■ はじめに——観光立国の新たな一手と、その向こう側にある「人生」

2026年4月23日、JATA(日本旅行業協会)が観光庁長官へ提出した要望書「訪日旅行の持続的発展に向けて~第5次観光立国推進基本計画目標達成のために~」の内容が公表されました。2026年度から2030年度を対象とする第5次観光立国推進基本計画の目標達成に向け、JATAが2023年から4回にわたって実施した「インバウンド受入拡大に向けた意識調査」をもとに、具体的な施策が提案されています。

この要望書の中で、在留外国人の方々やその雇用を検討する企業にとって特に重要なのが、「通訳ガイド(全国通訳案内士)の質・量の拡充」と並んで示された「在留外国人活用」という方針です。

私は行政書士として在留資格申請を専門業務としていますが、この仕事を始める前、28年間にわたり旅行業・観光業・宿泊業の現場で勤務してきました。

私がこの仕事で大切にしているのは、行政書士は単なる書類代行業ではなく、その人の人生や目標の実現を支える存在だ、という信念です。ビザや在留資格はゴールではありません。日本で生きていく、夢を叶えていく、そのスタート地点をつくる手段です。今回の要望書は、まさにそのスタート地点が広がる話でもあります。

現場での実体験と法律家としての知見の両面から、要望書が持つ意味と、外国人材を活用する際の実務的な注意点、そして私が大事にしている「伴走」という考え方を、率直にお伝えしたいと思います。

■ 第1章:そもそも「働く」とは何か——私がこの仕事で守りたい大前提

具体的な制度の話に入る前に、どうしても共有しておきたい私の考えがあります。それは、「働く」という行為の意味です。

仕事は、単に生活の糧となるお金を稼ぐための手段ではありません。もしそれだけなら、人はこれほど働くことに悩み、喜び、誇りを持つことはないはずです。

働くことは、本人にとって自己成長の舞台であり、自己実現の場であり、「自分はこういう人間だ」というアイデンティティを形づくる営みです。そして同時に、社会に何かを還元し、地域に根を下ろし、「ここが自分の居場所だ」という帰属意識を育てる、非常に大事な行為でもあります。

これは日本人であろうと外国人であろうと変わりません。むしろ、異国である日本で暮らす外国人の方にとっては、「働けること」は生活費の確保以上に、この国に自分の場所を築くための決定的な一歩になります。

そして忘れてはならないのが、その方が日本で安心して働くことは、本人の人生を豊かにするだけでなく、日本社会にとっても地域経済にとっても、大きなプラスをもたらすということです。

  • 人手不足に悩む現場に新しい戦力と視点が加わる
  • 消費が生まれ、税が納められ、地域経済が回る
  • 多言語・多文化の接点が増え、地域の国際競争力が高まる
  • 多文化共生が進み、住民同士の相互理解が深まる
  • 日本人側も外国文化に触れることで視野が広がり、成長する

在留外国人の方が働くということは、一方的な「受け入れ」ではなく、地域社会を共に豊かにする双方向の営みです。この前提を共有したうえで、制度の話に進みたいと思います。

■ 第2章:JATA要望書が示す3つの方針と5つの対策

【観光立国推進基本計画の全体像】

2026年3月27日に閣議決定された「第5次観光立国推進基本計画」は、3つの方針のうち1つとして「インバウンドの戦略的な誘客と住民生活の質の確保との両立」を掲げています。

JATAの要望書は、この方針達成のために以下の3分野・5つの対策を提言しています。

  1. 地方誘客の一層の推進に向けた官民一体となった総合的なプロモーションの実施
    • (1) 訪日版デスティネーションキャンペーンの実施
    • (2) 海外旅行博などへの戦略的出展の推進
  2. 観光の質的向上を担う観光人材の育成強化
    • (1) 通訳ガイド(全国通訳案内士)の質・量の拡充
    • (2) 地方誘客を担う観光人材育成(在留外国人活用・アドベンチャーガイド育成など)
  3. 国際交流機会の創出による若者の国際教育強化

この中で、在留資格の専門家として、そして28年間現場にいた人間として最も注目すべきは、2-(2)の「在留外国人活用」です。

■ 第3章:なぜ「在留外国人の活用」が必要なのか——現場28年からの視点

【通訳ガイド業界が抱える構造的課題】

訪日旅行推進部長の齋藤浩之氏は、全国通訳案内士の高齢化や若手の実務経験不足を課題として挙げ、新人がベテランに同行して学ぶ「サブガイド制度」の導入を提案しました。

私が旅行業・観光業・宿泊業に身を置いていた28年間、この問題は何度も現場で肌で感じてきました。団体ツアーに同行する添乗員・ガイドの方々は、語学力はもちろん、歴史・文化・地理・マナー・食文化など、膨大な知識を要求されます。これは一朝一夕には身につかず、ベテランガイドの引退が若手の育成速度を上回ってしまっているのが実情です。

【在留外国人という「すでにそこにある資産」、そして「ここで生きている人々」】

一方で、日本には2024年末時点で約360万人の在留外国人が暮らしています。その多くは日本語と母国語の両方を話せ、日本の文化にも深く馴染んでいます。彼ら・彼女らこそが、訪日旅行者の「母国語での案内」と「日本文化への深い理解」を両立できる、極めて貴重な人材です。

ただ、私はここで敢えて「資産」という言葉だけでは語りたくありません。一人ひとりに、日本に来た理由があり、ここで叶えたい夢があり、守りたい家族がある。そういう「人生を背負った個人」なのだという視点を、私は絶対に手放したくないのです。

そして、その方々が日本で働けるようになることは、本人の自己実現や成長の機会になるだけではありません。地域の観光産業の担い手となり、地域コミュニティの国際化を内側から推進し、日本経済全体にプラスの循環を生む——地域住民にとっても、日本社会にとっても、極めて前向きな変化なのです。

私が宿泊施設で勤務していた頃、在留外国人のスタッフが海外からのお客様に対応する場面を何度も見てきました。同じ国から来たお客様が、母国語で丁寧に案内を受けたときの、あの安心した表情は忘れられません。あれは単なるサービスではなく、人と人が出会い、異国の土地で一瞬だけ「故郷」が立ち現れる瞬間でした。そしてその光景は、隣で働く日本人スタッフの意識をも確実に変えていきました。仕事は、そこに立つすべての人を同時に成長させる力を持っています。

■ 第4章:在留外国人を観光業で雇用する際の在留資格チェックポイント

ここからは、行政書士としての専門的な話をさせてください。制度は曲げられません。だからこそ、その枠の中で何ができるかを正しく理解することが、結果として依頼者の夢と、地域社会への貢献の機会を守ることになります。

【在留資格別・就労可能範囲の整理】

① 就労に制限のない在留資格

  • 永住者
  • 日本人の配偶者等
  • 永住者の配偶者等
  • 定住者

これらの資格をお持ちの方は、業務内容を問わず就労可能です。通訳ガイドも宿泊業務も自由に従事できます。

② 就労に制限のある在留資格

  • 技術・人文知識・国際業務:通訳・翻訳業務は該当分野として就労可能ですが、単純労働とみなされる業務は不可
  • 特定技能:宿泊分野での特定技能1号があり、フロント・接客・レストランサービス等で就労可能
  • 技能:外国料理の調理人など
  • 高度専門職:幅広い業務で就労可能

③ 就労が原則認められない在留資格

  • 留学
  • 家族滞在
  • 文化活動

これらの資格の方が就労する場合、「資格外活動許可」の取得が必須です。週28時間以内の制限もあります。ここは特に、本人も雇用主も見落としやすいポイントで、私のところにも後から相談が来るケースが多い領域です。

【通訳ガイド業務と「技術・人文知識・国際業務」】

通訳ガイド業務は、基本的に「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に該当します。ただし、入管法上は「外国の文化に基盤を有する思考または感受性を必要とする業務」が対象とされるため、単なる案内業務だけでなく、文化的背景の説明や異文化コミュニケーションを含む業務であることが求められます。

また、全国通訳案内士の国家資格を持たない方が「有償で」ガイド業務を行う場合、通訳案内士法の改正により現在は無資格でも可能となっていますが、地域限定通訳案内士制度などもあり、業務範囲の確認が必要です。

■ 第5章:企業側が押さえるべき法的リスクと対応策

【不法就労助長罪のリスク】

外国人材を雇用する企業様にとって最大のリスクは「不法就労助長罪」です。入管法第73条の2により、不法就労をさせた事業主には3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます。「知らなかった」では済まされません。ここは本当に厳しく申し上げます。

でも、怖がる必要はありません。正しく手順を踏めば、安心して優秀な人材を迎え入れられます。そして、適法な雇用は、働く本人の人生の安定と、企業の評判、地域社会からの信頼をすべて同時に守ります。

【雇用時の3つのチェックポイント】

① 在留カードの確認 表面の「就労制限の有無」欄、裏面の「資格外活動許可欄」を必ず確認します。在留カード読取アプリを使って偽造の有無もチェックすべきです。

② 業務内容と在留資格の適合性確認 採用予定の業務内容が、その方の在留資格で認められている活動範囲に含まれるかを精査します。不明な場合は出入国在留管理庁への照会や行政書士への相談が確実です。ここは曖昧なまま進めないでください。

③ 在留期間の管理と更新手続きのサポート 在留期間満了前の更新手続きは本人の責任ですが、企業側でもスケジュール管理をサポートすることでトラブルを未然に防げます。何より、その方が日本で安心して働き、成長し、地域に根を下ろしていける環境をつくること自体が、企業にとっての最大の投資です。

【雇用契約書の重要性】

外国人材の雇用契約書は、日本人従業員以上に詳細な記載が求められます。業務内容、労働条件、更新条件などを明記し、可能であれば母国語併記が望ましいでしょう。これは単なる形式論ではなく、働く本人にとっての安心材料であり、「この会社は自分を大切にしてくれる」という信頼の土台となるものです。

■ 第6章:現場28年の経験から伝えたい、外国人材活用の実践知

【「言葉」だけではない、「文化」と「人生」を伝える力】

私が旅行業・観光業・宿泊業の現場で痛感してきたのは、外国人観光客への対応は「言葉が通じる」だけでは不十分ということです。イスラム圏からのお客様にはハラール対応、欧米のお客様には個人主義を尊重した接客、アジア圏からのお客様にはそれぞれの文化的配慮が必要です。

在留外国人の方々は、こうした「文化的背景を理解した接客」ができる唯一無二の人材です。単なる労働力ではなく、「文化の橋渡し役」、もっと言えば「多文化共生の実現者」として、その能力を最大限に発揮してもらう——その過程で、本人は誇りと自己実現を感じ、地域は国際化し、日本経済はインバウンドの果実をより確実に得ることができます。まさに三方良しの構造です。

【「バズった場所」への対応と多言語化】

要望書で触れられている「バズった場所に寄り添う集客」は、SNSを通じて世界中に情報が拡散される現代において極めて重要な視点です。しかし、バズった瞬間に母国語での情報発信や現地対応ができなければ、その機会は一瞬で失われます。

在留外国人スタッフがいれば、SNSでの多言語発信、急な観光客流入への対応、地域の魅力を母国語で発信することが可能です。地方の中小規模の観光事業者こそ、地域経済を底上げする大きなチャンスとして、この強みを活かすべきタイミングにあります。町の国際法務パートナーと組んで、ぜひ一歩踏み出してください。

■ 第7章:行政書士としてサポートできること——「受任」ではなく「結果」にコミットする

当事務所では、以下のような在留外国人の活用に関するご相談を承っています。

  • 新規採用時の在留資格適合性確認
  • 「技術・人文知識・国際業務」「特定技能」等への在留資格変更申請
  • 資格外活動許可申請(「家族滞在」「留学」の方向け)
  • 在留期間更新許可申請
  • 外国人雇用管理の体制整備コンサルティング
  • 不法就労リスク回避のための雇用契約書作成支援

ここで一つ、私の仕事の流儀をお伝えしておきます。

私は「受任すること」を目的にしていません。結果を出せる案件だけを引き受ける、というのが私の流儀です。明らかに黒い案件はお断りします。一方で、グレーに見える案件でも、知恵と経験で白に近づけられる道は必ず探ります。時に厳しいことも申し上げますが、それは冷たさではなく、本気で結果にコミットしたいからです。

一般論で終わるなら、AIでも検索でも事足ります。私の役目は、「あなたの場合はこうです」と即答し、その先の人生と事業、そして地域社会に与える影響まで見据えて伴走することだと思っています。

■ まとめ——観光立国の未来は「働く人・地域・制度」の三輪で前に進む

JATAの要望書が示した「在留外国人の活用」は、単なる人手不足対策ではありません。日本で暮らす外国人の方々が、その文化的背景と言語能力を活かして日本の観光産業に貢献する——それは本人にとっての自己実現であり、地域にとっての国際化であり、日本経済にとっての成長戦略でもあります。

働くことは、生きること、成長すること、地域とつながることです。在留外国人の方が日本で正しく働けるようになることは、その方の人生を豊かにし、地域住民に新しい出会いと刺激をもたらし、地域経済を活性化し、日本社会の多様性を深めます。プラスの側面は、数え上げればきりがありません。

しかし、この可能性を現実のものとするには、在留資格制度の正しい理解と、企業側のコンプライアンス意識、そして「この人の人生と、地域の未来を一緒に考える」という伴走の姿勢が不可欠です。制度を正しく活用することで、優秀な人材を合法的に迎え入れ、インバウンド需要の波を確実に捉えることができます。

現場を知り、法を扱い、そして一人ひとりの人生と地域の未来に向き合う立場として、私は観光業界の皆様、在留外国人の皆様、そして地域社会のお役に立ちたいと本気で思っています。ビザはゴールではなく、新しい人生のスタート地点です。そのスタート地点から一緒に走り出したい方は、どうぞお気軽にご相談ください。

▼参考記事 https://news.yahoo.co.jp/articles/4fb55e55f3eed63f5f386d78c197a26b1ff366c7