■はじめに:介護現場に広がる国際化の波

2026年4月、神奈川県川崎市の7つの介護事業所で、ベトナムの大学生11名がインターンシップをスタートさせました。これは川崎市が主導する外国人材活用プロジェクトの3回目の取り組みであり、すでに過去の参加者21名のうち12名が「特定技能」の在留資格を取得し、市内の介護現場で正式に働いています。

行政書士として日々ビザ申請・在留資格の手続きに携わる立場から見ると、この川崎市の事例には、外国人雇用を検討するすべての企業にとって重要なヒントが詰まっています。本記事では、このニュースを切り口に、在日外国人の方・外国人雇用を検討する経営者・人事担当者の双方に役立つ情報を、実務目線で詳しく解説します。

■第1章:川崎市の取り組みが注目される3つの理由

1.定着率の高さ
過去の受け入れ者21名のうち12名、つまり約57%が卒業後に特定技能として再来日し、定着しています。一般的な外国人雇用における早期離職率を考えると、この数字は極めて優秀です。

2.段階的なキャリアパスの設計
「インターンシップで日本の現場と文化を体験」→「母国で学業を修了」→「特定技能として就労」という流れが確立されています。候補者にとっても事業者にとっても、お互いを理解した上で本採用に進める仕組みです。

3.行政・教育機関・事業者の三者連携
川崎市が主導し、ベトナムの大学、市内の介護事業所が連携する「官学民」モデル。単独の企業では難しい取り組みを、行政が橋渡しすることで実現しています。

■第2章:介護分野で活用できる在留資格の全体像

介護業界で外国人を雇用する際、選択肢となる在留資格は主に4つあります。それぞれの特徴を整理します。

【1】特定技能1号(介護)
・在留期間:通算5年まで
・対象業務:身体介護、レクリエーション補助、機能訓練補助など
・日本語要件:N4相当以上+介護日本語評価試験
・家族帯同:不可
・メリット:即戦力として現場配置が可能。手続きが比較的明確。

【2】技能実習(介護)
・在留期間:最長5年
・目的:技能移転(国際貢献)
・メリット:若手人材の育成に適する
・注意点:労務管理・監理団体との連携が必須

【3】在留資格「介護」
・在留期間:更新に上限なし(事実上の長期滞在可能)
・要件:介護福祉士国家資格の取得
・家族帯同:可能
・メリット:長期的なキャリア形成が可能。優秀な人材の囲い込みに有効。

【4】EPA介護福祉士候補者
・対象国:インドネシア・フィリピン・ベトナム
・目的:経済連携協定に基づく人材受け入れ
・特徴:国家試験合格を前提とした制度設計

川崎市のケースは【1】の特定技能1号を軸に、将来的な【3】への移行も視野に入れた設計になっています。

■第3章:特定技能受け入れの実務~経営者・人事担当者が知っておくべきこと

特定技能で外国人を受け入れる場合、企業(受け入れ機関)には以下の義務が課されます。

◆10項目の義務的支援
1.事前ガイダンス
2.出入国する際の送迎
3.住居確保・生活に必要な契約支援
4.生活オリエンテーション
5.公的手続等への同行
6.日本語学習の機会提供
7.相談・苦情への対応
8.日本人との交流促進
9.転職支援(人員整理等の場合)
10.定期的な面談・行政機関への通報

これらは自社で実施するか、「登録支援機関」に委託することができます。実務の現場では、初めて受け入れる企業の約7割が登録支援機関に委託しているのが実情です。

◆出入国在留管理庁への届出義務
・雇用契約の変更・終了時
・支援計画の変更時
・受け入れ状況の四半期報告
・支援実施状況の四半期報告

これらの届出に不備があると、最悪の場合、新規受け入れが停止されるリスクもあります。

■第4章:在日外国人の方がキャリアを築くためのロードマップ

介護分野で日本でのキャリアを考えるベトナム人やその他の外国人の方にとって、日本は非常にチャンスのある国です。

【ステップ1】特定技能1号で就労開始(最長5年)
現場経験を積みながら、日本語力と介護スキルを向上させます。給与水準は日本人と同等以上が法的に求められており、待遇面も安定しています。

【ステップ2】介護福祉士国家試験に合格
実務経験3年以上+実務者研修修了で受験資格を取得できます。合格すれば、在留資格「介護」に変更可能です。

【ステップ3】在留資格「介護」へ変更
在留期間の更新に上限がなくなり、家族の呼び寄せも可能になります。将来的には永住申請の道も開けます。

川崎市のインターンシップ参加者のコメント「日本で働きながら経験を積み、将来は両親の世話ができるようになりたい」という言葉に、このキャリアパスの意義が集約されています。

■第5章:失敗しない外国人雇用の3つの鉄則

私が実務で数多くの案件を見てきた中で、うまくいく企業とそうでない企業には明確な違いがあります。

◆鉄則1:採用前の「相互理解」に時間をかける
書類選考や短時間の面接だけで採用を決めると、ミスマッチのリスクが高まります。川崎市のようにインターンシップ期間を設ける、あるいは母国での事前研修を丁寧に行うなど、時間をかけた相互理解が定着率を左右します。

◆鉄則2:受け入れ後の生活支援を軽視しない
住居、銀行口座、役所手続き、医療機関、近隣との関係構築。これらは「業務外」のように見えて、実は労働パフォーマンスに直結します。生活が安定してこそ、仕事に集中できるのです。

◆鉄則3:キャリアパスを明示する
「この会社で5年働いたら、次はどうなるのか?」が見えない職場では、モチベーションが続きません。介護福祉士取得支援、資格取得後の待遇改善、在留資格変更のサポートなど、具体的なロードマップを示すことが重要です。

■第6章:行政書士に依頼するメリット

外国人雇用・在留資格申請は、行政書士の専門業務のひとつです。ご自身や自社で手続きを進めることも可能ですが、専門家に依頼するメリットは以下の通りです。

・法改正への迅速な対応(入管法は頻繁に改正されます)
・書類不備による不許可リスクの低減
・最適な在留資格の選択提案
・登録支援機関としての継続的サポート
・労務・社会保険との連携アドバイス

特に初めて外国人を雇用する企業、初めて在留資格を申請する個人の方は、早めのご相談をお勧めします。

■第7章:2026年以降の外国人材活用トレンド

少子高齢化が進む日本では、外国人材の活用はもはや「選択肢」ではなく「必須」になりつつあります。特に介護分野は、2040年には約69万人の介護職員が不足すると厚生労働省が試算しており、外国人材なしでは成り立たない状況です。

今後注目すべきトレンドは以下の通りです。

1.特定技能2号への拡大
介護分野も将来的に特定技能2号(在留期間の更新上限なし)への拡大が議論されています。

2.送り出し国の多様化
ベトナム・インドネシア・フィリピンに加え、ミャンマー・ネパール・モンゴルなど送り出し国が多様化しています。

3.自治体主導の受け入れモデル
川崎市のように、自治体が主導するモデルが全国に広がる可能性があります。

■まとめ:「共生」を前提とした制度設計を

川崎市のベトナム人インターンシップ受け入れは、単なる人手不足対策ではありません。「日本の介護を学びたい」という意欲ある若者と、「質の高いケアを提供したい」という事業者、そして「地域で支え合う社会をつくりたい」という行政の想いが重なって生まれた取り組みです。

外国人材の活用を考える経営者・人事担当者の皆さま、そして日本でキャリアを築きたい外国人の皆さまにとって、制度を正しく理解し、戦略的に活用することが成功への第一歩です。

当事務所では、在留資格のご相談から申請手続き、受け入れ後の継続サポートまで、ワンストップで対応しております。「何から始めればいいかわからない」という段階でも、お気軽にご相談ください。一人ひとり、一社一社に合った最適な道筋をご提案いたします。

▼参考記事
https://news.yahoo.co.jp/articles/1cf77a240f5550c24a21ea383e863774595f65e8