はじめに

2026年6月9日、茨城県警は不法残留の外国人に対して車を販売するため、別人名義で軽乗用車の登録手続きを不正に行った疑いで、スリランカ国籍の中古車部品販売員(42歳)を逮捕しました。この事件は、在留資格管理の重要性を改めて浮き彫りにするとともに、外国人を雇用する企業にとっても見過ごせない教訓を含んでいます。

本記事では、行政書士・ビザ申請の専門家として、この事件の詳細、法的背景、そして在日外国人や外国人雇用企業が今後どのような対策を取るべきかについて詳しく解説します。


1. 事件の概要:何が起きたのか?

茨城県警下妻署と県警組織犯罪対策2課などの合同捜査班は、電磁的公正証書原本不実記録・同供用の疑いで容疑者を逮捕しました。

容疑者は2025年12月9日と2026年2月12日の2回にわたり、つくば市島名にある軽自動車検査協会茨城事務所土浦支所で、既に日本から出国して不在のスリランカ国籍の男女2名が軽乗用車の所有者・使用者であると偽り、彼らの住民票コピーを提出して車検証を不正に発行させました。

不正登録されたこれらの車両は、茨城県土浦市と古河市に住むタイ国籍の2名(いずれも入管難民法違反=不法残留の罪で起訴済み)に対し、1台約15万円で販売されていました。

県警が別の不法残留事件の捜査を進める過程で、同じ名義人の車が複数見つかり、入手先を調べた結果、容疑者の関与が浮上しました。名義を貸した男女2名と容疑者は知人関係にあり、住民票は2名から購入または譲り受けたとみられています。

驚くべきことに、この2名の名義で登録された車両はそれぞれ数十台に上るとのことです。県警は、容疑者が車の取得が困難な不法残留の外国人に対し、「生活インフラ」として不正登録の車の販売を繰り返していたとみて余罪を調査しています。


2. 法的観点:どのような法律違反が問われているのか?

2-1. 電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪

今回容疑者に適用されたのは「電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪」(刑法第157条)です。これは、公正証書の原本に不実の記録をさせ、それを使用する行為を処罰する法律です。

車検証は公的な証明書類であり、虚偽の情報を記載させて発行させることは、この罪に該当します。法定刑は「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。

2-2. 不法残留(入管難民法違反)

車を購入したタイ国籍の2名は、不法残留の罪で既に起訴されています。不法残留とは、在留期間を超えて日本に滞在し続ける行為を指します(出入国管理及び難民認定法第70条)。

不法残留の法定刑は「3年以下の懲役もしくは禁錮もしくは300万円以下の罰金、またはその併科」です。また、退去強制(強制送還)の対象にもなります。

2-3. 不法就労助長罪

今回の事件では直接的には言及されていませんが、不法残留者を雇用している企業があった場合、「不法就労助長罪」(入管法第73条の2)が適用される可能性があります。

不法就労助長罪は、事業主が外国人の不法就労活動を「助長」した場合に成立します。具体的には以下のケースが該当します:

  • 不法残留者であることを知りながら雇用した場合
  • 在留資格で認められていない業務に従事させた場合
  • 資格外活動許可を受けていない留学生などをフルタイムで働かせた場合

法定刑は「3年以下の懲役または300万円以下の罰金、またはその併科」で、法人の場合は「3億円以下の罰金」が科される可能性があります。


3. なぜこのような事件が起きるのか?〜不法残留外国人が直面する現実〜

3-1. 「生活インフラ」としての車

日本の多くの地域、特に地方や郊外では、車は生活必需品です。通勤、買い物、子どもの送迎など、日常生活のあらゆる場面で車が必要になります。

しかし、不法残留状態になると、正規の手続きで車を購入・登録することができなくなります。在留カードが無効になっているため、ディーラーでのローン契約も、自動車保険への加入も困難です。

こうした「需要」に対して、今回のような不正なサービスが「供給」として成立してしまうのです。

3-2. 不法残留に至る背景

では、なぜ不法残留状態になってしまうのでしょうか? 主な理由は以下の通りです:

  • 在留期間の更新申請を忘れた、または知らなかった
  • 更新申請が不許可になったが、帰国せずに滞在し続けた
  • 勤務先が倒産・解雇され、在留資格の要件を満たせなくなった
  • 技能実習や留学の在留資格で来日したが、失踪した
  • 離婚などにより「日本人の配偶者等」の資格要件を失った

多くの場合、最初から不法残留を目的として来日したわけではなく、様々な事情が重なって結果的に不法残留状態になってしまうケースが多いのです。

3-3. 不法残留状態の悪循環

一度不法残留状態になると、以下のような悪循環に陥ります:

  1. 正規の仕事に就けず、不法就労せざるを得なくなる
  2. 住居の賃貸契約ができず、不安定な住環境になる
  3. 銀行口座が開設できず、現金だけの生活になる
  4. 健康保険に加入できず、医療を受けられない
  5. 車の購入・登録ができず、今回のような不正サービスに頼る
  6. 警察の取り締まりを恐れ、さらに生活が制限される

こうした状況は、本人だけでなく、周囲の人々にも影響を及ぼします。そして、今回のような組織的な不正ビジネスの「市場」を形成してしまうのです。


4. 外国人雇用企業が取るべき対策

4-1. 在留カードの確認と記録

外国人を雇用する際は、必ず在留カードの確認を行い、以下の項目をチェックしてください:

  • 在留カードが本物か(偽造でないか)
  • 在留期間の満了日
  • 在留資格の種類
  • 就労制限の有無

また、在留カードのコピーを取り、雇用記録とともに保管することが重要です。出入国在留管理庁が提供する「在留カード等読取アプリケーション」を利用すれば、ICチップの情報を読み取って真偽を確認できます。

4-2. 在留期間更新のリマインド体制

在留期間の満了日の3ヶ月前には、従業員本人に更新手続きのリマインドを行いましょう。更新申請は満了日の3ヶ月前から可能です。

また、更新申請後も「申請中」であることを示す「申請受理票」の提示を受け、確実に手続きが進んでいることを確認してください。

4-3. 業務内容と在留資格の整合性確認

在留資格には、それぞれ認められる活動内容が定められています。例えば:

  • 「技術・人文知識・国際業務」:理系・文系の専門知識を活かした業務、外国人特有の感性を活かした業務
  • 「技能」:産業上の特殊な分野の熟練技能を要する業務
  • 「特定技能」:特定産業分野における一定の専門性・技能を要する業務

従業員が実際に従事している業務が、その在留資格で認められている範囲内かどうかを定期的に確認することが重要です。

4-4. 専門家との連携

在留資格に関する法律は複雑で、頻繁に改正されます。自社だけで対応するのは困難な場合も多いため、行政書士などの専門家と連携体制を構築しておくことをお勧めします。

特に以下のような場合は、早めに専門家に相談してください:

  • 新たな在留資格での外国人採用を検討している
  • 従業員の在留期間更新申請が不許可になった
  • 従業員の転職・配置転換に伴い業務内容が変わる
  • 外国人従業員が結婚・離婚した

5. 在日外国人の方々へのアドバイス

5-1. 在留期間の管理は自己責任

在留期間の管理は、外国人本人の責任です。うっかり更新を忘れたという場合でも、不法残留として扱われます。

在留カードには在留期間の満了日が記載されています。この日を必ず確認し、スマートフォンのカレンダーなどにリマインダーを設定しておきましょう。

5-2. 困ったら早めに相談を

もし在留資格の更新が難しそうな状況になった場合、または何らかの理由で在留資格の要件を満たせなくなった場合は、早めに専門家に相談してください。

不法残留状態になってしまうと、選択肢は非常に限られます。しかし、在留期間が残っている段階であれば、他の在留資格への変更など、様々な解決策を検討できる可能性があります。

5-3. 不正なサービスには絶対に頼らない

今回の事件のような不正なサービスに頼ることは、決してお勧めできません。不正登録された車を使用することで、あなた自身も法律違反に加担することになります。

また、不正なサービスを提供する業者は、往々にして高額な料金を請求したり、さらなる犯罪に巻き込んだりする可能性があります。


6. 在留資格申請の基本的な流れ

在留資格の手続きは複雑に感じるかもしれませんが、基本的な流れを理解しておけば、それほど難しいものではありません。

6-1. 在留期間更新許可申請

現在の在留資格のまま、さらに日本に滞在したい場合に行う申請です。

  • 申請時期:在留期間満了日の3ヶ月前から
  • 申請先:住所地を管轄する地方出入国在留管理局
  • 必要書類:申請書、写真、在留カード、パスポート、在留資格に応じた各種資料
  • 審査期間:通常2週間〜1ヶ月程度

6-2. 在留資格変更許可申請

現在の在留資格から別の在留資格に変更したい場合に行う申請です。

例:「留学」から「技術・人文知識・国際業務」への変更(大学卒業後に日本企業に就職する場合)

  • 申請時期:変更事由が発生してから速やかに
  • 申請先:住所地を管轄する地方出入国在留管理局
  • 必要書類:申請書、写真、在留カード、パスポート、変更後の在留資格に応じた各種資料
  • 審査期間:通常2週間〜1ヶ月程度

6-3. 在留資格認定証明書交付申請

海外にいる外国人を日本に呼び寄せる場合に行う申請です。

  • 申請時期:来日予定の3ヶ月前程度
  • 申請先:受入機関の所在地を管轄する地方出入国在留管理局
  • 申請人:通常は受入機関(企業など)または行政書士などの代理人
  • 必要書類:申請書、写真、外国人の履歴書、受入機関の資料など
  • 審査期間:通常1〜3ヶ月程度

7. 茨城県の不法就労対策強化の動き

今回の事件の背景には、茨城県における不法就労問題の深刻化があります。

実は、茨城県は不法就労外国人の摘発数が4年連続で全国最多となっており、2026年5月からは不法就労を助長する事業者の情報提供者に1件1万円の報奨金を支払う制度も始まっています。

こうした厳格化の流れは、今後も続くと予想されます。外国人雇用企業にとっても、在日外国人にとっても、「適正な在留管理」の重要性はますます高まっていると言えるでしょう。


8. まとめ:適正な在留管理が築く共生社会

今回の茨城県の不正登録車販売事件は、不法残留状態になることの深刻さ、そして適正な在留管理の重要性を改めて示してくれました。

企業の皆様へ

外国人従業員の在留資格管理は、単なるコンプライアンスではありません。優秀な人材が安心して長期的に働ける環境を作ることは、企業の競争力強化にも直結します。

定期的な在留カードの確認、更新時期のリマインド、業務内容と在留資格の整合性チェック、そして専門家との連携体制を整えることで、リスクを最小化できます。

在日外国人の皆様へ

在留期間の管理は自己責任です。しかし、困ったときには必ず専門家がいます。不法残留状態になってしまう前に、ぜひご相談ください。

適正な手続きを踏むことで、安心して日本での生活を続けることができます。不正なサービスに頼る必要は全くありません。

私たち行政書士の役割

私たち行政書士は、在留資格申請の専門家として、外国人の方々と雇用企業の皆様をサポートしています。

  • 在留資格認定証明書交付申請
  • 在留期間更新許可申請
  • 在留資格変更許可申請
  • 就労資格証明書交付申請
  • 企業向け在留管理体制構築支援
  • 不許可案件のセカンドオピニオン

日本で働き、学び、生活する外国人の方々が、安心して日本社会の一員として活躍できる環境を作ること。それが、真の多文化共生社会への道だと信じています。

少しでも不安なことがあれば、お気軽にご相談ください。一緒に、より良い未来を築いていきましょう。

📌元記事:https://news.yahoo.co.jp/articles/1187d7918c3d654304c333e55961cb9b7eb66f62