■ はじめに:「火葬が嫌なら帰れ」とは、誰にも言えないはずだ
岩屋毅前外相は、以前、ムスリム土葬問題についてこう語っておられます。
「人生は、そんな簡単なものじゃないでしょう。この国で頑張ろうと思って、何十年間も日本で働いて死んでいった人に『火葬が嫌なら元の国に帰りなさい』というのは……」
私はこの言葉に、深く共感しています。そして、これこそが今回のテーマを考えるうえでの出発点だと思っています。
2026年5月3日、共同通信が一本のニュースを報じました。政府が、国内のムスリム人口増加に伴う土葬墓地の新設問題について、全国129の主要自治体(都道府県、政令市、中核市)を対象に実態調査を開始したというものです。2026年度中に結果を取りまとめ、自治体に周知する方針だといいます。
「お墓の話」と聞くと、ビザや在留資格の話とは縁遠いように感じるかもしれません。しかし、行政書士として日々、在留資格手続きや外国人雇用支援に携わる立場から見ると、これは「日本がいよいよ本格的な多文化共生社会へ移行する」ことを象徴する、極めて重要な動きなのです。
本記事では、ムスリム土葬問題の背景から、在日外国人雇用の現場で起きていること、そして企業と当事者が今考えるべきポイントを、私自身の現場感覚を交えながらじっくりお話ししていきます。
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■ 第1章:急増するムスリム人口 ― 数字の向こう側にある「人生」
国内のムスリム人口は、専門家推計で2019年末の約23万人から、2024年末には約42万人へ。わずか5年でほぼ倍増しています。
この急増の背景には、いくつかの要素があります。
第一に、技能実習制度から特定技能制度への移行と拡充。インドネシア、バングラデシュ、パキスタンといったイスラム圏の国々から、製造業、介護、農業、建設の現場へ、多くの方が来日されています。
第二に、留学生の多様化。日本語学校から大学院まで、イスラム圏出身の留学生は確実に増えています。
第三に、高度人材としての受け入れ。技術・人文知識・国際業務、高度専門職といった在留資格で、IT・研究・経営の分野でムスリムの方々が活躍しておられます。
ただ、私が現場で強く感じるのは、こうした数字の向こうに「一人ひとりの人生」がある、という当たり前の事実です。「外国人材」「ムスリム」とひとくくりにされがちですが、実際には全員、それぞれの夢や事情、家族、信仰を抱えてここに来ています。だからこそ、画一的な対応では絶対にうまくいかない。私はそう確信しています。
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■ 第2章:なぜ土葬問題が生まれるのか ― 制度のすき間に生じる「人生の不安」
イスラム教では、亡くなった方を土葬することが宗教上の原則とされています。火葬は教義上避けるべきものとされ、信仰心の篤いムスリムにとっては、自身や家族の埋葬方法は人生最大の関心事の一つです。
一方、日本では火葬率がほぼ100%。「墓地、埋葬等に関する法律」自体は土葬を禁じていませんが、各自治体の条例で土葬可能区域が制限され、実質的に土葬が困難な地域がほとんどです。
この制度的なすき間が、人々の「人生の不安」として表面化してきました。大分県日出町では2018年、ムスリム向け土葬墓地建設計画が、地下水汚染への懸念や文化的違和感を理由に住民の反対で頓挫しています。
私は、この問題を「外国人差別」と単純に断じるつもりはありません。衛生面、水資源、地域合意 ― 関係者それぞれに正当な懸念と立場があります。制度や法律は曲げられません。けれども、制度の枠の中で「どうすれば前に進められるか」を粘り強く考えるのが、私たち実務家の仕事だと思っています。明確に黒なものは引き受けない。でも、グレーであれば、知恵と経験で白に近づける努力をする ― これが私の基本姿勢です。
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■ 第3章:在留資格と宗教的アイデンティティ ― 「書類の向こう側」を見るということ
ビザ申請・在留資格申請の専門家として、私たちが日々向き合っているのは、書類や手続きそのものではありません。その向こうにある「人の人生」です。
技能実習生として来日し、特定技能に移行し、家族を呼び寄せ、永住権を取り、日本で生涯を終える ― そうしたライフコースを歩むムスリムの方々が、確実に増えています。
「自分が亡くなった時、宗教に従った埋葬ができないかもしれない」という不安は、単なる宗教的問題ではなく、その人が日本に根を下ろせるかどうかを左右する根源的な問いです。
在留資格更新のご相談時に、こうした生活面の不安を打ち明けられることが増えました。私はそのたびに、行政書士は書類作成代行業者ではなく、外国人の方の日本での人生設計を共に考える伴走者であるべきだと、強く感じています。
「あなたの場合は、どうしたいですか」「ご家族はどう考えていますか」「10年後、20年後、どう生きていたいですか」 ― こうした問いから始まる相談こそが、本当に意味のある支援だと思っています。
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■ 第4章:企業の人事担当者が知っておくべきこと ― 「人生をどこまで引き受けるか」
外国人材を雇用される企業にとって、ムスリム従業員への配慮は、もはや「特別対応」ではなく「標準的なマネジメント業務」になりつつあります。
具体的には、以下のような項目が挙げられます。
【就業時間中の宗教的配慮】 ・1日5回の礼拝(サラート)への対応 ・社内に礼拝スペース(小さな静謐な部屋でも可)の確保 ・金曜日の集団礼拝(ジュムア)への配慮
【食事の配慮】 ・ハラル認証食品の提供、または個別対応 ・社員食堂でのアレルゲン表示と並ぶ宗教的配慮表示
【就業カレンダーの配慮】 ・ラマダン期間中の業務調整 ・イード(祝祭)の休暇配慮
【人生の節目への配慮】 ・結婚、出産、そして葬儀までを視野に入れた福利厚生
最後の項目こそ、今回の土葬問題が私たちに突きつけているものです。「うちの会社で何十年も働いてくれた従業員が、宗教に従って弔われる場所が日本にあるか」という問い ― これは、CSRやD&Iの観点を超えて、岩屋前外相の言葉どおり「人生をどこまで引き受けるか」という、経営の根本的な姿勢を問うものだと思います。
正直に言えば、すべてを企業単独で解決することはできません。でも、「自社の従業員がそういう不安を抱えているかもしれない」と知っていることだけで、信頼関係はまったく違うものになります。私はその「知っていること」「考えていること」自体に、大きな価値があると考えています。
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■ 第5章:自治体調査が意味するもの ― 政策の風向きを読む
政府が129自治体を対象に調査を行ったという事実は、政策の風向きの変化を示しています。
これまで、宗教的埋葬の問題は「個別の自治体の判断」「地元住民との合意形成」に委ねられてきました。しかし今後は、国レベルでの実態把握をもとに、何らかのガイドラインや支援策が示される可能性があります。
外国人政策の総合的対応策の一環として位置付けられた点も重要です。これは単独の墓地問題ではなく、入管法、労働法、社会保障、教育、地域共生といった、外国人に関わるあらゆる政策と連動して動く可能性があります。
行政書士として、こうした政策の動きを単に「ニュース」として見るのではなく、「お客様一人ひとりの人生設計に、いつ、どう影響するか」という視点で読み解き、必要な情報を先回りしてお届けする ― これが、AI時代に求められる専門家の役割だと考えています。一般論はネットで誰でも調べられます。「あなたの場合」を語れることに、専門家の存在価値があるはずです。
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■ 第6章:当事者・企業が今できること
では、在日外国人ご本人、そして外国人を雇用される企業は、今この時点で何ができるでしょうか。
【在日外国人の方へ】 ・ご自身の宗教的ニーズを、ご家族や勤務先と早めに共有しておく ・地域のムスリムコミュニティ(モスクなど)とつながりを持つ ・在留資格、永住、帰化といった選択肢について、長期的視点で情報収集する ・困った時は一人で抱え込まず、専門家に相談する
【企業の方へ】 ・外国人従業員の宗教的背景を、採用時にデリケートに把握する ・就業規則に宗教的配慮の条項を盛り込む ・社内研修で、多文化共生リテラシーを高める ・地域の自治体や専門家と連携し、長期的な定着支援策を講じる
そして、当事者にも企業にも共通してお伝えしたいのは、「一人で抱え込まないでください」ということです。私の役割は、御社や、あなた自身の状況を聞いたうえで、「あなたの場合、こうしましょう」と即答できる伴走者であることだと思っています。
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■ 第7章:まとめ ― 「共に生き、共に弔う」社会を目指して
ムスリム土葬問題は、一見ニッチなテーマに見えるかもしれません。しかしこれは、「日本社会が外国人を、単なる労働力ではなく、共に生き、共に弔う隣人として受け入れられるか」という、極めて根源的な問いを含んでいます。
岩屋毅前外相の言葉をもう一度引きます。「何十年間も日本で働いて死んでいった人に『火葬が嫌なら元の国に帰りなさい』というのは……」 ― 私はこの言葉を、自分の仕事の指針として胸に刻んでいます。
行政書士として、私たちはビザや在留資格の手続きを通じて、外国人の方々の日本での「入口」をお手伝いしています。けれども、本当に大切なのは、その後の長い人生の道のりです。入口を整えるだけで終わるのは、行政書士の本分ではありません。結果にコミットし、その人の人生に伴走し続ける ― これが、私の目指す行政書士像です。
外国人雇用に関するご相談、在留資格申請、企業向けの就業環境整備のアドバイス、そして在日外国人の方ご本人の生活相談まで、当事務所では幅広くサポートしております。
「こんな小さなこと聞いてもいいのかな」と感じられたことこそ、お気軽にお問い合わせください。一人ひとりの安心が、日本社会全体の豊かさにつながると信じています。
▼参考記事 https://news.yahoo.co.jp/articles/4ea1164237db15f1f65f051c86c16e3f245c26c1
