はじめに:外国人起業に何が起きているのか
2025年10月、外国人が日本で起業するための在留資格「経営・管理」の取得要件が大幅に厳格化されました。
帝国データバンクの最新分析によると、この法改正後、外国人による起業数は改正前と比べて約4割減少したことが明らかになっています。
2025年全体では約2万社と、コロナ禍後では最多を記録しましたが、これは改正直前の9月に駆け込み設立が急増した(約3500社、前年同月比2.6倍)ことが大きく影響しています。
改正後の2025年11月から2026年3月までの月平均起業数は約800社で、改正前(月平均約1400社)を大きく下回りました。
この変化は、単なる数字の減少にとどまらず、外国人起業家支援の現場に大きな影響を与えています。
私は北海道ニセコを拠点に、外国人の在留資格申請や起業支援を専門とする行政書士として活動しています。
この法改正は、私が日々向き合う依頼者の方々に直接的な影響を与えるものであり、制度の意図、現場の実態、そして今後の展望について、実務家の視点からお伝えしたいと思います。
なぜ「経営・管理」在留資格の要件が厳格化されたのか
ペーパーカンパニー問題の深刻化
法改正の最大の背景は、実体のない「ペーパーカンパニー」や「見せかけ起業」による在留資格の悪用事例が増加していたことです。
本来、経営・管理ビザは、日本で事業を営み、経済活動を通じて社会に貢献する外国人起業家のための制度です。
しかし、実際にはビジネス実態がほとんどなく、在留資格の取得・維持だけを目的とした形式的な会社設立が横行していました。
特に都心部の一部地域や、記事にもあるように大阪市内の特定エリアでは、新規登記企業の相当数が外国人によるものであり、その中には実体を伴わない企業も少なくなかったとされています。
制度の透明性と公正性の確保
こうした状況を放置すれば、制度全体の信頼性が損なわれ、本気で事業をしたいと考える外国人起業家にとっても不利益になります。
また、不正な申請を通じて在留資格を得た人が増えれば、日本の移民政策全体に対する信頼も揺らぎます。
そのため、出入国在留管理庁は制度の透明性と公正性を高めるため、要件の見直しに踏み切ったのです。
主な改正内容
具体的な改正内容としては、以下のような点が挙げられます(個別の詳細は最新の告示や審査要領を確認する必要があります)。
- 資本金要件の引き上げ:従来よりも高い資本金(3000万円)が求められる
- 雇用条件の追加:日本人、永住者などの雇用、日本語力のある従業員・役員の配置が求められる
- 事業実態の厳格な審査:事業計画の実現可能性、事務所の実在性、継続性などがより厳しくチェックされる
これらの変更により、「とりあえず会社を作ってビザを取る」という手法は通用しなくなりました。
データから見える変化:駆け込み設立と改正後の落ち着き
2025年9月の駆け込み設立ブーム
法改正が予告された後、2025年9月には外国人による起業が急増しました。
約3500社という数字は、前年同月の約2.6倍に達し、明らかに「改正前に滑り込もう」とする動きがあったことを示しています。
この中には、本気で事業をしたい人もいれば、制度変更前に駆け込みでビザを取得しようとした人もいたでしょう。
改正後の大幅減少
一方、改正後の2025年11月以降は月平均約800社と、改正前の約1400社から4割減少しました。
2026年1〜3月の累計も約2400社で、前年同期の約4600社から半減近い水準です。
この数字だけを見れば、「外国人起業が大きく後退した」と受け取られるかもしれません。
しかし、現場の実感としては、これは必ずしもネガティブな変化だけではありません。
質の向上という側面
制度が厳格化されたことで、申請件数は減りましたが、その分、事業の実現可能性が高い案件に絞られてきているとも言えます。
つまり、「数は減ったが、質は上がった」という見方もできるのです。
実際、私が相談を受ける案件でも、以前よりも事業計画をしっかり練ってから相談に来る方が増えています。
現場で起きていること:支援者の視点から
本気度の見極めが明確になった
制度が厳しくなったことで、「とりあえず相談してみる」というレベルの方は減り、「本気で事業をやりたい」という方の割合が相対的に高まりました。
これは支援する側にとっても、依頼者の本気度を見極めやすくなったという意味で、決して悪いことではありません。
事業計画書の重要性が増した
以前は、ある程度形式的な事業計画書でも通ることがありましたが、今はそうはいきません。
事業の実現可能性、収支計画の妥当性、市場分析の精度、雇用創出の見通しなど、ビジネスとしての本質が厳しく問われます。
これは、行政書士としての専門性が試される場面でもあります。
単に書類を整えるだけではなく、事業そのものの成立可能性を一緒に考え、制度の枠内でどう最適化するかを提案する力が求められます。
小規模起業のハードルが上がった
一方で、カフェ、ゲストハウス、民泊といった小規模・個人ベースの起業を考えていた方にとっては、ハードルが上がったのも事実です。
資本金要件や雇用条件が厳しくなったことで、初期投資が少ない事業や、まずは一人で始めたいという方にとっては、以前より準備すべきことが増えました。
ただし、これは「できなくなった」のではなく、「より綿密な準備が必要になった」ということです。
実現可能な計画を立て、必要な資金を用意し、事業の持続性を示せれば、道は開けます。
グレーゾーン業者の淘汰
制度が厳格化されたことで、グレーゾーンで動いていた一部の仲介業者や申請代行業者が淘汰されつつあります。
これは業界全体の健全化という意味で、長期的にはプラスです。
依頼者にとっても、信頼できる専門家を選びやすくなる環境が整いつつあると言えるでしょう。
依頼者への影響:厳しくなったが、チャンスでもある
不許可リスクが高まった
制度が厳しくなったことで、準備不足や計画の甘さがあると、不許可になるリスクは確実に高まっています。
「とりあえず申請してみる」という姿勢では、時間と費用を無駄にする可能性が高いです。
透明性が増し、適正な案件は通りやすくなった
一方で、きちんとした事業計画があり、資金計画も妥当で、事業の実現可能性を示せる案件であれば、以前よりも透明性が高く、公正に審査される環境になったとも言えます。
つまり、「ちゃんとやれば通る」という確信を持ちやすくなったのです。
これは、本気で事業をしたい外国人起業家にとっては、むしろ歓迎すべき変化です。
伴走支援の価値が高まった
制度が複雑になり、求められる水準が高くなったからこそ、専門家による伴走支援の価値が高まっています。
ビザ取得はゴールではなく、スタート地点をつくる手段です。
その先にある「事業の成功」「地域での定着」「夢の実現」まで見据えた支援が、今まで以上に求められています。
本気の起業家にとってのチャンス
ペーパーカンパニーとの差別化
制度が厳格化されたことで、ペーパーカンパニーや見せかけ起業との差別化が明確になりました。
本気で事業をやりたい人にとっては、競争環境がフェアになったとも言えます。
質の高い申請が評価される時代
以前は、「とりあえず申請すれば通る」という時代でしたが、今は違います。
質の高い事業計画、実現可能性の高いビジネスモデル、地域社会への貢献──こうした要素がきちんと評価される時代になりました。
地域経済への貢献が見える化される
ニセコ・倶知安エリアでも、外国人による飲食店や宿泊施設の開業は地域経済にとって重要です。
観光業が盛んなこの地域では、外国人起業家が地域の魅力を高め、雇用を生み、多文化共生を推進する存在として期待されています。
制度が厳格化されたことで、こうした「地域への貢献」という視点がより重視されるようになったのは、前向きな変化だと思います。
今、外国人起業家が準備すべきこと
事業計画の精度を高める
まず何よりも、事業計画の精度を高めることが重要です。
「何をどう売るのか」「市場はどこにあるのか」「競合との差別化ポイントは何か」「初年度の収支見通しは?」──こうした基本的な問いに、具体的に答えられる準備が必要です。
資金計画を明確にする
資本金要件が引き上げられたことで、資金調達の計画も重要になります。
自己資金だけでなく、融資や投資を受ける可能性も含め、現実的な資金計画を立てましょう。
事務所・事業所の実在性を示す
事業実態の審査が厳しくなったことで、事務所や事業所の実在性を示すことも重要です。
バーチャルオフィスだけでは不十分で、実際に事業を行う場所を確保する必要があります。
雇用計画を具体化する
雇用条件が追加されたので、日本人や日本語能力のある人材を、いつ、どのように採用するのかを具体的に示す必要があります。
雇用創出は、地域経済への貢献を示す重要な要素でもあります。
専門家に早めに相談する
制度が複雑になったからこそ、専門家に早めに相談することをお勧めします。
申請直前ではなく、事業構想の段階から相談することで、実現可能性を高めることができます。
私たち行政書士は、単なる書類作成者ではなく、制度・現実・人生をつなぐ戦略的な支援者です。
依頼者一人ひとりの状況に即した個別最適な提案をすることが、私たちの役割だと考えています。
まとめ:制度変更は終わりではなく、新しいスタート
2025年10月の法改正により、外国人起業のハードルが上がったことは事実です。
しかし、これは「外国人起業が終わった」という意味ではありません。
むしろ、制度が透明化され、本気で事業をやりたい人が正当に評価される環境が整いつつあると言えます。
ペーパーカンパニーとの差別化が進み、質の高い事業計画が求められる時代になったからこそ、私たち支援者の役割も変わります。
ビザ取得はゴールではなく、その先にある「事業の成功」「地域での定着」「夢の実現」まで見据えた伴走支援が、今まで以上に重要になります。
ニセコ・倶知安エリアでも、外国人起業家の存在は地域経済にとって欠かせません。
制度が変わっても、夢を追う人がいる限り、私たちにできることは必ずあります。
もし「起業したいけど、今の制度で大丈夫?」「何から準備すればいい?」と迷っている方がいれば、まずは一度ご相談ください。
一緒に、実現可能な道を探しましょう。
📄 参考記事:
https://news.yahoo.co.jp/articles/3f85d21b57bf74a0e2177f568780c72e2b8fd66a
