はじめに:急増する在日ベトナム人と法令順守の課題

2026年6月17日、東京都渋谷区のベトナム大使館で、在日ベトナム人向けのオンライン参加型クイズ大会のキックオフイベントが開催されました。このイベントは、日本で暮らすベトナム人に日本の法律を詳しく知ってもらうことを目的としており、警視庁の協力のもとクイズが作成されています。

日本に暮らすベトナム人は2025年末時点で約68万1100人に達し、10年前と比較すると4.6倍という驚異的な増加を見せています。この急激な増加に伴い、日本とベトナムの法律やルールの違いを十分に理解しないまま、知らず知らずのうちに法令違反をしてしまうケースが増加しているのが現状です。

本記事では、行政書士としてビザ申請・在留資格申請を専門とする立場から、このクイズ大会の意義と、在日外国人および外国人を雇用する企業が知っておくべき在留資格に関する重要ポイントを解説します。

ベトナム大使館クイズ大会の概要と意義

イベントの背景と目的

今回のクイズ大会は2年前に始まり、今回で3回目を迎えます。大使館によれば、今回は約10万人のエントリーを見込んでおり、在日ベトナム人コミュニティにおける最大級の教育イベントとなっています。

クイズの内容は実践的で、例えば「留学生がアルバイトできない業種は?」といった、日常生活で直面する具体的な疑問に答える形式となっています。これは単なる知識の確認ではなく、実際の生活場面で必要となる法令知識を身につけることを目的としています。

「楽しみながら学ぶ」アプローチの効果

大使館の公使参事官は「コンテストを通じ、在日ベトナム人コミュニティーが、もっと日本に友好的で規律あるものになれば」と述べています。この言葉には、法令順守を堅苦しい義務としてではなく、コミュニティ全体で楽しみながら学ぶ文化を育てたいという意図が込められています。

法令教育において「楽しさ」を取り入れることは、教育効果の観点から非常に有効です。クイズ形式であれば:

  • 参加のハードルが低く、多くの人が気軽に参加できる
  • ゲーム感覚で記憶に残りやすい
  • 正解・不正解を通じて自然に知識が定着する
  • SNSでの共有などを通じてコミュニティ全体に波及効果がある

このようなアプローチは、今後の外国人材受け入れにおけるコンプライアンス教育のモデルケースとなる可能性があります。

在留資格と就労制限:知っておくべき基礎知識

在留資格とは何か

在留資格とは、外国人が日本に滞在するための法的な資格のことで、一般的に「ビザ」と呼ばれていますが、厳密にはビザ(査証)と在留資格は異なります。在留資格は入国後に日本国内で活動できる範囲を定めるものです。

現在、日本には約30種類の在留資格があり、それぞれに活動内容の制限が設けられています。主なカテゴリーは以下の通りです:

就労が認められる在留資格

  • 技術・人文知識・国際業務
  • 技能
  • 特定技能
  • 技能実習 など

原則として就労が認められない在留資格

  • 留学
  • 家族滞在
  • 文化活動 など

活動に制限がない在留資格

  • 永住者
  • 日本人の配偶者等
  • 永住者の配偶者等
  • 定住者

留学生の就労制限:最も誤解されやすいポイント

クイズ大会でも取り上げられた「留学生がアルバイトできない業種」という問題は、実務上非常に重要なテーマです。

留学生は原則として就労が認められていませんが、「資格外活動許可」を取得することで、一定の範囲内でアルバイトが可能になります。しかし、以下のような制限があります:

時間制限

  • 週28時間以内(学則で定める長期休業期間中は1日8時間以内)
  • 複数のアルバイトを掛け持ちする場合も合計で週28時間以内

業種制限

  • 風俗営業関連の業種では働けない(飲食店での接客、マッサージ店、パチンコ店など、風俗営業法で定められた業種)
  • たとえ清掃や皿洗いなどの業務であっても、風俗営業の店舗では不可

よくある違反事例
❌ キャバクラやスナックでの皿洗い・清掃
❌ パチンコ店での清掃
❌ 週28時間を超える就労
❌ 資格外活動許可を取得せずにアルバイト

これらの違反は、在留期間更新時や在留資格変更時に発覚し、不許可の原因となります。

技能実習生と特定技能の違い

ベトナム人の多くは技能実習生や特定技能の在留資格で来日しています。これらは似ているようで、実は大きく異なります。

技能実習

  • 目的:技能移転による国際貢献
  • 転職:原則として不可(同一職種・同一実習実施者)
  • 期間:最長5年
  • 家族帯同:不可

特定技能

  • 目的:人手不足分野での労働力確保
  • 転職:同一分野内であれば可能
  • 期間:特定技能1号は最長5年、特定技能2号は更新可能
  • 家族帯同:特定技能2号は可能

転職の可否は大きな違いで、技能実習生が無断で転職すると不法就労となり、受け入れ企業も不法就労助長罪に問われる可能性があります。

企業が知っておくべき外国人雇用のコンプライアンス

不法就労助長罪のリスク

外国人を雇用する企業にとって最も注意すべきは「不法就労助長罪」です。これは、不法就労と知りながら外国人を雇用した場合、または在留資格の確認を怠った場合に問われる刑事罰です。

罰則

  • 3年以下の懲役または300万円以下の罰金、あるいはその両方

「知らなかった」は通用しない
入管法では、事業主に在留カードの確認義務が課せられています。確認を怠った場合、「知らなかった」という弁解は認められません。

雇用時に確認すべきポイント

外国人を雇用する際は、以下の点を必ず確認してください:

在留カードの確認

  • 有効期限
  • 在留資格の種類
  • 就労制限の有無

資格外活動許可の確認(留学生・家族滞在の場合)

  • 許可証印の有無
  • 許可の範囲(週28時間以内など)

就労可能な業種の確認

  • 在留資格に対応した業務内容か
  • 風俗営業関連でないか

定期的な在留期限の管理

  • 更新手続きのサポート
  • 期限切れ前の確認体制

外国人雇用状況の届出義務

外国人を雇用または離職させた場合、ハローワークへの届出が義務付けられています。届出を怠ると30万円以下の罰金が科される可能性があります。

在留資格更新・変更時のポイント

更新が不許可になる主な理由

在留資格の更新や変更申請が不許可になる主な理由は以下の通りです:

  1. 資格外活動違反
  • 留学生が週28時間を超えて就労
  • 許可されていない業種での就労
  1. 納税義務の不履行
  • 住民税、所得税の未納
  • 年金・健康保険の未加入
  1. 在留状況の不良
  • 留学生の出席率不良
  • 犯罪歴
  1. 虚偽申請
  • 申請書類の偽造
  • 虚偽の説明
  1. 経済的基盤の不足
  • 安定した収入がない
  • 生活保護の受給

専門家に相談すべきタイミング

以下のような状況では、早めに行政書士などの専門家に相談することをお勧めします:

  • 転職を考えているが、在留資格の変更が必要か分からない
  • 過去に資格外活動違反をしてしまった
  • 在留期限が迫っているが、更新できるか不安
  • 家族を呼び寄せたいが、要件を満たしているか不明
  • 永住申請を考えているが、準備の仕方が分からない

早期の相談により、問題を未然に防ぐことができます。

まとめ:正しい知識が安心の在留生活につながる

ベトナム大使館のクイズ大会は、「楽しみながら法令を学ぶ」という新しいアプローチで、在日ベトナム人コミュニティの法令順守意識を高める素晴らしい取り組みです。

しかし、クイズで学べる知識は基礎的なものであり、個別の状況に応じた専門的なアドバイスが必要な場面も多くあります。特に以下のような方は、専門家への相談をお勧めします:

在日外国人の方

  • 在留資格の更新・変更を控えている
  • 転職や起業を考えている
  • 家族の呼び寄せを希望している
  • 永住申請を検討している
  • 過去に何らかの違反があり不安

企業の経営者・人事担当者

  • 外国人の採用を検討している
  • 現在雇用している外国人スタッフの在留資格管理に不安がある
  • 不法就労助長罪のリスクを回避したい
  • 外国人スタッフへの法令教育を実施したい

行政書士は、ビザ申請・在留資格に関する専門家として、皆様の安心な在留生活と適正な外国人雇用をサポートいたします。「知らなかった」で後悔する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

初回相談は無料で、多言語対応も可能です。日本で安心して暮らし、働くために、正しい知識と適切な手続きをサポートいたします。


参考記事
毎日新聞「楽しみながら『法令順守』在日ベトナム人へ大使館がクイズ大会」2026年6月21日配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/c578f5ab860801e9ae1baf9cf836eb9d8fcf415a