■はじめに:熊本県の画期的な取り組みが教えてくれること

2026年5月、熊本県が県内で働く外国人技能実習生などに向けて、方言「熊本弁」を紹介するハンドブックを作成したというニュースが報じられました。熊本県立大学の馬場良二名誉教授(日本語学)が監修し、日常会話で使う方言に加え、農業や介護の分野で必要になる言葉を、絵と共に10ページにまとめたものです。

「ばってん(だけど)」「しなっせ(してください)」「よか(良い/場合によっては不要の意味)」「ぬっか(暑い)」「なおす(片付ける、しまう)」――。標準語の日本語教育を受けてきた外国人材にとって、こうした方言は想像以上に大きな壁になります。

このニュースは、単なる地方の話題ではありません。日本全国で外国人雇用が拡大するなかで、すべての地域・すべての企業が直面している「定着の壁」を象徴する出来事だと言えます。

本記事では、行政書士として在留資格・ビザ申請業務に携わる立場から、外国人材の「言葉の壁」がもたらす影響、それが在留資格手続きにどう関係するのか、そして雇用企業が今すぐ取り組むべき実務ポイントを、わかりやすく解説していきます。

■1.【在留資格と定着】手続きが終わってからが本当のスタート

在留資格認定証明書が交付され、ビザが下り、外国人材が日本に到着する。雇用する企業の皆さまにとっては、ここまでで一仕事終えたような感覚になるかもしれません。しかし、行政書士の立場から申し上げると、本当の勝負はここからです。

在留資格は、3か月、1年、3年、5年といった期限付きで付与されるものであり、定期的な更新が必要です。そして更新の際には、就労状況、収入、納税状況、生活実態などが審査されます。

つまり、入社後の職場環境や生活サポートが不十分で、離職や転職が頻発するような状況になれば、本人の在留資格更新にも、企業の今後の受け入れ実績にも、悪影響が及ぶ可能性があるのです。

■2.【言葉の壁】日本語学校では教えてくれない「現場の言葉」

外国人材の多くは、日本に来る前、または来日直後に日本語学校で標準語を学びます。しかし、いざ現場に入ると、教科書には載っていない言葉が次々と飛び交います。

熊本弁の例で言えば、「これ、なおしといて」と言われて、壊れていないものを修理しようとしてしまった、という笑い話のような実話があります。「なおす」は熊本では「片付ける」の意味だからです。

こうした現場特有の言い回しは、熊本に限った話ではありません。

・関西の「ほかしといて」(捨てておいて)
・東北の「うるかす」(水に浸す)
・九州の「とぜんなか」(寂しい)

地域ごとに、現場ごとに、独自の言葉が存在します。さらに、農業・建設・介護・製造業といった業種ごとの専門用語、社内独自の略語などが加わると、外国人材が直面する「言葉の壁」は何重にも重なるのです。

■3.【コミュニケーション不全が招くリスク】離職、トラブル、そして在留資格への影響

言葉の壁は、単なる不便にとどまりません。実際の現場では、次のようなトラブルにつながります。

(1)作業ミス・労働災害のリスク
指示が正確に伝わらないことで、作業ミスや事故が発生しやすくなります。特に介護や建設の現場では、命に関わる事態にもなりかねません。

(2)人間関係の悪化
何気ない方言や冗談が、外国人材には「叱責」「侮辱」と受け取られてしまうことがあります。逆に、外国人材の「はい」が、理解の「はい」なのか単なる相槌の「はい」なのかわからず、現場が混乱することもあります。

(3)孤立と早期離職
コミュニケーションが取れない状態が続けば、外国人材は孤立し、メンタルヘルスを崩したり、別の地域・別の企業へ転職してしまったりします。技能実習や特定技能で受け入れた人材が早期離職すれば、企業側の受け入れ実績にも傷がつきます。

(4)在留資格更新時の不利益
転職や離職が続くと、在留資格の更新時に「安定した就労」が認められないと判断されるリスクが高まります。これは外国人本人にとっても、雇用企業にとっても大きな痛手です。

■4.【熊本県の取り組みに学ぶ】「言葉」を超えた「愛着」づくり

熊本県のハンドブックが優れているのは、単に方言を教えるツールではなく、「熊本への愛着を高めてもらう」という目的が明確に打ち出されている点です。

外国人材を「労働力」として捉えるだけでは、定着は実現しません。「この地域で暮らしていきたい」「この職場で働き続けたい」と思ってもらえる環境づくりこそが、長期的な戦力化につながります。

方言を学ぶことは、その地域の文化、人々の温かさ、ユーモアに触れることでもあります。「ばってん、よかね」と笑い合える瞬間が、外国人材の心を地域につなぎとめるのです。

■5.【企業がすぐに実践できる】外国人材の定着を支える5つの取り組み

雇用する企業の経営者・人事ご担当者の皆さまが、明日からでも始められる取り組みをご紹介します。

(1)社内用語集・現場用語集の作成
方言、業界用語、社内略語をまとめた小冊子やデジタル資料を作成しましょう。熊本県のハンドブックは絶好のお手本です。

(2)「やさしい日本語」の徹底
管理職・現場リーダー層に「やさしい日本語」研修を実施することをおすすめします。短く、はっきり、簡単な言葉で伝える技術は、外国人材だけでなく日本人新人にも有効です。

(3)相談窓口の設置
言語面・生活面・労務面で困った時に、気軽に相談できる窓口を設けましょう。社内に難しい場合は、外部の専門家(行政書士、社労士等)と連携する方法もあります。

(4)地域コミュニティとの接点づくり
地域のお祭り、ボランティア活動、日本語教室などへの参加を促しましょう。職場以外のつながりが、定着の決め手になることが少なくありません。

(5)在留資格の定期チェック
雇用している外国人材の在留資格の種類・期限・更新スケジュールを一覧で管理し、計画的に手続きを進めましょう。期限切れは重大なコンプライアンス違反になります。

■6.【行政書士の視点】在留資格手続きと職場環境はセットで考える

行政書士として日々ご相談を受けていると、「在留資格の手続き」と「職場環境の整備」を別々の問題と捉えている企業がまだ多いと感じます。

しかし、これらは表裏一体です。

・労働条件が在留資格の基準に合致しているか
・就労実態が在留資格の活動範囲内に収まっているか
・更新時に必要な書類(雇用契約書、給与明細、納税証明等)が整備されているか
・転職・部署異動が在留資格に影響しないか

こうした視点を持って職場運営を行うことで、トラブルを未然に防ぎ、外国人材にとっても安心して働ける環境が整います。

■7.【ご相談ください】外国人雇用の入口から定着まで、一貫してサポートします

当事務所では、以下のような幅広いご相談を承っております。

・在留資格認定証明書交付申請
・在留資格変更許可申請
・在留期間更新許可申請
・特定技能、技術・人文知識・国際業務、技能実習に関するご相談
・永住許可申請、帰化許可申請
・外国人雇用に関するコンプライアンス相談
・社内体制整備のアドバイス

外国人ご本人様からのご相談はもちろん、雇用企業様からのご依頼にも対応しております。

■おわりに:「ばってん、よかね」と言える職場へ

熊本県の「熊本弁ハンドブック」は、たった10ページの小冊子ですが、その背景には「外国人材を地域の仲間として迎えたい」という温かい思いが込められています。

外国人雇用は、書類を整えれば終わりではありません。一人ひとりの人材が、日本で、その地域で、その企業で、生き生きと働き、暮らしていけるかどうか――そこに本当の成功があります。

「うちの会社で外国人材を受け入れたい」「すでに雇用しているが、定着に課題がある」「在留資格の更新で不安なことがある」――どんな段階のご相談でも、まずはお気軽にお問い合わせください。

入口の手続きから、定着までの伴走支援まで、行政書士として全力でサポートいたします。

参考記事:https://news.yahoo.co.jp/articles/766df15dd3ec54e4e2b06252ac45f47b33f8bac1