■ はじめに:茨城県で始まる新制度が示す、外国人雇用の新たな局面
2026年4月22日、茨城県は外国人を不法に就労させている事業者に関する情報を広く県民から募る「通報制度」を、5月11日から正式に運用すると発表しました。警察による検挙に至った場合、通報者には1件につき1万円の報奨金が支払われるという、全国的にも注目される取り組みです。
本制度については「外国人差別を助長するのではないか」といった批判の声も上がっていますが、茨城県は「通報の対象は事業者に限定されており、見た目・国籍などの個人属性や、ゴミ出し・騒音といった生活上の問題は対象外」と明確に線引きしています。
本記事では、ビザ申請・在留資格申請を専門とする行政書士の立場から、この制度が在日外国人の方々および外国人を雇用する企業の経営者・人事担当者にどのような影響を与えるのか、そして今すぐ取るべき具体的な対策について、詳しく解説いたします。
■ 1. 茨城県の通報制度の概要と背景 ― なぜ今、この制度が始まるのか
◇ 制度の基本情報
茨城県は、在住外国人数が全国有数の多さを誇る県です。製造業・農業を中心に、外国人労働者の存在は地域経済に不可欠なものとなっています。一方で、一部の悪質な事業者による不法就労の温床化も指摘されており、県はこれに対応するため通報制度の導入に踏み切りました。
通報には、通報者本人の氏名・本人確認書類・不法就労の具体的な状況の情報提供が必要とされ、匿名通報は受け付けられません。これは、安易な通報や誹謗中傷目的の通報を防ぐための措置と考えられます。
◇ 批判と県の対応
制度発表直後から「外国人差別を助長する」という懸念の声が上がりました。これに対し県は、通報対象はあくまで「不法就労させている事業者」であり、外国人個人を通報する制度ではないことを繰り返し強調しています。
行政書士として申し上げたいのは、この制度の本質は「外国人を取り締まる」ものではなく、「適正な雇用環境を整備する」ものだということです。
■ 2. 「不法就労」とは何か ― 在留資格制度の基礎知識
◇ 不法就労の3つのパターン
入管法上、「不法就労」には以下の3つの類型があります。
- 不法滞在者・退去強制を受けた者の就労
在留期限を過ぎてオーバーステイとなっている方や、退去強制令書が出されている方が就労するケースです。 - 入管から就労の許可を受けていない者の就労
「短期滞在」「文化活動」など、就労が認められていない在留資格の方が働くケースです。 - 認められた範囲を超える就労
「技術・人文知識・国際業務」など、特定の業務のみが許可されている方が、許可範囲外の業務(例:単純労働)に従事するケース、あるいは留学生が「資格外活動許可」の週28時間の枠を超えて働くケースです。
◇ 事業者が最も注意すべきは「3番目のパターン」
実は、行政書士として最も相談を受けるのが、3番目の「許可範囲を超える就労」です。事業者に悪意がなく、むしろ外国人労働者を大切にしているケースでも、この類型の不法就労助長罪が成立してしまうことがあります。
■ 3. 不法就労助長罪の罰則 ― 「知らなかった」では済まされない
◇ 入管法第73条の2の規定
不法就労助長罪の罰則は、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその併科です。法人にも両罰規定が適用されます。
さらに重要なのは、「過失」でも処罰対象となり得るという点です。入管法第73条の2第2項は「過失がないときは、この限りでない」と規定しており、裏を返せば「過失がある場合は処罰される」ということを意味します。
◇ 「知らなかった」は通用しない
実務上、「在留カードを確認しなかった」「本人の言うことを鵜呑みにした」といった雇用主の姿勢は、過失ありと判断される可能性が極めて高いです。採用時の確認はもちろん、継続的な在留資格管理が事業者に求められています。
■ 4. 事業者が今すぐ取るべき5つの対策
◇ 対策1:在留カードの原本確認を徹底する
採用時には必ず「在留カードの原本」を確認してください。コピーやスマートフォンの画像では不十分です。入管庁の「在留カード等番号失効情報照会」システムを活用し、番号の有効性も確認しましょう。
◇ 対策2:在留資格と業務内容の適合性をチェックする
在留資格ごとに従事できる業務が決められています。例えば「技術・人文知識・国際業務」は専門性のある業務に限られ、倉庫作業や清掃などの単純労働は認められません。採用前に必ず業務内容と在留資格の整合性を確認してください。
◇ 対策3:在留期限を一元管理する
Excel管理でも構いませんが、複数人の在留期限を人の記憶で管理するのは危険です。更新申請は在留期限の3か月前から可能ですので、期限の2〜3か月前にアラートが出る仕組みを構築しましょう。
◇ 対策4:資格外活動許可と週28時間ルールを徹底管理する
留学生や家族滞在の方が働く場合、「資格外活動許可」が必要です。また、原則として週28時間を超える就労は認められません。複数アルバイトを掛け持ちしている場合は、合算で28時間を超えていないか、自己申告だけでなく雇用側も意識する必要があります。
◇ 対策5:業務変更・人事異動時の再確認プロセスを導入する
採用時は適正でも、配置転換で単純労働に従事させた途端、資格外活動となることがあります。人事異動・業務変更のたびに在留資格との適合性を確認するプロセスを、就業規則や人事フローに組み込みましょう。
■ 5. 在日外国人の方へ ― 自身の在留資格を守るためにできること
◇ 自分の在留資格で認められた活動範囲を知る
ご自身の在留カードに記載された在留資格で、どのような活動が認められているかを正確に把握することが第一歩です。入管庁のウェブサイトや、在留資格の「指定書」で確認できます。
◇ 在留期限の管理を怠らない
在留期限切れは、即「不法滞在」となります。更新申請は期限の3か月前から可能ですので、早めに行動しましょう。
◇ 業務内容が変わったら相談を
転職や配置転換で業務内容が大きく変わる場合、現在の在留資格のままで良いのか、「就労資格証明書」の取得や在留資格変更が必要なのかを、専門家に相談することをおすすめします。
■ 6. 通報制度がもたらす影響 ― 「守り」と「攻め」の両面から
◇ 守りの側面:コンプライアンス体制の強化
通報制度の導入により、これまで見過ごされてきた雇用実態にも光が当たるようになります。事業者は、従来以上に厳格な雇用管理体制が求められます。
◇ 攻めの側面:適正企業の競争優位性
適正な雇用管理を行っている事業者にとっては、不当な低コスト競争を仕掛けてきた悪質事業者が淘汰されることで、むしろ健全な競争環境が生まれます。外国人材に選ばれる企業になるためにも、コンプライアンス体制の整備は不可欠です。
■ 7. 行政書士に相談するメリット
ビザ申請・在留資格申請を専門とする行政書士は、入管法の専門家として以下のようなサポートを提供しています。
・採用前の在留資格適合性診断
・雇用中の外国人従業員の在留資格一斉点検
・在留資格変更・更新の代行申請
・就労資格証明書の取得支援
・社内コンプライアンス研修の実施
特に複数名の外国人を雇用している企業さまにとって、在留資格管理を専門家にアウトソースすることは、リスク低減と業務効率化の両面で大きなメリットがあります。
■ 8. まとめ ― 適正な雇用管理が、企業と外国人労働者の未来を守る
茨城県の通報制度は、外国人雇用のあり方に一石を投じる大きな動きです。しかし、その本質は「外国人を取り締まる」ことではなく、「適正な雇用環境を整える」ことにあります。
在日外国人の皆さまにとっても、事業者さまにとっても、正しい知識と適切な管理体制こそが、安心して働き、安心して雇用する最大の防御策となります。
「うちは大丈夫だろうか」「この雇用形態は問題ないだろうか」―― もし少しでも不安を感じられましたら、ぜひお早めに専門家にご相談ください。問題が表面化してからでは、取り返しのつかない事態に発展することもあります。
当事務所では、ビザ申請・在留資格申請を専門に、在日外国人の方々および外国人を雇用される企業さまを全力でサポートしております。どのようなご相談でも、お気軽にお問い合わせください。
▼元記事
https://news.yahoo.co.jp/articles/95b086acccfd540fadf74a865ebf4dafcdf8dbd8
