■はじめに|在留審査が大きく変わる、その第一歩
2026年4月28日、政府が外国人の在留審査において、日本語・日本文化・ルールに関する学習プログラムの受講を「考慮要素」として位置付け、2028年度から試行する方向で検討していると報じられました。さらに、来日前から受講できる仕組み、子どもの就学を親の在留審査の考慮要素とすること、そして永住許可については受講を条件とすることまで検討対象に入っています。
在留資格・ビザ申請を専門とする行政書士として、私はこの方針に賛成です。本記事では、その理由と、在日外国人の方および外国人を雇用する企業の経営者・人事ご担当者が、今から準備しておくべきポイントを実務目線で解説します。
■第1章|なぜ「学習プログラム」が必要なのか
近年、在留外国人の増加に伴い、地域住民との間でトラブルが増えていることが、自民党の対応要望の背景にあります。ゴミ出し、騒音、駐車場、子どもの就学手続きなど、トラブルの多くは「悪意」ではなく「情報不足」と「文化の違い」から生まれています。
つまり、必要なのは罰則の強化ではなく、来日前・来日後を通じた継続的な学びの機会です。今回検討されている学習プログラムは、まさにこの「予防」と「定着」の両面を狙ったものといえます。日本語、文化的背景、生活ルール、行政手続きの基本まで含まれるとみられ、ライフステージや出身国・地域に応じて内容が設計される予定です。
■第2章|2028年度試行までのロードマップ
報道によると、政府は次のスケジュールで検討を進めています。
・2027年度中:プログラムの要領を作成、受講履歴を把握するシステムを開発
・2028年度:プログラムの試行開始
・将来的に:永住許可の条件として受講を位置付ける検討
このスケジュールは決して遠い話ではありません。今在留している外国人の方も、現在外国人材を雇用している企業も、2027年度中には何らかの対応が必要になる可能性が高いと見ておくべきです。
■第3章|「考慮要素」とは何か
「考慮要素」とは、許可・不許可を直接決める要件ではないものの、審査において評価に影響を与える要素を指します。例えば現在も、納税状況、社会保険の加入状況、犯罪歴の有無などは、明文化された絶対的要件ではなくても、実際の審査では大きな比重を占めています。
学習プログラムの受講履歴も、これと同じ性格を持つことになります。「受講していないから不許可」ではなく、「受講していれば、より積極的に評価される」という運用がイメージされます。ただし永住許可については「受講を条件」とする方向で検討されており、こちらは事実上の必須要件となる可能性があります。
■第4章|在日外国人の方が今からできること
在日外国人の方、特に永住許可を将来的に目指している方にとって、今回の検討は大きな意味を持ちます。具体的には次のような準備をおすすめします。
- 日本語学習を「証明できる形」で続ける
日本語能力試験(JLPT)の受験、自治体の日本語教室への参加、企業内研修の受講記録など、第三者が確認できる形で履歴を残しておくと、将来制度が動き出したときに有利です。 - 生活ルール・地域行事への参加
ゴミ分別、町内会、子どもの学校行事への参加など、地域社会との接点を持つことが「責任ある行動」として評価される可能性が高まります。 - 子どもの就学を確実に
今回、子どもの就学が親の在留審査の考慮要素になる方向です。不就学を放置せず、自治体や学校と連携して確実に通学させることが、家族全体の在留戦略上、極めて重要になります。 - 専門家への早期相談
永住・帰化を目指すスケジュールと、新制度のスケジュールを照らし合わせて、いつ申請するのが最適かを行政書士に早めに相談することをおすすめします。
■第5章|外国人を雇用する企業がやるべきこと
経営者・人事ご担当者の皆さまにとって、この動きは「採用後の支援が、在留資格に直結する時代」の到来を意味します。今から整えておくべきポイントを整理します。
- 社内日本語学習の制度化
外部スクール費用の補助、就業時間内の学習時間確保、JLPT受験料の支援など、福利厚生として明文化することで、社員の学習継続を後押しできます。 - 学習履歴の記録と保管
誰が、いつ、何を、どれだけ学んだか。後日、在留更新や永住申請の場面で証拠になります。HRシステム上で管理する仕組みを今から作っておくと安心です。 - 家族支援の視点を持つ
子どもの就学が親の在留審査に反映されるなら、家族帯同の社員には、学校選びや就学手続きを企業として情報提供する価値があります。直接の手続き代行は専門家に任せつつ、橋渡しを行うことで定着率は大きく変わります。 - 文化・ルール研修の整備
ビジネスマナー、日本の労働慣行、社内ルール、地域での暮らし方まで含めたオンボーディング研修を整えることが、採用後の摩擦を大きく減らします。 - コンプライアンスの再点検
在留資格の活動範囲、就業規則との整合性、税・社会保険の運用に問題がないか、行政書士・社労士と連携して定期的に点検することをおすすめします。
■第6章|「秩序ある共生社会」が示す方向性
高市早苗首相は、小野田紀美外国人共生担当相から外国人政策の進捗報告を受けた後、X(旧ツイッター)に「ルールを守る外国人のためにも、問題ある行為には毅然と対応し『秩序ある共生社会』の実現を目指す」と発信されました。
この一文には、二つの大切な視点が含まれています。
一つは、「まじめにルールを守る外国人を守る」という視点。もう一つは、「問題行為には毅然と対応する」という視点です。学習プログラムは、前者を後押しし、後者の必要性を減らすための制度設計と位置付けられます。
私はこの方向性に賛成です。日本で生きていこうと努力する外国人の方々が、その努力を正当に評価される。これこそが本当の意味での共生社会の出発点だと考えています。
■第7章|永住許可と学習プログラム
特に注目すべきは、「永住許可については受講を条件とすることを検討する」という点です。永住許可は、これまでも継続居住年数、納税、素行、生計要件など多面的に審査されてきましたが、今後はそこに「学習プログラムの受講」という新たな要件が加わる可能性があります。
すでに長期在留中で、近い将来に永住申請を考えている方は、制度が施行される前のタイミングで申請するのか、それとも新制度に備えるのか、戦略的な判断が必要です。在留歴、家族構成、職業、地域での活動状況などを総合的に見て、最適なタイミングを設計するのは、まさに行政書士の専門領域です。
■第8章|来日前受講の意義と課題
報道では、来日前に受講できる方法も検討されているとのことです。これは特定技能や技人国(技術・人文知識・国際業務)など、海外から来日する方々にとって大きな影響があります。
メリットとしては、来日後の生活立ち上げがスムーズになり、企業側の受け入れコストが下がること。一方で課題としては、送り出し国側の受講機会の整備、コスト負担の問題、悪質な仲介業者の介入リスクなどが挙げられます。
企業側は、海外からの採用ルートにおいて、「学習プログラム受講をどう確認・支援するか」を含めた採用設計が、今後の採用競争力を左右する要素になっていくでしょう。
■第9章|行政書士の視点からのアドバイス
最後に、専門家として強調したいのは「制度を待たず、今動き始めること」の大切さです。
・現在の在留資格は適切に運用できているか
・更新時に問題となりそうな要素はないか
・永住・帰化を目指すなら、現行制度と新制度のどちらで申請すべきか
・企業として学習支援制度をどう設計するか
・家族帯同社員の子どもの就学に問題はないか
これらは、いずれも一度の面談だけで答えが出るテーマではありません。ご本人や企業の状況を継続的に把握しながら、長期的な戦略を一緒に組み立てていくことが、私たち行政書士の役割です。
■まとめ|変化を「不安」ではなく「機会」に変えるために
2028年度から試行される予定の学習プログラムは、外国人の方々にとっても、雇用する企業にとっても、決して負担だけのものではありません。むしろ、まじめに学び、ルールを守り、地域に溶け込もうとする方々を、国として正当に評価する仕組みになり得ます。
・学習履歴を「見える形」で残す
・子どもの就学を確実にする
・企業は学習支援を制度化する
・永住・帰化のタイミングを戦略的に設計する
・専門家と継続的に連携する
これらを今から始めれば、新制度はリスクではなくチャンスになります。在留資格・ビザ申請、外国人雇用に関するお悩みは、ぜひお気軽にご相談ください。
参考記事:
https://news.yahoo.co.jp/articles/fd5bc960ee6824aba369507e9b3eb6105b068a22
