はじめに:増加する外国人患者と医療現場の課題

日本で暮らす外国人の数は年々増加しており、それに伴い医療機関を受診する外国人患者も急増しています。厚生労働省の調査によると、2024年度に医療機関を受診した外国人はおよそ14万4000人に上り、医療現場ではさまざまな課題が浮き彫りになっています。

2026年4月11日に日テレNEWSで報道された「医療費未払いのトラブルも…外国人患者増加の病院『常識の大きなギャップ』」では、都立広尾病院を中心に、外国人患者受け入れの現状と課題が詳しく紹介されました。この記事では、行政書士としてビザ申請や在留資格手続きに携わる立場から、医療費未払い問題が在留資格に及ぼす影響と、企業が取るべき対応策について解説します。

医療現場で何が起きているのか?

151の国と地域からの患者を受け入れる病院

都立広尾病院では、これまでに151の国と地域の患者を受け入れてきました。院内には多言語の表示があり、医療通訳も配置されています。報道では、のどの痛みを訴えて来院したアメリカ人男性の診察に、医療通訳が同席し、難しい医療用語も丁寧に通訳している様子が紹介されました。

言語の壁は確かに大きな問題ですが、それ以上に深刻なのが「医療の受診の仕方に関する常識のギャップ」だと、都立広尾病院の城川雅光部長は指摘しています。

「後払い」制度への戸惑い

日本の医療機関では、診察・検査・処方を受けた後に会計をする「後払い」が一般的です。しかし、海外では診察前に会計を済ませる「前払い」の国も多く、外国人患者にとっては戸惑いの原因となっています。

「診察・検査・処方は、事前に会計をして、それでなければ診療を受けることができないといったような国もあります」と城川部長は説明します。この制度の違いが、医療費の未払い問題につながっているのです。

「なりすまし受診」という誤解

さらに深刻なのが、他人の保険証を使おうとする「なりすまし受診」です。報道によると、「受診時に第三者である中国人で埼玉在住の方の国民健康保険を使用して受診しようとした」という例がありました。

これは保険証を”医療費が安くなるクーポン”だと勘違いしているケースもあるとのことです。保険証の性質や、日本の公的医療保険制度への理解不足が背景にあります。

未払い問題の実態:悪意ではなく「誤解」が原因

重要なのは、医療費を踏み倒そうとする悪意のある未払いは、都立広尾病院では年に2件ほどしかないという点です。

一方で、「説明を受けていない」「思ったより高い」といった誤解がトラブルにつながるケースは数多くあるといいます。つまり、未払い問題の多くは、悪意ではなく「制度への理解不足」や「説明不足」から生じているのです。

病院側の対策:トラブル共有と料金表の作成

都立広尾病院では、こうしたトラブルに対して積極的な対策を講じています。

月に一度のトラブル共有会議

病院では月に一度、医療費未払いや「なりすまし受診」などのトラブル事例を共有する会議を開いています。この会議で出た意見をもとに、具体的な対策を実施しているのです。

多言語の医療行為料金表の作成

未払い問題については、医療行為の料金表を多言語で作成し、患者に事前に提示する対策を取っています。これにより、「説明を受けていない」「思ったより高い」といった誤解を防ぐことができます。

対策の効果:未払い額が大幅に改善

こうした取り組みの結果、未払い額は大幅に改善し、最近では月1万円を下回ることもあるとのことです。「常識のギャップ」を埋めるための地道な工夫が、確実に成果を上げているのです。

政府の対策強化:未払い基準の厳格化

入国審査基準の大幅な引き下げ

政府も外国人患者の医療費未払い問題に本腰を入れています。これまでは20万円以上の未払いがあった場合に入国を認めないケースがありましたが、2026年4月1日からこの基準を1万円以上に大きく引き下げ、厳格化しました。

この変更は、外国人の方々の入国・再入国に直接影響を及ぼす重要な制度変更です。

在留資格への影響

医療費の未払いは、在留資格の更新や変更の際にも不利に働く可能性があります。出入国在留管理庁は、在留資格の審査において「素行が善良であること」を重視しており、医療費の未払いは素行不良と判断される要因となり得ます。

特に、1万円以上の未払いがある場合、再入国が認められない可能性があるため、外国人の方々にとっては非常に深刻な問題となります。

行政書士の視点:ビザ・在留資格への影響

在留資格審査における「素行要件」

在留資格の更新や変更の際には、「素行が善良であること」が重要な審査ポイントとなります。医療費の未払いは、この素行要件に抵触する可能性があります。

特に、永住許可申請や帰化申請においては、素行要件がより厳格に審査されるため、医療費の未払いは致命的な不利益要因となり得ます。

再入国許可と医療費未払い

2026年4月1日からの新基準により、1万円以上の医療費未払いがある場合、再入国が認められない可能性があります。これは、一時帰国や海外出張を頻繁に行う外国人の方々にとって、非常に大きな影響を及ぼします。

企業の雇用リスク

外国人社員が医療費の未払いにより在留資格の更新ができなくなった場合、企業は貴重な人材を失うことになります。また、採用コストや育成コストも無駄になってしまいます。

企業が取るべき対応策

採用時の医療制度説明

外国人社員を採用する際には、日本の医療制度について丁寧に説明することが重要です。特に以下の点を明確に伝えましょう。

  • 日本の医療機関は「後払い」制度であること
  • 保険証は本人のみが使用できるものであり、他人に貸すことは違法であること
  • 医療費の未払いは在留資格や再入国に影響を及ぼすこと

健康保険加入の徹底

外国人社員が確実に健康保険に加入しているかを確認しましょう。企業が社会保険に加入している場合は、外国人社員も健康保険に加入する義務があります。

国民健康保険に加入する必要がある場合(短時間労働者など)は、市区町村での手続きを支援しましょう。

定期的な研修の実施

採用時だけでなく、定期的に医療制度に関する研修を実施することをお勧めします。特に以下のような内容を含めると効果的です。

  • 病院の受診方法(保険証の持参、受付での手続きなど)
  • 医療費の目安と支払い方法
  • 緊急時の対応(救急車の呼び方、夜間・休日診療など)
  • 医療費未払いのリスク(在留資格への影響など)

医療通訳サービスの情報提供

日本語が十分に話せない外国人社員のために、医療通訳サービスの情報を提供しましょう。都立広尾病院のように、院内に医療通訳を配置している医療機関もあります。

また、遠隔医療通訳サービス(電話やタブレット端末を使った通訳)を利用できる医療機関も増えています。

トラブル発生時の相談窓口

医療費の支払いに関してトラブルが発生した場合、すぐに相談できる窓口を社内に設けることも有効です。人事部や総務部が窓口となり、必要に応じて行政書士や弁護士などの専門家につなぐ体制を整えましょう。

外国人の方々へのメッセージ

医療費は必ず支払いましょう

日本の医療機関では、診察後に会計をする「後払い」が一般的です。会計を忘れずに行い、医療費は必ず支払いましょう。

医療費の未払いは、在留資格の更新や再入国に悪影響を及ぼします。2026年4月1日から、1万円以上の未払いがある場合、再入国が認められない可能性があります。

保険証は本人のみ使用できます

健康保険証は本人のみが使用できるものです。他人の保険証を使って受診すること(なりすまし受診)は違法であり、刑事罰の対象となります。

また、自分の保険証を他人に貸すことも違法です。絶対に行わないでください。

困ったときは相談しましょう

医療費の支払いが難しい場合や、医療制度について分からないことがある場合は、すぐに相談しましょう。相談先としては以下のようなところがあります。

  • 勤務先の人事部・総務部
  • 医療機関の相談窓口(医療ソーシャルワーカーなど)
  • 市区町村の外国人相談窓口
  • 行政書士や弁護士などの専門家

まとめ:「常識のギャップ」は埋められる

外国人患者の医療費未払い問題は、言語の壁だけでなく、「医療制度の常識のギャップ」が大きな原因となっています。しかし、都立広尾病院の事例が示すように、適切な説明と工夫により、このギャップは確実に埋めることができます。

企業の人事担当者の皆さまには、外国人社員が安心して日本で暮らし、働けるよう、医療制度についての丁寧な説明と継続的なサポートをお願いしたいと思います。

私たちニセコビザ申請サポートセンターでは、ビザや在留資格の申請サポートを通じて、外国人の方々が日本で安心して暮らせる環境づくりに貢献しています。医療費未払いが在留資格に及ぼす影響や、企業が取るべき対応策について、ご質問やご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせください。

グローバル人材が安心して日本で働き、暮らせる社会を、一緒に実現していきましょう。


参考記事:
「医療費未払いのトラブルも…外国人患者増加の病院『常識の大きなギャップ』」日テレNEWS NNN(2025年4月11日)
https://news.yahoo.co.jp/articles/4602f7ff098100f2df05200368bee6cc9112a056

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