はじめに ― 「不法就労」は、もはや他県の話ではない

2026年3月、朝日新聞が報じた群馬県の動きに、外国人雇用に関わる全国の経営者・人事担当者が注目しました。群馬県と県内11の業界団体が「ストップ不法就労・共生ぐんま宣言」に調印し、山本一太知事自らが先頭に立って不法就労対策を進めているという報道です。

出入国在留管理庁のデータによると、2024年に群馬県内で不法就労と認定された外国人は1,799人。これは全国で3番目に多い数字です。しかし、これは群馬県だけの問題ではありません。SNSを通じて「ここでは働ける」という情報が国境を越えて共有される今、どの地域の企業にとっても不法就労問題は経営リスクとして現実味を帯びています。

本記事では、行政書士として外国人の在留資格申請・ビザ申請の現場に立つ立場から、この報道の背景にある構造的な問題と、在日外国人・雇用企業の双方が今すぐ取り組むべき対策について、具体的に解説します。

1. 群馬県の「ストップ不法就労・共生ぐんま宣言」とは何か ― 地方自治体が動き出した背景

群馬県は2025年9月、県内11の業界団体と共に「ストップ不法就労・共生ぐんま宣言」を発表しました。これは、単なる取締り強化の宣言ではなく、「ルールを守る外国人材と、ルールを守る企業による共生社会」を目指す宣言です。

特筆すべきは、県が独自に始めた対策です。国から提供される情報をもとに外国人を雇用している企業を把握し、各社に雇用人数や国籍などを県のLINE公式アカウントへ登録してもらう仕組みを2025年6月から開始しています。これは「企業の自主的な意識向上」を促すアプローチであり、全国の自治体のモデルケースとなる可能性を秘めています。

なぜ地方自治体がここまで踏み込むのか。答えはシンプルです。外国人労働者は、もはや「労働力の補完」ではなく、地域経済を支える基幹的な戦力だからです。だからこそ、”不法”な状態を放置すれば、真面目にルールを守って雇用している企業の競争条件が歪み、地域全体の秩序が崩れてしまうのです。

2. SNSで広がる「ここなら働ける」情報 ― 不法就労の新しい構造

群馬県警の幹部が講演で指摘した点は、極めて重要です。「外国人同士がSNSのやりとりで『群馬では不法滞在者でも仕事ができる』との情報を得ている」― つまり、不法就労は今や“情報ネットワーク型”の現象になっているのです。

在留期限が切れても出国せず、SNSで「雇ってくれる場所」を探し、そこへ流入する。こうした構造のなかで、悪意なく不法就労者を雇ってしまう企業も出てきます。在留カードの確認が不十分だったり、派遣会社に丸投げしていたり、更新手続の管理が甘かったり ― 企業側の”うっかり”が、法的リスクを招くのです。

入管法73条の2「不法就労助長罪」は、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金という重い罰則を定めています。しかも、2024年の法改正により、「過失による場合」も処罰対象に含まれるようになりました。「知らなかった」では済まない時代です。

3. 「技人国で清掃」はアウト ― 資格外活動のグレーゾーンが消えていく

報道の中で最も示唆に富むのが、四万温泉の老舗旅館のケースです。同旅館では、かつて外国人スタッフ全員が「技術・人文知識・国際業務(技人国)」の在留資格で雇用されていました。技人国は原則として「大卒レベルの専門的・技術的業務」に従事する在留資格であり、単純労働は認められていません。

しかし、宿泊業界では「フロント付近の業務であれば、ロビー清掃なども許容される」という解釈が広く流通していました。人材派遣会社のなかには、法律を十分理解せずに客室清掃やごみ捨てまで技人国の外国人に任せる例もあったといいます。

ここで重要なのは、2020年代後半に入り、入管庁が在留管理の「厳格化」に舵を切ったという事実です。かつてのグレーゾーン的な運用は、もはや通用しません。この旅館の社長が数年前から特定技能への切替えを進めているのは、まさにこの潮流を見越した経営判断です。

自社は大丈夫? 在留資格ごとの業務範囲チェックポイント

  • 技術・人文知識・国際業務(技人国)
    通訳、翻訳、企画、マーケティング、エンジニアリングなど。単純労働は原則不可。
  • 特定技能1号・2号
    14の指定産業分野で、現場作業を含む業務が可能。
  • 技能実習(~2027年頃廃止予定)/育成就労(新制度)
    技能習得が目的。転籍制限の見直しが進行中。
  • 高度専門職
    ポイント制で優遇措置あり。業務範囲が比較的広い。

自社の外国人スタッフが「どの在留資格で、どんな業務を行っているか」― これを今一度、書面で棚卸しすることが、あらゆる対策の出発点になります。

4. 「量的影響力」の時代 ― 外国人材は戦略資産になった

記事の中で、外国人雇用問題に詳しい杉田昌平弁護士が印象的な言葉を残しています。「在留資格制度のルールを守ろうという会社が増えている。雇う外国人の数が増え、経営に必要不可欠になったからです。『量的影響力』が出始めたのです」。

この「量的影響力」という概念は、今後の外国人雇用を考えるうえで極めて重要です。かつて外国人雇用は「人手不足の穴埋め」でした。しかし今は、宿泊・介護・建設・食品製造・物流など、あらゆる業界で外国人スタッフなしには事業継続そのものが不可能になっています。

だからこそ、企業はもはや「外国人を雇ってやっている」という姿勢ではいられません。逆に、「外国人材に選ばれる企業」にならなければ、人材獲得競争に負けてしまいます。そして、「選ばれる企業」の第一条件が、コンプライアンス ― つまり、法令を遵守した健全な雇用環境なのです。

5. 在日外国人の方へ ― 「転職したい」「在留期限が近い」あなたを守るために

在日外国人の方々にも、ぜひ知っておいていただきたいことがあります。

技能実習や特定技能の在留資格では、原則として職場を自由に変えられません。劣悪な労働環境から逃げ出して別の会社で働いた場合、「資格外活動」として不法就労と見なされるケースもあります。

しかし、記事で紹介されている交通ユニオンの諏訪書記長の言葉のように、「事情に応じて在留期間の延長や転籍の手続が可能な場合」もあります。重要なのは、一人で抱え込まず、早めに専門家に相談することです。

  • パワハラや未払い賃金で会社を辞めたい
  • 在留期限が迫っているが更新書類の準備ができていない
  • 結婚・出産などで在留資格の変更を考えている
  • 特定技能や高度専門職への切替えを検討したい

こうした場面では、行政書士や労働組合、外国人支援団体などに相談する道があります。泣き寝入りは、あなた自身の将来を閉ざしてしまいます。

6. 企業の経営者・人事担当者が今すぐ取り組むべき7つのアクション

外国人雇用コンプライアンスを強化するための、実務的なチェックリストをご紹介します。

  1. 在留カードの原本確認と在留期限の一元管理
    入社時だけでなく、更新時期を社内システムで一元管理する仕組みを構築しましょう。
  2. 在留資格と業務内容の整合性レビュー
    技人国のスタッフが実質的に単純労働をしていないか、職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)で明確化しましょう。
  3. 雇用契約書の在留資格対応化
    在留資格ごとに、業務範囲・勤務条件を明記した契約書テンプレートを整備しましょう。
  4. 特定技能への切替え検討
    技人国で無理に運用するのではなく、業務内容に合った在留資格へ切り替えるほうが、長期的に安定します。
  5. 派遣会社任せからの脱却
    派遣会社が全責任を負うわけではありません。最終的な雇用主責任は受入企業にあります。
  6. 定期的な社内勉強会の実施
    入管法・労働法の改正は頻繁です。年1〜2回は全社で学ぶ機会を設けましょう。
  7. 専門家との顧問契約
    行政書士・社労士・弁護士との連携で、リスクを未然に防ぎましょう。

7. 行政書士ができること ― 「雇う側」「雇われる側」双方の未来を守るために

私たち行政書士は、在留資格申請・ビザ申請の専門家として、企業と外国人の”橋渡し役”を担っています。

企業側には、採用段階での在留資格適合性の診断、雇用契約書のリーガルチェック、在留期限管理のコンサルティング、入管調査への対応支援などを。
外国人本人には、在留資格の変更・更新・永住許可申請、家族の呼び寄せ、帰化申請などを。

「うちはたぶん大丈夫」― この”たぶん”が、経営を揺るがす火種になります。逆に言えば、一度専門家と一緒に全体像を点検すれば、安心して本業に集中できる環境が手に入ります。

まとめ ― 共生社会は、ルールを守る企業から始まる

群馬県の「ストップ不法就労・共生ぐんま宣言」は、単なる取締り強化ではなく、「ルールを守る企業と外国人が、ともに豊かになる社会」を目指す前向きな取り組みです。

入管庁の厳格化、SNS時代の情報流通、そして外国人材の「量的影響力」― これらのメガトレンドに対応できる企業だけが、これからの10年を勝ち残ります。

  • 「外国人雇用のことで、少しでも不安がある」
  • 「技人国と特定技能の違いがよくわからない」
  • 「在留期限管理の仕組みを整えたい」

そんな時は、どうぞお気軽に行政書士にご相談ください。あなたの会社と、働く外国人の方々の未来を、法律の力でしっかりと支えます。

▼参考記事(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASV3S443RV3SUHNB001M.html?iref=pc_rellink_02