はじめに
2026年6月、北海道江別市で外国人が経営する中古車輸出会社が、市の是正指導を受けながらも違法建築物を再設置したというニュースが報じられました。市長は記者会見で「分かっていてやるのは悪質」と厳しく指摘し、今後も是正指導を続ける姿勢を示しています。
この問題は、単なる建築基準法違反の事例にとどまらず、外国人が日本でビジネスを行う際の「法令理解」「行政対応」、そして「在留資格への影響」という、複数の課題が絡み合った複雑な事案です。
本記事では、行政書士・ビザ申請の専門家として、この事例を多角的に分析し、外国人経営者や外国人を雇用する企業の人事担当者が知っておくべきポイントを解説します。
1. 事案の概要 — 何が起きたのか?
違法建築物とは
江別市角山地区の市街化調整区域において、外国人経営者が運営する中古車輸出会社が、建築許可を得ずに事務所兼住宅を設置していました。市街化調整区域とは、都市計画法に基づき「市街化を抑制すべき区域」として定められており、原則として建築物の新築・増築が制限されています。
是正指導と再設置
市は昨年12月、この事務所兼住宅に対して是正指導を行いました。その後、今年2月にこの建物が火災で全焼。市職員は経営者に対し、「新たな建物を置かないように」と直接指導し、経営者も理解を示したとされています。
しかし、4月に入って再び新たな建築物が確認されました。市は複数回にわたり訪問していますが、経営者が母国に帰国しており面会できない状態が続いているとのことです。
背景にある緊張
この地域では昨年10月、SNSで違法建築物やモスク(イスラム教礼拝所)が指摘され、ヤードやモスクに花火が打ち込まれるトラブルが発生。さらに今年2月から3月にかけて火災が相次ぎ、5月には放火未遂容疑で逮捕者も出ています。単なる行政指導の問題を超えて、地域社会との摩擦が深刻化している状況です。
2. 市街化調整区域と建築基準法 — 法的背景を理解する
市街化調整区域とは?
都市計画法に基づき、全国の市町村は「市街化区域」と「市街化調整区域」を定めています。市街化調整区域では、農地や自然環境を保全するため、原則として建築物の建築が制限されています。
建物を建てる場合は、都市計画法第29条に基づく開発許可、または第43条に基づく建築許可が必要です。無許可で建築した場合、建築基準法違反として是正命令、さらには罰則(懲役・罰金)が科される可能性があります。
是正指導の流れ
行政は通常、以下のような流れで是正を求めます。
- 指導 — 任意の是正を求める
- 勧告 — より強い行政指導
- 命令 — 法的拘束力のある是正命令
- 代執行 — 行政が強制的に撤去し、費用を請求
- 刑事告発 — 悪質な場合は刑事手続きへ
今回の事案は「指導」段階ですが、繰り返し無視される場合、命令や代執行に進む可能性があります。
3. 「分かっていてやる」のか、「分かっていない」のか?
市長の指摘
市長は「分かっていてやるのは悪質」と述べていますが、実際には「分かっていない」ケースも多いのが現実です。
言語と文化の壁
市長自身も「言葉が通じないところがあり、時間はかかるかもしれない」と述べています。日本の法令は、日本人でも理解が難しい専門用語や複雑な手続きが多く、外国人にとってはさらにハードルが高くなります。
また、母国では「空き地に仮設建物を建てるのは自由」という感覚が一般的な国もあります。日本の厳格な建築規制は、外国人にとって「想定外」である場合が少なくありません。
通訳や専門家の不在
是正指導の場に、法律用語を正確に通訳できる人材や、行政書士などの専門家が同席していたかどうかも重要です。単なる日常会話レベルの通訳では、法的な意味合いが正確に伝わらないことがあります。
4. 在留資格への影響 — ビジネスビザと法令遵守
「経営・管理」ビザの要件
外国人が日本で事業を経営する場合、多くは「経営・管理」ビザ(在留資格「経営・管理」)を取得しています。このビザの取得・更新には、以下の要件があります。
- 事業の安定性・継続性
- 適法な事業運営
- 事業所の実在性
違法建築が及ぼす影響
違法建築物を事業所として使用している場合、以下のリスクがあります。
- 事業所の実在性が否定される — 違法建築物は「適法な事業所」とは認められません。
- 法令遵守義務違反 — 在留資格は「本邦の法令を遵守する」ことが前提です。
- 更新不許可 — 繰り返し違法行為を行う場合、更新時に不許可となる可能性があります。
- 在留資格取消 — 悪質な場合、在留資格が取り消されることもあります。
実務上のアドバイス
在留資格の更新申請では、事業所の写真や賃貸借契約書などを提出します。その際、建築基準法や都市計画法に適合しているかが問われることもあります。事前に行政書士や建築士に相談し、法的リスクを確認することが重要です。
5. 外国人を雇用する企業の人事担当者が知っておくべきこと
企業の責任
外国人従業員が違法建築に関わっている場合、企業にも影響が及ぶことがあります。
- コンプライアンスリスク — 従業員の違法行為が企業の評判を損なう
- 就労ビザへの影響 — 従業員が違法行為で在留資格を失った場合、雇用契約が継続できなくなる
- 社宅・寮の法的チェック — 企業が提供する社宅が違法建築でないか確認する義務
人事担当者ができること
- オリエンテーションの充実 — 入社時に日本の法令や生活ルールを説明する
- 専門家との連携 — 行政書士や社労士と連携し、外国人従業員をサポートする
- 定期的なフォローアップ — 在留資格の更新時期や法的トラブルの有無を確認する
6. 行政書士ができること — 予防と解決の両面から
事前予防
- 建築計画の法的チェック — 建物を建てる前に、都市計画法・建築基準法に適合しているか確認
- 行政との事前協議 — 市町村の都市計画課や建築指導課との調整
- 在留資格申請のサポート — 事業所が適法であることを証明する書類の準備
トラブル発生時の対応
- 是正指導への対応 — 行政との交渉、通訳の手配、是正計画の策定
- 在留資格への影響の最小化 — 入管への説明書類の作成、更新申請のサポート
- 代理人としての折衝 — 経営者が不在の場合でも、代理人として行政と協議
7. まとめ — 法令遵守は「未来への投資」
今回の江別市の事案は、外国人が日本でビジネスを行う際の課題を浮き彫りにしています。しかし、この問題は「事前の理解と準備」で十分に防ぐことができます。
重要なポイント
- 建築前に必ず専門家に相談する
- 在留資格への影響を理解する
- 言語の壁を超えるサポート体制を整える
- 企業は外国人従業員の法的リスクを把握する
最後に
法令遵守は、単なる「義務」ではなく、ビジネスの信頼性を高め、在留資格を守り、地域社会との良好な関係を築くための「投資」です。
もし、建築計画や在留資格について不安に感じることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。一緒に、安心できる未来を作っていきましょう。
🔗元記事:https://news.yahoo.co.jp/articles/333e2c6b2adbc27c348a52e0f5e79f6406186d6f
