はじめに
2026年6月、愛知県豊川市で農園経営者らが不法就労助長の疑いで逮捕されるという事件が発生しました。この事件は、外国人を雇用する企業の経営者や人事担当者、そして在日外国人の方々にとって、在留資格と就労の関係を改めて考える重要な契機となっています。
本記事では、この事件の概要を踏まえながら、「内職」や「在宅勤務」であっても不法就労になり得るという事実、在留資格と就労活動の関係、そして企業と外国人双方が注意すべきポイントについて、わかりやすく解説します。
事件の概要:「内職だから従業員ではない」は通用しない
報道によれば、愛知県豊川市で大葉の栽培を行う農園の経営者ら4名が、ベトナム国籍の男女3名に対し、在留資格で本来認められていない副業をさせたとして逮捕されました。
農園側はSNSを通じてアルバイトを募集し、ベトナム国籍の方々を大葉の梱包作業に従事させていました。取り調べに対し、経営者側は「内職のベトナム人は従業員ではない」と容疑を否認しています。一方、ベトナム国籍の3名はいずれも容疑を認めているとのことです。
この事件が示しているのは、「会社の施設で働いていない」「内職扱いにしている」といった形式的な区分は、法的には意味を持たないということです。
「就労」とは何か?勤務場所は関係ない
多くの方が誤解しているポイントがここにあります。入管法(出入国管理及び難民認定法)における「就労」とは、報酬を得る活動全般を指します。つまり:
・会社のオフィスで働いているか
・工場や店舗で働いているか
・自宅で作業しているか(内職)
・リモートワークか
これらの勤務形態や場所は、「就労」に該当するかどうかの判断において本質的な要素ではありません。重要なのは、「報酬を伴う労務提供の実態があるか」という点です。
実態として仕事をしてもらい、その対価として報酬を支払っていれば、それは立派な「就労」です。そして、その就労内容が外国人の持っている在留資格で認められた範囲内かどうかが、合法か違法かを分ける基準になります。
在留資格と就労の関係:在留資格ごとに認められる活動は異なる
日本に在留する外国人は、必ず何らかの在留資格を持っています。在留資格は約30種類あり、それぞれ日本で行うことができる活動内容が法律で定められています。
【就労が認められる在留資格の例】
・「技術・人文知識・国際業務」:いわゆるホワイトカラーの業務
・「技能」:調理師、建築技能者など特定の技能を要する業務
・「特定技能」:人手不足分野における一定の技能を要する業務
・「技能実習」:特定の職種・作業における技能習得活動
【就労が制限される在留資格の例】
・「留学」:本来は就労不可。ただし資格外活動許可を得れば週28時間まで可能(風俗営業等を除く)
・「家族滞在」:本来は就労不可。資格外活動許可を得れば週28時間まで可能
【活動に制限のない在留資格】
・「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」:就労に制限なし
問題となるのは、例えば「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持っている方が、単純労働(梱包作業、製造ライン作業など)に従事する場合です。この在留資格で認められているのは、専門的・技術的な業務であり、単純労働は範囲外です。
今回の事件でも、ベトナム国籍の方々の在留資格が何であったかは報道では明示されていませんが、「在留資格では本来禁止されている副業」とあることから、おそらく留学生などで資格外活動許可の範囲を超えた就労、あるいは本来の在留資格では認められていない業務内容だったと推測されます。
企業・事業主が陥りやすい3つの誤解
多くの企業や事業主が、外国人雇用において以下のような誤解をしています。
【誤解1】「会社に来ていないから大丈夫」
→ 在宅勤務でも内職でも、報酬を伴う労務提供があれば就労です。
【誤解2】「業務委託契約や内職扱いにしているから問題ない」
→ 契約の名称や形式ではなく、実態が重要です。実質的に指揮命令下で労務を提供し報酬を得ていれば、就労活動と判断されます。
【誤解3】「アルバイトや短期間だから軽く考えていい」
→ 雇用期間の長短や雇用形態(正社員・アルバイト・パート)に関わらず、在留資格の確認義務は同じです。
これらの誤解が、今回のような不法就労助長という犯罪行為につながってしまうのです。
不法就労助長罪:企業側の責任は重い
外国人が不法就労をした場合、その外国人本人だけでなく、雇用した側にも刑事責任が問われます。これが「不法就労助長罪」です。
入管法第73条の2では、次のような行為を処罰対象としています:
・不法就労活動をさせる行為
・不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置く行為
・業として、外国人に不法就労活動をさせる行為、またはこれをあっせんする行為
罰則は「3年以下の懲役または300万円以下の罰金(またはその併科)」と定められています。
「知らなかった」という弁解は通用しません。採用時に在留カードを確認しなかった、在留資格の内容を理解していなかった、といった過失があれば、それ自体が企業側の落ち度となります。
また、刑事罰だけでなく、以下のようなリスクも伴います:
・企業の社会的信用の失墜
・取引先や顧客からの信頼喪失
・許認可事業の場合、許可の取消や更新不許可
・優良企業認定の取消(特定技能などで優遇を受けている場合)
企業が今すぐ実施すべき5つのチェックポイント
外国人を雇用している企業、またはこれから雇用を検討している企業は、以下の点を必ず確認・実施してください。
【1】在留カードの原本確認
採用時には必ず在留カードの原本を確認しましょう。コピーだけでは偽造の可能性があります。出入国在留管理庁の「在留カード等番号失効情報照会」サイトで、カードが有効かどうかも確認できます。
【2】在留資格の種類と就労可否の確認
在留カードには「在留資格」欄があります。その在留資格でどのような就労が認められているかを確認しましょう。不明な場合は、専門家や入管に問い合わせることをお勧めします。
【3】資格外活動許可の有無と条件の確認
「留学」や「家族滞在」などの在留資格の場合、資格外活動許可を得ていれば一定の就労が可能です。在留カードの裏面に「許可:原則週28時間以内・風俗営業等を除く」などの記載があるか確認してください。
【4】業務内容と在留資格の整合性チェック
採用する職務内容が、その方の在留資格で認められた活動範囲内かを確認します。例えば「技術・人文知識・国際業務」で採用する場合、単純作業ではなく専門的業務である必要があります。
【5】定期的な在留期限の確認
在留期限が切れた後も就労させた場合、不法就労助長になります。在留期限の管理台帳を作成し、更新時期を事前に把握しましょう。
在日外国人の方へ:自分の在留資格を正しく理解しよう
在日外国人の皆さんも、ご自身の在留資格で認められている活動を正しく理解することが極めて重要です。
【留学生の方】
資格外活動許可を得ていても、週28時間(長期休暇中は週40時間)を超えて働くことはできません。また、風俗営業等に関わる仕事は禁止されています。複数のアルバイトを掛け持ちしている場合、合計時間数が制限内か注意してください。
【技術・人文知識・国際業務などの就労資格の方】
認められているのは、その資格に該当する専門的業務のみです。会社から指示されたとしても、単純作業や製造ライン作業などは原則として認められません。業務内容に疑問がある場合は、雇用主や専門家に確認しましょう。
【家族滞在の方】
配偶者や子として日本に滞在している方も、資格外活動許可なしには働けません。許可を得ていても週28時間が上限です。
不法就労をしてしまった場合のリスク:
・在留資格の更新が不許可になる
・在留資格の取消を受ける可能性
・最悪の場合、強制退去(退去強制)
・再入国が認められない期間が生じる可能性
魅力的な仕事の誘いがあっても、まずは自分の在留資格を確認し、認められた範囲内かどうかを慎重に判断してください。
SNS募集の落とし穴:カジュアルだからこそ注意が必要
今回の事件では、SNSを通じてアルバイトを募集していたという点も注目すべきポイントです。
近年、SNSでの求人募集は一般的になっていますが、カジュアルな募集方法だからこそ、法令順守がおろそかになりがちです。
・「ちょっと手伝ってほしい」
・「簡単な作業だから」
・「数時間だけだから」
こうした軽い気持ちでの募集・応募が、結果として不法就労につながることがあります。募集する側も応募する側も、SNSであっても正式な雇用関係が発生することを理解し、適切な手続きを踏む必要があります。
適切な外国人雇用のために:専門家への相談を
在留資格制度は複雑で、専門的な知識が必要です。「これくらいなら大丈夫だろう」という自己判断が、取り返しのつかない事態を招くこともあります。
【専門家に相談すべきケース】
・外国人を初めて雇用する
・業務内容が在留資格に該当するか判断が難しい
・在留資格の変更や更新が必要
・すでに雇用している外国人の在留資格に不安がある
行政書士(特に入管業務専門)は、在留資格申請のサポートや外国人雇用に関するコンサルティングを行っています。事前に適切なアドバイスを受けることで、法令違反のリスクを大幅に減らすことができます。
まとめ:「知らなかった」では済まされない
今回の愛知県の事件は、多くの教訓を含んでいます。
・「内職」「在宅勤務」でも報酬を伴えば就労
・就労場所や雇用形態ではなく、在留資格との整合性が重要
・企業側の「知らなかった」は言い訳にならない
・不法就労は雇用主・外国人双方にとって重大なリスク
外国人材の活用は、人手不足が深刻化する日本社会において、今後ますます重要になっていきます。しかし、法令を遵守しない雇用は持続可能ではなく、社会全体にとってもマイナスです。
正しい知識を持ち、適切な手続きを踏むことで、企業は優秀な人材を安心して迎え入れることができ、外国人の方々も安心して日本で働き、生活することができます。
この事件を他人事とせず、ご自身やご自身の会社の外国人雇用について、今一度見直してみてはいかがでしょうか。不安な点があれば、早めに専門家に相談することをお勧めします。
参考記事:https://news.yahoo.co.jp/articles/138ef59fdc188f3359274f19594ee0688b338a8b
