2026年5月現在、国会では出入国管理法(入管法)の改正案が審議されています。この改正の中心は「在留資格に関する手数料の大幅引き上げ」であり、年間延べ230万人もの外国人とその関係者に影響が及ぶと見込まれています。

本稿では、改正案の内容、その背景、企業と外国人個人それぞれが取るべき具体的対応策、そして私が実務家として感じている懸念点まで、できるだけ踏み込んで解説します。少し長い記事になりますが、これからの数年間の人生設計や経営判断に直結するテーマですので、ぜひ最後までお読みいただければと思います。

1. 改正案の概要——何が、どれだけ変わるのか

改正案の核心は、在留資格関連の手数料上限の引き上げです。

区分現行上限改正後上限
在留期間の更新・在留資格の変更1万円10万円
永住許可1万円30万円

実際にいくら徴収されるかは、改正法成立後に政令で定められます。現時点で政府が示している方針は次のとおりです。

  • 在留期間3か月以下:約1万円(現行6,000円)
  • 5年の更新:約7万円(現行6,000円)
  • 永住許可:金額未定だが上限30万円までの範囲で設定

5年更新の場合、現行の6,000円から約7万円へと、実に10倍以上の負担増となります。これは、家族で日本に滞在されている方にとっては数十万円単位の支出増を意味します。

2. なぜ今、引き上げなのか——政府の説明と背景

手数料の上限額は1981年に設定されて以来、約45年間一度も改定されていません。物価水準も人件費も大きく変化した現在、ある程度の見直しが必要であること自体は、私も理解できます。

入管庁が示している主な目的は次の二つです。

  1. 入管行政のデジタル化推進(オンライン申請システムの拡充など)
  2. 外国人向け日本語教育プログラムの充実

これらは、外国人受け入れ社会のインフラとして、たしかに必要な投資です。しかし、ここで実務家として強調しておきたいのは、「金額の根拠が不透明である」という点です。

何にいくら必要なのか、その内訳は公表されていません。手数料収入が一般財源に組み込まれれば、使途は限定されず、外国人施策と関連の薄い分野に流用される可能性も否定できません。諸外国の同種手数料との比較も部分的にしか示されておらず、「妥当な金額である」という説得力は十分とは言えないのが現状です。

3. 単独の改正ではない——厳格化の流れの中で読み解く

この手数料引き上げは、政府が進める外国人政策厳格化の一連の動きの中に位置づけて理解する必要があります。

(1) 経営・管理ビザの資本金要件

経営者向けの在留資格である「経営・管理」については、資本金要件が500万円から3,000万円へと6倍に引き上げられました。この結果、申請件数は約9割減という劇的な変化を見せています。

(2) 技術・人文知識・国際業務の審査厳格化

エンジニアや通訳、貿易実務などに従事する方が取得する「技術・人文知識・国際業務」も、審査が厳しくなっています。職務内容と学歴・職歴の関連性、雇用契約の実体性などについて、これまでより踏み込んだ確認が行われる傾向です。

(3) 企業内転勤の審査強化

グローバル企業のグループ内異動で来日するケースで使われる「企業内転勤」も、形式的な要件充足だけでは通らない案件が増えています。

つまり、採用の入口が狭くなり、更新・変更のコストが上がり、永住も高額化する——外国人材の活用において、入口・運用・出口の三つの局面すべてで負担が増加しているのです。

4. 難民申請者・経済的困窮者への影響

改正案には、経済的に困窮している場合などに手数料を減免する規定が盛り込まれる予定です。しかし、どのようなケースが対象となるかは明確になっていません。

特に懸念されるのは難民申請者の扱いです。母国で迫害される恐れがある人が、手数料を支払えずに在留資格を更新できなければ、強制的に帰国せざるを得ない状況が生まれかねません。これは人権の観点からも、日本の国際的信頼の観点からも、慎重な制度設計が求められる部分です。

5. 外国人個人として、今すぐ取るべき対応

ここからは実務的な話に入ります。私が日頃ご相談を受けている方々に、具体的にお伝えしている対応策をご紹介します。

(1) 在留期限の確認と更新時期の前倒し

まず最初にしていただきたいのは、ご自身とご家族の在留カードの有効期限を確認することです。改正法の施行と政令の施行時期によっては、施行前に更新を済ませることで、現行の手数料(6,000円)で対応できる可能性があります。

ただし、申請は「期限の3か月前」から可能ですので、その範囲内での前倒しが現実的な選択肢です。

(2) 永住許可申請のタイミング設計

永住許可は上限が30万円となります。永住許可の要件(原則10年以上の在留、独立生計、納税義務の履行など)を既に満たしている方、あるいは近い将来満たす見込みの方は、申請の前倒しを真剣に検討する価値があります。

ただし、永住許可は「とりあえず出す」ものではありません。一度不許可になると次回申請に影響します。要件を確実に満たしているかの事前精査が不可欠です。

(3) 在留資格の変更を検討中の方へ

留学から就労、技人国から経営・管理など、資格変更を検討されている方は、改正前後でのコストとリスクを比較しておくべきです。特に経営・管理ビザは要件自体が厳しくなっているため、要件充足の検証から戦略を練り直す必要があります。

6. 企業の経営者・人事担当者として取るべき対応

外国人材を雇用される企業様には、次の四つの観点での点検をお勧めします。

(1) 在留資格管理の棚卸し

社内のすべての外国人従業員について、在留資格の種類、有効期限、更新時期を一覧化します。これは法令遵守の観点からも、コスト管理の観点からも基本となる作業です。

(2) 更新コストの中長期試算

5年・10年スパンで、外国人従業員一人あたりにかかる更新コストを試算しておくと、人件費計画の精度が上がります。家族帯同者がいる場合、その分のコストも忘れずに計算に入れてください。

(3) 永住取得支援の制度設計

優秀な外国人材の長期定着を図るには、永住許可取得を会社としてサポートする仕組みが有効です。手数料補助制度、行政書士費用補助、書類準備の社内支援など、できる範囲は企業によって異なりますが、定着率向上に直結する施策です。

(4) 採用戦略の見直し

経営・管理ビザの要件厳格化、技人国の審査強化を踏まえると、これからの採用は「とりあえず内定→ビザ申請」では通用しません。採用候補者の学歴・職歴・職務内容の整合性を、内定前段階から精査するプロセスが必要です。

7. 不許可リスクが高まる時代の書類作成

審査が厳格化する局面では、書類の質が結果を大きく左右します。これは私が日々の実務で痛感していることです。

たとえば技人国の場合、職務内容説明書の書きぶり一つで結果が変わります。「翻訳業務に従事」と書くのか、「契約書・技術仕様書の英日翻訳および海外取引先との交渉補助、月平均X件、業務全体の約Y%を占める」と書くのか。後者の方が、業務の専門性と量的実体を審査官に伝えられます。

経営・管理であれば、事業計画書の合理性、資本金の出所、事務所の実体、雇用予定者の有無など、立体的な裏付けが必要です。曖昧な書類は不許可に直結します。

不許可になってからの再申請は、初回申請よりはるかに難易度が上がります。だからこそ、最初から精度の高い書類で勝負することが、結果として最も経済的な選択になるのです。

8. 私が考える、これからの外国人材戦略

ここまで実務的な話を中心にしてきましたが、最後に少し大きな視点でお話しさせてください。

人手不足が構造的に深まる日本において、外国人材なしで経済を回すことはもはや不可能です。介護、建設、IT、製造、サービス——どの業界でも、外国人の方々が現場を支えています。同時に、多様性がイノベーションを生むことは、世界中の研究データが示しているところです。

一方で、政策の方向性は厳格化に向かっています。手数料引き上げ、要件強化、審査厳格化——「日本は外国人に冷たい国だ」という印象が広がれば、優秀な人材ほど他国に流れてしまうでしょう。

しかし、私たち実務家にできることは、制度を嘆くことではありません。制度は変えられない。だからこそ、その枠の中で、どうすれば依頼者の人生や事業の目標を実現できるかを考え抜くこと。それが、私が考える行政書士の本質的な仕事です。

書類作成代行ではなく、人生と事業に伴走する専門家として——AIや一般的な情報サイトでは答えられない「あなたの場合はどうか」という問いに、私はこれからも個別最適の答えを出し続けたいと考えています。

9. ご相談の進め方

当事務所では、次のようなご相談をお受けしています。

  • 在留資格の更新・変更・取得
  • 永住許可申請の戦略設計
  • 経営・管理ビザの新規・更新申請
  • 技人国・企業内転勤の申請支援
  • 企業の外国人雇用体制の整備支援
  • 不許可後の再申請戦略

初回相談では、ご状況を丁寧に伺い、申請の見通しと取るべき手順を率直にお伝えします。受任すべきでない案件、お引き受けしても結果が出にくい案件は、その旨も含めて正直にお話しします。それが、依頼者の人生に責任を持つということだと考えています。

電話・メール・オンライン面談に対応しています。多言語でのご相談も可能です。地方であっても、オンラインで全国どこからでもご相談いただけます。

不安を抱えたまま放置せず、まずはお気軽にご相談ください。一緒に、最善の道を考えましょう。