 一時的に支払いが困難な場合、納付の猶予が認められることがあります

重要なのは、督促状を無視せず、早めに相談することです。

3. 専門家への相談

在留資格への影響が心配な場合は、行政書士などの専門家に相談することをお勧めします。専門家は以下のサポートができます:

  • 在留資格への影響の評価
  • 自治体との交渉のサポート
  • 在留資格更新手続きのアドバイス

企業の人事担当者の方へ:できるサポート

1. 情報提供

外国人社員に対して、国保料の滞納が在留資格に影響する可能性があることを周知しましょう。社内研修や個別面談の機会を活用できます。

2. 相談窓口の紹介

支払いが難しい社員がいる場合は、自治体の相談窓口や専門家の連絡先を紹介しましょう。

3. 生活サポート

外国人社員が抱える生活上の課題――言語の壁、制度理解の不足、経済的困難――を理解し、必要に応じて通訳の手配や生活相談の機会を提供することも有効です。

4. 予防的対応

在留資格を失うことは、企業にとっても大きな損失です。優秀な人材の流出を防ぐためにも、予防的な対応が重要です。

行政書士としての視点

私たち行政書士は、日々ビザ申請や在留資格の相談を受けています。この制度変更は、在留資格を持つ外国人の生活に大きな影響を与えるものです。

在留資格審査における考慮事項

在留資格の審査では、以下の点が総合的に考慮されます:

  1. 素行の善良性: 法令の遵守、納税義務の履行など
  2. 独立生計の維持: 日本で安定して生活できる資力があるか
  3. 国益適合性: その外国人の在留が日本の国益に適合するか

国保料の滞納は、これらのうち「素行の善良性」および「独立生計の維持」に関わる問題として評価されます。

実務上のアドバイス

在留資格の更新を控えている方で、国保料の滞納がある場合は、更新申請前に可能な限り納付しておくことをお勧めします。どうしても難しい場合は、自治体と相談の上、分納の計画を立て、その計画を遵守していることを示す資料を準備しておくことが重要です。

まとめ

国保料の滞納が在留資格に影響する時代になりました。全国115の自治体が入管に情報提供をしており、その数は今後も増える可能性があります。

外国人の方へ:

  • 国保料の支払い状況を確認しましょう
  • 支払いが難しい場合は、早めに自治体に相談しましょう
  • 在留資格への影響が心配な場合は、専門家に相談しましょう

企業の人事担当者の方へ:

  • 外国人社員への情報提供を行いましょう
  • 相談窓口や専門家の連絡先を紹介しましょう
  • 生活上の課題を理解し、必要に応じてサポートしましょう

透明性の向上を:
現在の制度の最大の問題は、基準の不透明性と自治体名の非公表です。外国人が安心して日本で生活できるよう、より透明で公正な制度の運用が求められます。

在留資格は生活と仕事の基盤です。不安なことがあれば、遠慮なく専門家にご相談ください。

元記事:
https://digital.asahi.com/articles/ASV6511H5V65OIPE00DM.html